オンワードHD 保元道宣社長
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ウィズコロナ時代の経営の展望を聞く短期連載「トップに聞く 2021」第4回はオンワードホールディングスの保元道宣社長。前期・今期の2年で約1400店舗の退店を決定し、コロナ禍で大規模な構造改革を推進している同社だが、保元社長は「今年以降、売上高は回復基調に向かう」と自信を示す。90年以上の歴史を持つアパレルの老舗はこの窮地をどう乗り越えるのか。
■保元道宣
1965年生まれ。1988年に東京大学法学部卒業後、通商産業省(現:経済産業省)入省。2001年にエヌ・ティ・ティ エックスに入社。2006年5月にオンワード樫山(現:オンワードホールディングス)に入社。同社常務執行役員や取締役、オンワード樫山取締役専務執行役員などを経て、2015年3月にオンワードホールディングス代表取締役社長に就任。オンワード樫山取締役を兼務している。
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―2020年はどんな一年でしたか?
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、世界規模でライフスタイルの大きな変化に直面した年だった。この不意打ちに対応することに追われ、かなり四苦八苦したというのが正直なところ。特に欧米はコロナの影響が甚大で、マイナスのインパクトは国内以上に大きかった。
―足元の状況はいかがですか?
第3波の影響で、特に都心の商業施設への人出がかなり鈍っている。状況が常に変わっていくので注視していなくてはいけない。
―コロナ禍で好調だった事業は?
ペットのグッズを扱うクリエイティブヨーコやグルメの通販サイト「オンワード・マルシェ(ONWARD MARCHE)」など、コロナ禍のライフスタイルのニーズに合った企業や事業が非常に伸びている。アパレルが主力なのでグループ全体としては厳しい状況が続いているが、次世代の事業の芽が見えてきたことはプラスだった。
―アパレル事業についてはどうですか?
テレワークの増加やインバウンド消費の減少などにより都心の商業施設が集客に苦戦しており、アパレルは特にその影響を受けている。一方で、郊外は比較的堅調。一番伸びたのはEC。自社ECサイト「オンワード・クローゼット(ONWARD CROSSET)」では4割近い伸び率を維持している。おそらく今年度の販路構成比の着地はEC、百貨店、ショッピングセンター・その他直営店がそれぞれ3分の1ずつになるだろう。
―これまでの主力の販路は百貨店でした。
十数年前までは百貨店が3分の2、ショッピングセンター・その他直営店が3分の1という構成比だったので、DX(デジタルトランスフォーメーション)が間違いなく進んだと感じている。全体のパイがコロナで縮んだので万々歳とはいかないが、バランスの良い構造になりつつあるので、これを維持しながらもう一度成長していきたい。
―構成比の構想は以前からあったのでしょうか。
決済の手段はお客様が決めることで、比率を目標にする必要はないと考えるが、以前からひとつのイメージとしてあった。それぞれの販路が順調に伸びていけば理想的だ。
―リアル店舗は前期を含めて1400店舗撤退。販路の内訳は?
内訳についてはノーコメントとさせていただきたい。
―ECは今期中に500億円達成を掲げています。
オンワード樫山では自社EC比率が95%を占めており、オンワードグループのメンバーシッププログラム「オンワードメンバーズ(ONWARD MEMBERS)」の会員データは360万人規模になっている。500億円達成のためには「会員を増やしていくこと」「ものづくりを高速化できる基盤づくり」が重要と考えている。
―具体的な施策は?
オンラインはデジタルネイティブの若いお客様がどんどん増えると思う。そうなると、リアル店舗以上にスピード感をもってフレッシュな情報や商品を届けていく必要がある。リアル店舗は月ごと、シーズンごとという考え方を大事にしているが、オンラインは毎週サプライズがないと継続的に利用していただくことが難しい。品質は落とさず、スピード感に対応できる企画生産体制を磨いていかなくてはいけないと強く感じている。
―昨年8月にはゾゾタウンに再出店。他社のECモールのポテンシャルについてはいかがですか?
我々は百貨店を中心にビジネスをしてきたので、30代後半以上〜50代の顧客層には対応できていたが、20〜30代という若い世代の顧客層はまさにゾゾタウンの強み。新しい顧客との出会いをつくれるという点においては、他社モールへの出店は意味がある。
―EC連動型店舗も計画しています。
オンワード樫山の鈴木恒則社長がリーダーシップを執り、いろいろなかたちで実験をしているところ。全く新しい複合型ストアをつくる構想もあるが、まずは既存店にサービスを付け加えてECと連動させていく。お客様からは取り寄せ・交換サービスの需要があり、「ECで買うがやっぱり心配でフィッティングしてみたい」「体験の場が身近なところにほしい」という声もたくさん頂戴している。買うかどうかはお客様の都合の良いように選んでいただけるようなサービスを検討しているところだ。
―ファーストリテイリングなど各社が試験的に運営している試着専門店の構想はありますか?
それはない。そこそこ大きな規模の店舗を試着専門にしてしまうのは、お客様からみると魅力がないのかなと。店頭の商品しか試せないというのも物足りないし、かといって試着しかできないというのも極端すぎる。「我々の提案も見てみたい」「オンラインで自分が選んだ商品を試したい」、それらが一つの場で両方とも楽しめるというのが一番いいのだろうなと思う。その比率を場所によって変えていくかを模索している。
―EC連動型店舗はどの程度増やしていく方針ですか?
段階的にだが、究極、すべての店舗が近い将来そうなるだろうというイメージだ。
―再出店などで実店舗数を再び拡大する考えはありますか?
数よりも一つひとつの店舗がニーズに応えられるかが重要。それを実現させるにはスタッフの体制やスペースなど、現行のままではできないこともあると思う。例えば、複合させれば店舗数としては減るわけじゃないですか。店舗数は現状維持し、それぞれの店舗を充実させていくことに舵を切りたい。
―今後注力するジャンルやブランドは?
我々の事業がアパレル中心であることは今後も変わらないが、アパレル一辺倒ではなく幅広いライフスタイルを提供していきたい。これはアパレルを縮小するのではなく、違うジャンルにチャレンジしていくということ。コロナの流行前からクリエイティブヨーコを買収したり、グループ傘下のチャコットでフィットネスウェアラインを始動したり領域を広げている。グループ全体としてもう少し幅広いラインナップを用意しようと思っている。
―アパレルの分野では何に力を入れていきますか?
例えばEC専用のブランド「ティアクラッセ(Tiaclasse)」がコロナ禍で売上が倍増し、10億円規模に成長した。オンラインでほぼ完結するビジネスモデルで10億円規模のブランドになると非常に収益性が高く、その分いろんな投資もできる。実店舗がなくても"10億円ブランド"をつくることができたという達成感は2020年あった。ティアクラッセは社長を含めて6人という小規模でブランドを運営して好成績を残している。スタッフがそれぞれ様々な業務に取り組んでいるので、お客様との距離感も近い。それが結果として支持される要因になっている。規模が大きいとどうしても分業になってしまうので、小さくてもきらりと光るブランドを作っていきたい。
それに、ブランドは個性的な社員が少人数でサークル的に楽しくつくっていくというのが本来のファッション業界のあり方でもあると私は思っている。既存の大規模なブランドは昭和から平成初期に生まれ、先輩が築いてきたものをしっかり守ってきたものが多いが、令和の時代は若い人が新しいブランドを自分たち流につくっていくことが必要。これまで小規模のブランドはだいたい赤字だったが、ティアクラッセのように小規模でもちゃんと収益が伴うブランドをつくっていく。「コロナで大変だったけど、新しいブランドがそこから生まれてきたね」とあとから言えるように頑張りたい。
―M&Aの計画はありますか?
常に考えている。いま申し上げたティアクラッセ社も2016年4月にM&Aして3倍規模に育ったブランドであり、2017年1月にはオーガニックヘアケア商品の「ザ・プロダクト(product)」を展開するKOKOBUYを、2019年3月にはギフトカタログの大和を傘下に収めた。M&Aした会社はコロナ禍で大きく伸びているところが多いので、成長が見込める企業とご縁があれば検討したい。
―M&Aはアパレルではない事業が対象ですか?
アパレルはグループ内にすでにリソースがあるので、我々に足りていない面を持つライフスタイル企業と手を組みたいと思っている。
―今期の中間決算では純損益152億円の赤字を計上しています。黒字化のためには更なる人員整理や不動産の売却が必要ではないかという意見もありますが、保元社長の見解は?
2020年はコロナの流行下で構造改革に舵を切った年。構造改革で決断したことは、新しい時代に適応していくためには避けて通れないことだった。一方で、会社全体の筋肉質化というのは相当進んでいる。今期は売上そのものが縮んでしまったので成果が見えにくいが、今年以降、売上高が回復基調に向かうと思うし、それが利益の正常化にもつながるはずなので、その点はご心配なく。もちろん油断はできない状況で、これからも不断の努力は続けていくが、この2年で進めてきたことは成果にしっかりつながると思う。
―最後に2021年の展望を教えてください。
ワクチンが整って正常化に向かっていくと信じたいが、未来のことは誰にもわからない。あまり早い段階で意思決定しても、世の中思った通りにならないじゃないですか。やはり激しい変化に対応できるスピード感を磨いていかなくてはいけない。特にものづくりの仕組み。これだけ激震が走っても対応できている会社はゼロではない。そこは素直にそういう会社から学びながらスピード感を持てるように変わっていくことが、ものづくりメーカーとしては一番重要なこと。逆に我々は品質の高いものをつくるという点では腕を磨いてきた自負があるので、そこにスピード感が伴えばまだまだいけるよ、と。コストをその分下げられるということもあると思うし、無駄な在庫が残らなければ値段もリーズナブルにできるはず。「スピード=商品力」という気持ちでスピード感をどう作り出すかが、この90年以上の老舗にとって最大の課題。
社員の皆さんも「これは笑い事じゃないぞ」「やらないと大変だぞ」という気持ちになってくれていると思う。コロナがなかったら「まだいいだろう」と気持ちが緩んだままだったかもしれない。人間って安心したいし、あまり大きく変化したくないもの。でも今回これだけのことがあったので、みんなが気持ちを切り替えて望めば、2020年をボトムとしてあがっていけるはずだ。
(聞き手:伊藤真帆)
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