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【連載ふくびと】第1話 菊池武夫——大病と戦争 「生きる喜び」を知る

菊池武夫

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【連載ふくびと】第1話 菊池武夫——大病と戦争 「生きる喜び」を知る

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 2024年5月に85歳を迎えたデザイナー菊池武夫。注文服の制作でキャリアをスタートさせ、31歳で立ち上げた「メンズビギ(MEN’S BIGI)」はメンズファッションの黎明期だった日本にセンセーションを巻き起こした。リアルクローズの礎となった「タケオ キクチ(TAKEO KIKUCHI)」は1984年に発表。今なお現役で活躍し、日常にアンテナを張り巡らせながらクリエイティビティを発揮している。

 "タケ先生"と幅広い世代から慕われる、日本を代表するメンズデザイナーの半生にはどんなドラマがあったのか。生い立ちから学生時代、アトリエ時代、そして仲間とともにブランドを立ち上げてからこれまで歩んできた軌跡を、菊池の言葉と共に連載「ふくびと」全13話を通じて辿る。

第1話——第二次世界大戦が勃発する寸前の1939年5月25日、東京都千代田区の裕福な家庭に生まれた菊池武夫。12人兄弟姉妹の第6子として何一つ不自由のない生活を送っていた矢先、戦火が東京を襲い始め、さらに5歳の頃に生死を彷徨う大病を患った。死に直面した経験が、その後の人生観に大きな影響を及ぼすことになる。人一倍負けず嫌いな性格で、少し変わった一面も。兄の影響から、ジャズ音楽や絵画、写真といった、大人の趣味に傾倒していく。

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日本で2例目のペニシリンで救われた命

 当時の自分を思い起こせば、周りよりも大人びた少年だったんじゃないかと思います。全部で12人の兄弟姉妹のうち姉と妹を生後すぐに亡くし、10人兄弟で僕は上から6番目の三男坊。大家族なので、絆というよりは面倒なことが多くありましたが、不思議と喧嘩はほとんどなかったように記憶しています。

母方の祖母とともに

母方の祖母とともに

 父は政治の世界にはじまり色々な事業をしていて、見た目は少し怖かったけれど優しい人でした。服装が独特で、当時あまり流通していなかった輸入物をよく着ていたんです。仕事柄、多方面に知り合いがいたからかもしれません。ロシアの民族衣装の一つであるルバシカや、ある時は真っ白のブレザーを着ていたり。珍しいなと思って見ていましたね。

父の愛車「ビュイック」のフェンダーに乗せられて

父の愛車「ビュイック」のフェンダーに乗せられて

 幼少期は第二次世界大戦の真っ最中でした。そんな中、5歳になる直前に、庭で遊んでいたら誤って木から落ちてしまった。脇腹を強く打ったことが原因か、胸腔に膿が溜まる大病にかかってしまったんです。一時は生死を彷徨う状態で、自宅で手術をすることになりました。おそらく父のツテだと思いますが、ペニシリンを使った治療はこの時の僕が日本で2例目だったそうです。それでも医者に「7歳まで生きられたら幸運」と言われていました。

 家族は疎開せずに自宅で過ごし、東京大空襲の時には焼夷弾が庭に2発も落ちてきて、とても怖かったことを覚えています。東京中が火事になり、まわりが焼け野原のような状況の中、術後で寝たきりの僕を家族が庭の奥の山に作った防空壕に運んでくれました。

 1945年の夏、ようやく体が回復してきた頃と同時期に終戦を迎え、それがとにかく嬉しかった。「何があろうと生きている実感に叶うものはない」と痛感する、強烈な体験でした。

庭に隠れて小学校をサボる

 性格は明るく、友達もたくさんいました。ニックネームは「青(あお)」。病気をしたせいで顔色が悪かったからかもしれません。好きだったのは写真や音楽。将来は写真家になりたいと思っていたくらいです。すぐ上の兄の影響で、ジャズ音楽にもハマっていきました。

 絵を描くのも好きでした。鉛筆1本で、写真のように細かく描写するのが僕のスタイル。両親は体の弱かった僕に絵描きになることを勧めましたが、絵は好きだけど生業にしようとは思いませんでした。なぜならゴッホもモディリアーニも、画家は非業の最期を迎えるというイメージが強すぎて。死を覚悟するなんてとんでもないと、敏感に感じていたのでしょう。

背後に飾られているのはアーティスト谷敷謙による作品。実際に着用していたテキスタイルで制作されている。

 小学校高学年の頃から、ちょっとした不登校になりました。通っていた暁星小学校の場所は、自宅の真裏。兄と正門まで一緒に通学し、隣接する中学校に兄が入っていくのを見計らって、一目散にUターンして自宅の庭の物置に隠れる。そして学校が終わる時間になったら、何事もなかったかのように外に出て家に帰るのです。

 学校が嫌いなわけではなかったんですけどね。たくさんの友達がいつも家に遊びに来ていたから学校に行く必要を感じなかったのか、単なるワガママか。皆と同じことをやらされるのが、体が弱いことへの劣等感を感じて苦痛だったという理由もあると思います。何しろ負けず嫌いな性分でしたから。

 自分の性格を改めて知ったのは、小学生の頃に九州にある父の田舎に帰った時。従兄弟たちとメンコ争奪戦をして大勝したんです。彼らのメンコを全部持って帰っちゃったら、かなり恨まれましたね。つい2年前、その従兄弟から届いた手紙にも、まだその時のことが書かれていましたから(笑)。集中するとのめり込むところや、欲張りな性格は、この頃から変わっていないのかもしれません。——第2話につづく

TAKEO KIKUCHI アーカイヴ集

1980年代 タケオキクチ初期のポタリープリントシャツ

このシャツは2024年に「THE FLAGSHIP」レーベルから復刻発売された

【毎日更新】第2話「生涯の友と将来の道を見つけた場所」は2月27日に公開します。

文:一井智香子 / 編集:小湊千恵美
企画・制作:FASHIONSNAP

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