サルバムが新たに構えたパリのアトリエ
Image by: sulvam
藤田哲平が手掛ける「サルバム(sulvam)」が2022年1月末、フランス法人立ち上げ、パリに新たな拠点となるアトリエを構えた。場所は中心地であるパリ3区で、アートギャラリーやファッションブランドのアトリエが立ち並ぶ好立地だ。1月のパリメンズファッションウィーク期間中では、新拠点に関係者を招き、2022-23年秋冬のプレゼンテーションを行った。
ブランドを立ち上げて8年、2015年からパリで展示会を開き、パリメンズファッションウィークでコレクションを発表するサルバム。パリコレへ参加している日本ブランドの多くは、フランス法人を立ち上げずともビジネスを続けている場合が大半で、現地法人の設立は稀なこと。なぜサルバムは法人を立ち上げたのか?藤田デザイナーに狙いや今後の計画について話を聞いた。
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パリに拠点を構えた理由
サルバムは14年にブランドを立ち上げた後、第1回「東京ファッションアワード 2015」を受賞。「ジョンローレンス サリバン(JOHN LAWRENCE SULLIVAN)」「ファセッタズム(FACETASM)」などの5ブランドともにパリで展示会を開く支援を受け、合同ショールーム「showroom.tokyo」に出展した。その後も海外への挑戦は目覚ましく、イタリア・フィレンツェのメンズの見本市ピッティ・イマージネ・ウオモ(Pitti Immagine Uomo)やミラノメンズファッションウィークでショーを行い、18年にはパリでのコレクション発表を開始した。
フランス法人の立ち上げ理由について藤田は「ここ数年はパリで展示会を開くために、展示会場をレンタルしてきたが、決まった期間でしか場所を使用できない不便さを感じていた。ショーを行う際の事前準備やモデルのオーディションなど、作業する場所が必要。今後も継続的にパリで挑戦していくならば、その都度場所を借りるのではなく、拠点を構えたいと考えるようになった」と話す。
フランスでビジネスをする覚悟
サルバムのビジネスは軌道に乗っている。現在の卸先は国内25アカウント、海外23アカウント。国内外の取り扱い先の件数に大差はないが、買い付け量などのビジネス状況は国内が8割、海外は2割の規模だという。日本では伊勢丹新宿店リ・スタイル(Restyle)やエディション(EDITION)、ステュディオス(STUDIOUS)など、海外ではイギリスのブラウンズ(Browns)やLN-CC、マシーンA(MACHINE-A)、エッセンス(SSENSE)などで取り扱いがある。21年には自社のオンラインストアを本格的にオープンし、国内外への発送に対応し始めた。
「海外マーケットは毎シーズン、安定的に成長している。ただ欧米では俺よりも若い世代のデザイナーたちが活躍している状況の中、サルバムは『日本の若手ブランド』という印象を持たれ続けている。このままでは、10年後も『日本のブランドが来た』と言われるはずだ。ちゃんと実力で評価を得るには、フランスに会社を持ち、現地でビジネスを行い、税金を払うことが必要だと感じた」と藤田。また「フランス法人化をすることで、(コングロマリット傘下のブランドが多く参加する)ファッションウィークのマネーゲームに踊らされずに、現地にコミットすることで、フェダレーション(オートクチュール・プレタポルテ連合協会)の信頼を得ることが大事だと思う」と続ける。
4ヶ月でスピーディに行ったフランス法人化
昨夏コロナ禍でパリに空き物件が増えたという情報を聞いた藤田は、2021年10月に渡仏して物件探しをはじめた。現地へはブランドのセールスを担当する1729AGENCYの戸村直広と、コーディネーター兼通訳としてモデルのベン(Be Natural所属)が同行。弁護士とともに法人化の手続きや不動産との契約を進め、22年1月末に登記が完了。物件探しから4ヶ月という早さで、現地法人を立ち上げ、拠点となるパリのアトリエも構えた。
「本当にタイミングがよかった。コロナの状況の変化で10月は物件が空いていたが、1月に現地に戻るとテナントが埋まり出し、地価も上がっていた」といい、「同行してもらった2人の力も大きい。これまでモデルとして仕事をお願いしてきたベンはフランス語が話せるため、今回はコーディネーター兼通訳として依頼した。セールスのトム(戸村直広)は英語もでき、少人数でも法人化や賃貸契約の手続きはスピーディに行えた」と振り返る。
パリに新たに構えたサルバムのアトリエ
Image by: sulvam
パリ拠点のブティック化構想
藤田は2年以内に、パリのアトリエの一部をオーダーメイドを行うブティックにしていく計画だ。パリでは長年現地で縫製士として経験を積んだ社員を1人採用。「フランスの現地の人たちは服をたくさん購入するのではなく、1着を長く大切にする傾向がある。オーダーメイドの文化も強いため、サルバムではまずシャツやネクタイのオーダーメイドから開始し、服を仕立てていく。既製服を販売するだけのショップとは異なる形で、地元に根付いた店舗にしていきたい」。
今後、藤田は1年の半分を東京で、もう半分をパリを拠点に活動していきたいという。「パリは大好きな街で、勝負をする場所。フランス法人化はブランドのステップアップであり、問題解決でもあった。サルバムの目標は、服で人々が豊かにすること。将来的に継続していくためのベースが整ってきた」と語った。
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