新しい生活様式はもはや日常へと移行し、それに伴い企業の舵取りも大きく変化している。FASHIONSNAPは経営展望を聞く「トップに聞く 2022」を今年も敢行。第6回はユナイテッドアローズの松崎善則社長。社長就任1年目となった2021年は「手探りの1年」だったという。喫緊の課題である黒字転換の道筋は?
■松崎善則
1974年2月22日生まれ。埼玉県出身。1998年4月にユナイテッドアローズに入社。ユナイテッドアローズ渋谷店からキャリアをスタートし、販売職や店長職、BY(ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ)本部長などを経て、2018年4月に上席執行役員に昇格し、同年6月に取締役 常務執行役員に着任。「ユナイテッドアローズ」やBYなどの複数の主力事業の統括責任者としてグループの成長に貢献した。2020年11月に取締役副社長執行役員に就任。2021年4月から現職。現在47歳。
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「手探りの1年」 社長就任で変わったこと、変えたこと
―社長就任1年目となった2021年をどのように振り返っていますか?
手探りの1年でした。ちょうど1年前はワクチンの普及も見られたので、今年の春ぐらいにはコロナ以前の状況に近づくのかなと思っていたんですけど、想像以上に厳しいですね。見通しがつかないなかで色々トライアルしているものの、前に進んでいるのか、後ろに下がってしまっているのか、それとも横道にそれているのか、今もまだ手探りが続いています。
―社長になって、これまでと見え方が変わったことはありますか?
意識的にはそこまで変わっていないですが、時間の使い方が変わったので、現場と接する時間が以前より減ってしまっています。
―2021年は新規事業の立ち上げが目立ちました。
ファッションという文脈の幅が広がったと思っています。ヨガウェアを軸とした新レーベル「トゥー ユナイテッドアローズ(TO UNITED ARROWS)」や初のアウトドアレーベル「コティ ビューティ&ユース(koti BEAUTY&YOUTH)」を立ち上げたり、サーフショップ「カリフォルニア ジェネラルストア(California General Store)」を通じた商品開発を始めたりと、これから「ファッション」をより発展させていける事業に取り組めたという実感はあります。
■新規で立ち上げた事業や取り組みなど
・トゥー ユナイテッドアローズ:ヨガウェアを軸としたウィメンズのレーベル
・マルゥ ユナイテッドアローズ:人気YouTuberかんだまを起用したレーベル
・シテン:EC主軸のブランド
・COZY:“洗えるスーツ”を展開するライン
・コティ ビューティ&ユース:キャンプやアウトドアのレーベル
・プライベートサービスデスクの開設
・お酒の販売
・法人向けコンサルティングサービスの始動
―特にアウトドアのレーベルは実際に好評を得ているそうですね。
コアなユーザーには刺さっていますね。アウトドアにしてもサーフィンにしてもファン化は進んでいるので、ブランドを発展させていく良いきっかけにはなったかなと思います。
―ECを主軸にした「シテン(CITEN)」、人気YouTuberをディレクターに起用した「マルゥ ユナイテッドアローズ(MARW UNITED ARROWS)」も注目を集めました。
この2ブランドは計画以上に売上が好調ですね。この時代に合わせてEコマースを軸にした店舗出店ありきではない戦略で、かつECを軸として買っていただけるであろう層にターゲットを絞ったので、年齢層が既存よりも割と若い顧客を狙い通り獲得できたのは大きな収穫でした。
かんだまをディレクターに起用した「マルゥ ユナイテッドアローズ」
Image by: FASHIONSNAP
―秋冬商戦の進捗は?
緊急事態宣言が解除されてから10月以降は売上が回復してきています。生産背景の問題で納品にトラブルがあったので、11月は伸ばしきれなかったんですが、ニーズとしては顕著な回復が見られていますので、足元の手応えは悪くないですね。
―各社コロナ感染拡大に伴うサプライチェーンの影響を受けています。
そうですね。我々もそれは同じですが、秋冬商品の納品については一旦目処がついたので、1月に向けては安定的に売上が伸びていくのではないかと予測しています。
―他社では「外出が増えても購買行動に結びつきづらい」といった傾向もあるようです。ユナイテッドアローズは「足元の手応えは悪くない」とのことですが、その要因とは?
我々はリピーターが多いので、その点に優位性があるのではないかと思います。事業別では「ドゥロワー(DRAWER)」「ユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS)」「ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ(BEAUTY&YOUTH UNITED ARROWS)」は割と伸び率が高いですね。一方で「ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング(UNITED ARROWS green label relaxing、以下GLR)」と「コーエン(coen)」などの流動客が比較的多いブランドは戻しきれていないのが現状です。
―GLRとコーエンはともにユナイテッドアローズの中では比較的低価格路線です。
データとして明確に出ているわけではないのですが、コロナ禍で服を買わない期間が長かった分、生活を豊かにするものだけを厳選して買うという趣向に変わってきたようには感じています。そういった意味では、比較的価格帯の高いものに注目が集まるようになっているのかもしれません。
―上期のプロパー消化率は?
具体的な数値は控えますが、プロパー消化率はかなり改善されたと捉えています。コロナの状態が落ち着いて正常化してるであろうという想定に基づいて計画を立てたのですが、上期は緊急事態宣言が2回発令され、このままいくとまずいなという危機感がある中で、最終的には在庫の問題を残さずに上期を終えることができました。
―プロパー消化改善のために取り組んだことがあれば教えてください。
品番・型数を絞りましたし、売上状況を見ながら生産量をコントロールできる体制を整えました。多少原価が上がることを覚悟の上で予定数量の何割かを先に発注し、売れ行きを見ながら残りの分をどの程度投入するのかを判断するという方法で、バランス調整を以前より強化しました。
―“売り切れ御免”といったスタンスで、在庫を残さないようにしたのでしょうか?
今までは「欲しい」というお客さまがいるのに欠品するのはいかがなものかという考えから、大きいロットの品番は欠品しないように計画を組んでいました。ただ、出店をして商品も増やすやり方はもう通用しないですから、欠品してもいいので本当にプロパーで売り切れる量に縮小しようと。当然トップラインは上がらなくなるのですが、プロパー消化率を高めることで利益を増やすという設計にしようとしています。これを言うと、「全然売り上げ伸びないんですね」と語弊を生んでしまうのですが(笑)。
―サステナビリティが重視される今、昨対実績を重視して大量生産と余剰在庫処分の組み合わせは時代に合っていないという見方が大勢です。セールのやりすぎも顧客の失望を生みかねません。
プロパーでお買い上げされた方が残念に思わないような商売をしていくように一度立ち返らなきゃいけないなと、この一年でそんなことを考えていました。2022年になったらそれを具体化して取り組みをトライアルしていきたいですね。
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