ザンダー・ゾウ(Xander Zhou)
Image by: FASHIONSNAP
「ザンダー ゾウ(XANDER ZHOU)」を手掛けるデザイナー ザンダー・ゾウ(Xander Zhou)は、中国でインダストリアルデザインを、オランダでファッションデザインを学んだというバックグラウンドを持ち、中国人メンズウェアデザイナーとして初めて国外でコレクションを発表したことで知られる。
西洋とアジア、ファッションと工業製品の各視点からものづくりを俯瞰した同氏が現在探究するのは、東洋の神秘主義とアジアの未来的な現代性とのつながり。その機械的で“近未来的”なヴィジュアルの奥に、懐かしさや親しみ、体温を滲ませる世界観は、今世界で注目を集めている。
2024年春夏コレクションで提案したエイリアンやアンドロイドを想起させる「未来の人類」とは、民族や人種、文化、性別、ジェンダー・アイデンティティの境界を超越した多様性のある世界の住人を指す。服作りを通して人間の進化を描くザンダーに、いま見つめている世界や人間への関心、ファッションという表現についての考えを尋ねた。
ー中国でインダストリアルデザイン、オランダでファッションデザインを学んだことは、現在のクリエイションにどう影響を与えていますか?
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中国で学んだ工業デザインからは、「ものを形作ること」においての影響を確実に得ました。その後オランダで学んだファッションは「生活することは世界をどのように捉えることか」というまた別の視点を私に与えてくれました。
ー現在、「世界」をどのように捉えている?
常に世界への強い興味があります。「世界をどのように認識するか」と聞かれたら「とても好奇心旺盛に世界を見ている」ということでしょうか。宇宙には人類がまだ知らない秘密がたくさんあります。それこそが宇宙に対して私たちが畏敬の念と好奇心を持ち続ける理由でしょう。私のコレクションには、その好奇心と未来への楽観主義が反映されています。そして、人間、アンドロイド、ロボットなど、私が作り出した様々な種族のキャラクターの間には「愛と寛容」があり、彼らは皆一つの世界の中で調和して生きているのです。
ー自身のアイデンティティはどのようなものだと認識していますか?
自分のアイデンティティは定義しないようにしています。物事は条件によって色々に変化しますし、それはアイデンティティにおいても同様。アイデンティティというものは多次元であり、進化もします。ザンダーゾウのコレクションからも、私のアイデンティティが多次元で、かつ進化するものであることが伝わると思います。
ーテキスタイルやカッティングも独創的です。インスピレーションソースは?
テクノロジーに関する記事、ビデオ、ドキュメンタリー、SF文学など、主にテクノロジーに関したものから着想を得ています。もちろん、脳の奥底での認識や主観的な意識による導きもありますが。
ーSFや未来、宇宙といったテーマへの関心はいつ頃から?
子どもの頃からSF関連のテーマに興味があったと思います。「トランスフォーマー」などの漫画からも大きな影響を受けました。
ー2024年春夏コレクションのショーもまさに「人間」がトランスフォームするようでした。
今回のコレクションテーマである「A.l.volution」は、人間と超人的な知性の変容を探究するもの。私はいつか、人工知能が人間の英知を超える、「テクノロジカルシンギュラリティ」と呼ばれる技術的特異点に到達すると信じています。つまり、我々がより賢くなるためにA.I.を使用する必要があると考えているんです。それは人類の進化における論理的な次のステップであり、「A.I.」と「evolution」の造語である「A.l.volution」が意味するところでもある。2024年春夏コレクションではこの考えをファッション言語に変換し、人間と超人的存在が調和して共存する未来を描いてみました。特に思い入れのあるオープニングとクロージングの2つのルックは、「進化」の関係性にあって、同じ人物が最終的には6本の腕を持つ超人に進化する様子を表現しました。
ー今シーズンのアイテムの特徴は?
植物の萼の構造から着想を得た6枚の花びら状の襟を持つ「Calyx Collar Jacket」は、ハイネックのジャケットの襟元に複数のジッパーをあしらう事で、ジッパーの閉まり具合によって襟が萼のように開きます。この開き具合をルックごとに差をつけることで、進化の度合いを表現しました。
マルチポケットのユーティリティジャケットは、マイクロ回路のようにパッチを当てポケットを配置しました。これにより、ツールボックスとプロテクションギアの両方として機能します。航空機の翼の組み立てに使用されるリベットを使用した「Rivet Jacket」は、未来への希望とそこへ向かっていくことへの願望を象徴しています。リブのついたベスト、シャツ、ジャケットは普通に着るのとは逆の順序で重ね合わせることで、レイヤーを透視したような表現をしました。テクノロジカルシンギュラリティが到来する前に、逆転現象を取り入れることで、自分の中で検証を行うための実験的な取り組みです。
Image by: 左)XANDER ZHOU、右)FASHIONSNAP
このほか、昨今顕著な季節感のないファッションとますます極端な気候変動への対応策として、ニットショールも取り入れました。新型のブーツは、メカニカルパーツの形状をより立体的に表現しました。
ーザンダーさんにとって「人間」とは?
いくつかのキーワードを挙げるなら独善的、ロマンチック、近視眼的、好奇心旺盛。また「不完全さ」というのも非常に人間的な性質で、それが人類というものに好感を持たせる要因でもあると思います。
ー2023年は世界的にA.I.の活用が民主化した年だったように感じます。ザンダーさんの考えるAIとの共存の仕方とは?
AIは、いつか人間を出し抜く可能性を秘めているので、自分たちがより賢くなるために、人類の進化の一部となるような形で活用するべきだというのが私の考え。それはコレクションのテーマ「A.I.volution」で表現しました。人類の進化にAIを活用するという視点が持てれば、私たちはテクノロジカルシンギュラリティを防ぎ、人間としてどこに向かっていくのかをコントロールし続けることができると思うんです。
ーザンダーさんが理想とする人間像や世界を描くために、ファッションは優れた媒体のように感じました。
私にとってデザインは、自分を表現する方法。世界や宇宙、未来についての自分の見解を表現するためにファッションデザインを利用しています。私は自分のことを、ファッションデザイナーというよりはむしろ未来から来たオブザーバーのような存在だと考えているんです。
(聞き手:橋本知佳子)
◾️XANDER ZHOU:Instagram
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