ファッションライターsushiが独自の視点で、定番アイテムの裏に隠れた“B面的名品”について語るコラム連載「sushiのB面コラム」。今月は春夏シーズンのコーディネートにアクセントを添える「トゥアレグ(Tuareg)」からタッセルネックレスを紹介。
連載を一回分休んでいる間にすっかり春めいた気候になった。前回の記事では分厚いウールブランケット生地で作られるオルテガのフリンジケープを紹介するような季節だったのに、この記事の初稿を書いている4月半ば時点の今日、僕の住む名古屋の最高気温は28度だった。毎回記事で取り上げるアイテムを決める際には連載の担当者といくつか候補のネタ出しをするのだが、何も考えずにカシミヤのアイテムを候補にあげてしまい「時期がずれている」と指摘を受けた。
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僕は春夏派か秋冬派かと聞かれれば圧倒的に秋冬派である。冬が好きというよりは、暑い季節が苦手で、汗をかくのが嫌いだったり、日焼けが苦手だったり、ケチを付ければ色々あるのだが、一番の理由としては「暑いと着る服がない」からだ。少々雑な言い方になってしまったが、暑さは服を脱いで緩和するにも限界があるし、汗をかけば洋服が汚れたり劣化したりする。そうなってくるとおのずと身につけるものは自然と、洗濯がしやすく、扱いが楽で動きやすい物になってくるし、気付くと毎日Tシャツに短パンのような捻りのない格好になっている。その遊びの幅の無さがあまり好きではなかった。
とは言いながらも、東アジアにある日本の気候は一年の半分近くが半袖で過ごせるような気温であり、春と秋という中間的な季節の時期はどんどん影薄くなっている。そんなこの国で生きていながらに、ただただ春夏のファッションをあきらめるということは、すなわち一年のうち半分もの期間を好きでもない中途半端な格好で過ごさないといけないということになる。もちろんのこと、自分を含め多くの洋服好きはそんなことには耐えられないので、いかにしてこれからの季節のファッションを楽しむのかという術を持っておくべきである。その中で、僕が春夏のファッションの中で一つの楽しみにしているのが「アクセサリーに凝ること」なのだが、今回は自分が直近で買い足したアクセサリーの中から「トゥアレグ(Tuareg)」のタッセルネックレスを紹介したい。
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トゥアレグ族のアクセサリー自体については最早この場で特別な説明が必要ない程度には認知を得ているものと思うが、トゥアレグ族はアフリカ大陸のサハラ砂漠で生活をする遊牧民族で、藍染めの衣装を纏っていることから「青の民族」としても知られる。手掘りの銀装飾を伝統工芸として伝承して繁栄したトゥアレグの民が作るジュエリーは、一つとして同じものは存在しない表情の豊かさが魅力で、王道どころで言えばバングルやリング等のアイテムが人気だ。1997年には泣く子も黙るビッグメゾンである「エルメス(HERMÈS)」が大々的にアフリカンカルチャーをフィーチャーしたコレクションを発表。トゥアレグ族とコラボしたアイテムは今でもヴィンテージエルメスのコレクターの間で支持され続けている。他にもデザインのバリエーションが豊富なペンダントチャームなどの流通が多いが、今回紹介するタッセルネックレスは市場での流通量も多くない、隠れた逸品だ。
このタッセルネックレスの最大の魅力は、その意匠のインパクトの強さである。トゥアレグのアクセサリーはその美しい彫りによって見た目の華やかさが演出されているものの、ペンダントトップやリング、バングルなどに関してはどちらかと言えば小ぶりで華奢な躯体に装飾が施されているものが多く、繊細に手元や首元を彩ってくれるものが主流である。一方でこのタッセルネックレスは、装飾が施された特大のシルバービーズが三連でコンビネーションになっており、それをサブラシルクと呼ばれるリュウゼツランの繊維から作られるベジタブルシルクの糸で編まれた極太のロープでつなぎ合わせたボリューミーなデザイン。個人的に「シルバーアクセサリーはでかければでかいほどかっこいい」と思っている自分にとって、王道のトゥアレグジュエリーとは一線を画した“ブリンブリン”なカッコよさがある。全体的に彫られた文様は本来の繊細さを感じられるそれらしさもあり、アイテム自体のインパクトと装飾の美しさがうまく調和したモダンなジュエリーだ。
そのインパクトの強さとは裏腹に、このネックレスのもう一つの魅力は、その実用性の高さにある。
僕は個人的にジュエリーを付けるときには両腕にブレスレットを巻いたり、リングも基本的には複数の指に、時にはネックレスを重ね付けしたりと、かなり主張強めにスタイリングに取り入れるのを好む。そういった使い方が前提となる中で、ジュエリーを選ぶときに最も重要視しているのが、単体でパワーがありつつも他のジュエリーと調和がとれるデザインか、という点だ。
シンプルにパワーのあるアイテムというのは、スタイリング上でそれ単体での味がかなり濃く出てしまい、その一点に頼り切ったスタイリングになってしまうことなどが多い。そのため、他の手持ちのジュエリーとの重ね付けや洋服との調和を前提としながらも、なるべくパンチの効いたものとなると「これだ」と思える一点に出会える確率は相当に低い。が、このタッセルネックレスの強いインパクトとモダンな繊細さの調和は他にはない優れたバランスで、それ単体でも映えるだけでなく、僕が愛用するヴィンテージのメキシカンシルバーやエルメスのジュエリー、インディアンジュエリーなどとも仲良くできる超優等生でもあるのだ。
バックグラウンドの異なるジュエリーはデザイン手法や制作方法が大きく異なるため、異なる複数のジャンルのものを合わせるというのはかなり難しいと思うのだが、例えばモダンで美しいエルメスのジュエリーと、武骨なインディアンジュエリーを合わせるときの懸け橋として、このモダンな美しさと民族的な文脈のパワーを併せ持つタッセルネックレスを取り入れてみたり、そういったスタイリングに幅を持たせてくれる実用性も非常に魅力的なのだ。スタイリング上の文脈やテイストを統一するというのもまとまりがあってよいものだが、異なる2つのテイストをうまく調和させることができると、一気にスタイリングの幅が広がり、これまでと違った方向性のファッションに挑戦できるようになったりする。そういった自分のファッションの新しい引き出しを開ける手助けもしてくれる、僕にとってこのタッセルネックレスはそんな心強いアイテムでもあるのだ。
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こういったネックレスやブレスレットなどのジュエリーやアクセサリーが最も魅力を発揮するのは、洋服の布面積が小さくなり、スタイリングの構成要素がシンプルになりがちな春夏の時期であると思うし、そういうアイテムをワードローブに増やすのに持って来いの季節だと思う。秋冬は秋冬で重ね着をしたり、帽子や手袋、ブーツなどを組み合わせて複雑なスタイリングを組む楽しさがあるが、アウターやニット類などの厚手なトップス、レザー製品など冬物は基本的に値段が張るので小物類にまで予算を割くことができなかったりもする。だからこそ春夏にこそ小物類に投資をし、自らのワードローブの完成度の底上げを狙う、そういった春夏の楽しみ方をしている。別にジュエリーにこだわらなくとも、例えばアイウェアや通年使えるボトムス類など、そういった夏冬問わず通年使える小物のバリエーションを増やしながらスタイリングの広がりを楽しみつつ、蓄えた小物類で秋冬のファッションをさらに楽しむ。そういった前向きなテーマ設定で春夏ファッションのマンネリ化からの脱却を目指す、というのはいかがだろうか?と春夏のファッションに悩む読者の方がいれば提案したい。
15歳で不登校になるものの、ファッションとの出会いで人生が変貌し社会復帰。2018年に大学を卒業後、不動産デベロッパーに入社。商業施設の開発に携わる傍、副業制度を利用し2020年よりフリーランスのファッションライターとしても活動。noteマガジン「落ちていた寿司」でも執筆活動中。
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