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より良い未来を作るスニーカー VEJAのオーガニックコットンの秘密に迫る

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より良い未来を作るスニーカー VEJAのオーガニックコットンの秘密に迫る

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 フランス発の「ヴェジャ(VEJA)」は欧米を中心に人気を集めるスニーカーブランド。キャサリン皇太子妃が愛用していることでも知られ、「リック・オウエンス(Rick Owens)」や「マルニ(MARNI)」「エチュード(Études)」などとのコラボレーションでも話題に。日本でも有力セレクトショップに並び、じわじわとファッション好きの足元を彩っている。

 そんなヴェジャは単なる“おしゃれスニーカーブランド”ではなく、2005年の創業以来、人と環境に配慮した生産背景の透明性の高さでも知られている。ブランド名はポルトガル語で“見る”を意味し、創業者フランソワ・ギラン・モリィヨン(Francois Ghislain Morillion)とセバスチャン・コップ(Sebastien Kopp)の「スニーカーの背景を見ることで、プロダクトがどのように作られているのか理解してほしい」という思いが込められている。

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70年代のブラジルのバレーボールシューズにインスパイアされた「VOLLEY CANVAS WHITE AQUA」。アッパーやインソールにオーガニックコットン、ソールにはアマゾンラバーを採用している。(2万4200円)

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 ヴェジャのスニーカーは、ブラジルとペルーで栽培されたオーガニックコットン、アマゾンの熱帯雨林で採れた天然ゴムをフェアトレードで調達して生産しているのが特徴で、近年ではリサイクルペットボトルやリサイクルポリエステルも活用したシューズも提案している。

 ブランドが創業した約20年前から買い付けているオーガニックコットンは、主にスニーカーのキャンバス地や裏地、インソール、シューレースに用いられるが、そこには自然と人々が共生するための壮大なストーリーが隠されていた。生産地であるブラジル北東部を訪れ、その背景を覗いてみた。

“コットン専業”ではない農家たち

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ヴェジャのオーガニックコットンを生産する農家のルアンさん(左)とミゲルさん

 私たちの生活に欠かせないコットンは、実は環境負荷の高い素材と言われている。従来の綿花は大量の水と農薬を用いて栽培されており、その有害な農薬による土壌と水の汚染による健康被害、低賃金労働、または児童労働などさまざまな問題が発生している。一般的に一つの作物を集中的に育てる単一栽培により、土が貧弱になり化学肥料に頼っていることが多い。オーガニックコットンでは農薬や化学肥料を使わず虫を駆除したり手摘みで収穫したりと、労働コストや栽培の難易度が高いなどの課題がある。

 一方でヴェジャのオーガニックコットンは前述の方法とは全く異なる手法で栽培されている。驚くべきは、ブラジルとペルーの1000を超える協力農家によって無農薬で生産されており、その大半が“コットン専業”ではないことだ。

プリミティブで開明的な農法"アグロエコロジー"

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コットンの隣で胡麻やトウモロコシを栽培することで害虫の増殖を防ぐ。養蜂箱(写真中央)を設置して、ハチミツも採取している

 ブラジル・ピアウイ州でオーガニックコットンを栽培する27歳の若き農家のルアン・レイス(Luan Reis)さんは、豆や胡麻、野菜など異なる作物を同時に育てている。輪作をすることで土壌中の養分バランスが良好に保たれ、病原菌や害虫の発生を防ぐことにつながり、特定の品種での不作時のリスクを分散している。またトラクターなどの機械は使わず、水やりは雨水のみ。馬や牛、ブタなどの家畜を放牧することで畑を耕し、動物たちの排泄物を肥料にしている。養蜂も同時に行うことでミツバチが農作物の花粉交配を促してくれ、ハチミツも採れる。これは自然と調和したアグロエコロジー(農業生態学)と呼ばれる農法であり、自然環境や生態系に負荷をかけないサステナブルな農業のあり方と考えられている。農薬や機械などに頼らず、極めてプリミティブでありながら、環境保全の観点から今注目が集まっている農法なのだという。

市場の約3倍の価格で綿花を買い付け

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ブラジル北東部で収穫されているオーガニックコットンは短繊維種。繊維が太く短いため、強度が必要とされるキャンバス生地などに適している。

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 こうして収穫される綿花は、化学的な殺虫剤や防虫剤を使用しないため、全て農家が手作業で虫を駆除したり、手摘みで収穫したりと手間がかかっているもの。そのため一つの協力農家から生産されるコットンの量は多くはないが、ヴェジャではそれぞれの生産者から直接コットンを買い付けることで、適正な価格で購入するフェアトレードのプログラムを構築している。コットンの価格は事前の話し合いのもと決定し、支払いは50%を前払いすることで生産者の生活を保証。ヴェジャ調べによると、他社の一般的なスニーカーの価格は70%が広告宣伝費に使用されているというが、ヴェジャは広告宣伝費をかけないことをポリシーに、その費用を生産者や労働者に還元している。市場の3倍を目安に価格を決定するが、2022年には市場価格より約50%高い価格に相当する1Kgあたり20.77ブラジルレアル(約548円)で綿花を購入した実績がある。

有機農業組合による支援体制

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ブラジル・ピアウイ州でヴェジャのオーガニックコットンを栽培するヴァルキュリヤさん

 農家たちの生活を支えているのが、現地コミュニティだ。2児の母であるヴァルキュリヤ・サントス(Valquiria Santos)さんもまたヴェジャのオーガニックコットンを栽培している。ヴァルキュリヤさんはAPASPIというブラジル・ピアウイ州のアグロエコロジーに特化した有機農業組合に加盟し、認証の取れた有機種子を受け取り、栽培方法を学びながら作物を育てている。コットンだけでなく、豆やトウモロコシなどの作物も同時に栽培し、収穫物は組合が斡旋。彼女の畑で採れたコットンがスニーカーの一部となって世界中の人々に身につけられているほか、一緒に育てた作物が地域のオーガニック食品として販売され、地元の食堂の食事や学校給食としても振る舞われているのだ。

 ヴァルキュリヤさんの比較的小規模な約1ヘクタールの畑では、昨年150Kgの綿花が収穫された。ブラジル拠点のヴェジャ社員が農家を訪れて、コミュニケーションとり、現地の農業組合やNGOと協力しながら取引を行っているそうだ。

ヴェジャが実現する生産者の豊かな生活

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左からヴェジャ ブラジルで農家を支援するオスカー・ジョゼさん、農家のヴァルキュリヤさん、ヴェジャ創業者のフランソワ・ギラン・モリィヨン、ヴェジャ ブラジルのマリア・ヴァルデニラ・ロドリゲスさん

 ヴェジャ共同設立者のモリィヨンがこのオーガニックコットンの取り組みで重きを置いているのが「人々や動物、土壌の環境を守りながら、田舎で豊かに暮らすことが実現可能であることを示すこと」だという。「20年前に20 から始まった協力農家は、今では約1035に増え、有機的に成長しています。実績を重ねていくことで、このプログラムが家族の繁栄をもたらすという理解が広がっています」。

 かつては都会へ出稼ぎしていた農家のヴァルキュリヤさんだが、田舎暮らしを求めて地元に戻った。「田舎には仕事がなく、生きていくためには都会に出なければなりませんでしたが、なかなか都市生活には馴染めませんでした。今はサポートを受けながら、大切な田舎で農業をしながら家族と生活を送れるようになりました」と話す。

より良い未来を作る一足

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ヴェジャのファーストコレクションから登場するアイコンシューズ「ボレー(Volley)」(2万4200円)

Image by: ヴェジャ

 ヴェジャはこのオーガニックコットンの取り組みを今後も強化していくという。「農地拡大により森林破壊が進んでしまったブラジルのマットグロッソ州セラードで、新しいオーガニックコットンのプロジェクトを開始します。ヴェジャではアグロエコロジーが自然を取り戻しながらそこに住むコミュニティの収入源を確保する代替手段となることを願っています」というモリィヨン。WWF(世界自然保護基金)によれば、セラードは農地や放牧地の開発によって、約200万平方キロのうち1/2(日本の国土の2.5倍もの面積に相当する広さ)の自然が失われてしまった地域。自然破壊を食い止めるため、自然再生活動が行われる広大な土地でのヴェジャの新たな挑戦が始まる。

 ヴェジャのスニーカーには、プロダクトを通して環境や人々に良い影響を与えるソーシャルグッドな秘話が隠されていた。私たちが身につけている衣服も普段の食事と同じく、農業から始まるもの。体に良い食材を選ぶように、商品を購入する際にはデザイン性や価格、機能性などを重視しながらも、その生産背景を理解して選ぶことがより良い未来への道を切り開く重要な手段となるはずだ。

ファッション リポーター

大杉真心

Mami Osugi

文化女子大学(現文化学園大学)とニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT)でファッションデザインを学び、ファッションブランドやセレクトショップで販売職を経験。「WWD JAPAN」で記者として、海外コレクション、デザイナーズブランド、バッグ&シューズの取材を担当する。2019年にフェムテック分野を開拓し、ブランドや起業家取材を行う。21年8月に独立し、ファッションとフェムテックを軸に執筆、編集、企画に携わる。22年4月に文化学園大学の非常勤講師に就任。

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