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普段あまりスポットの当たることのない、化粧品開発の裏側で奮闘する研究員にフォーカスするインタビュー連載。第7回は、今年創立45周年を迎えたイタリア・シチリア島発のオーガニックコスメブランド「アルジタル(ARGITAL)」の創立者で生物学者のジュゼッペ・フェラーロ博士。幼少期から好奇心旺盛で、化学、文学、哲学などさまざまな学びが、現在の商品開発に生かされている。商品への探究心はもちろんだが、技術の発達と引き換えに失われてしまったもの、変化する環境について私たちはどのような心構えでいるべきか、そして何をすべきか語ってくれた。
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◾️ジュゼッペ・フェラーロ博士
イタリア・シチリア島生まれ。ミラノで生物学の博士号を取得後、息子の学校を通じて人智学(アントロポゾフィー)に出合う。天体の動きや自然の摂理が人間の心身と深く関わっていることを学び、鉱物・植物に対しても新たな観点から研究。1979年、アルジタル(ARGITAL)社創立。人と自然に対する大いなる敬意を根底に、悩みに寄り添った製品づくりをスタート。2005年からは創立に携わったSOFAIのメンバーとしても、医師や薬剤師と共に医療や健康に貢献する活動を行っている。
おばあちゃん子だった幼少期
⎯⎯まず最初に、フェラー博士はどのような幼少期を過ごされたのでしょうか?
小さい頃は祖母が私のそばに常に居てくれて、たくさんの物語を読み聞かせてくれました。祖母は背がとても高く、散歩のときはいつも肩車をしてもらって、少し高い位置で自然の風景を眺めながらさまざまな物語を聞いたのが、とても思い出深いです。私の名前はジュゼッペで、祖母の名前はジュゼッパ。似た名前だったことも何か深いつながりを感じていました。
⎯⎯幼少期のできごとで今の研究につながっていると感じることはありますか?
持論ではありますが、子どもは7歳になるまでは現実の世界の生き物ではなくまだ天使の存在です。そのため、物事を合理的に考えたりはしない。だから、おとぎ話や冒険物語、神話などをそのまま純粋に吸収することができるのです。ですから、子どもに物語を聞かせるということは、ミルクを与えるのと同様に子どもの魂に栄養を与えていることでもあります。その物語が面白くて夢中になれるものほど、子どもの成長に多くの栄養を与えられるのです。7歳からですよね、ようやく本当の自分の体が出来上がっていくのは。
私自身、いつも祖母に新しい物語を催促して、強い主人公や勇気のある主人公など、物語の登場人物になりきっていました。祖母は私の“ほしい”という願いを物語を通して叶えてくれ、たくさん与えてくれました。子どものころにいろんな価値観を伝えてくれた経験は、大人になって倫理観を築く上でとても重要で、今につながっていると思います。
⎯⎯おばあちゃん子だったんですね。そんな幼少期に、将来はどんな大人になりたいと思っていましたか?
実は小さいときから船が大好きだったんです。だから船の設計士になりたくて、船舶関係の工学を勉強したいと思っていたのです。
人間関係に似ている化学分子に魅せられた学生時代
⎯⎯今の姿からは想像できませんね。
ただ、高校1年の夏休みにたまたま入った本屋で、ある本に目が止まったんです。人の命に関するバイオケミカルの本。当時は化学の知識は全くありませんでしたが、とにかくすごく興味を引かれて…。生命の誕生についてすごくおもしろいなと感じたんです。それから高校時代は化学について勉強し、化学を通じて今まで知らなかった世界を広げることができましたね。
⎯⎯どういったところが魅力だったのでしょうか?
化学分子は、お互いに親和性が高く引きつけ合うものがある一方、排除し合うものもある。そこが人間関係に似ていて分子がまるで会話しているようで、人間世界にも通じるので面白いと思ったのです。
水平線と自分の関係性に疑問
⎯⎯でも化学の道にも進まなかった…。
そうですね。2年ほど化学を勉強して興味深い分野ではあったのですが、それだけではまだ自身の好奇心を満足させることができなかった…。同時に、当時は生活の中から生まれるさまざまな疑問を抱えていたのです。
その1つが水平線を見ていたとき、無限に見える水平線と自分にどんな関係があるのか、ということ。自分がいったい誰なのかという哲学だった。しかしその疑問に答えてくれる大人たちは周りにはいませんでした。
⎯⎯なかなか深いですね。それを答えられる大人は今でもいなそうです。それでそのモヤモヤをどうしたのですか?
解決できない問題を心の中に抱えたまま、鬱々と過ごしていたのですが、その苦しさや葛藤は、詩という形で自分の気持ちを綴ることで解消していました。それは自分にとって非常に助けとなりました。
そうこうしていた高校生活最後の年に、精神的な支えとなる文学の先生と出会えたのです。私は先生に直接疑問をぶつけたわけではないのですが、先生は間接的に答えを出してくれました。先生と会話を重ねる中で、文学や哲学、化学、芸術などは全てがつながっているのだと理解できました。そのとき、幼少の頃に祖母と過ごした経験が重なりました。祖母がたくさん話してくれたおとぎ話は、化学の授業と同じレベルでずっと私の中に刻まれていたのです。
⎯⎯祖母、そして先生と、自分の人生を導いてくれる人に出会えたこと、とても素敵です。
それからは生物学を勉強し始め、そして代替エネルギーにも興味を抱きました。排気ガスをどうしたらきれいにできるだろうかと考え、自分で装置を作り車のマフラーに取り付けたり…。ほかには、中国の鍼や漢方、医療の考え方についても学んだり、また低コストで大容量の水を輸送するプロジェクトに参加するため南アメリカで過ごした時期もありました。プロジェクトは化学的にも経済的観点からもおもしろい取り組みでしたが、私には向いていませんでした。しかし経験を通して自然と人間と宇宙の間には密接な関係があると気付いた。つまり、私が自然に対して何か行動を起こすことは、同時に宇宙に対してアクションを起こしたことにつながるということです。
自然と人と宇宙の関係性の気づきの先にアルジタルの誕生
⎯⎯一見、壮大な話のようですが、誰しもが同様の影響を与えています。今の地球温暖化も同様のことが言えると思います。さまざまな経験や学びからアルジタルが生まれたんですね。
そうですね。アルジタル誕生の背景にはこうした私の思いや研究が込められています。アルジタルは、イタリア・シチリア島の恵み豊かな海泥「グリーンクレイ」から生まれています。人気商品「グリーンクレイパウダー アクティブ」(500g 3300円、25g 495円)などを擁しますが、「クレイは天使のような特性を持っている」と説明しています。これは先ほどの自然と人間と宇宙とのつながりから生まれた言葉です。私たちが今生きている世界は物質的な世界で、こうしたマテリアリズム(物質主義)を極端に表現したのがテクノロジーです。世の中はテクノロジーにあふれていますが、その反動で自然由来のアイテムを求めている人も増えているのではないでしょうか。心に響く経験など、物理的な商品ではないところこそ、求められていると思います。
⎯⎯アルジタルもそういった形には見えないものを提供している?
そうですね…。ではアルジタルがお金で買えない経験を提供できているのかというと、十分だと答えることができません。しかし新商品を開発するときは魂や思考の世界を忘れないようにと心がけています。人間は、物理的な身体と魂、思考の世界、この3つの要素がうまく調和できていれば幸せに生きていけると信じていますから。
⎯⎯⎯⎯日本で新発売した「アルジタル プロテクト プロポリスオーラルスプレー」(20mL 2916円)はどういった商品ですか?
この商品もさまざまな想いを持って誕生させたものです。最初は30~35年ほど前に人智学学校の校医から「一般的な喉スプレーはヒリヒリするから子どもたちが使いたがらない。だからそうではないものを作ってほしい」と依頼されたのがきっかけです。そこで、①子どもたちが喜んで使える、②すぐに効果が期待できる、③予防としても使用できる、④自然由来成分でできているーーこの4つを叶える商品として開発しました。
この商品には、自然のエッセンスであるプロポリスを配合していて、乾燥しがちな喉をうるおいで満たす効果があります。ただそういったダイレクトな効果だけではなく、プロポリスが作られる環境にも着目。プロポリスに含まれている樹液や樹脂がある森には4種類の精霊がいると言われていて、こびと(木の根)、オンディーヌ(葉)、シルフィリス(花)、火とかげ(木の種)、これらの力も入っていると考えています。
⎯⎯妖精たちが喉を守っているという、子どもたちにも楽しんで使ってもらえそうです。では最後に、テクノロジーの発展に伴い気候変動も余儀なくされる世の中で、私たちはどのような心構えでいれば良いのでしょうか?
自然界で起こっていることは、もちろん私たちの行為や考えが反映されて起こっていること。地球が生きた存在のため気候変動が起こることも当然のことですよね。ただ、その変化の仕方には健康的なものと病的なものの2種類あると思います。余談になりますが、私は大学生からタバコを吸いコーヒーもたくさん飲んでいました。タバコは体に悪影響を及ぼしますが、タバコを止めたからといって病気にならないわけではない。健康面をタバコを止める理由にするのは納得できなかったので吸い続けていました。しかし医者である友人に、「君は、君の健康のためではなく地球の健康のためにタバコを止めるべきだ」と言われたんです。タバコを作るためには、植物としてのタバコを育てないといけません。しかし、タバコは土壌の栄養分や水分を奪い土地を砂漠化させる植物でもあるのです。私の「タバコを吸いたい」というエゴイズムは、地球環境の死につながることでもあると知りショッキングでした。
⎯⎯とても心に響く一言でしたね。
そうですね。例えば電気自動車の普及も自然にとってとても良いことですが、その開発に至るバッテリー作りは環境汚染にもつながるという一面があります。新しいテクノロジーに飛びつくのはいいですが、その背後にある地球と人との関係を考えることを忘れないでいること、そういった心構えを忘れて欲しくないですね。
(文・中出若菜、聞き手・福崎明子)
◾️アルジタル:公式サイト
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