第9話からつづく——
新型コロナウイルスの感染拡大により、一時店舗をクローズして自粛期間を過ごすことになった2020年。古田泰子はファッションの果たす役割や、ブランドの在り方にも思いを馳せた。そしてこの先、服を通じて関わりを持ちたいと話すのは「生と死」。「トーガ(TOGA)」と古田の挑戦は、この先も続いていく。——「TOGA」の創業デザイナー古田が半生を振り返る、連載「ふくびと」トーガと古田泰子・第10話(最終回)。
・これまでと違う何かを探し続けて
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コロナ禍の外出自粛期間はずっと家にいました。見えないものに対して漠然と考える日々。自分が関わっている服だけではなく、世の中全体で大きな方向転換が試されている。直営店を閉めるのはとても痛手でしたが、ファッション界に限ったことじゃない。今もなお続くコロナとの共存の中、今までと違う何かを探すために、ルーティーンからどうやって脱出していくのか。不便さを感じたり矛盾を感じたり、それらとどう向き合うのか。国や政治も私たちの考え方も、もっともっと色々なことが変わるチャンスが続いている。
デザインやファッションは、家の中でも気持ちを高揚させる役割を担っていけるものだと思っています。そして人には服を選ぶ自由があり、服を通して自分の意見を堂々と述べられる。だからこそ、あまり保守的にならず刺激のあるものを作り続けたい。
・最期の花道を飾る、トーガの服
トーガはファッションブランドとして、インディペンデントであることだけを突き通しているわけではないんです。信頼を得て、任せてもらえて、資金を豊かに使えるのであれば、インディペンデントで無くなってもいいと思っています。もしも「3年かかってもいいから、次の時代につながるような新しい服を考えてみて」と言われたら、すぐにでも手をあげて、日産でもトヨタでもどこの社員にでもなる。次なる面白いものを作るチャンスが増えるのであれば。
とはいっても、まだまだトーガでやりたいこと、さらに作りたいと思っているラインもあります。たとえば終活。最期の花道を飾るトーガの服。死は全員に訪れることですから、最期にどうなりたいのか? エンディングを迎える服として、ライン名も真剣に考えています。"TOGA THE END"とか、"TOGA MEMORIAL ART"、"TOGA THE BEST"……あまり暗くならない名前がいいなと。
どんどん時代が変わって、私と一緒に働いてるスタッフも、20年後には着たい服も違ってくると思う。人生の平均が80年だとすると、ミドルエイジはみんな過ぎているからそろそろデスゾーン(笑)。終わるってことも、そんなに悪いことじゃない。
自分が死んだあとに、ブランドを引き継いでもらいたいという願いは特にありません。もしやりたいという人がいれば、もちろん続けてもらっても。ただ私の中では、"TOGA THE END"で終わろうかな。でもまだまだ、本当に変えられることってあると思う。トーガとしての原点、ベーシックを作ることもそう。そういった服が人の生と死に関わっていけたら、すごく面白いなと思っています。(2020年11月下旬・談)
TOGA
1997年スタート。デザイナーは古田泰子。
2004年にTOGA PULLA、2011年にメンズラインTOGA VIRILISを立ち上げる。
2014年秋冬よりロンドンでコレクション発表を続け、最新の2021年秋冬コレクションはフィルムで発表。
「ポーター(PORTER)」、「スピード(Speedo)」、「バブアー(Barbour)」、「ヴァンズ(VANS)」、そして「H&M」といった様々なブランドと協業し、また五木田智央といったアーティストとのカプセルコレクションなども展開している。
文・辻 富由子 / 編集・小湊 千恵美
企画・制作:FASHIONSNAP
【連載ふくびと】トーガと古田泰子 全10話
第1話―「大人の文化」を先取りしていた子ども時代
第2話―スキンヘッドの女子高生、モードを志す
第3話―「何を伝えたくて服を作っているのか?」
第4話―パリの洗礼とコム デ ギャルソンの衝撃
第5話―衣装デザイナーとしての活動、そして挫折
第6話―前衛的な雑誌「ジャップ」で誌面デビュー
第7話―世の中を変える「場所」を作りたくて
第8話―パリからロンドン、まだ見ぬ世界へ
第9話―「なりたい自分」を叶えるのがファッションだ
第10話―聖なる衣が最期を飾るまで
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