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ポッドキャストは「ファッション」の話が最も活気付く場所になり得るか

「奇奇怪怪」TaiTanに聞く

ポッドキャストは「ファッション」の話が最も活気付く場所になり得るか

「奇奇怪怪」TaiTanに聞く

 ポッドキャスト番組「奇奇怪怪」や「流通空論」のパーソナリティを務める、ラッパーでクリエイティブディレクターのTaiTan。幅広いリスナーからカルト的人気を集める同氏の音声コンテンツには、雑誌「スタディ(STUDY)」の編集長長畑宏明や「アトモス(atmos)」創設者の本明秀文といったファッション業界人も登場する。

 ジャンルや肩書を横断したゲストやテーマに自身の言葉で切り込み続ける同氏の語りは、無意識的なラベリングを剥がし、世の中の事象をフラットに捉え直そうとする姿勢が感じられる。SNSの発達とともに、過剰に周りの目を気にし、視覚的な情報に踊らされるようになった今日。表層的なインプレッション稼ぎに奔走するのではなく、ファッションをしっかり言葉にする場を増やすことはできないのだろうか?音声メディアの可能性を探る。

TaiTan
Dos Monosのラッパー。クリエイティブディレクターとしても活動し、¥0の雑誌『magazineⅱ』やテレビ東京停波帯ジャック番組『蓋』、音を出さなければ全商品盗めるショップ『盗』、SHUREとの共同開発スニーカー「IGNITE」などを手掛ける。Podcast『奇奇怪怪』やTBSラジオ『脳盗』ではパーソナリティもつとめる。Instagram

視覚的じゃないからこそ語れるかもしれない「ファッション」

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⎯⎯ 最近の「品品団地(奇奇怪怪の有料版コンテンツ)」で長畑さんと対談したことを経て、奇怪でも「もっとファッションの話をしてもいいかも」という発言がありました。これまで話してこなかった理由は?

 元々ファッションに興味がないわけではなく、服も人並みに買っている方だとは思います。これまでもポッドキャストで映画や音楽、街や時事について喋るのと同列にファッションについてのテーマで収録しようと思えばできたのかもしれませんが、でもなんだか喋りづらさを感じて。それは、どうしても“階層性”が発生する領域であるから、と無意識に感じていたのかもしれません。

 だから、フラットに番組の文脈の中で面白がるみたいなことが、俺らのトーンだとややムズいなと。それこそ(玉置)周啓*くんなんか、あまり服に興味がない気がするし。

*玉置周啓:MONO NO AWAREのボーカル・ギター。TaiTanと共に「奇奇怪怪」「脳盗」のパーソナリティを務める。

 そういうこともあって、「今どのブランドが面白い」とか「クリエイティブディレクターがどう」といった話ってあまり盛り上がらないだろうなあというなんとなくの判断がありました。

⎯⎯ ファッションを取り扱う音声コンテンツは、ファッションメディアやエディターなど「専門」の話者によるものが多かった印象もあります。

 でも、長畑さんと話していて、「もうちょっと業界の外様の人間がラフに話した方が、むしろ意外とみんな面白がってくれるんだろうな」と感じました。番組でも先日「どんなブランドが好きですか?」というアンケートを取ったら、100件以上のコメントが一気について。中には全然知らないブランドの名前もたくさんありました。実は需要があるのかもしれません。

⎯⎯ ファッションを「語る」人はX(旧Twitter)といったテキスト、「見る・探す」人はInstagramやTikTokといった画像や動画メインのメディアを活用していますが、いずれも情報の消費速度の高まりを感じます。一方でポッドキャストはバズが期待できない分、静かにコミュニティが育つというか。

 ポッドキャストの特長って、構造的には誰しもがアクセス可能なメディアではあるんだけど、そこで話されていることは「可視化されない」ので、どうしてもコミュニティとしてはクローズドになることだと考えています。“開かれているのに閉じている”アンビバレント性があると思うんですよね。それに、「バズ」というものはヴィジュアリティにかなり依存するからこそ、不可視なものってバズりようがない。でもそれは逆に言うと、心理的安全性が担保されているような良さがありますね。

⎯⎯ 視覚情報がないからこそ、話を聞いて興味を持ったリスナーが「能動的に不足情報を調べる」という動きが発生する点も、ファッションに限らずハイコンテクストなカルチャーと相性がいいのかもしれません。

 YouTubeで「ファッション」を扱うとどうしても、基本的に“着こなし論”的な世界線に回収されていく気がするんですよね。だけどそうじゃなくて、もっとブランドの文脈的なものを話したり楽しみたい人にとっては、ポッドキャストのように必要以上に広がりすぎないが、閉じ切ってもいないメディアが向いているのかもしれませんね。

⎯⎯ 先日発表された老舗オーディオ機器(マイク)ブランド「シュア(SHURE)」と制作した“ポッドキャスターのためのスニーカー”はどのように誕生したのでしょうか。

 シュアから「ポッドキャストの領域を盛り上げて欲しい」という相談をいただいて。はじめはポッドキャスト作りのハウツーを紹介する番組を依頼されていたんですが、それだと僕らのファンや、すでにある程度ポッドキャストに興味がある人しかアクセスしてくれないと思って、もっと色々な人を巻き込める意外性のあるアイデアの方が僕自身もワクワクするので「マイクブランドのスニーカーという企画」を逆提案しました。

「SHURE」のオリジナルスニーカー「IGNITE the Podcasters」

⎯⎯ 歩くことでスクラッチされたスニーカーのソールから、高性能マイクと交換できるシリアルナンバーが現れる仕組みです。

 僕自身が番組を作る上ですごく大切にしていることに、「面白い話は移動量に比例する」という考えがあります。面白い話ができる人は、自分の足でいろんな場所に行ったり人に会ったり動き回っている人だと思うので、僕がポッドキャストを盛り上げたり番組を増やすことを目標にするなら「人を移動させまくればいいんじゃないか」と考え、人が歩くほどにインセンティブが生まれる仕組みを作ろうと。それで、結果的に「歩くだけで高性能マイクがもらえるスニーカー」という企画に着地しました。

⎯⎯ 説明を聞かないと意図が理解しきれないという点で、ポッドキャストに通じるような“視覚情報で完結しない伝達スピードの遅さ”も感じました。

 本当は0秒で伝わるのがいい企画だと思うんですけどね(笑)。でも、今回はヴィジュアル勝負で一発バズ狙いの”デカ盛りパフェ”のようなプロジェクトではないので、伝達スピードが遅くても、背景を知った上で面白がってくれる人にはしっかりと届く企画なのではないかなと思っています。

 それに、シュアの方達もすごく思慮深くて、最初から「無理してバズらなくていいです」というスタンスで。広く遍くではなく、企画の意図を能動的に理解しようとするような人がポッドキャストの世界に入ってきてくれた方が、健康的な環境が築けるという考え方を持っていました。

2月5日まで開催していたIGNITE the Podcastersのポップアップ店内

⎯⎯ 過去には“音を立てなければ商品(Tシャツ)を盗める店”なども話題を集めました。スニーカーをはじめとする「ファッションアイテム」を景品に設定することにも狙いがあるんでしょうか?

 例えば「スニーカー」ってとても魔性的というか。欲望される対象としてすごくキャッチーなアイコンだと思うんです。そしてその力は、ポッドキャストという不可視なものを扱っている人間としては、有効に働くだろうなという直感はありました。ポッドキャストって超わかりにくいし、ヴィジュアルを伴わないメディアなので、「何をやっているかよくわからない」と思っている人も多いと思います。が、今回はポッドキャスト領域外の人たちにも興味を持ってもらう必要があったので、その意味でかなり強引ですが視覚的な入り口を広げるために効果的なのかなと。そうした魔性的な特長を持ちながらも、今回のように「歩く」を骨子にした企画においては、生活に身近なものでもある必要があったのでスニーカーというプロダクトは最適だと判断しました。


「世の中のサンプリングで成り立っている“サンプリングマン”なんです」

⎯⎯ 奇怪怪や脳盗のリスナーたちのコメントを見ていると、「モヤモヤしていたことを言語化してくれる」といった感想をよく聞きます。正直で嘘のない言葉を話す時、怖さや不安はないですか?

 全然ありますよ。だから最近リスナーの規模が増えてきて喋りづらくなってきた(笑)。常に薄氷の上を歩く感覚はあります。でも、「より多くの人に届ける」ことと同じ、あるいはそれ以上に、「この辺りの人には情報を届かせない」というコントロールをする筋力のようなものが発信者に求められているのではないかという気がしていて。その“筋肉”の鍛え方さえ間違えなければ、意図と違ったふうに取られることもないんじゃないかなという感覚がある。

⎯⎯ その筋肉はどうやって鍛えるんですか?

 例えば、ある事象について喋る時、「この話をこの切り口で話したら、こういった価値観や立場の人はどうやって受け取るんだろう」というのを想像するとか。相手側の心理をちゃんと勉強しておくってことでしょうか。当然自分の意見はあるけれども、俺とは違う属性の人はこういう意見を当然持つだろうっていう、属性別の傾向のようなものにちゃんと追いついておくことは大事だと思います。

⎯⎯ 「相手側の心理」については常々リサーチされている?

 あえて調べるというよりは、自然と目に入ってくる他者の意見はその背景の心理を想像する癖はついている気がします。例えばSNSで炎上しているものを分析するとか。

⎯⎯ 「分析する」という姿勢は、ポッドキャストのトークテーマや内容にも通じている気がします。

 「すごいな」と思う事象に出くわすと、「構造を分析したくなる」というか、それがどうして発生したのか掘り下げたいタイプではあります。そしてあわよくば自分の制作プロセスに組み込みたい。

 僕みたいなスタイルの人間って、基本的に世の中からのサンプリングでしか成り立っていないんですよ。別に僕はデザインができるわけでも、映像を作れるわけでも、服が作れるわけでもないから、なぜそれをやると面白いのかのロジックそのものをつくることしかできない。

 例えば今回、シュアへスニーカーを提案するときによく例に挙げたのはタイヤメーカーの「ミシュランタイヤ」がなぜ「ミシュランガイド」を作っているのか、という話です。ミシュランガイドは、タイヤメーカーが世界中のうまいレストランをマッピングしているわけですが、そのロジックには「うまいメシ屋を知ったら、人は移動したくなる」、だから「車のタイヤが売れるんだ」という、2回の論理飛躍があるわけです。こういう説明を尽くして「マイクブランドがスニーカーを作るのもありえるかもね」と思ってもらえるようにコミュニケーションをとっていきました。

 だから全く新しいものを作っているわけではなく、いろいろな事例をサンプリングして企画を作っているというか。要は“サンプリングマン”なんです。寝る寸前まで何か面白いことがないか探しているし、常に頭の中にいろいろな情報を入れておきたいんですよね。

⎯⎯ その原動力は?

 普通にかっこいいものやユーモアが好きだから、そういうものが自分の身の回りに溢れていて欲しいという、単純で、おそらく多くの人が持っている感覚と同じ動機だと思います。啓蒙主義的な気持ちもあまりなくて、面白いものが身の回りに増えて欲しいから、面白いと思えるものを作りたいんです。その結果、どこかの誰かが自分にも何かできるかもと思ってもらえるなら、とても嬉しいし、そうした連鎖はとても望んでいます。でも原初的な動機としては、「これやったら面白そう」というある種の“わがまま”に説得力を持たせるロジックを組み立てるために、いろいろ思案しているような気がします。

⎯⎯ ちなみにTaiTanさんは嫉妬をすることはあるんですか?

 「これ自分がやりたかったな」と思うことはたくさんありますが、それが“嫉妬”なのかというとよくわからないですね。嫉妬に近い感情はいくらでも覚えていますけど、すごいものには単純に「すげー」という感情しかなくて、そこをただ羨むというより「真似したい」から、「構造を分析する」という方向に思考が向きがちですね。だから奇奇怪怪みたいな番組をやっているんだと思います。「あれ面白いよなー」って話ばっかりしている気がするので。もし本当に「嫉妬心」があったら、そういうことさえ言わない気がするんだよなぁ。

⎯⎯ では、「好き」「嫌い」の感覚はあるんでしょうか

 原理的には「好き嫌い」も本当にない気がします。この世で嫌いなものは「大江戸線」と「きゅうり」だけ(笑)。それ以外は大体全てのものに興味は持てる。ポッドキャストでギャーギャーいうことはめちゃくちゃありますけど、それって嫌いとはまたちょっと違う。ただ意見を言っているというか、面白がっているだけというか。

⎯⎯ 「大江戸線」と「きゅうり」というのは…?

 今回「みんなを歩かせるため」にスニーカーを作ったように、僕自身もめちゃめちゃ歩きます。よく取材で話しているんですけど、この間は赤坂から下北沢まで歩いたり。それこそFASHIONSNAPのポッドキャストも歩きながらよく聴いています。そして移動時には「電車は乗り継がない」「大江戸線に乗らない」という2つのルールがあって(笑)。大江戸線みたいに地下の深い駅まで降りるくらいなら、その時間で一駅分くらい歩けるなと思うし。だから、この際宣言しますが、大江戸線には乗りません!地下は息苦しいですしね。あとは、乗り換えの時間も煩わしいので、乗り換えるくらいならできる限り歩きます。きゅうりは単純に不味いんで好きじゃないです(笑)。

⎯⎯ (笑)。明確にご自身の意見を発信しても、受け入れられるのは根本的な攻撃性の無さにあるかもしれません。

 攻撃性がないかというと怪しいもんですが(笑)。また確かに、ただ感情をぶつけるのではなくて「適切に言葉にしようと試みている男」みたいな感じなのかもしれません。その滑稽さを含めて面白がってもらえたら嬉しいですね。

◾️IGNITE the Podcasters
歩くだけで高性能マイクが手に入る、限定5足のスニーカー
応募期間:2025年1月20日(月)〜2月11日(火)
応募フォーム

edit&text:Chikako Hashimoto
photographer:Ippei Saito

FASHIONSNAP 編集記者

橋本知佳子

Chikako Hashimoto

東京都出身。映画「下妻物語」、雑誌「装苑」「Zipper」の影響でファッションやものづくりに関心を持ち、美術大学でテキスタイルを専攻。大手印刷会社の企画職を経て、2023年に株式会社レコオーランドに入社。若手クリエイターの発掘、トレンド発信などのコンテンツ制作に携わる。

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