ストライプインターナショナル新社長の川部将士氏
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「アース ミュージック&エコロジー」などを手掛けるストライプインターナショナルが新体制で始動する。同社は、2月1日付で住友商事出身の川部将士氏が新社長に就任する人事を発表。ファンド傘下でどのような改革を進めていくのか。川部新社長に50歳で決心した商社マンからの卒業、ストライプインターナショナルの社長就任に至るまでの背景、そして新生ストライプの道筋を聞いた。
■川部将士
1972年生まれ。1995年に一橋大学卒業後、同年に住友商事に入社。財務や経理部門などを経て、2008年にバーニーズ ジャパンに出向した。2012年に同社取締役、2014年には同社CFO取締役最高財務責任者に昇格。2016年2月に住商ブランドマネジメント取締役社長補佐を経て、同社代表取締役社長に就任。その後、2018年9月にドイツ・シュニール織のブランド「フェイラー(FEILER)」を日本で手掛けるフェイラージャパン代表取締役社長に着任。若年層の取り込みに成功するなど、約4年間にわたり事業に貢献した。2022年9月末にフェイラージャパン代表取締役社長を退任し住友商事に帰任したが、11月末に退社。同年12月からストライプインターナショナルの顧問として勤務している。2月1日より代表取締役社長兼CEOに着任。
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商社マンからストライプ社長に転職 新たな挑戦の裏側
―ストライプインターナショナルの社長職を引き受けるに至った経緯は?
私は住友商事に新卒で入社しまして、28年在籍したうちの24年間、小売ビジネスをやってきました。そういう意味では商社らしくないキャリアを歩んできたと言えると思います。
昨年50歳を迎えたのですが、(住友商事100%子会社の)フェイラージャパンの社長から異動の辞令が出され、商社マンとして歩むのか、小売として歩むのか、キャリアを見つめ直した時に、バーニーズ ジャパンで共にした(当時元バーニーズ ジャパン代表取締役社長の)上田谷(真一)さんのことを思い出したんです。当時、僕はCFOとして、上田谷さんは社長としてバーニーズ ジャパンの経営に関わったのですが、上田谷さんが経営を仕事としてやられているのが僕の中での目標のようになったんですよね。その後、実際にフェイラージャパンで社長を経験しましたが、フェイラーでの仕事もとても楽しかったんです。引き続き小売企業のトップとして経営を仕事にしていきたいと思い、商社マンの道に戻らず、昨年11月に住友商事を退職しました。
その後就職活動を進めていく中で、ストライプインターナショナルへ出資したプライベートエクイティファンド運営会社ティーキャピタルパートナーズともすぐにコンタクトを取りました。ティーキャピタルパートナーズは住友商事とバーニーズに出資した実績があったので、様々に情報交換をしていくなかで、僕が今まで経験してきたことを生かせるのではないかと思うようになり、ストライプ側からも打診をしていただいたので、この度社長職を引き受けることにしました。
―50歳の節目に新しい挑戦となったんですね。
住友商事の看板を背負わずに自分にもできるのではないかという思いはあったので、やはりそれを試してみたい。メジャーリーグに行くような、そんな気持ちかもしれません。ストライプとしても大きな変化ですから、その分責任も大きいと感じています。
―ストライプのどんなところに強みや魅力を感じていますか?
まず一つは、「アース ミュージック&エコロジー」の知名度の高さはすごく強みだと思っています。足元の商況は良いとは言えませんが、やはりみんな知っているというのはすごく大きい。トレンドを取り込みながら、手頃な価格で商品を供給できるという点も魅力です。そしてサステナブルなサプライチェーンも他にはない要素だと思っています。
―逆に喫緊の課題はなんでしょう。
マーケティングの方は、以前は石川さんがリーダーシップを持って取り組んできた領域でしたが、石川さんが退かれて以降少し弱くなっている印象です。僕自身がマーケティングブランディングをずっとキャリアとしてやってきたことですし、OMO戦略にもつながってくる部分でもあるので、ぜひ強化していきたいですね。各ブランドでSNSはやっていますが、それをより体系化させていくことで本当の意味でのOMOになっていくはずなので、できるだけ早く効果を上げていきたいと思います。
ブランドポートフォリオ見直し アースはリブランディングも視野に
―業績はコロナ禍で大きく落ち込んでいます。
コロナ禍以降はかなり苦戦していて、2022年度(2021年2月〜2022年1月)グループ連結売上は1000億円を割ってしまいましたが、今期(2022年2月〜2023年1月)は1004億円の着地を見込み、営業利益も黒字転換の見通しです。
―現在好調なブランドは?
「アメリカンホリック」と「グリーン パークス」ですね。アメリカンホリックは年商200億円規模、グリーンパークスは240億円規模に成長しています。あとは子会社のキャン(※)も売り上げを支えてくれています。
※キャンの展開ブランド:「サマンサモスモス(Samansa Mos2)」「エヘカソポ(ehka sopo)」「テチチ(Te chichi)」「べティーズブルー(BETTY'S BLUE)」など
アメリカンホリック
―一方で、アース ミュージック&エコロジーは閉店が相次ぐなど低迷しています。
こちらは年商では百数十億円程度に縮小してしまっています。僕自身が入社してからまだ1ヶ月ほどなので解像度は上がりきっていませんが、何かリブランディングのようなことをやっていかないといけないのかなと現状思っています。これまで進めてきた閉店もブランドの見直しの一環です。まずは足元を固めつつ、今後については現場の人も含めて話しながら理解を深めて考えていこうと思います。
―好調のグリーン パークスと、苦戦しているアース ミュージック&エコロジー。それぞれ明確な違いはあるのでしょうか。
いずれも買いやすい価格帯ではありますが、アース ミュージック&エコロジーは基本的に一つのテイストに絞った商品展開しているのに対し、グリーン パークスではいろいろなテイストを揃えているという点に違いがあると思います。
―市場環境についてはどのように捉えていますか?
一般論として、低価格ビジネスは難しくなってきています。為替の問題もありますから。我々は比較的買いやすい価格帯のブランドが主力になっているのですが、その点はポートフォリオを見直し、バランスを取ることが必要だと思います。少し感度が高くて価格帯的にももう少し上げていけるようなブランドを新たに追加するのか、リポジショニングするのか。M&Aという選択肢もあるとは思います。
―中価格帯に関しても、厳しい市場環境と言われています。
そうですね。時代的にも多様化してきていますから。そういった意味で言うと、マス向けに大きな売り上げを狙っていくのはなかなか難しいと思っています。
―ブランドの終了を予定しているものはありますか?
今のところないですね。
―今後注力していくブランドは?
アメリカンホリック、グリーン パークスとキャンの展開ブランドは収益の柱になっているので、引き続きしっかりやっていきます。しかし先ほどの通り、ポートフォリオのバランスを良くしていきたいので、そういう意味では今までにないようなブランドや、まだ弊社の中では規模の小さい「メゾンドフルール(Maison de FLEUR)」や「イェッカヴェッカ(YECCA VECCA)」はさらに成長させていかなくてはいけないとも感じています。
―メゾンドフルールやイェッカヴェッカにある共通項とは?
根強いファンがいるということに加えて、主要ブランドと比べるともう2回りほど価格が高いので、収益化しやすくなっています。
―ファッションサブスク「メチャカリ」の進捗を教えてください。
メチャカリはすごく順調にきています。収益化してきていますし、直近1年間平均の顧客継続率は約93%と高水準で推移しています。
―レンタルサービスは競合も沢山出てきています。
他社はコーディネートサービスが入っているので、お客様が自由にアイテムを選べないという風にも考えられますが、メチャカリでは選べる。それが定着率にもつながっていると考えています。さらに我々は自分たちで商品を作っているので、商品供給に制約がない。お客様が商品を選んで取り寄せることができる、というのが強みだと捉えています。
「オーナー企業」から「社員一人ひとりが自立した会社」に
―入社されて1ヶ月強が経ったとのことですが、社員の皆さんの印象は?
皆さん、すごく真摯に仕事に向き合っていて好印象ですよ。店舗の方も毎週末回ったりしましたが、販売スタッフの皆さんもとても頑張っている。人手不足の問題はやはりあるので、そこはなんとかしてあげたいという思いがあります。
―販売職のキャリアパスは業界としても課題の一つになっています。
キャリアパスとしてどういったものが選択肢にあるのか、ちゃんと示してあげないといけないと思っています。OMOを進めながら新しいキャリアパスを明確にして、みんなが「ここを目指したい」と思える制度も取り入れていきたいですね。
―川部社長はバックオフィスの経験も豊富です。これまでの経験をストライプでどのように活かせると考えていますか?
会社が変わろうとする時、次の成長ステージに進もうとする時に、バックオフィス系の基盤がしっかりしているということはすごく大切なことだと思うんですよね。仕事を頑張ったけれども、その成果がどう評価されているのかわからないような人事制度では、なかなか力を発揮しにくい。そこは僕が一通りわかるので、これまでのキャリアを活かしていけるかなと考えています。
―ストライプの出資には創業者の石川康晴さんも深く関わっています。
そうですね。石川さんにはストライプインターナショナルの持ち株会社へ出資いただいています。あくまでも投資家ですので、弊社の経営に石川さんが関わることはありません。
―石川さんとはコミュニケーションを取られましたか?
入社前にお話ししました。どういう思いでブランドや企業を大きくしてきたのかという話は伺いたかったので、入社の際の心構えの参考になりました。
―社長就任にあたり、石川さんからメッセージはありましたか?
僕自身が言うのも変な話ですが、「いい人にきていただいたと思います」といったようなことはおっしゃっていただき、ほっとしました(笑)。
―ちなみに入社前のストライプにはどのような印象を持たれていたんですか?
2012〜13年くらいにバーニーズで初めて人事を担当したのですが、小売業の人事として色々な課題を感じるなかで、当時のストライプは女性の働き方にかなり力を入れて取り組まれていたのが印象に残っています。それこそメディアに石川さんやストライプの社員の方のインタビューが載っていると一生懸命読んでいましたね。
―石川さんはかねてより上場を目指していました。
ファンドの方から上場を目指してほしいとは明確には言われていませんが、それは僕にあまりプレッシャーをかけないように配慮していただいているのかなと勝手に想像しています。僕としては、何か目的があるから上場するということだと思うので、その目的をクリアにしてからちゃんと見極めたいと思っています。ただ一方で、投資家から魅力的に映って、いつでも上場できるくらいの会社であるというのは大事なことです。企業価値を上げていくというのが僕の仕事なので、方向性としては同じだと思います。
―川部社長が思う「魅力ある会社」とはなんでしょう。
「成長性」「収益性」「安定性」「社会性」、この4つを兼ね備えている会社が、魅力ある会社だと思います。
―この先のファッションの小売業界についてはどのように見据えていますか?
どうでしょうね......世の中全体であらゆるモノが“コンテンツ化”しているような気がしていますよね。単にモノを売るのではなくて、エンターテインメント性みたいなもので売っている。どんなデザイナーがデザインした服なのか、ということだけでモノの価値をはかるのは正直難しくなってくると思っていて。その服を着て何をするのか、お客様の暮らしに寄り添った商品を提供できるかが、アパレルビジネスに今まで以上に求められるような気がしてます。もう一つは、日々忙しく過ごす方々に、服を通じて楽しむ瞬間や勇気を与えられるような作り手の思いも必要かなと思います。
―川部さんにとって「ファッション」とはどんな言葉で表せますでしょうか。
大学では社会学部を選んだのですが、それは人や世の中が変化していく様にすごく興味があったからなんです。その変化に一番対応していかないといけないのがファッションビジネス。つまり、僕の興味がある、人や社会の変化の延長線上にあるのがアパレルということです。そういう意味ではファッションは興味が一番尽きないことでもあるし、いつまでも追いかけていたい対象としてファッションを捉えてます。
―最後に改めて、ストライプインターナショナルの社長就任への意気込みをお聞かせください。
僕に課せられた一番大きな役割は、オーナー企業ではなくなったストライプを社員一人ひとりが自立した会社にしていくことが大きなテーマだと受け止めています。経営においては「長く続く会社になること」がすごく大事だと思っていて。100年続く会社になるために、従業員の皆さんが自立して自ら考えて行動する組織にしていくこと。それが働いている皆さんのキャリアアップにもなっていくはずです。
いまの世の中は変化が激しいですし、右肩上がりの時代ではないので、過去の成功体験はあまり役に立たないんですよね。みんなが何かにチャレンンジして、その中から正解を見つけていくことでしか、会社も答えが見つけられない時代になっています。そういった意味でも、一人ひとりが自立していろんなことにチャレンジして答えを探していく組織にもうならざるを得ないのかなと。ストライプも若い社員も含めて皆さん優秀なので、期待していきたいと思います。
(聞き手:伊藤真帆)
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