第7話からつづく——
パリでは文化の違いもあり、ビジネスの難しさを痛感した古田泰子。新天地を切り拓いたのは、今も継続して人気の高いシューズラインだった。2011年秋冬にはメンズライン「TOGA VIRILIS(トーガ ビリリース)」がデビュー。そして2014年からはコレクション発表の地をロンドンにシフトする。一方プライベートでは出産を経験。我が子を産んだ瞬間に、世界がガラリと変わってしまったという。——「TOGA」の創業デザイナー古田が半生を振り返る、連載「ふくびと」トーガと古田泰子・第8話。
・資金難、転機になった靴
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パリでは一度、行き詰まってしまいました。会場費からモデルまで、とにかく桁違いのお金が飛んでいく。文化の違いはあるだろうと想像はしていたんですが、ヨーロッパのお店は新しいものに簡単に飛び付くわけではなく、1~2シーズン様子を見てからやっと買い始めるというペース。日本のように順調に広まっていくだろうと考えていたので、想像が甘かったんだと思います。取引先は増えてはいたけれど、資金難でパリのショーは一度中止に。
「トーガ」パリのデビューショー(2006年春夏コレクション)
一方で、新たな出会いに助けられました。トーガを買ってくれていたバイヤーが、SIX(シックス、シューズディストリビューター)の社長に「靴のライセンスを初めてみたら?」と勧めてくれて。彼もトーガのパリでの展示会に来たことがあり、服を覚えてくれていたようで話はすぐに決定。続けていたことは無駄じゃなかったんだと思いました。その時に始動したシューズラインが、大きな転機になったからです。
靴を通じて、ミラノやニューヨークにも名前を広げるチャンスとなりました。シューズラインからトーガを知ってくれた人が、メインのコレクションにも興味を持ってくれるという流れができた。そして資金面でも、もう一度ショーができるという状態に回復しました。
ショーを再開する時、一緒に組みたい人とも出会いました。ロンドンで最初にPRを買って出てくれた人。彼女が「気分をガラッと変えて、一度イギリスでやらないか」と勧めてくれたので「じゃあそうしよう」って。
フットワーク軽く、同じところで繰り返すよりも知らない場所に行ってみようと、パリからロンドンに移ることにしたのです。SIXの社長やSusie Bubble(スージー・バブル)、そしてユナイテッドアローズの栗野宏文さんらがブリティッシュファッションカウンシル(The British Fashion Council、ロンドン・ファッション・ウイークを運営する英国ファッション協議会)に紹介状を書いてくれたおかげで、公式スケジュールに入ることができました。
ロンドンはヨーロッパにおけるコレクション発表のスタート地点。新しい提案は何なのか?と期待を持ちみんなポジティブで、しっかり見てもらえるチャンスが多い。それとイギリスの文化は、伝統要素とそれを壊す要素の土俵があるように思います。
・「今までの私、さようなら」
プライベートでは2012年に子どもが生まれて、驚くほど世界が変わりました。出産を経験した友達から「産気づいたら、家を出るときに『今までの私、さようなら』って決別するぐらいの覚悟で」と言われていたんですが、本当にそのとおり。100%自分の服のことを考えて、好きなことだけに時間を費やしていた私は、もういません。
時間が限られているからか、決断力が身についた気がします。今の決断の早さを、昔の私に見せてあげたいくらい。——第9話につづく
第9話「『なりたい自分』を叶えるのがファッションだ」は、8月21日正午に公開します。
文・辻 富由子 / 編集・小湊 千恵美
企画・制作:FASHIONSNAP
【連載ふくびと】トーガと古田泰子 全10話
第1話―「大人の文化」を先取りしていた子ども時代
第2話―スキンヘッドの女子高生、モードを志す
第3話―「何を伝えたくて服を作っているのか?」
第4話―パリの洗礼とコム デ ギャルソンの衝撃
第5話―衣装デザイナーとしての活動、そして挫折
第6話―前衛的な雑誌「ジャップ」で誌面デビュー
第7話―世の中を変える「場所」を作りたくて
第8話―パリからロンドン、まだ見ぬ世界へ
第9話―「なりたい自分」を叶えるのがファッションだ
第10話―聖なる衣が最期を飾るまで
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