第5話からつづく——
「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」への就職を諦め、自分の足で一歩踏み出そうともがく古田泰子。チャンスを与えたのはスタイリストの安野ともこと、そのパートナーであるフォトグラファー伊島薫だった。1997年、心強い2人のサポートを得て、聖なる衣の意味を持つ「トーガ(TOGA)」をより強いコンセプトで再始動した。——「TOGA」の創業デザイナー古田が半生を振り返る、連載「ふくびと」トーガと古田泰子・第6話。
・再び命を宿す、聖なる衣
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コム デ ギャルソン社でパタンナーアシスタントを経験し、衣装などの一点物の服ではなく、もっと様々な人の手に渡る服を作ってみたいと思っていました。生産システムを考え、作る人と着る人を繋ぐ服。
チャンスをくださったのは、よく仕事を依頼してくれていたスタイリストの安野ともこさんのパートナーである、フォトグラファーの伊島薫さん。当時『zyappu(ジャップ)』という前衛的な雑誌も手掛けていて、革新的な活動をされている時期だったと思います。「6ページあげるから、好きな服を作ってみたら? 君の考える服を作ってみるといい」と、声を掛けていただきました。
数年前に友人と立ち上げてお蔵入りしていた「トーガ」に、もう一度息を吹き込もうと思い立ちました。「トーガ」とはそもそも古代ローマの衣服で、一枚の布を巻いたファッションの原点。そういったオリジナルを、自分でまた一から作っていこうと。
自然に、そしてシンプルに、ガーゼとコットンチュールを引き裂いたドレスを制作しました。伊島さんがセッティングし、安野さんがスタイリング。撮り下ろしのロケ地は砂丘。より力強い女性をイメージして、当時は珍しかった黒人と白人ミックスのモデルに着せる。プロの力を借りることで、ブランドとして正式に発表する前に『ジャップ』の誌面でデビューすることができました。
ブランドを売り込むためにバイヤーに自分で電話をして、サンプルを持って行ったりもしました。けれど、綺麗にアイロンをかけても運んでいる間にシワになったり、良いだの悪いだの言われて何か腑に落ちない。自分の世界観を作って一つの空間に招き入れる形にしないと伝わらない!と、もどかしい思いを経験しました。ただ、展示会を開きたくてもアルバイトで貯めた自己資金で始めたので、潤沢な資金はありません。
そこで手を差し伸べてくれたのも伊島さんでした。ありがたいことに、展示会場として目黒にあった伊島さんのスタジオを格安で貸してくれたんです。安野さんは足繫く展示会に通ってくれて、よく服を買ってくれました。
しばらく展示会を続けた後、今度は「服を並べているだけだと女性像を伝えるのが難しい」と、次の壁にぶち当たります。どんな女性がどういったメイクをして、どう服を着るのかを見せたい。それがショーのきっかけになりました。
・作り方をまるで知らない
2001年、6シーズン目で借りた事務所が地下駐車場のようなとにかく広い場所だったので、ここなら人を招けるかもしれないと、安易な気持ちでショーの開催を決断。でもショーの作り方なんてまるで知らず、「モデルってどうやって集めるの?」「皆の座る椅子はどうするの?」とか、そういうことも一週間前になって気づくような始末。
既にファッションショーを始めていた学校の先輩に助けを求め、演出家という職業があることを初めて知りました。紹介してもらった人に会ってみると、切羽詰まった状況なのに「なんにも心配することないよ。俺に任せれば大丈夫!」なんて言うので、(なんだか胡散臭いなあ)と心の中で思ってしまった。でも、本当になんとかしてくれたんです。
TOGA 東京デビューショー(2001-02年秋冬コレクション)
その後も事あるごとに「任しとけ!」と言ってくれて、いつの間にか頼りになる存在に。その人こそ、後にDRUMCAN(ドラムカン、ファッションイベント企画制作会社)を立ち上げて代表を務める、演出家の田村孝司さんでした。——第7話につづく
第7話「世の中を変える場所を作りたくて」は、8月19日正午に公開します。
文・辻 富由子 / 編集・小湊 千恵美
企画・制作:FASHIONSNAP
【連載ふくびと】トーガと古田泰子 全10話
第1話―「大人の文化」を先取りしていた子ども時代
第2話―スキンヘッドの女子高生、モードを志す
第3話―「何を伝えたくて服を作っているのか?」
第4話―パリの洗礼とコム デ ギャルソンの衝撃
第5話―衣装デザイナーとしての活動、そして挫折
第6話―前衛的な雑誌「ジャップ」で誌面デビュー
第7話―世の中を変える「場所」を作りたくて
第8話―パリからロンドン、まだ見ぬ世界へ
第9話―「なりたい自分」を叶えるのがファッションだ
第10話―聖なる衣が最期を飾るまで
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