GMOペパボ 佐藤健太郎社長
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ウィズコロナ時代の経営の展望を聞く連載「トップに聞く 2021」最終回となる第12回は、ハンドメイドマーケット「ミンネ(minne)」を展開するGMOペパボの佐藤健太郎社長。2020年度は過去最高の業績を達成し、EC関連事業が売上構成比率で初めて50%を超えた。ホスティングからECの会社へ――転換期を迎える同社の今後の展望とは。
■佐藤健太郎
1981年鹿児島県生まれ。大学在学中の2003年に友人であった家入一真氏が設立したpaperboy&co.(現GMOペパボ)創業に参画。2008年に代表取締役副社長に就任し、上場準備責任者としてJASDAQに上場。翌2009年に代表取締役社長に昇格。当時としては最年少上場企業社長となった。2014年に商号をGMOペパボ株式会社に変更。現在はレンタルサーバー「ロリポップ!」のほか、ハンドメイドマーケット「ミンネ(minne)」やオリジナルグッズ作成・販売サービス「スズリ(SUZURI)」、ネットショップ作成サービス「カラーミーショップ」などを運営している。
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―新型コロナウイルスの感染拡大から1年が経ちました。振り返って思うことはありますか?
様々な事業を展開しているが、各サービスがユーザーを支えられるツールになれたのかなと。これまでやってきたことの成果が形として現れた1年だったと思う。
―特に好調だった事業は?
「カラーミーショップ」と「スズリ」は新規ユーザーが増え、需要の増加を感じた。
―コロナが追い風となったという認識でしょうか。
巣ごもり需要でECのニーズが増えたという部分はもちろんある。だが、コロナ対策の必要性を感じた事業者やクリエイターの方々に我々のツールを選んでもらったということも大きな要因となった。
―GMOペパボの売上構成比はもともとホスティングがメインでしたが、2020年度はハンドメイドマーケットを含むEC関連サービスが50%を超えました。
ホスティング事業も成長し続けているが、大きく伸びる領域ではなくなったと思う。逆にECのニーズはコロナ禍の影響もあり、これからさらに高まっていくと予想している。2015年頃からそのイメージはあったが、今後は踏み込んで投資をしていくつもりだ。
―投資をしていく事業は具体的に?
「カラーミーショップ」のほか、「ミンネ」「スズリ」といったプラットフォーム事業に比重を置いていく。
・カラーミーショップ:ネットショップ作成サービス。2005年に開始。
・ミンネ:ハンドメイドマーケットプレイス。2012年に開始し、国内最大の規模に成長している。
・スズリ:オリジナルアイテムを手軽に作成・販売できるサービス。2014年から展開。
―無料で始められる「ベイス(BASE)」などとの差別化は?
カラーミーショップは月額の固定料金のビジネスであるのに対し、ベイスやストアーズは無料で提供している。サービスを比較された時に、やはり無料で始められる方を選ぶ人が多いので、入り口の部分でいうと我々の月額のモデル自体が弱くなってきたというのは事実としてある。ただ、無料化に舵を切ると課金ポイントを変えないといけないので、現状のビジネスモデルを維持しながら高機能化を進めていく戦略を組んでいる。具体的には、サードパーティの開発によるアプリの機能を充実させ、成長余地の高いEC事業者へのアプローチを続けていく。そこに対する投資は継続的に取り組んでいきたいと思っている。
―ミンネは2012年のサービス開始以降、成長を続けています。
2020年度は流通額が約150億円の規模に到達し、登録作家・ブランド数の伸び率も120%を超えた。だが、ブームは少し落ち着いたと感じている。
―コロナ禍で手芸ブームが到来したという話もありますが。
我々は2015年頃からミンネに集中的に投資し、ハンドメイドというワードを認知をさせたというタイミングで事業が伸びたという実感があるので、体感としてはハンドメイドブームは2〜3年前に起きたと思っている。昨年の1年間でハンドメイドが一気にトレンド化したとは思っていない。
―ミンネではどのカテゴリーで取引が増えたのでしょうか?
自宅で過ごされる方が増えたので、雑貨や家具類が一番伸びた。
―注文単価は前年より下がっています。マスクの出品増加も関係しているのでしょうか。
その影響は多少あると思う。ただ我々の場合、2月にマスクの転売に対する法律が施行されたタイミングで一旦マスクの出品を止めていて、4月ごろに出品を再開した。他のプラットフォームではマスクの取引が爆発的に伸びたが、我々は自然と増えていったという感覚だ。
―やはりマスクの出品に関しては慎重になりましたか?
メルカリやラクマといった大手のフリマサービスが出品を止めていたので、転売問題が我々の方に流れてきたら問題が解決しないという事前防止的な部分と、作家に誹謗中傷的なことが起こると活動に支障が出てしまうので安易にビジネスに走らず保護の観点から販売中止を決断した。
―現在、ハンドメイドマーケットプレイスの規模ではミンネがトップを維持しています。
我々がミンネを始めた当初は10以上のハンドメイドサービスがあったが、ほとんど淘汰されてしまった。いまでは国内外を含めても大手サービスは5つほどになった。
―ハンドメイドマーケットプレイスを主軸とするクリーマは昨年IPOするなど著しく成長しています。
アプリやサイトの使い勝手の面でクオリティを上げていくという意味では競合として見ているが、それぞれのやり方で一緒にマーケットを盛り上げていけたらと思っている。現在のハンドメイドマーケットプレイスの市場規模はまだ200〜300億円。ハンドメイド市場はもっと大きくなるはずなので、マーケットを広げていく部分に関して差別化は特に考えていない。
そのためには、作家に対してちゃんと「売れるプラットフォーム」として認識してもらってミンネで長く作品を出し続けてもらうことが重要だと思う。作家に対してちゃんと手厚く対応しているか、売れる支援ができているかという点をしっかりやっていきたい。
―ハンドメイド市場の拡大余地は?
今の日本のハンドメイド市場は手芸やアクセサリー作りというカテゴリーに留まっているが、海外の「エッツィ(Etsy)」のように木工家具やクラフトといったジャンルが国内ではまだ白地地帯になっている。ここまで広がればもっと規模は拡大できる。
―家具を作る、売るのはハードルが高いように感じますが。
まずはプロの方から参入されると思うが、今後はプロでなくても個人で作れるような人が増えていくだろう。以前のハンドメイドブームの時も、手芸メーカーが簡単なキットやレンジで固めて作れる素材を開発するなど、企業努力が存在している。クラフトや家具を簡単に作れるようになるには少し時間がかかるかもしれないが、日本でもDIYブームが出始めているし、我々もワークショップを開くことで興味のある人を取り込んでいきたい。
―海外展開は視野に入れていますか?
もちろん我々のストーリーとしては海外進出を考えているが、英語圏で言えばエッツィ、中国語圏で言えば「ピンコイ(Pinkoi)」など、それぞれの国で大手サービスがすでに存在している。海外展開を片手間のようにしないためにも、まずは国内の市場を大きくすることが優先事項だ。
―スズリは流通額が前年比で3倍近く増加し、急成長しています。
2020年度はクリエイター数が2倍近くになったことも大きな要因になっている。特に吉本興業やインフルエンサーなど、今までになかったジャンルの方々に参加していただけたことで新しい層の方々に認知されたというのは大きい。
―スズリはクリエイターやアーティストの利用が多いですね。
事業開発の着想源は海外のプリントサービス。既存のプリントサービスのなかには野暮ったい仕上がりになるものもあるじゃないですか。そうではなく「イマドキっぽいよね」と言われるような洗練されたサービスにしたい。そのためにベースとなるアイテムの素材選定から印刷のクオリティまで時間をかけてこだわってきた。
―製造はすべて国内ですか?
早い流通サービスを実現するために、製造は国内の工場に委託している。
―スズリには競合はいますか?
国内ではあまり競合を意識していない。ユニクロの「UTme!」も我々と似たような仕組みだが、UTに参加しているブランドの素材を使ってグッズを作れるというものなので、性質は少し異なる。どちらかというと、オーストラリアにある「レッドバブル(Redbubble)」やアメリカの「ザズール(Zazzle)」などの海外のサービスを参考にしている。クリエイターやインフルエンサーだけではなく大手のメーカーやブランドからも利用されていて規模が圧倒的に大きい。それらと比べるとスズリの規模はまだ小さいと感じている。
―自分だけのグッズが簡単に作れるスズリがアパレルに及ぼす影響は?
アパレルのラインナップは現時点でTシャツやパーカなど17種類ほど用意があるが、アパレル業界にインパクトを与えるほどではないと思っている。ただ、自分だけのグッズを作りたいというニーズは強く、表現手段としての選択肢として需要は増えるだろう。特に今はSNSでファンを作れる人がたくさんいるし、マネタイズの新たな手段としてスズリのようなプリントサービスを選ぶ人もいると考えている。特に我々のサービスは受注生産で在庫を抱えるリスクがないので、気軽にグッズを作れるのは強みだと思う。
―受注生産はサステナビリティにも繋がりますね。
確か、いまグローバルで年間で数十億枚ほどTシャツが作られているらしいんですね。メーカーが作ったTシャツが処分されている量も、それなりに存在するだろう。そういった部分で言うと、1枚から販売できるのはサステナブルな取り組みと位置付けることができるのではないのかと思う。
―スズリの将来の目標は?
クリエイティブなことにチャレンジする人を増やすこと。純粋に楽しんで作ってもらうこともそうだし、今まで創作したことがなかった人にものづくりの楽しさを知ってもらうことが目標だ。クチコミによる集客力が大きいサービスではあるので、「憧れている人が作っているから自分もやってみよう」と興味を持っていただき、利用者が広がっていけばいいと思う。
―今期は、過去最高の業績を記録した前期の実績と比較していくことになります。
もちろん厳しいと感じる部分もある。昨年は東証一部に変更させていただき、かつECのウェイトも高くなってきているなかで、新しい成長の仕方を検討しているところだ。我々は逆算でビジネスの設計をしていて、ミンネやカラーミーショップなど我々を取り囲む「ペパボ経済圏」を大きくしていくために今何をやるべきかというのも明らかになっている。しっかり取り組んでいけたら年間で20%の規模で成長を続けていくことも可能ではないかと思う。
―コロナの落ち着きが見えてくるとEC成長の鈍化が起こるという見方もあります。
もちろん巣ごもり消費は落ちていくと思うが、ECのニーズ自体は伸び続けていくと予想している。例えばカラーミーショップは昨年で言うと、1回目の緊急事態宣言時に流通額が著しく伸びたが、それ以降も成長は続いている。要するに、ECのニーズが顕在化しただけでニーズの成長自体は実は変わっていないということ。なので、そこに関しては不安視はしていない。
―企業として成長するために重視している施策は?
やはり出品していただく方々が増えないと我々のサービスは伸びないので、そこに関してもう少し満足度の高い施策をしていきたいという話は社内でもよくしている。ミンネに関して言えば作家・作り手のモチベーションを上げ成長につなげるための支援だったり、スズリはセールなどで売れるタイミングをクリエイターの方々にアドバイスするようなサービスを提供するなど、カスタマーサクセスに注力していきたい。
―GMOインターネットグループはリモート先進企業として注目を集めました。今後もリモートは継続の方針でしょうか?
グループとしては出社も織り交ぜてハイブリット型にしていくが、我々GMOペパボとしては今後も居住地を限定することなく、基本的には在宅勤務の体制で事業を進めていく。もともと我が社は福岡で創業し、現在は東京と鹿児島を含め3拠点で運営している。サテライトで勤務している人たちが孤立しないようなコミュニケーションを主体にしようという部分に加えて、リアルの方が生産性が下がっていたことも存在していたので、そこを改善するためにも逆にリモートを主体にしていこうと思っている。
―企業として目指す将来像は?
やはり世の中のアウトプットの総量を増やしたい。人類があり続ける限り、表現をしたい欲求って多分残ると思うんですよ。我々はインターネット黎明期から、サイトを持ちたいというクリエイティブな人に対してサービスを提供してきた。これからも人類の「表現したい欲」を満たせるようなサービスを作っていきたい。
―GMOペパボはホスティングから、EC・ハンドメイドサービスの会社に。2021年は大きな転換期となりそうですね。
たしかに一つの大きな転機になるだろう。だが長期的に見ると、今後はECだけではなくなってくるかもしれない。今言えることは、どの時代においても「仕組みやプラットフォームによって表現に対するハードルを下げる」という我々がやっているサービスの基本的な指針を変えず、アウトプットをする人たちを支えていくことを追求していきたい。
(聞き手:伊藤真帆)
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