2014年に自身のブランド「ヨウヘイオオノ(YOHEI OHNO)」を立ち上げ、東京ファッションウィークでショーを開催するなど注目を集めるデザイナーの大野陽平。「自分がどういうことをやるべきか、少しずつ掴みかけている」と話す、今まさにそのタイミングで手にしたのが名高き若手の登竜門「インターナショナル・ウールマーク・プライズ」ファイナルへの切符だ。独自の哲学でファッションと向き合う若きデザイナーが大会を通じて得たものと見据える先とは?
初の海外コンテストで得た自信
ー国際的なファッションコンテストへの参加は今回が初めてですか?
「TOKYO FASHION AWARD」のような国内のコンテストは経験があるんですが、インターナショナルの選考会は今回が初めてです。インターナショナル・ウールマーク・プライズ(以下、プライズ)への参加は、これまで発表してきたコレクションを見てくださった方たちの後押しもあり、ちょうど去年の今頃に決めました。
実はこれまでウールという素材をコレクションの中であまり使ってこなかったんですが、違った一面を見せるという意味でも新しい挑戦ですし、与えられたお題であるウールという素材をどう「切れ味」を持って扱うか、というところに興味があって応募することにしました。あと「これを作ってみたらどうなるんだろう」といったように、予定調和じゃないものを生み出したいという気持ちが創作する上での1番のモチベーションで。今回はそこにやりがいを感じたこともあって参加を決めました。
ー今回のために製作したコレクションのインスピレーション源は?
実は予選を通ってからプレゼンテーションを行う7月の地区大会までの半年間、正直アイデアが浮かばなかったんです。大会1ヶ月前のそろそろという時に、岐阜県にある毛織会館を訪れる機会があり、そこでコレクションのヒントを得ました。毛織会館では全国から集まった生地を収蔵しているんですが、たまたま「85年SS」と書いてある一見綿麻のようなストライプのサマーウールの生地を見つけたんです。ナチュラルで素朴なんですが、ウール100%では見たことない上品さと面の良さに思わず見入ってしまって。

話を聞くと、それが30年以上前の生地で、当時は夏でもウールのスーツを着ていたけど、時代とともに化繊に代替され、こういった生地はもう作られなくなったと。これをもう一度リバイバルさせることが一つの新しい提案になるのでは、と思いついたんです。ウールは仕立てたときにパキっとフォルムが出せる点が特性だと思うんですが、それが自分のブランドでやっているような構築的なフォルムと相性がいいんじゃないかなと思って、そこからコレクションのアイデアを膨らませていきました。
ーヨウヘイオオノがウールのような天然素材を使うイメージはあまりなかったです。
そうですね。以前は使うことにあまり面白みを感じなかったんですが、毛織会館で手に取ったサマーウールは見たことがなかったですし、古めかしさや素朴さとかは自分のブランドにはない要素なので、そのコントラストもいいなと。仕上がりの上品さが担保されるという安心感もありましたし、完成したものを見て改めていいなと思いました。
ーアジア地区大会から勝ち進んできました。手応えはあったんですか?
地区大会はデザインアプローチやプランを審査員にプレゼンテーションするという内容だったんですが、他の候補が有名なブランドばかりで自分だけ無名だったので、特にプレッシャーも感じず気負うことなくできたとは思います。休み時間もプレゼンの練習をしたりと、事前準備をしっかりしたので、プレゼンは上手くいったという手応えはありましたね。ただ審査当日の夜の結果発表まではずっとドキドキしていました。
ー審査員にどこが評価されたと思いますか?
審査員には「いい意味で浮いてた」と言われました。他のアジアのブランドはカラーリングがポップで、ストリートの流れを踏襲しているデザインが多かったんですが、僕のような提案はあまりなかったので目立っていたということでした。逆にアジア圏のバイヤーの方には「アジアの女性はもっとビビッドな色のほうが好きだからちょっと違う」と言われたりもしましたが。自分の作っているものの方が女性らしいと思うんですけどね(笑)。

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デザイナーとしてのアティチュード
ー去年LVMHアワードで「ダブレット(doublet)」がグランプリを獲り、一気にグローバルブランドになりましたね。
ダブレットにはとても勇気づけられました。国際的なコンテストには政治的なしがらみがあるんじゃないかという先入観があったんですが、単純に良いコレクションを作った人が勝つんだということを井野さんが証明してくれた気がします。ファイナリストに選ばれたことで、自分のやってきたことに自信が持てましたし、ちゃんと見てくれているんだと思えて嬉しかったです。
ー国内では「アキコアオキ(AKIKOAOKI)」や「ハトラ(HATRA)」など大野さんと同年代のデザイナーの活躍が目立ちますね。
仲間意識はもちろんあるんですけど、ただその括りを突破して更に上に行かないといけないとも思っています。確かに知名度は徐々に上がってきているのかもしれませんが、まだこの年代のデザイナーは誰も頭一つ抜けられていない。「今のままだとみんなそこそこのブランドになってしまう」という危機感があって、自分のブランドの何が抜きんでているかを、もっと努力して作っていかなければと考えています。それこそこのプライズが頭一つ抜けるきっかけになってるくれれば嬉しいんですけどね(笑)。今少しずつ掴みかけている感覚があるので。
ーその感覚は今回のプライズに参加したことによって生まれたものですか?
そうですね。ロジックを組み立ててコレクションを完成させるというプロセスを経験できたことは収穫でした。それくらい徹底しないと、説得力のあるコレクションはできないんだ、ということを身を以て学ぶことができたので。
ー「ヨウヘイオオノ」の強みは何だと思いますか?
自分は今までの日本人とは違ったアティチュードでファッションデザイナーという職業に向き合っているという意識なんですが、そこはある側面から見ると強みと言えるのかもしれません。
自分にとってファッションは探求や研究の対象でもあります。どういう形にしたら今一番「切れ味」があるのか、世の中の人が新鮮に感じてくれるのか、未来に対しての想像が膨らむのかなど、ファッションデザイナーであまりそういうアティチュードの人を見たことがないので、そこは他のデザイナーと違うところなのかなと。今それができているかはわからないんですが、少なくともそういった気持ちで服作りに向き合っています。

ーどういったアプローチでファッションを研究しているんですか?
今やろうと思っているのは単純に「デザインを変えない」ということ。僕はブルーノ・ムナーリ(イタリアを代表する芸術家)が好きなんですが、彼の本とか作品を見て学んだのが、「美しいものと人との距離をつなげる」ことがデザイナーの役目であるということなんです。僕も服を通じてそういうことをやっていきたいです。あと服作りの工程を出来るだけ少なくしたくて。物事を複雑にするのは誰にでもできますが、余計なものを削ぎ落としてシンプルにするのは難しい。そういったプロダクトデザイン的な発想でファッションを探求していきたいんです。
ーヨウヘイオオノの服は「女心がわかっていない」という女性からの意見を聞いたことがあります。
あまり良い表現ではないですけど、正直分かろうとしていない部分があって(笑)。僕にとってはその距離感がデザインする上で大事なんです。女性を客観的に捉えると言うか。ただこれは喜ばれることをあえてしたくないというか、ちょっと素直になれない自分のパーソナルな部分がそのまま出ているところでもあるんですが(笑)。
今、デザインに求めること
ー「切れ味」という言葉が何度か出てきましたがどういった意味ですか?
毎日ファッション大賞の授賞式で「トーガ(TOGA)」の古田さんが「一石を投じられるデザイン」という言葉を使っていたんですが、僕の場合それが「切れ味」。いくら可愛い服でも既視感のあるものを作ってもしょうがないと思うので。
ー今回のプライズでも「切れ味」を出すことを意識した?
そうですね。プライズの大義名分はウールを使ってどうイノベーションするかということなんですが、正直素材のイノベーションにはあまり興味がなくて。昔の生地をリバイブさせることは革新的ではないかもしれませんが、ただ僕の感覚では「切れ味」が一番良い。これを現代に蘇らせて新しい女性のスーツを提案するということが、「ヨウヘイオオノ」にとってのイノベーション、というかクリエイションなんです。

ーヨウヘイオオノをどんなブランドにしていきたいですか?
インスピレーションを与えられるようなブランドになりたいです。というのも僕自身、人生の乾きや退屈さをファッションによって満たしているところがあるんです。新しいことをやりたいと思っても実際なかなかできない生活の中で、そのアイデアを発散できる場所がファッションなんだと思います。
例えば、無印良品のもので全部統一された部屋に、"そうじゃない服"が一つラックにかかっているとする。それだけで違う人になれるんじゃないか、というような「今の自分とは違う可能性を示唆できるブランド」になれたらいいなって。"そうじゃない服"が「ヨウヘイオオノ」の服であったらいいなって思います。そしてどの時代でも「切れ味」は持ち続けていたい。もっと若い世代に「全然鋭くない」と思われても、少なくともそこへの意識は忘れずにクリエイションに向き合っていきたいですね。
(聞き手:今井 祐衣)
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