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【連載ふくびと】第1話 演出家 若槻善雄——寺に生まれ東京へ、道を開いた1本のビデオ

若槻善雄

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【連載ふくびと】第1話 演出家 若槻善雄——寺に生まれ東京へ、道を開いた1本のビデオ

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 華やかなファッションショーの裏方として約40年間、ランウェイの世界観を作り上げ、縁の下でブランドを支えてきた演出家、若槻善雄。師匠の運転手もこなした下積み時代から、世界的なデザイナーとの仕事、そしてコロナに揺れる現代まで、移り変わるモードの世界の舞台裏で何を目撃し、体験してきたのか。東京とパリの変遷を振り返りながら、演出家の仕事と若槻善雄の半生を「ふくびと」全7回連載で辿る。

第1話——1962年、長野県長野市に生まれた若槻善雄。浄専寺の次男として規律正しい生活を送りながらも、徐々にやんちゃな性格が顔を出していった。兄や姉に影響を受けつつも異なる進路を選び、東京へ。1本のビデオテープが、その後の道を開くきっかけとなった。

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・日課はお経、短ランをさらに短く改造

 子どもの頃から、朝は本堂でお経を読むのが日課でした。田舎だし面白いことなんてなくて、だったら自分で面白くするしかない。無いものは作るしかないので、色々と工夫して遊びました。ブルースリーの映画を見て、丸太と鎖でヌンチャクを作ったり。

 覚えているのが、西城秀樹がツギハギのジーンズを履いているのをテレビで見て、どうしても欲しくなったこと。長野にはそんなの売っていないから、母の足踏みミシンを使って自分で作りました。いわゆるリメイクのような。確か小学生の頃だったので、今振り返るとガキがよくできたなと思います。

 高校生の時は"短ラン"が流行って、短い丈をさらに短くしたり、詰め襟を半分くらいの高さに作り変えたり。当時はそれがイケてると思って、色々とやりました。特に裁縫とか何か作るのが好きだったわけじゃなくて、ちょっと他人とは違うこととか、変わったことをしたいと思っていたんでしょう。

 兄弟は、7つ上の兄貴と、4つ上の姉貴がいます。2人とも京都の仏教系大学に進学したので、中学2年からは一人っ子状態でしたが。京都はおしゃれな学生が多かったようで、兄貴が大学に入った1970年代前半の頃、たまに帰省すると見事にアイビースタイルになっていました。姉貴の頃はテクノブームで、例に漏れずそういう格好で帰ってくるようになって。歳は離れていても、やっぱり兄や姉の影響は受けていたのだと思います。それでメンズクラブやポパイを読み始めたり、なんとなくファッションだとか音楽だとかを知っていったんです。

 ただ、かなりやんちゃだったのでよく怒られていました。よほどひどかったのか、兄貴が実家に帰ってきた時、親父が「あいつどう思う?」と僕の素行の悪さをよく相談していたみたいで。つい最近になって、親父の法事で集まった時にその頃の話を聞かされました。その兄貴が今、寺を継いでいます。

・「豚に真珠は、似合うのだ」

 親父には兄姉と同じく京都に大学に行けと言われていたけど、自分はどうしても東京に行きたかった。結果的に今まで好き勝手やらせてもらえているのは、たぶん次男だったからでしょう。

 とはいえ、何か情熱を持ってやりたいことがあるわけではなく。高校3年生になっていよいよ進路を決めないといけない頃、たまたま読んでいたメンズ雑誌の1ページが目に止まりました。オンワードの広告で、そこに「君もマーチャンダイザーになるか?」と書いてあったんです。「マーチャンダイザーって何だ?」と気になって。

マーチャンダイザーとは?——主にアパレルのメーカーや小売店で、商品開発から販売計画まで管理する職種。略称はMD。

 もうひとつ、印象に残ったのはTVCMです。「豚に真珠は、似合うのだ」というコピーなのに、アクセサリーをしているのは猫。それは「東京モード学園」が開校するというCMでした。当時、学校のCMなんてほとんど見なかったしインパクトが強烈で、「これは面白そうだ」と行ってみたくなったんです。

東京モード学園 1980年放映TVCM「豚に真珠は、似合うのだ」篇

東京モード学園 1980年放映TVCM「豚に真珠は、似合うのだ」篇より。ファッションのプロを目指す専門学校として、1981年4月に開校した。

Image by: 学校法人 日本教育財団

 結局は親に上京を許してもらって、東京モード学園の一期生として入学しました。僕が入ったのはビジネス学科なので、イメージマップの制作とか店の構想とか、大半は服作り以外の授業。なんとなく惹かれてモードの世界に入ってみたはいいものの、しばらくは自分が何をやりたいのか見つけることができず、悶々としていました。

 そんな頃に出会ったのが、非常勤講師として来ていた江橋洋さん。演出家だった江橋さんの課外授業として、一本の映像を見せてくれました。それは山本寛斎さんが晴海で開催したショー「寛斎パッションナイツ」(1982年)を映したもの。オートバイや御神輿、裸の子どもたちが走り回ったり、西城秀樹さんがモデルとして登場したり、まるでもうお祭り。ものすごいエネルギーに溢れていて、一気に概念が覆されたというか「世の中こんな世界があるんだ」と驚かされたんです。

1982年「寛斎パッションナイツ」

1982年「寛斎パッションナイツ」

Image by: 山本寛斎事務所

1982年「寛斎パッションナイツ」に出演したファッションモデル山口小夜子

「寛斎パッションナイツ」には国際的に活躍したファッションモデル山口小夜子も出演

Image by: 山本寛斎事務所

 ショーの世界って面白いなと、初めて思ったのはこの時でした。なので江橋さんは、僕がこの世界に入るきっかけを作ってくれた人。今も感謝しています。——第2話につづく

江橋洋——ファッションエディターを経てファッションショーの演出家に。インドと中国でヨガ・氣功・太極拳を修行し、1995年に東京・表参道に「バイオウェルネス ヨガスタジオ」を開設。ヨガマスターとして活躍している。

第2話は3月1日に公開します。

文:小湊千恵美
企画・制作:FASHIONSNAP

【連載ふくびと】演出家 若槻善雄 全7話
第1話―寺に生まれ東京へ、道を開いた1本のビデオ
第2話―ブッ飛んだディスコ 金ツバ通い
第3話―憧れの師匠のもとで
第4話―来るはずの電車が...地下鉄のショー
第5話―生のギャルソンの衝撃
第6話―マルタン・マルジェラの素顔
第7話―ショーができなくなった時

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