第11話からつづく——
「タケオキクチ(TAKEO KIKUCHI)」から身を引き、新たに立ち上げたブランド「40CARATS&525」に専念して約8年。閉塞感が漂う時代に対し、原動力となるエネルギーを注ぐため、2012年に菊池武夫が再びタケオキクチのクリエティブディレクターに復帰した。デザインディレクターとして起用した福薗英貴とともに新体制を築き、新店舗、ランウェイショーと、クリエイティブな感性を遺憾なく発揮していく。——「タケオキクチ」のデザイナー菊池武夫が半生を振り返る、連載「ふくびと」第12話
約8年の時を経て
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自分は「40CARATS&525」に専念し、「タケオキクチ」の方は若い世代で思う存分にやってもらいたい。僕は、マーケットの中でのブランドの立ち位置を常に意識していたので、自分の中で感じていた感覚のズレを見逃すことはできませんでした。なのでスパッと退いて、タケオキクチには一切口出しをしないと決めました。
ただ、しばらくすると「タケ先生はこう思うんじゃないか」といった声を発端に、社内のいざこざが目につくようになった。僕がいる時と同じように仕事をする人と、僕のことを知らない若手と、意見が食い違うようになったのかと思います。組織の世代交代もあり、僕を知らない世代が増えるのは当たり前のこと。ショップに行っても、僕だと気づかない若い店員もいるし、お客さんもそうでしょう。でも、そういったことが原因でチームがまとまらないという状況は、予想していなかったのです。

新体制でクリエイティブ・ディレクターに再就任
ブランドのこと、そしてそれを作った人間のことを、改めて理解してもらう必要があると思いました。アイデンティティーというものを取り戻すべきだと。そんなことから、タケオキクチへの復帰を決意したのです。73歳の時でした。
メンズファッションの業界自体もカジュアル化の波で大きく変わり、過渡期を迎えていた時期。僕がブランドを離れてから、信國くんはテーラードの新しいスタイルをたくさん提案してくれましたね。センスや感覚が鋭く、タケオキクチにフレッシュな感性を取り込んでくれたのは間違いない。その彼の仕事を引き継いでもらうために、デザイン・ディレクターとして新たに起用したのが福薗英貴くんです。彼もまた、これまで辿ってきたテーラードの変遷を汲みつつ、時代に即して再解釈してくれました。
13年ぶりのランウェイショー
2012年、新体制でタケオキクチが再始動し、すべてのディレクションを統括するようになりました。まず手掛けた大仕事は、原宿の明治通りの旗艦店オープン。そして3年後には、東京でショーを開催。実に13年ぶりのことです。

ショー会場のバックステージにて

タケオキクチ 2015年秋冬コレクション

タケオキクチ 2015年秋冬コレクション
ブランクはありましたが、自分が好きなもの、やりたいことはずっと変わらないのだなと、改めて感じましたね。ファッション人生のモットーであるリアリティーと、無国籍のスタイル、正統派ではない着こなし、そしてストリートカルチャー。これらをショーで表現することは苦しいほど大変ですが、やっぱり僕にとって一番楽しいことなんだと気付きました。——第13話(最終話)に続く
TAKEO KIKUCHI アーカイヴ集

2015年のショーに登場したビッグバッグ。ペイントはバリー・ケイマン(Barry Kamen)が手掛けた。

ショーで使われたハット

ショーに使われたクラウン

バリー・ケイマンによるペイントが施されたコート
【毎日更新】最終話「ファッションを生業に60年『やり切ったと思ったことはない』」は3月10日に公開します。
文:一井智香子 / 編集:小湊千恵美
企画・制作:FASHIONSNAP
【連載ふくびと】デザイナー 菊池武夫 全13話
第1話—大病と戦争 「生きる喜び」を知る
第2話—生涯の友と将来の道を見つけた場所
第3話—型紙の服作りを習ったことがない
第4話—伝説的ショップ「カプセル」に出品
第5話—世界一周 モードの都で浴びた洗礼
第6話—リアルクローズを追求 「ビギ」始動
第7話—ブルース・リーも着た「メンズビギ」
第8話—パリで前例のない挑戦 葛藤と焦り
第9話—電撃移籍 「タケオキクチ」の幕開け
第10話—最高潮だった気分が急降下、姿を消す
第11話—浅野忠信を起用 短編映画で起死回生
第12話—73歳、意を決してカムバック
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