バレンシアガ 2024年ウィンターコレクション
Image by: Courtesy of Balenciaga
デムナ(Demna)が手掛ける「バレンシアガ(BALENCIAGA)」の2024年ウィンターコレクションは、オンラインショッピングやSNSなどを通じてファッションを気軽に消費する私たちへ突き付ける、本質的な問いかけとなっていた。
「eBay」から届いたアンティーク小物の謎
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招待状として届けられたのは、オンラインマーケットプレイス「イーベイ(eBay)」からの小包。中にはアーティスティックディレクターであるデムナ自身がセレクトした小物が入っており、弊社に届けられたのはホワイトレースのドイリー。ほかにはスノードームや磁器の置物など、それぞれ異なるアイテムが届けられたそう。果たしてこれはジャンクだろうか、価値ある高級品だろうか。添えられた伝票(に見せ掛けた招待状)には「(アンティーク収集品は)個人的な物語への想像をインスパイアし、オブジェに新たな命を与える」と記されていた。
また、招待状のQRコードからアクセスできるデムナのボイスメールには「ラグジュアリーとは定義上、一種の希少性で、無限に手に入るものではない。今、本当に貴重かつ有限に思われるものは、実際には、創造性そのもの。私は創造性が密かに新たなラグジュアリーの形となると信じている。私は、このショーが、創造性の価値に基づいたメゾンとしてのバレンシアガの過去と未来のつながりを表現するものにしたいと考えた」という一節が。コンテンツで飽和状態となった現代社会で、ファッションの意味やラグジュアリーの価値を問い直した。
会場を埋め尽くすデジタルスクリーン
アンヴァリッドの敷地内に建てられた特設会場は、床から天井までデジタルスクリーンで覆い尽くされていた。自然の風景から都会のネオンまで、プログラムで自動生成されたヴィジュアルが次々と映し出される。その描写は徐々に、現実のものから人工的もしくはその二つの状態の狭間へと移行。TikTok動画の海などはディストピア的で、没入感ある演出が観客たちの知覚を圧倒した。迫力のサウンドトラックを担当したのは、2017年から公私共にデムナのパートナーであるBFRNDことロイク・ゴメス(Loik Gomez)だ。
有名な企業ロゴのパロディがいたるところに
招待状の仕掛けとリンクして、ランウェイにはeBayの刺しゅう入りのアイテムが登場。ヴィンテージ加工を施したオーバーサイズのクルーネックTシャツ(税込8万8000円)はショーの発表後、ブランドの公式サイトにおいて200点限定で発売された。ほかにも、第二次世界大戦前にイギリス政府が作成したことで知られるポスター「Keep Calm and Carry On(平静に、ふだんの生活を続けよ)」のスローガンをはじめ、ハリウッド映画をテーマとしたレストラン「Planet Hollywood(プラネット・ハリウッド)」のロゴなど、見慣れたデザインをサンプリング。「Coca-Cola(コカ・コーラ)」を「Ciao Bello(やぁ、美人さん)」に置き換えるなど、資本主義社会を次々とミーム化した。
Image by: Courtesy of Balenciaga
時間を止めたかのようなフローズンドレス
ファーストルックは創業者クリストバル・バレンシアガ(Cristóbal Balenciaga)にオマージュをささげる、ヒップ・オーレット(腰に肩パッドを縫い付けた構造)のイヴニングドレス。いくつものドレスはクラシカルなシルエットを踏襲しつつも、ノーズピアスや破れたストッキングなどパンクなスタイリングが目立つ。服のシワを凍結させたような特殊加工のドレス(生地をぬらして動きを作ってから乾かし、手作業でコーティングしたもの)は、その固まったドレープがシュールなねじれを生み出していた。新しいものと古いものが交差し、奇妙なハーモニーを奏で始める。
逆さまにしたデニムパンツをトップスに
さらに首からトレンチコートをつり下げたようなドレスなど、アップサイクルのアイデアが遊び心たっぷりに取り入れられた。逆さにしたパンツで作られたトップスは、漁師の上着を引用したクリストバルの代表作「ラ・ヴァリューズ(LA VAREUSE)」からインスパイアされたアイテム。バックパックやジムバッグも解体してミニドレスとし提案されるなど、ポップかつ大胆な解釈が光る。
1分でガムテープを巻いて作ったドレス
特に観客を驚かせたのは、ガムテープで様々な服をつなぎ合わせたルック。これは60秒以内に手持ちの素材を使って新たなルックを作るという、デムナがスタジオでプレイするゲームから着想を得たものだという。例えば、3つのフーディを組み合わせて作ったドレスはメゾンの「バブルドレス」の再解釈となっており、逆さまになったフーディの袖がマーメードテールを作り出した。この即席ドレスは“レディメイド”の概念を揺るがしながら、服作りの根本に立ち返る実験でもある。さらにガムテープをそのまま腕に装着したような樹脂バングルも登場し、梱包というモチーフがEbayとのつながりを連想させた。
ブラジャーの山をアップサイクル
終盤にはアップサイクルのテーマがさらに加速し、ランジェリーとカットアップしたTシャツをつなぎ合わせたルックなどが登場。フィナーレガウンは無数のブラジャーを積み重ねたアヴァンギャルドなデザインになっており、ここでもクリストバルのシルエットをさりげなく引用した。「これはジャンクか、高級品か」という問いが観客の脳内でリフレインする。
Image by: Courtesy of Balenciaga
24/7 マスクなど話題の小物たち
コレクションの核を担ったのは、エッジの効いたアクセサリーだ。耳の部分に穴が開けられたフェイスシールドアイウェア「24/7」とLEDピアスがフューチャリスティックなムードを加速させ、黒いビーニー帽は周囲のノイズから自らを遮断するかのように目の下まで引き下げられた。商品タグ風のレザーアクセサリーやダストバッグ風のドレスなど、ユーモラスな演出も随所に見られた。
Image by: Courtesy of Balenciaga
デムナが「ヴェトモン(VETEMENTS)」のファーストコレクションを発表し、業界に旋風を巻き起こしてから10年目。目まぐるしく変化を続ける世界で、ファッションとは、ラグジュアリーとは、スタイルとは何なのか。クリエイティビティこそが“希少性”を意味するものであり、バレンシアガの一貫したアンサーであると今回のコレクションは強く主張するかのようだった。そしていくつものルックがそうであったように、彼の創作はまだまだラディカルに“現在進行形”なのだろう。
ジュヨンや三吉彩花など豪華ゲストも来場
フロントロウにラフ・シモンズ(Raf Simons)の姿が見られたほか、会場には多くのゲストが集った。ブランドアンバサダーである女優のイザベル・ユペール(Isabelle Huppert)と「PP」の愛称で知られるタイのクリット・アンムアイデーチャコーン(Krit Amnuaydechkorn)をはじめ、「ザボーイズ(THE BOYZ)」のジュヨン(JUYEON)、三吉彩花、kemioも来場。キム・カーダシアン(Kim Kardashian)、アメリア・グレイ(Amelia Gray)、サルマ・ハエック(Salma Hayek)、セリーナ・ウィリアムズ(Serena Williams)、アシュリー・グラハム(Ashley Graham)らも駆けつけ、ブランドの世界観に没入した。
THE BOYZのジュヨン
Image by: Courtesy of Balenciaga
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