
高橋盾とアンダーカバー2025-26年秋冬コレクション
Image by: FASHIONSNAP
「アンダーカバー(UNDERCOVER)」の名作コレクションのひとつ、2004-05年秋冬「but beautiful...part parasitic part stuffed」が、20年の時を経て新たな形でランウェイに蘇った。今回の2025-26年秋冬ウィメンズコレクション「but beautiful 4...」は、ブランド創立35周年を記念したショーとして、デザイナー高橋盾にとっての"ベストコレクション"にフォーカスしたという。その背景を、ショー前日のパリのアトリエで取材した。
「好きなものを、もう一回やってみたい」
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あまり過去を振り返ることのないデザイナーが、今回なぜ20年前のシーズンに目を向けたのか。その裏には、服作りに対する純粋な思いがあった。「好きなものを、もう一回やってみたい。過去を超えたいとかそういうことではなく、ただ今の気分でやりたいと思ったんです」。
アンダーカバーがパリに進出してから4シーズン目の2004-05年秋冬コレクションは、ファンの間で「but期」と呼ばれるシーズンの始まりで、今でも人気の高いコレクションのひとつ。高橋自身も「服の面白さが詰まっているコレクションだった」と振り返り、心に深く刻まれていると話す。

当時のコレクションを改めて紐解いていくと、高橋が感じる「面白さ」とは何かを感じ取ることができるかもしれない。今回のコレクションノートには、以下のように記されていた。
2004-05年秋冬「but beautiful...part parasitic part stuffed」は、フランスのぬいぐるみ作家Anne-Valerie Dupondの独創的なぬいぐるみと、Patti Smithのスタイルからインスピレーションを得たコレクションでした。Patti Smithがぬいぐるみの様な手作り感満載の服を着ていたら.. という発想のもと試行錯誤して作り上げたデザインです。
特に影響を受けていたのが、アン・ヴァレリー・デュポン(Anne-Valerie Dupond)の作風だ。身近な古布を使って作られるぬいぐるみは、いびつな形とむき出しの縫い目が特徴。愛らしさと同時に、どこか不気味さを持ち合わせている。「彼女はぬいぐるみを即興で作っていくんです。言い換えると、ぬいぐるみとか何もやったことがない人が作ったかのような。それが自分の中で、服を作ったことない人が作ってみたら面白い服ができた、という感じになって」。
実際に当時のコレクションピースを見てみると、縫い目が曲がっていたり裏地が飛び出していたり、またデットストックの生地や蚤の市で手に入れたというシャンデリアのパーツなどがランダムに付けられていたりと、まるで一点物の彫刻作品のよう。現在のアンダーカバーに通ずる、美しさと不完全さ、カオスとバランスといった二面性が強く感じられる。
アンダーカバー流リアルクローズ
今回の2025-26年秋冬は、20年前のアプローチを引き継ぎながらも過去をなぞるのではなく、新しいコレクションとなっている。そう感じさせたのは、暗闇のランウェイに光を差すように登場したファーストルック。ゴールドの装飾が施された純白のセットアップで、ふくらみのある上質な素材をエフォートレスなシルエットに仕立てている。そして、後に続いたのはアンダーカバー流のリアルクローズだ。


一見するとカジュアルなニットやジーンズ、オーセンティックなジャケットが、よく見ると曲線のパーツで立体的に作られていたり、手縫いのステッチやビーズ刺繍が施されていたりと手が込んでいる。素材や仕立ての質を高めている点でもアップデートを感じさせた。「パッと見は日常着。でもパターンはとんでもないんですよ(笑)」。






高橋の言う"とんでもない"パターンテクニックは、「チャンピオン(Champion)」との2シーズン目のコラボレーションにも注入されていた。ビーズ刺繍のCマークはそのままに、うねるような曲線のカッティングがユニークなフォルムを描く。蝶のプリントの上下は、カジュアルなスウェットを全く異なる印象に変えた。


命を宿した服
冬の日常着であるダウンジャケットをクリノリン風のドレスに仕立てた2体は、顔や手足のようなパーツが見え隠れし、歩くたびにふわふわと動いて生き物のよう。小さな羽と無数のボタンが刺繍された2体のドレス、そしてフェニックスのような羽根を持つ2体のセットアップは、ブライトサイドとダークサイドという二面性とともに「but beautiful」のテーマを体現し、ラストを飾った。






これまでにない試みとして、2004-05年秋冬のアーカイヴピースから3点が今回のショーで再登場。過去のルックを新作コレクションと同時に見せるという珍しい仕掛けだ。20年前のアイテムは時を経てもなお魅力を放ち、混沌としたランウェイで最新のクリエイションと混じり合っていた。グレイヘアのモデルも多く、唯一無二の個性をまとう服が自立した女性像とリンクする。




そして極め付けは、今回のためにアン・ヴァレリー・デュポン本人が制作したシューズ。「自由に作ってほしい」というオファーに対し、「想像以上の作品が上がってきた」という。手縫いによって命を吹き込まれたカラスや動物たちが、足の先まで存在感を与えた。


ニーナ・シモンの音楽とマチュアな女性たち
最後にショーミュージックにも注目したい。コレクションテーマに用いられた「but beautiful」は高橋が好むニーナ・シモン(Nina Simone)の曲名に由来することから、今回のショーでは全て彼女の楽曲を用いた。「ニーナ・シモンの音楽だけのショーを、ずっとやりたかったんです」。そのブルージーな歌声が、マチュアな女性のためのスタイルと呼応する。

いつもの通りフィナーレで高橋が登場することはなかったが、ショーが終わり照明が落ちてからしばらくの間、観客の大きな拍手が鳴り止まなかった。本当に好きなもの。本当に作りたいもの。35年を経ても変わることのない純度の高いアイデンティティとクリエイションが、人の心を動かしたのではないだろうか。
photography: Keigo Yasuda
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