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“ありそうでなかった”一足5000円 年間10億円を売り上げる冬用サンダル「SUBU」、躍進の陰に攻めのマーケティング

“ありそうでなかった”一足5000円 年間10億円を売り上げる冬用サンダル「SUBU」、躍進の陰に攻めのマーケティング

 冬用サンダルを展開する「スブ(SUBU)」が好調だ。着脱が楽で、秋から春まで長く使える冬用サンダルは、各社が展開し始めているアイテムだが、スブが誕生した2016年頃にはその市場はまだ開拓されていなかったという。他社とは異なり、冬用サンダル一本で市場を切り開いてきたスブ。スブのディレクター兼デザイナーの府川俊彦氏は「冬用サンダルを謳っているので、夏の売り上げはほぼ0。謂わば、“逆・海の家状態”」とブランドを形容する。チャレンジングなビジネスモデルでありながらも、企業が成長する過程で直面する「10億円の壁」を超え、2021年から2023年までの3年間は、年間売り上げ10億円をキープ。2030年までに年間20億円の売り上げを目指していることからもその好調さがうかがえる。

日本発の「スブ」、“ありそうでなかった”が一足5000円

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 「スブ」というドイツ語のような音の響きと、欧米圏では家でも靴を履いたままのことから、国外のブランドだと思っていた人も多いかもしれないが、スブは「イデアポート」が運営する日本発のブランド。実店舗は構えておらず、直売はオンラインストアのみで、卸先は全部で600店舗。内350店舗が国内で、それ以外は海外約30ヶ国での取り引きが占める。

国外でも特に人気を博しているのが、韓国、イギリス、アメリカだという

 スブは、当時イデアポート入社4年目だった府川氏が立ち上げ。ブランド立ち上げ当初の2016年から軌道に乗るまで3年間は、デザイン、ディレクション、営業、カタログ制作に至るまで全て1人でまかなっていたという。府川氏は「会社としてはずっと反対されていましたね。サイズもあるし、季節ものだし。リスクしかないですから」と当時を振り返る。

 府川氏はなぜ、「冬用サンダル」という特殊なコンセプトで勝負を挑んだのか。そこには、府川氏の個人的な実体験が強く反映されている。

「休日や仕事終わり、シャワーを浴びて家でくつろいでいる時に、コンビニに行きたくなったり、夜中に突然友達に誘われて外に出ることってあるじゃないですか。その時に『普通のサンダルだと寒いし、だからと言ってもう一度、スニーカーを履いて出かける』という行為が嫌だったんです。家のカーペットの上にいる感覚でずっといたいな、と思ったのが作り始めたきっかけです」(府川氏)。

 府川氏は「仕事でもプライベートでも、肩肘を張ってものを考えたクリエイションよりも、リラックスした時間の方が良いものが生まれる。人生はリラックスしている方が良い」と続ける。スブという名前が「スッと履けるブーツ」の略称であることからも、府川氏のこの考えがうかがえる。

 実際に購入者に話を聞くと「電子レンジや冷蔵庫のように、一家で一足買ってみんなで履いている」という声も挙がり、“ファッションとしての日用品”というありそうでなかったポジショニングを築きはじめている。商社など仲介を挟まないないことからコストがかさまず、一足5280円からという手に取りやすい価格帯も魅力の一つだ。

サイジングは6サイズのみ。1か2であれば、男女兼用で履くことが可能だ。

 スブ、最大の特徴はダウンのような暖かさと、4層構造のインソールが素足に吸い付くようななんとも言えない優しい履き心地にある。インソールは、お椀型のアウトソールに低反発ウレタン、高反発ウレタン、EVA素材、硬質EVA素材を組み合わせており、いまだに毎年マイナーアップデートを加えられている。そのため年々履き心地は良くなっているそうだ。

アッパーに4つの仕切りがあることで、保湿、保温されている状態が続く。インソールは、府川が鞄のデザイナー経験があることからどちらかと言えば縫製知識から生み出された。接着剤などは用いていない。

転換期の2019年〜2020年、攻めのマーケティング開始

 スブはブランド5年目にあたる2020年に一度売り上げを落としている。ただこれは決して不調だったわけではなく、意図した戦略があったためだ。この年、それまでに定番色として発売していたカーキやグレーなどのシンプルな色を排除。ショッキングイエローやレッドなど、個性的なカラーのみを展開した。府川氏は当時を次のように振り返る。

「2016年からの4年間で取引先も広がってきたこともあり、2019年には4億円の年間売り上げを達成しました。嬉しい一方で、シンプルなカラーリングと、広がった取引先を見て『これは飽和するな』と思ってしまって。シンプルなカラーリングというだけで、みなさん在庫を積んでくださるんですけど、僕は適正在庫が知りたかった。一時のバブルになってしまうのが怖かったんです。なので、あえて奇抜な色だけを揃えたコレクションを2019年に展開しました」(府川氏)。

スブの2019年コレクション

 結果的に、売り切れる店舗と在庫を残す店舗に二極化。次年度に当たる2020年は、このデータを基に取引先を絞り、その上でもう一度シンプルなデザインを提案するとともに、毎年変わるデザイン性に富んだアイテムを展開。その結果、昨対比で200%の伸長を見せた。

スブの2020年コレクション

 世間一般的に、スブという名前を見聞きすることが増えたのはここ2〜3年の話だろう。大きな要因として挙げられるのは、アウトドアチックなデザインから、素材や色味がよりデザイン性に優れているものが多く発売されるようになったことだ。きっかけは、先にあるインソールに挙げられるようなプロダクトの追求にあったという。

「中のクッションが何ミリの方が履き心地が良い、という風にクオリティを追い求めていたんですが、ある日『これを何のためにやってんだろう』と思ったんです。でも、それはある一定の機能を突き詰めて『これ以上はいけないな』と悟ったということでもあります。ブランドとして、プロダクトに自信も出てきたのなら、じゃあ次はデザイン性を求めてみようか、と」(府川氏)。

 それまでの購入層の7割が男性だったことから、府川氏は女性にターゲットを絞り始めた。コレクションルックやヴィジュアルに起用する女性モデルを増やし、デザイン面でもベロアやスパンコールを用いたデザイン性に富んだものを発売。プロモーションの方針転換が功を奏し、購買層は男性5割女性5割のバランスを保っている。デザイン性が評価され、2021年には「MoMA Design Store」とのコラボアイテムを発売。MoMA Design Storeコラボを発端に、近年ではブランドのコラボも増えてきたが、スブからコラボレーションを持ちかけることはしておらず、慎重にコラボ先を精査しているという。現在でも9割程度はコラボ依頼を断っているそうだ。

「ブランドとして合うか、合わないかももちろん考えますが、僕やうちのスタッフで出来そうなことは、わざわざコラボで実現しなくても良いかなと思うんです」(府川氏)。

MoMA Design Storeとのコラボアイテム

「サンディー・リアン(Sandy Liang)」とのコラボアイテム

荒井一帆と高林司が手掛ける「エフエーエフ(FAF)」とのコラボアイテム。このほかに、「ナンガ(NANGA)」「10 CORSOCOMO」「サベージ(SUB-AGE)」などとのコラボアイテムを発売している。

最初に別注コラボを行ったのはコラボした「ビームス(BEAMS)」。

府川氏「ビームスの熱いバイヤーさんが、デビュー1年目の時に展示会に足を運んでくださって。『こういう誰も知らないブランドを有名にするのがセレクトの仕事なので、やらせてください』とお声がけいただきました」

靴というプロダクトに捉われない、次の展望

 府川氏は大きな展望として「靴というプロダクトに捉われないものづくりをしたい」と語る。

「実現するかしないかは置いといて、広く“リラックス”という概念の上に立つものづくりを続けたいです。例えば、車のSUBUエディション。シートがスブのインソールや起毛加工を取り入れてい、車中泊のしやすいふかふかなシートを作るなどは面白そうだなと思っています」

 スブは、2030年までに年間20億円の売り上げを目指す。

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