菊池武夫のアトリエ
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第3話からつづく——
1963年に文化学院で出会い公私ともにパートナーだった、稲葉賀惠と結婚。2人でアトリエを開くことを決めた。注文服やテレビコマーシャルの衣装など、あらゆる仕事を請け負い、がむしゃらに働く。初めての海外旅行の機会を得て、2ヶ月にわたる世界一周の旅へ。危ない経験をしながらも、見るものすべてを吸収していった。——「タケオキクチ」のデザイナー菊池武夫が半生を振り返る、連載「ふくびと」第4話
夫婦でアトリエ がむしゃらに服作り
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2人が食っていくためには、とにかくお金を稼がないといけない。麻布十番の自宅兼アトリエで、注文服の仕事を始めました。最初は知人やかつての仕事関係のツテを頼って顧客を増やし、人脈形成に奮闘。とにかく色々な仕事を請負っていくうちに、徐々に注文が増えてきて、その頃は1年間で2年分の仕事量をこなしていたような気がします。徹夜は当たり前。がむしゃらでしたが、今振り返ればトータルで7年間のアトリエ時代は楽しかったですね。
コマーシャル用の衣装、写真家や雑誌から依頼された服作りなども、どんどん引き受けました。当時のメーカーは、キャンペーン広告に合わせて衣装を作るのが主流。資生堂の新商品のキャンペーンのポスター(1968年「ナチュラルグロウ」)や、東レの新素材キャンペーンに合わせたショーの衣装など。縫い子さんを雇い、友人にも支えられながら、数多くの創作活動から得たものは大きかったと思います。
伝説的ショップ「カプセル」に出店
20代の終わり頃、僕の作品を気に入ってくれた西武百貨店から興味深いオファーが届きました。渋谷店(現・西武渋谷店)に若手デザイナーの作品を集めた「カプセル」というコーナーを作るので、そこに出品して欲しいという依頼です。
カプセルは今で言うセレクトショップの前身で、売り場のデザインも斬新でした。若い才能に光を当て、その後のDCブランドブームの先駆けとなったのではないかと思います。アイビーファッション全盛だった日本のファッション界に一石を投じ、話題を呼びました。
出品メンバーには、新進気鋭のデザイナーで当時まだ著名になる前の山本寛斎くんも名を連ねていました。僕と寛斎くんは、モノづくりの考え方が正反対なのが面白い。僕はアトリエで注文服を作っていたのもあって、どちらかというとリアリティ。でも寛斎くんは創造性が飛び抜けていましたから。一緒にカプセル主催のショーに出た時には大反響だったのを覚えています。この経験を得て、リアルな服を作るという考え方はそのままに、自分たちの意思と発想で自由に作りたいという思いが沸々と湧いてくるのを感じました。
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アトリエ時代 裁ちばさみを手に
世界のファッションを見てみたい
1969年、30歳になった僕は世界一周の一人旅に出ることに決めました。いつか世界のファッションを見てみたい。そんな話を銀座の洋品店の社長にしていたら、ありがたいことに旅費を支援してもらえることになりました。自分で蓄えた30万円くらいと、合わせて70万円弱を握りしめて、初めての海外に旅立ったのです。
ヨーロッパからアメリカにわたり、最終目的地のハワイまで。当時はまだ、個人の海外旅行は一般的ではない時代でした。今思い返すと、よく無事に行ってこれたなと思うばかりです。
最初に降り立ったのはデンマーク。着いた日の夜、早速ホテルを出て街並みを見ようと歩いていたら、若いカップルに声をかけられました。興味本位で2人についていくと、到着したのは薄暗い地下のような場所で、それはそれは怪しい雰囲気。そこが何の場所だったのか、正直わかりません。一瞬、背筋が凍ったものの、なんとか帰ってこれました。冷静に考えたら真冬の北欧で夜に一人でフラフラ出歩くなんて、危機感が無さすぎる。初日からそんな感じだったので、そのあとの道中で驚くことはあまりありませんでした。——第5話に続く
TAKEO KIKUCHI アーカイヴ集
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タケオキクチから派生し、1986年に展開を開始したカジュアルライン「MAUL RUCK」
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ヒッコリー生地のジャケット
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ラグビー用語を引用したブランド名から、革パッチにはラグビーボールがデザインされている
【毎日更新】第5話「世界一周 モードの都で浴びた洗礼」は3月2日に公開します。
文:一井智香子 / 編集:小湊千恵美
企画・制作:FASHIONSNAP
【連載ふくびと】デザイナー 菊池武夫 全13話
第1話—大病と戦争 「生きる喜び」を知る
第2話—生涯の友と将来の道を見つけた場所
第3話—型紙の服作りを習ったことがない
第4話—伝説的ショップ「カプセル」に出品
第5話—世界一周 モードの都で浴びた洗礼
第6話—リアルクローズを追求 「ビギ」始動
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