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「10代の自分に感謝してる」 篠原ともえのクリエイションのひみつ

Image by: FASHIONSNAP

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「10代の自分に感謝してる」 篠原ともえのクリエイションのひみつ

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 多彩な顔を持つ篠原ともえは、現在「デザイナー/アーティスト」として活動している。ポップやキュートという言葉に収まらずに独自のクリエイションに邁進し、40歳の節目を迎えた2019年には、パターンを学び直すために母校である文化学園大学(旧 文化女子大学)の夜間オープンカレッジに通った。近年では、サステナブルな取り組みにも力を入れており、製品化の際に余剰となる天然皮革を用いた着物や間伐材を原料にした新たなプロジェクトも実施。より洗練されたそのクリエイションは国内外から高く評価されている。今回、FASHIONSNAPでは映画「ファッション・リイマジン」の公開を記念して、文化学園の学生を対象に開催された試写イベントで母校に凱旋した彼女にインタビュー。「クリエイションの根幹にあるものは、自分らしさ(ルーツ)である」と話す篠原。現在の篠原ともえが持つ、デザイナーとしての信念について聞いた。

■ファッション・リイマジンのあらすじ
 現代アーティストのダミアン・ハースト(Damien Hirst)の妻だったマイア・ノーマンが設立したブランド「マザー オブ パール(Mother of Pearl)」にフォーカス。物語は、マイア・ノーマンから同ブランドのクリエイティブ・ディレクターを引き継いだエイミー・バウニーが、2017年4月に英国ファッション協議会とヴォーグ(VOGUE)誌に英国最優秀新人デザイナーに選出され、賞金10万ポンドをもとに、同ブランドをサステナブルに変革する決意から始まる。新たなラインを「No Frills(飾りは要らない)」と名づけ、コレクション発表までの18ヶ月間、理想の素材を求めて地球の裏側まで旅をする姿が描かれる。

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まずは率直に「ファッション・リイマジンン」の感想を教えてください。

 主人公であるエイミーが自分の信念を徹底的に貫き通すことで、ファッション業界だけではなく社会全体が少しずつ変わっていく様は痛快で、清々しい気持ちにすらなりましたね。私自身も、自分の信念を貫き通したクリエイティブをどのように続けていこうかと向き合える良い時間でした。

印象的だったシーンは?

 エイミーが自分のルーツを辿って実家を訪れるシーンです。同じデザイナーとしてとても共感するものがありました。エイミーが「地球に負荷をかけないファッションブランド」を考えるきっかけになったのは、幼少期に大自然の中で育ったことだったと劇中で明かされます。私自身も、青梅市の実家で生まれ育ったこともり、緑が豊かな環境だったんですよね。ルーツというのは「自分らしさ」と言い換えることもできます。つまり、クリエイターとしてものを作る以上は自分のルーツとは切っても切り離せないし、エイミーと私の原始的なルーツが「自然の中で育ってきたこと」だったのかなと思えたんですよね。

一見、自身の内面にフォーカスした「自分らしさ」と利他的な「サステナブルな取り組み」は相反するもののようにも感じますが。

 たしかに、「サステナブル」という言葉をよく見聞きするようになった2018年頃は、正直「クリエイションにおいて、なにか不自由なことがファッション業界で起こり始めるのではないか」という少しネガティブなイメージとして認識していました。でも、「サステナブルこそがクリエイティブなんだな」と思えた出来事が2019年頃にあったんです。

 2019年は、私が「ファッションデザインで、自分らしいものづくりを突き詰めよう」としたタイミングでした。それまでは、祖母が着物の針子さんだったこともあり「和物が好きだな」「カラフルなものが好きだな」とざっくりと自分の興味が湧くものを認知し、アイデアソースにしていたんですが、具体的に「何を目指すべきか」ということだけがなかなか見当たらなかったんです。そこで自分のもう一つのルーツであり、祖母、母、私と三代受け継がれてきた祖母があつらえた着物と向き合い、糸を解いてみたんです。

アイデアソースはあるけど、クリエイションとして何を目指すべきか模索していた時に、自分のルーツである祖母の着物をほどいてみた、と。

 その通りです。その着物はパズルのように全てが四角い生地で構成されていて、最終的に3尺、約12メートルぐらいの一枚の布になったんです。それを体感した時に、私の好きな着物は生地を余すことなく使うことで出来上がっていたんだな、と納得したんですよね。自分にとって少しだけネガティブだった「サステナブル」という言葉が「サステナブルこそクリエイティブなんだ」とポジティブなものに変わる瞬間でした。着物をほどき、目の前に現れた一枚の布からは、祖母のクリエイションの息吹が隅々まで宿っているようにも感じましたしね。

 サステナブルについて調べていく過程で、困難なことに向き合っているデザイナーたちが、すごく好奇心を持って楽しそうにものづくりをしていることも知りました。自分が生まれ育った自然環境を自覚し、ルーツである着物を分解したことで、サステナブルという言葉の解像度が高くなり「私も課題から逃げずに向き合って製作するデザイナーになりたいな」と思うようになりました。「それはできないから」という理由で自分の好きなものを作るデザイナーではなくて、挑戦するデザイナーになりたいな、と。その先に、祖母があつらえた着物のように、三代にわたって着継がれるものが生み出されるんじゃないかなと思えたんですよね。

篠原さんは今日、この日のために自分でパターンもデザインも手掛けた服を着ていますよね。

 このブラウスは「パターンを折り紙のように重ねて作ろう」と考えたのが着想源です。買った生地をいかに端から端まで使うかを意識しました。結果として残布がほとんど出ませんでした。何故なら、布幅に合わせてパターンを引いているから。ベルトも、普通なら横で取るんですが縦で取っていて、パンツも通常なら曲線でパターンを引くところを、布の形に合わせて全て直線かつ四角パターンで作っています。不思議な感覚なんですが、布に導かれてパターンを引いている感じです。

篠原さんは、本来廃棄されるエゾ鹿革の端を使用したアートピース着物「ザ レザー スクラップ キモノ(THE LEATHER SCRAP KIMONO)」で第101回ニューヨークADC賞(THE ADC ANNUAL AWARDS)のシルバーキューブとブロンズキューブの2冠を達成しています。制作のきっかけは?

 真実をデザイナーとして作品にして届けたいなと思ったからです。このプロジェクトに取り組む上で最初に向き合ったのは「動物たちの命である天然皮革を扱うことはSDGsやサステナブルな取り組みといえるのか」ということ。なので、まずは真実を怖がらずに知ることから始まりました。実際に埼玉県草加市の三代続くタンナーさんの元に訪れて話を伺いましたし、日本タンナーズ協会の方々とも意見交換をさせていただきました。その中で、エゾ鹿の皮は革を取るために殺生されているわけではなく、森林被害を防ぐために仕方なく捕獲されること、捕獲された害獣も食肉として余すことなく食べられていること、余った皮の有効活用として皮がなめされて天然皮革になっていることなどを知りました。そうやって、天然皮革に対する自分の考えが変わっていったんですよね。事実、タンナーさんたちも動物たちの皮をいかに活用するかを日々模索されていて、その姿に胸を打たれました。これらは、人間が動物や自然と共生していく中で、必ず向き合わなければいけないテーマだと思います。だったら私も、私なりの方法で伝えよう、と。

ファッション・リイマジンの主人公であるエイミーも、自分が作る服の素材が誰にどのような形で作られているかを自分の足で確認しにいく姿が印象的でした。篠原さんも、実際に現場に足を運んでものづくりをするんですね。

 私もかつては「自分の作りたいものに材料や素材が後からついてくる」というイメージでした。でもいまは真逆で、素材が自分の作りたいものを形成してくれていると思っています。何故なら、素材そのものに既に伝統が刻まれているから。素晴らしいマテリアルにはしかるべき職人さんや取り組みが付きもので、私はその姿に寄り添うように作品を届ければいいと思っています。

新しい取り組みとして、高尾の森で伐採された間伐材を原料にしたバッグを制作されました。

 元々は、私の地元である多摩で開催される八王子芸術祭に参加するにあたって「高尾のもので何かアイテムを作って、地域の皆さんに還元したいな」と思ったのがきっかけです。バッグは、期間と数量限定で高尾山の山頂で配布することになっています。

間伐材を利用するというアイデアはどのように思いついたんですか?

 高尾山や森のことを調べていく中で初めて「間伐」という概念を知ったんです。一見、森を伐採するネガティブなイメージがあるかもしれませんが、自然光を森の中に取り込み、植物が健やかに成長するためには必要不可欠な作業で、定期的に実施されています。ただ、伐採された木を運ぶのにはとても労力が掛かり、その場に放置されるケースもある。それに、必ずしも良質ではない木の場合は、建築材の資材などとしては選ばれずに行き場を失うのです。

森のサイクルがしっかりと循環していない背景を知ったことがきっかけだったんですね。

 そういう話を間伐業者さんから聞き「デザイナーとして何かできることがあるのでは」と思えたんですよね。このバッグを制作するにあたって、高尾の認可林業の方に「余った間伐材があれば譲っていただけませんか?一緒に八王子芸術祭で何かをやりませんか?」とお声がけしたらとても喜んでくれて。結果的に今回は、樹齢50年の杉の木を受け取りました。

「CLEAN HIKES, GREEN PEAKS MT. TAKAO」のバッグ

 50年というサイクルにも意味があります。というのも、戦後の日本は家を建てたり、木材を豊富に提供するために人工林を森に植えていったのが大体50年前なんですよね。現在は、植林された人工林が育ちすぎてしまって、林業の人も間伐が追いついていないそうなんです。高尾は天然林の方が多いのですが、高尾に限らず、各地で間伐は取り組まれています。ただ、循環できるスキームがないので、なかなかアイテムを作るところまでいかなかったみたいです。

篠原さんが、デザイナーとして一番大事にしている信念はなんですか?

 「手を動かし作り続けること」かな。私がずっと製作活動を続けられているのは、針を布に刺した時の感触を心地よいと思い続けられているからだと思うんです。話は少し脱線するかもしれないんですが、私は40歳のタイミングで一度仕事をリセットして、かつて通っていた文化学園大学で学び直しをしました。10代の多感な時期にも同じ学校に通っていたわけなんですが、40代で改めて学校に通い出した時に完全に手が縫い方を覚えていたんです。何かを作るたびに「懐かしい!」という感覚が完全にあった。その時に、10代、20代の自分に心から感謝したんです。「夢中になってくれて、ありがとう」って。だから、その時の自分が手に入れてくれた「身体に染み込んだ感覚」「感触」は信じているし、手を動かしてものを作り続けているからこそだなと思っています。

最後に母校である文化学園大学に通う学生に向けてメッセージをお願いします。

 エイミーも私も、自分のルーツの中から今の創作を導いたと思っています。ぜひ皆さんも、自分らしさの根源を見つけ出して、あなたにしか発想し得ないオリジナルの表現や、取り組みに挑戦してください。この学校は、爆発的なアイデアを受け止めてくれる懐の深い学校だと思うので、何も臆することなく、自分を信じて。そして、みなさんの中からエイミーのように社会を突き動かすようなデザイナーやクリエイターが誕生することを願っています。

(聞き手:古堅明日香)


■ファッション・リイマジン

(C)2022 Fashion Reimagined Ltd

公開日:2023年9月22日(金)
出演:エイミー・パウニー、クロエ・マークス、ペドロ・オテギ
監督:ベッキー・ハトナー
上映時間:100分
公式サイト

■「CLEAN HIKES, GREEN PEAKS MT. TAKAO」のバッグ配布
期間:2023年9月26日(火)〜2023年10月4日(水) ※10月2日を除く
時間:10:00〜16:00
会場:東京都高尾ビジターセンター(高尾山山頂)
公式サイト

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