UNDERCOVER 2021年春夏コレクション(モデルはデザイナー高橋盾の娘、高橋らら)
Image by: UNDERCOVER
2021年春夏の「アンダーカバー(UNDER COVER)」は、画像のみでコレクションを発表した。ファッションショーの演出という点で世界の先頭を走っているブランドだけに、映像での発表などお手の物なはずだが、他とは同調せずにシンプルな発表方法を選んだ。6つのグループに分かれたコレクションを解説するとともに、その意図を読み解いてみよう。(文:ファッションジャーナリスト 増田海治郎)
テーマは「The SIXTH SENSE(ザ シックス センス)」。この"第六感"を意味する言葉を聞いて、多くの人はM・ナイト・シャラマン監督の映画を連想するかもしれない。でも今回は、映画との直接的な関連性はなし。アンダーカバーの"多面性"を6つの異なるコンセプトに分けてデザインする、という意味でのシックス センスだ。
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6つのコンセプトは、
①ピカソの青の時代にインスパイアされた「Pablo(パブロ)」
②超能力を持った集団の「006」
③ パンクの女王であるパティ・スミスにオマージュを捧げた「P.S.」
④可愛さと狂気が同居した「CUTE & MADNESS(キュート&マッドネス)」
⑤未来の部族をイメージした「coexistence(コイグジステンス)」
⑥地下に暮らす王室の女をイメージした「The Royal Family of the basement(ザ ロイヤル ファミリー オブ ザ ベイスメント)」
それぞれグループ名が付けられているのが特徴で、様々なギャングをグループごとに描いた2019年春夏メンズの「THE NEW WARRIORS」のコンセプトを継承、発展させたとも解釈できる。
では、グループごとに解説していこう。①の「パブロ」は、デザイナーの高橋盾が描いた油絵を転写プリントしたシリーズ。アイテムはショップコート、サイドをぺプラムで装飾したニットパンツ、バンドカラーのロングシャツなどで、海賊帽と軽快なストラップシューズをスタイリングのポイントとして使っている。ピカソの青の時代(1901-1904年)は、生と死や貧困などを主題にしたダークな青の色調の作品が多い。そのピカソの暗黒時代と現代を重ねたのだろうが、4つの絵とそれを転写した服は、ダークというよりはむしろ明るい印象を受ける。
②の超能力集団「006」は、異なる黒の素材を組み合わせた魔女的な衣装を纏っている。トレンチコートやジャケットは、生地の切り替えやチュール使いで、能力が溢れ出る様を表現。肩から二の腕の部分をリボンで結んだ構築的なドレスのルックは、超能力集団のボス的な迫力に満ちている。写真の上から書き足した炎や光線のグラフィックは、フィジカルショーでは不可能な写真ならではの表現だ。
③の「P.S.」は、NYのパンクの女王パティ・スミスのアイコン的なスタイルを現代的にアレンジ。いくつものアイテムを重ねたレイヤードルック、絶妙に着崩したネクタイとジャケットのドレスダウンは、骨格はアンダーカバーのDNAのパンクながら、大人っぽくて品がある。少し短めの丈のカラフルなウエスタンブーツも新鮮。
④の「キュート&マッドネス」は、近年のアンダーカバーのひとつの顔になりつつあるオタクインスパイア系。サンリオのキャラクターが描かれたルームガウンやパジャマは、ステイホームのテンションを上げるアイテムとして完璧だ。ハローキティ、マイメロディ、リトルツインスターズなどサンリオのキャラクター勢ぞろいしたルックは、可愛さと同時に狂気を秘めている。
⑤「コイグジステンス」は朴訥な雰囲気ながらも、もっとも攻めたグループと言えるかも知れない。高橋が想像した架空のクリーチャー「GRACE」とともに暮らす未来の部族をイメージしたもので、彼らは昭和の東北やチベットを連想させる野良着風のワークウェアを身にまとっている。その姿はとても力強くて、神々しささえ感じる。共存を意味するグループ名から想像するに、コロナ後の未来の人間像を提示したという見方もできる。
最後のグループ「ザ ロイヤル ファミリー オブ ザ ベイスメント」のキーワードは"人の視線"だ。ロックダウンで人前に出なくてよくなった王女は、いつものハイヒールをナイキのスニーカーに履き替え、時には広大な地下室でサイクリングを楽しむ。シャネルジャケットは家着的なフワモコ素材で、ビジューで飾ったのはスウェットシャツやカーディガン。足を広げて椅子に座る彼女は、サウナ後にマッサージチェアに座っているかのごとくリラックスした雰囲気だ。地下に暮らす王室の女という設定は、人の目線から解放されるコロナ禍の密かな楽しみを表現しているように感じた。
この半年間について「普段の生活に変化はあったが、デザイン作業に変化はなかった」と高橋は振り返る。パンデミックは意識せず、「自分が持っている様々な世界観を表現し、これを見て実際に着る人を楽しませたいという気持ちでデザインした」という。結果的に、1つのブランドの1つのシーズンとしては異例の、すさまじく振り幅のあるコレクションができあがった。細部まで作り込まれた6つの世界観を写真で堪能して、映像を作らなかった理由が分かった気がした。
文・増田海治郎
雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て、フリーランスのファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクターとして独立。自他ともに認める"デフィレ中毒"で、年間のファッションショーの取材本数は約250本。初の書籍「渋カジが、わたしを作った。」(講談社)が好評発売中。>>増田海治郎の記事一覧
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