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若年層を中心に支持が広がるアジアファッション市場の可能性 アジアファッションEC「60%」代表に聞く

松岡那苗/真部大河

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松岡那苗/真部大河

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若年層を中心に支持が広がるアジアファッション市場の可能性 アジアファッションEC「60%」代表に聞く

松岡那苗/真部大河

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 2018年7月に創業した日本発のアジアブランドに特化したファッションEC「シックスティーパーセント(60%)」には、2023年12月時点で大手ファッションEC「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」に匹敵する1412ブランドが出店。55万人の月間平均利用者の平均年齢は21歳と若く、1注文あたりの平均金額は1万3000円。2021年の4月と比較すると月間GMV(流通取引総額)は5倍以上に伸長している。

参考:ゾゾタウンの出店数は1605店、会員の平均年齢は34.7歳、平均出荷単価は9119円。(2024年3月期)

 日本の顧客向けにアジアブランドのアイテムを展開している同社のネクストステップは海外展開。総額4.6億円を資金調達し、2月から海外向けの販売サイトとアプリをリリースするほか、アジアでのプレゼンスを上げるために個人投資家の1人としてアーティストのVERBALが参画する。同社にとって重要な転機を迎えるこのタイミングで、共同創業者である真部大河 代表取締役と松岡那苗 取締役副社長に展望を聞いた。

株式会社シックスティーパーセント 最高経営責任者(CEO)兼共同創業者

真部大河

Manabe Taiga

1994年生まれ。高校卒業後、個人でインターネットでの海外アパレル商品の買い付け代行、販売事業を開始。ロンドンに拠点を移し主に古着の買い付けや欧州のアイテムの日本への販売を行う。2016年には法人化しファッション関連の事業を複数展開。その後、事業譲渡を経て2018年7月に松岡那苗と共同で株式会社シックスティーパーセントを設立。

シックスティーパーセント最高執行責任者(COO)兼共同創業者

松岡那苗

Matsuoka Nanae

1992年生まれ。早稲田大学を卒業後、リクルートに入社。フィリピン・マニラに勤務し、プロジェクトマネジメントを担当。その後、ラグジュアリーブランドのデジタルマーケティング部門で主にeコマース事業に従事し独立。マレーシア発のストリートブランド「NERDUNIT」の日本支社立ち上げを経て2018年7月に真部大河と共同でシックスティーパーセントを設立。

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勝ち筋は「ニッチ」の追求

60%には1412ブランドが出店とのことですが、取り扱いブランドの国ごとの割合を教えてください。

松岡那苗(以下、松岡):メインとなる韓国ブランドが7割を占め、それ以外は近しい割合ですが、台湾、香港を含めると中華圏のブランドが2番目です。

日本ブランドの取り扱いはまだ多くはないですね。

松岡:日本ブランドはこれから拡大していきたいと思っています。着手し始めた段階ですね。

2023年12月時点の実績。取り扱いブランドの約6割が、「60%」での取り扱いで日本に初上陸したブランドだという。

Image by: 60%

日本向けのサイトでありながら、海外からのアクセスもあるんですか?

真部大河(以下、真部):現状(1月31日時点)では日本向けのサイトとして展開しているので、まだ日本がメインですが、全体の数%は海外からのアクセスです。日本語表記のサイトでも欲しい商品があれば買いたい人が多いのかなと。アクセスが多いのはアメリカと中国で、発送実績は累計で50ヶ国程度です。

今回、4.6億円を資金調達しましたが、2021年4月にも約1.9億円調達していますね。

真部: 2021年の調達は、主にEコマースとしてのソフトウェアを強化することと、商品ラインナップを拡大することがテーマで、エンジニアの採用や取り扱いブランド数を充実させることにリソースを投下しました。お客さんをどかっと増やすぞというよりは、サービスの質を整え、利用体験そのものを良くすることを目指しました。そのため、資金は広告やプロモーションにはほぼ使っていません。

松岡:実際資金投下を経て、取り扱いブランド数は約5倍増えました。

広告施策は講じなかったんですね。新興ECは集客が難しいと言われますが。

真部:今回の資金調達を機に、マーケティング施策はこれまで以上に打っていきます。ただ僕らが大切にしたいのは、「ブランドとユーザーを繋げる」ということの徹底です。それは「ブランドの良さをいかに発信するか」と「そのブランドが『60%』で買えるようになったことをきちんとユーザーに伝えていくこと」で。SNSでは定期的に「どんなブランドに入店して欲しいですか」とアンケートをとるんですが、ユーザーはかなり積極的に要望を伝えてくれます。そういった要望を適宜取り入れるとユーザーからも反応がある。「60%」というストア自体の特徴やバリューをちゃんとユーザーに伝えるように意識しているので、ユーザーの中にも「『60%』を常にチェックしておけば、気になっていたブランドがいつか入店するんじゃないか」という期待が生まれていると思います。

2月に海外向けのアプリも発表されますが、今回調達された4.6億円は広告意外にどのような用途で使用されますか?

真部:海外展開とマーケティング、プロモーション、あとは採用ですかね。

今年の採用計画は?

真部:現在従業員数はアルバイトも含めて30人程度なのですが、今年で新たに20人以上は採用したいと考えています。人材を確保し、特にプロダクト開発と海外展開を強化していく計画です。

世界ではラグジュアリーブランドを取り扱うECサイトの買収事案が増えていますが、ECサイトが数ある中で、60%の独自性をどう考えていますか?

真部:モール型ECや規模の大きいところだと、結局どうしても「知名度がある人気なブランド」を集めていく流れになってしまうのだと思うのですが、それだと必ずコモディティになる。僕たちはどちらかというと一般的にメジャーと呼ばれるブランドをあまり取り扱っておらず、日本にまだ市場がないインディーズブランドを中心にセレクトしています。そういったブランドが集まっていること自体が「60%」の良さとして徐々に認知を広げているので、そういう意味で突き抜けたいなと。

一方、韓国を中心に低〜中価格帯のブランドを取り扱う新興ECサイトは多くみられます。

真部:韓国系ECも流行っていますが、別に僕らは「韓国ファッションEC」ではなく「アジアファッションEC」を作っているので。トレンドが後押しして韓国ブランドが伸びているのは事実ですが、韓国系ECとは中長期的なヴィジョンが異なりますし、これから更に差異は生まれてくると思うので、あまり他社は意識していません。とはいえ、過渡的にも競争相手が増えている中で言うと、アジアの辺境にあるニッチなブランドを多く集めているという強みを今後も伸ばしていくことで差別化していければと考えています。

松岡那苗 取締役副社長

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今、60%で売れているブランドは?

松岡:突出して売れているブランドがないんです。TOP30〜40の売り上げにあまり差がなく、どのブランドにも等しく機会があるのが「60%」の1番大きな特徴だと思っています。

真部:売上の8割程度を1ブランドが占めているECは多いですが、うちは1位のブランドでも全体の1%程度。かなりロングテール*なんです。

*ロングテール:一部の売れ筋商品に依存せず、ニッチな商品を多く取り扱うことで、それらの売上の集積が全体の売上を構築している状態。

UIは一見シンプルに見えます。

真部:UIもしっかりこだわっています。ファッションの会社だと思われがちですが、ちゃんと技術力もあって、ソフトウェアとしてモダンなものを作ってる会社かなと。アプリケーションや物流や倉庫システムも全て内製ですし、ユーザーの趣味趣向に合わせたレコメンデーションも徐々に始めています。どういうブランドやアイテムが売れるのかを自分たちで科学していく土台を整えている点も強みです。

松岡:商品ラインナップはストリートからガーリー系まで幅広いんですが、その分、来訪したお客さんの動線も細分化しています。ストア内に、ハイエンドブランドを集約した「レベリー(Levely)」、現地のトレンドを押さえた普段使いできるブランドや商品を集めた「デイリー(Daily)」、小物や雑貨などを揃える「グッズ(Goods)」といったブランドのテイストやカテゴリー別の「エリア」を設けています。ストリートブランドを中心に、カジュアル、デザイナーズ、ライフスタイルブランドまで、幅広いラインナップを提供していますが、迷わず自分たちの欲しい商品にとたどり着けるようになっています。

60%アプリのトップページ

Image by: 60%

具体的にはどのようなシステムを内製しているんですか?

真部:「Eコマースの体験」というのは使い慣れたサービスも多く、成熟していると思います。そこに無理に斜め上の新機能を導入するのは自己満足なんじゃないかなと。車輪の再発明はしたくないので、基本は王道に使いやすい機能を追求しています。どちらかというと「60%」の優位性は倉庫や物流といったオペレーションで、裏側の機能を自社で全て管理できるようにすることで信頼性の高い配送体制を構築しています。ほとんどの商品が海外からの配送なので、荷物の紛失が仮に起きたとしても全てこちらで把握できますし、配送にかかる日数を0.1日単位で改善できます。UI設計に関しても自分たちでソフトウェアを作っているからこそ、ボタン1つの配置まで細かくPDCAを回して改善することができています。

自社で物流システムを開発しながらも倉庫は持たないとのことですが、どのような物流システムを採用していますか?

真部:マーケットプレイス型のように、ブランド自身が発送を行っていますが、物流には独自のオペレーションを取り入れています。詳細は非公開ですが、一般的なマーケットプレイス型にモール型のような要素をミックスしているイメージです。

真部大河 代表取締役

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個人の「好き」はトレンドに染まらない

これから増やしていきたいブランドはどの国のものですか?

松岡:日本ブランドの需要はまだまだあるなと。私たちは日本を基盤にしている中で、日本がまだ未開拓だという意味ではグローバルからのニーズもブランドさんからのニーズも感じています。

アジアのブランドを日本で売ってきた「60%」ですが、日本のブランドを海外で売るために必要だと考えていることは?

真部:ブランド視点で言うなら、変にローカライズしないことじゃないでしょうか。韓国のニッチなローカルブランドが日本で売れるのと同様に、海外にも日本のコンテンツ、ファッションに注目している人はいます。地元の人しか知らないような地方のマニアックな居酒屋に観光客が「SNSで見つけて気になったから」と集まる現象と同じように、例えば日本で小規模に始まったブランドでも、SNSを通じて世界中の人にそのクリエイティブを見てもらうことができます。そのブランドに対するニーズが必ずあるという前提ですが、ブランドの発信したいメッセージをしっかりピックアップして、海外にも伝わるように発信していくことができれば、見つけてくれるユーザーは世界中にいると思います。

2月にローンチされる海外向けアプリで注力したいエリアは?

真部:グローバル対応として様々な言語に対応しているんですが、重点的に仕掛けようと思っているのは中華圏です。まず香港から、順番にアプローチしていく予定です。

 中華圏はニーズも多いですし、物流のオペレーション的な部分でもやりやすさがあります。中でも、香港は関税が無料だったり、香港自体が多国籍で英語も普及しているので、海外の製品を越境ECで購入することに国民が慣れていたり、現地で実際に海外起点のサービスが流行っていたりと、越境ECを運営する上でとても参入しやすい環境が整っています。なのでまず香港でオペレーションや色々な施策、打ち手を試しつつ、台湾や中国本土にサービスを広げていきたいなと。もちろん中華版だけでなく英語版も作るので、様々な国からの需要を見て注力するエリアを柔軟に変えていくことも検討しています。

海外展開の発表に伴いリブランディングも行ったそうですね。

真部:リブランディングは、対外的に発表する目的だけではなく、社内のマインドセットとして「60%」のバリューを明確にするために行いました。「DIG IT!」という新しいタグラインを設けたんですが、「ディグる」の語源の「探す」といった意味と、「それいいね!」といった表現にあたるスラングの「dig it」を意味しています。新たなスタートラインとしてロゴも2月6日にリニューアルしました。

新ロゴ

Image by: 60%

「60%」のバリューは好きなものを見つける「ディグる楽しさ」でしょうか。

真部:ニッチなコンテンツが集まっているサービスなので、目的を持って訪問するというよりは、「たくさんあるブランドの中から“探す”ことを楽しんでもらいたい」というのと「見つけ出すことの喜びをちゃんと提供したい」と考えています。そのコアバリューを社内に浸透させて、探す楽しみや見つけた時の高揚感を演出できるコンテンツやプロダクトを作っていきたいですね。

10代の「服好き」の価値観には新しいものをディグるという体験が魅力的なのでしょうか?Z世代は必ずしもいわゆる高級ブランドに憧れているわけではないというデータもあります。

真部:ニーズが細分化したんだと思います。右に倣えでファッションを楽しんでいる若い人ってあまりいないじゃないですか。色んな情報が溢れる中で、本当に自分にビビッときたものをその都度選択する人たちが多いのかなと。もちろんちょっと背伸びして、ちゃんとお金貯めて憧れのブランドの物を買いたいというニーズもあるし、自分だけが見つけたものをずっと愛でていたいといったニーズもある。色んな人がいるなという印象です。

松岡:1人1人の「好き」がトレンドに染まっていないというか、自分たちで決める時代になってきているなと思います。「60%」でも様々なブランドに人気が分散しているように、1人1人の好きに合うものを提供しているという点も含めてZ世代の価値観にはあっているんだと思います。

“偏愛”が強烈なブランドが熱狂を生む

では、お二人が考える「イケてるブランド」の条件は?

松岡:インスタの力は見ます。逆にそこしか見ないかも。Webサイトも見ません。SNSにどれくらいのクオリティの写真を出し切れているのか、動画コンテンツにどれくらいリソースを割けているか、などですね。

真部:近いかもしれませんが「ニッチなこと」に本気な人やブランドですかね。自分が着たいか着たくないかという判断以上に、そういうブランドはイケてるなと思います。すごく限定的でマニアックなセグメントや切り口のアイテムにすごく力を入れていたり、ニッチなことに全力で取り組んでるブランドは、お客さんも最初はすごく少ないんですが、その小さいコミュニティーの中で異様な熱気を帯びている。そういうブランドはいいなと思います。

具体的に挙げるなら?

真部:例えば「アングラン(ANGLAN)」ですかね。アイテムが特別変わっているわけではないんですが、創業者の「好きが溢れてるな」という感じがします。ヴィジュアルにも創業者がモデルとして出ていたりと本人の熱量を感じます。本人と話した時も、自分のブランドが本当に好きなんだろうなという“偏愛”を感じるというか。それがユーザーにも伝わっている気がします。

この事業を拡大していくことでファッション業界にどんなインパクトを与えたい?

真部:アジアのファッションという「ある種新しいジャンル」を取り扱っている中で、例えば今のファッション業界のヒエラルキーだとヨーロッパやアメリカが上にあるじゃないですか。そこに対して僕たちは「アジアもいいよ」と発信していますが、「打倒!」みたいな意味でそのヒエラルキーを塗り替えたいというわけじゃないんです。ヨーロッパのファッション、アメリカファッションは素晴らしいなと思っていますし、産業としての歴史もある。当然リスペクトしています。でもそのオルタナティブとしてのアジアのファッションというものが新しいシーンとして根付いて欲しい。「60%」がその一端を担えればと考えています。

そのために、直近の目標として掲げているものは?

真部:まずは、「若い人に1番使ってもらっているEC」になりたいと思っています。ゾゾタウンといった日本のファッションECの主要プレイヤーの顧客層の平均年齢は大体30〜40代が多いのに対して「60%」のお客さんは20代前半。そういう点では、ポジショニングとして非常に「若い人たちに向けたサービス」になっているので、経済的な規模を拡大してこれから5年で「若者が利用するナンバーワンEC」を目指していきたいです。

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(聞き手:橋本知佳子)

◾️60%:公式サイト

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