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「ベアミネラル」のベアエッセンシャル新社長 菅野沙織氏に聞く、人を活かすための"勝ち癖"のつけ方

菅野沙織(かんのさおり)氏:ベアエッセンシャル株式会社 代表取締役社長、Orveon Global日本地区担当ゼネラル・マネージャー(bareMinerals、BUXOM、Laura Mercierのブランド統括)

菅野沙織(かんのさおり)氏:ベアエッセンシャル株式会社 代表取締役社長、Orveon Global日本地区担当ゼネラル・マネージャー(bareMinerals、BUXOM、Laura Mercierのブランド統括)

「ベアミネラル」のベアエッセンシャル新社長 菅野沙織氏に聞く、人を活かすための"勝ち癖"のつけ方

菅野沙織(かんのさおり)氏:ベアエッセンシャル株式会社 代表取締役社長、Orveon Global日本地区担当ゼネラル・マネージャー(bareMinerals、BUXOM、Laura Mercierのブランド統括)

 クリーンビューティを体現するサンフランシスコ発コスメブランド「ベアミネラル(bareMinerals)」を手掛けるベアエッセンシャルの新社長に、菅野沙織氏が就任した。菅野氏は「レブロン(Revlon)」の社長を10年間務め、日本輸入化粧品協会理事長に従事するなど、化粧品業界を知り尽くす。ベアエッセンシャルは昨年、資生堂から離れ、現在はアメリカのプライベートエクイティファンドAdvent International Corporationの新会社オルヴェオン(Orveon)が運営する。欧米と比較してクリーンビューティが育ちにくいとされる日本で存在感を示すためには。新社長に聞く、ベアミネラルのこれから。

■菅野沙織(かんのさおり)氏/ベアエッセンシャル株式会社 代表取締役社長、Orveon Global日本地区担当ゼネラル・マネージャー(bareMinerals、BUXOM、Laura Mercierのブランド統括)
美容業界で30年以上の経験を持ち、メイクアップ、スキンケア、フレグランス、エステティックサロンビジネスなど、全ての領域を経験。また日本輸入化粧品協会の理事長を務めるなど業界での知名度も高く、レブロン、イヴ・サンローラン・パルファム、ブルジョワなど、国内外ブランドともにプレステージ、マス・マーケット、エステティック・ビジネス、Eコマース、オムニチャネルなど多岐にわたる経験を持つ。直近では、レブロンの代表取締役社長に10年間従事。2022年7月から現職。

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ー10年間トップを務めたレブロンの退社後、ベアエッセンシャルの社長に就任されました。オファーはいつごろだったのでしょうか?

 今年の2月にレブロンを退社し、実は少し穏やかな生活を送ろうと考えていたのですが、ご縁があって今回のお話を頂戴しました。休息をと考えてはいたものの、ベアミネラルのブランドそのものに、ものすごくポテンシャルを感じ、引き受けることに決めました。

ーベアエッセンシャルには7月に入社されたそうですが、それまでの期間をどう過ごされましたか?

 ありがたいことに、これまで目まぐるしく、緊張感のある日々を送っていたものですから。4ヶ月ちょっとお休みをいただいてリフレッシュしてきました。ただ、日本輸入化粧品協会の理事長は引き続き務めさせていただいていたり、ほか企業の仕事もお手伝いさせていただいてたりで、完全なオフということではなかったですが…。

ーホテル情報誌「ホテルジャンキーズ」のホテルジャンキーズクラブの一員で、ホテル滞在がお好きと聞きました。リフレッシュ期間中もどこか行かれたのでしょうか?

 コロナ前は海外出張も多く、年間7、8回は国外を飛び回っていたこともあり、素敵なホテルを探すのが好きなんです。コロナ禍で海外旅行ができなくなってからは、国内旅行に目を向け、先日は沖縄・恩納村の美しい海岸線が広がるハレクラニ沖縄に行きのんびりとした時間を過ごしました。今後もこれから開業する国内のラグジュアリーホテルなどに行ってみたいですね。現在、情報収集中です(笑)。

ー短い休息時間を経て、ベアエッセンシャルの社長に就任されました。どんなミッションを課されたのでしょうか?

 大きなミッションがあります。残念ながらコロナ以前から業績は厳しい状況が続いていましたから、やはりそれを立て直すことが課題です。ただ先ほども言いましたが、ベアミネラルは大きなポテンシャルのあるブランドだと確信しており、一度ビジネスシーンからの引退の意向を変えて、戻ってくると決めた仕事です。命がけで頑張らせていただきたいという気持ちでいます。

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ー強い意気込みを感じます。就任から2ヶ月が経ちましたが、まず何から着手されたのでしょうか?

 これまでの長い経験から、何をするにも要は「人」だと思っています。なのでまずは社員一人ひとりと面談をしました。社員がどんな情熱を持ってるいるのか知りたかったのです。現状として少し静かな状態のブランドでしたから、そこから火をつけるには誰がキーになるのか。社員との話はとても有意義で、熱意を感じる人ばかり。2週間もすると、良いチームになると確信しました。

ー良いチームづくりの次の一歩は?

 私の中では入社前からすでにさまざまなアイデアがあったので、「こんなこと一緒にやりましょう!」って各所にいろんなボールを投げてまわりました。そのボールをすぐにキャッチして、盛り上げよう、始めようとしてくれる人がたくさんいて動きがあり、苦労せずに体制を整えることができたと思います。

ーどんな人に”火をつけた”のでしょうか?

 「火をつけるとは、人を励ますこと」です。会議や会話から、「こうすればよかった」と後悔の言葉が出てくるような人は、熱意があるということですが、ベアミネラルにはそういう人がたくさんいました。ただ以前は、言いたいことややりたいことが話せない環境だったこともあり、今はとにかく意見を聞き、褒めることを大切にしています。良い数字が出た、取り組みが上手くいった、そういうことをきちんと褒める。小さな成功一つでも褒めることを積み上げていけば大きな目標が達成できます。そんなマインドをチーム単位で作り上げることに注力しました。

ーチーム内のコミュニケーションは基本とはいえ、意外と難しいと感じます。

 私のようにアクティブで、分かりやすく声を上げる人ばかりじゃないですよね。でも口には出さないけど、頭の中にはさまざまなアイデアを持っていて、実行したいと思っている人はたくさんいます。そういった実践を促すには、やはりコミュニケーションなんです。私のオフィスのドアは基本、開けています。「誰でもいつでも相談しにきていいよ」といった雰囲気を作っているんです。

ーなるほど。コミュニケーションのほか必要なことは何でしょうか?

 コミュニケーションと同時に、組織としての「勝ち癖」をつけることですね。これまでなんとなく大人しい組織になってしまっていて、数字に対する執念が弱くなっていたように思います。まずは売上や客数など数字を毎日シェアすることから始めました。他部署、他店舗の数字を確認することで、負けていれば悔しいと思うでしょうし、そこから、じゃあ何をすれば良いかと考えてもらう、そこをコミットできる人材を育てる必要がありました。東西で競い合うような雰囲気も作りましたね。

ー数字での達成や競争は人間関係の構築にギクシャクした雰囲気を作りませんか?

 勝ち癖を作ることではあるんですが、勝ち負けということではありません。いかに自分が前に進むことができるかが重要で、誰かを蹴落とすことではない。だから必ずしもギスギスした環境になるわけではないんです。社員は面談からも分かったように、みんな責任感が強く、ほかのチームの数字に一喜一憂し触発されます。「じゃあ、こんなことをやってみよう」とアイデアも出てくるしポジティブに動く。そうなったら「やってみて!」と背中を押せばいい。そしていい結果が出たら褒める、ここまでがセットです。

 自分が企画し実行したことに結果が伴う、それがビジネスにおいての「勝つ」ということ。だから社員には楽しみながら取り組んでもらいたいと思っています。

ー菅野社長は特にマーケティングに精通しています。資生堂傘下から外れて、変える点は?

 現在まで、ブランドが存続しているのは、ひとえに社員の頑張りです。本当に良いブランドですが、時代や市場のトレンドなど複合的な理由で今は満足のいく認知度と売上ではありません。まずは急激にブランド認知を上げること。そのためにはスピード感が必要で、変えなければいけないことが多いと思います。マインドセットやチームづくりもその一環。良いものは残しながら、もっと消費者を楽しませる方法に舵を切らないといけない。そうなると、マーケティングの方法はガラッと変わりますよね。

ー何を変えたのでしょうか?

 第一に、PRとマーケティングで種を蒔かなければいけないということです。視点を抜本的に切り替えてPRしていかなければいけないと考え、PRにもたくさん意見・指示を出しました。その勢いもあって、入社2週間で下期の新たなPRプランを確立させました(笑)。チームの人たち、根気よく食らいついてきてくれて大変心強いです。

ー現状の日本の化粧品市場では、「クリーンビューティ」を広めるのは難しいと感じます。

 化粧品の良さは単に肌をケアする商品というだけでなく、ワクワクしたり、ときめきたりすることが大事だと思います。そういったワクワク感とクリーンビューティとの関係づけが今は上手くいっていないと感じますね。ベアミネラルは確かにクリーンビューティをうたっていますが、それはあくまでもコンセプト。素敵になれる、心も楽しくなる化粧品で、なおかつ肌や環境にも優しいということなんです。

 こういった背景を持ったブランドが、どういったお客さまのライフスタイル、シーンに寄り添えるか、化粧品で気持ちを高めてもらえるか。潜在的にターゲットになりうる人たちを一度、まっさらな状態から捉え直しました。

ーどんな人たちが顧客になりそうでしょうか?

 例えば、スポーツやヨガをする人でファッショナブルなウェアを着たり、お化粧をしながら楽しむ人がいますよね。ベアミネラルの製品は肌負担が少ないにも関わらず美しい仕上がりが持続する製品がたくさんありますから、フィットすると思います。また、男性でアイドルのようなメイクアップまではいかなくても、ちょっと肌を整えたいという人が増えていると思いますが、そういう人はファンシーなものよりニュートラルなデザインを好み、われわれベアミネラルはぴったりなのではないでしょうか。あと、もうすぐハロウィーンですが、子どもの肌にもやさしいメイクアイテムはニーズがあると思います。お子さんにメイクをしてあげる両親もターゲットになりうるでしょう。

ー新たに捉え直したターゲットに対して、どのようにアプローチしますか?

 実験段階ですが、たとえば「クリーンビューティドクター部」など、ターゲットに合わせた「〇〇部」というコミュニティを作りました。各部に興味関心があるであろう人たちに向けてさまざまな情報発信やワークショップの開催などを行なっています。まだミニマムな活動で、マイクロインフルエンサーといった人たちに集まってもらっていますが、将来的に一般の方も参加していただいくコミュニティに拡大したいですね。

 またサステナビリティを意識している大学生サークルの学生に向け、化粧品ではどんな取り組みがあるのか、これから何ができるのかなど、私の失敗談・経験談も踏まえてお伝えする講演も実施しています。今後ですが、化粧品が持つ力が歳を重ねても楽しく美しく生きることへの手助けになると考え、シルバー世代への発信も考えています。

ー直接的なプロモーションというより、啓発的な活動にも力を入れるんですね。

 長い目で見た時に、将来のお客さまに種を蒔いていくことは重要ですから。特に現段階では潜在顧客を探っているところで、草の根的な地道な活動が大事だと思っています。どういった人々がブランドを魅力的に思ってくれるのか、細かくフットワーク軽くさまざまな施策を連打することで可能性を検証しているところです。もちろん、販促的なプロモーションも同時進行で幅広く行い最適化を探っています。

ー販促的な施策はどんなことでしょうか?

 先に商品の売り上げ構成についてお話しすると、ファンデーションが50%、スキンケアが25%ほどで、メイクが10%台です。こうみるとメイクの構成比が小さいのですが、実は素晴らしい商品が多くあり、これからも新商品が続々と登場します。なのでここで一度立ち止まり、「ベアミネラルのリップを買う理由」を考え、プロモーションを展開しました。

 まずは8月に発売した新作「ミネラリスト マット リキッド リップカラー」は、東京と大阪のビーガンカフェとコラボレーションして、サンプリングキャンペーンを実施。カフェでドリンクをオーダーした人に、商品のハーフサイズをプレゼントし、「#カフェタイムリップ」をキーワードに発信していただきました。カラーメイクは特にワクワクするようなストーリーが必要です。商品の良さを伝えるためにこうした"楽しい方法論"は必要不可欠と考えました。これまでのベアミネラルっぽくはないかもしれませんがそこは心機一転で、今後の強化ポイントだと考えています。秋にはピラティスと絡めたイベントを行う予定です。

「ミネラリスト マット リキッド リップカラー」

ー構成比が高いファンデーションについてはいかがでしょうか。

 もちろん強化すべきポイントです。豊富な種類があり、それぞれの良さや選び方などをきちんと発信していきます。ありがたいことに美容家やメイクアップアーティストの方々にご紹介いただくことが多く、拡散につながっていると思います。われわれもプロの発信から勉強させていただいています。よりお客さまが楽しんでいただける、参考になる情報をお届けしていきます。

ー強みのベースメイクの中で、菅野社長のお気に入りはありますか?

 「ベアプロ 16HR パウダー ファンデーション」が今一番のお気に入りですね。いわゆるプレストパウダーファンデーションなんですが、とてもサラッとした質感で、薄膜でカバーしてくれるんです。崩れにくいのに肌ストレスが少なく、ものすごくハマっています(笑)。それから「オリジナル ミネラルベール プレスト パウダー」も大変優秀です。透明のトランスルーセントというカラーはどんな肌の色にも合いますし、休日はこれだけつける日もあるくらい軽い付け心地が癖になります。

「オリジナル ミネラルベール プレスト パウダー」(トランスルーセント)

ー菅野社長はレブロン時代にマーケティング改革で回復に導かれましたが、ベアミネラルでも変えていきますか?

 現在、百貨店13店舗、ラグジュアリーブランド中心のセミセルフショップ65店舗、そのほか自社ECを運営しています。まずはこの中で最も店舗数が多いセミセルフでのテコ入れを考えています。「セミセルフ」と言えど、お客さまの体験としては「セルフ」の比重が大きいですよね。ということは販売員さんの力以上にディスプレイが語っていないとダメなんです。フラッと立ち寄った時に目を引いて、手にとっていただけるようなキャッチーさがないといけない。ここは早急に取り掛かるつもりです。

ー店舗開発についてはいかがですか?

 タッチポイントの拡大というところで、他社ECプラットフォームへの出店を検討中です。自社ECの売上も拡大傾向にあり、ベアミネラルをオンラインで購入されるお客さまが一定層いらっしゃることは把握済みです。PRやマーケティングで種を蒔いたら、今以上に多くのお客さまに気軽に、安全に購入できる場所がないといけませんから、第一には大手のECプラットフォームへの出店を拡大する予定です。

ーブランドにとって日本市場はどのような位置づけでしょうか。

 「キーマーケット」という立ち位置で、現状のシェアは小さいもののこれからの拡大を期待されている市場です。さらに、アジア地域の中心という位置づけで、アジア市場拡大への布石という意味でも注目されています。

ー期待されている市場ということで、日本発信の商品の可能性もあるのでしょうか?

 オルヴェオン自体が昨年できた企業で、私たちと一緒にベアミネラルがどう成長できるかと考えてくれています。キーマーケットである日本ではどういったモノが売れるのかを考えるのは当然ですから、今後日本からの商品企画も視野に入れています。

ー菅野社長は日本輸入化粧品協会の理事長でもありますが、今の日本と世界の化粧品業界についてはどう見ていらっしゃいますか?

 世界的にはコロナ以前に戻ってきていますよね。ただ、日本はマスク着用が未だ続き、遅れをとっている状況ではあります。アジアを見ると、ここ最近は韓国ブランドの勢いが顕著です。

ー韓国ブランドの成長は著しいですよね。その理由をどう捉えていますか?

 やはり、化粧品本来のワクワク感の演出がとても上手だと思います。質感や仕上がり、デザインなど、買いたいと思わせる仕掛けが巧みです。ここは今後もの凄く重要になってくるでしょう。コロナ禍でさえ、数字としては落ち込んでも全く化粧品を購入しないということはなかったですし、例えば日本のブランドでも、商品や発信を工夫しお客さまをときめかせることが出来ているブランドは絶好調のようですし。ですから、商品開発にしろ発信にしろ、「お客さまの方を向いているか」が重要になってくると思います。

ー多くのブランドがOMOの推進に力を入れています。ベアミネラルはいかがでしょうか?

 正直な話、今はまだそこまでいきません。ステップバイステップで考えていくべき段階で、第一にブランド認知の向上なんです。そのためのPRやマーケティング、店舗開発に注力しているところなので、そこが軌道に乗れば考えていくべき課題ですね。

ー最後に社長就任1年目、そして将来的な売り上げ目標を教えてください。

 PRやマーケティング、ECを含めた店舗のテコ入れを行い、まずは来年の数字を今年の40%増を目指します。3年後の2025年はじめには私の願望としては今年の2倍にしたいと思っています。自信を持っておすすめできる高い品質の商品は手元にあります。動き出したさまざまな施策の成果から、クイックに、着実にやるべきことを行っていく。それができるだけの熱意を持った人も集まっていますから、実現できる数字だと信じて一緒に頑張りたいですね。

(聞き手 福崎明子、平原麻菜実/編集 平原麻菜実)

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