
(左から)大月壮士、麥田俊一
Image by: FASHIONSNAP
今年、デビューから5年の大月壮士が手掛ける「ソウシオオツキ(SOSHIOTSUKI)」。LVMHプライズ2016のショートリストに日本人最年少でノミネートされ、昨年は東京都が支援する「Tokyo新人デザイナーファッション大賞」のプロ部門に入賞するなど、着実に評価を上げている。90年代から30年以上にわたって国内外のコレクション取材を続けるファッションジャーナリストの麥田俊一は、彼のクリエイションをどう見ているのか?ソウシオオツキのこれまでとこれからを通じて覗く、作り手と書き手、それぞれの視座。
大月壮士
1990年千葉県生まれ。2011年文化服装学院アパレルデザイン科メンズデザインコース卒。卒業後、プライベートスクール「ここのがっこう」に通い、山縣良和と坂部三樹郎に師事。2015年AWよりメンズウェアレーベル「ソウシオオツキ(SOSHIOTSUKI)」を立ち上げる。LVMHプライズ2016のショートリストに日本人最年少でノミネート。2019年度 Tokyo新人デザイナーファッション大賞プロ部門入賞。
麥田俊一
1963年7月神奈川県横浜市生まれ。1988年玉川学園大学文学部外国語学科フランス語専攻卒。 服飾業界紙記者、ファッション誌編集長、ファッションディレクターを経て、2012年株式会社澁太吉事務所設立。 1990年代よりパリ、ミラノ、NYC、東京各都市のコレクション取材及びファッションデザイナーへのインタビュー取材を続け新聞、雑誌に記事を執筆。 現在「QUOTATION FASHION ISSUE」ファッションディレクター。
心動かされた"激しさ"宿る服
F:お二人の出会いから教えてください。
麥田:出会いはよく覚えていませんが、強烈だったのはヒカリエでやった東京ニューエイジのファッションショー。黒いテーラードに花を刺していたシーズンで印象的でした。
大月:2016-17年秋冬コレクションですね。
麥田:あの時の東京ニューエイジは「アキコアオキ(AKIKOAOKI)」と「コトハヨコザワ(kotohayokozawa)」の前評判が良く、私の記憶だと「ソウシオオツキ」は下馬評で下のイメージでした。ただ、ショーを見るとあのメンバーの中で一番面白く、最も印象に残った。それから存在を認めるようになりましたね。





























F:大月さんにとって、麥田さんはどんな存在ですか?
大月:東コレが開催される度に、意見が気になる一人ですね。自分が何かコレクションを見た時に、じゃあ麥田さんはどう思ってるんだろうと頭をよぎり、つい記事を読んでしまいます。
F: 逆に、麥田さんはどういう存在として見ていますか?
麥田:例えが悪いですが、「ソウシオオツキ」は泥水の中に寝っ転がってずっと動かないといった図太さ、ふてぶしさがある。一方で、泥水を浮力にしてスクッと立ち上がって不敵な笑みをみせるような激しさもある。そういう激しさが服を作ることと関係しているんじゃないかって思うと、彼の考えていることを覗き見したくなるんですよ。私は他人の内側に土足で入っていくような下衆根性を大事にしているんですが、その対象になり得る一人かなという気がしています。
F:90年代から国内外でファッションショーやファッションデザイナーの取材を続けている麥田さんにとって、惹かれるものの共通点は?
麥田:簡単にいうと、私の心が動かされるかどうか。綺麗なものでも、グロテスクなものでも、未完成のものでも、何でもいいんです。文章を使った描写は二の次で、とにかく理解したくなる服。そんな服を目の当たりにすると、どうしても作る側の内的なものや気構えとかが気になってしまいます。

日本人の精神性とテーラーのテクニックによって作るダンディズムの提案
F:ソウシオオツキのブランド哲学は「日本人の精神性とテーラーのテクニックによって作るダンディズムの提案」。そもそもどのようにこのコンセプトに行き着いたのですか?
大月:元々自分の生活や体験をインスピレーション源にするんですが、学生の時に毎日満員電車に乗っていて、押した押してないみたいな駆け引きが日本人の嫌な部分を表してるなと感じて、当時はそれをコンセプトに服を作っていました。いざブランドを始めるとなって、最初は「鬱屈した精神」とかも考えたのですが、もう少し幅を持たせたくて「日本人の精神性」という言葉になりました。
麥田:男でも女でもない服、いわゆるユニセックスという言葉が使われ始めて久しいですけど、私は好きではありません。結果的に男性服を女の人が着ても良いかもしれませんが、男の服・女の服を作っているという大前提に立つのが一番自然なのではないか。彼は男の服でスタートして、和魂洋才のインテリジェンスを日本のテーラリングに合致させようみたいな根っこの部分をずっと曲げてないところも魅力だと思いますね。
F:どんなプロセスでデザインしているんですか?
大月:シーズンが終わってからの半年間の出来事で感じたことが次のテーマになります。例えば今だと、千葉にアトリエがあって都内へ行ったり来たりで時間のロスが多いので、とにかく引っ越したいと思っているんです。それで戸建ての家を探しているうちにその家に住む人間を考えたり、あと「クレヨンしんちゃん」や「テラスハウス」を同時期にたまたま見ていたり、自然と「家」がキーワードになっています。
F:「クレヨンしんちゃん」や「テラスハウス」の先には何があるんですか?新しい人間像の想像でしょうか?
大月:うまく言えないですが、日本のお父さん・・・?(笑)まだどうなるかわかりませんが。

F:麥田さんはコレクションを見る時、テーマに着目しますか?
麥田:それなりにですね。前回のテーマ「愛月徹灯(あいげつてっとう)」は、「月を愛して灯を撤す」とも読めるんですよ。たまたまその言葉を知ってたからなんですが、こういうのは引っかかるし、知らないものだと調べたくなる。そういう意味で、テーマはないがしろにできないものではあります。もちろん、なんとなく付けたであろうよく分からないものはそのまま素通りしてしまいますが。











大月:僕はテーマやコンセプトはかなり重要だと思っていて。「ソウシオオツキ」の場合、最近はテーマに漢字を使っていますが、そういう言葉たちがオーラになって「ソウシオオツキ」というブランドのイメージを作り上げていると思います。例えば、紐でしばる服って世の中にいっぱいありますが、紐のシャツを買うにしても「ソウシオオツキ」の紐だから和っぽいとか、言葉や概念を纏うようなこともあるんじゃないかなと。
麥田:彼の面白いところはシーズンやテーマが変わろうが、彼の中でずっと通奏低音のように流れているものが服の中で響いていることで。強い主張ではないけれど、ずっと匂いとして残っているというか。

デビューから5年を振り返って
F:デビューから5年。手応えのあったシーズンや、体制の変化など、振り返ってみてどうですか?
大月:コレクションに関しては、毎シーズン更新はできていると思っています。体制については、最初から何も変わってないですね。ずっと一人でパターンも引いていて、最近ちょっと工場に出すようになったくらいで。売上的な意味では、2019年春夏シーズン以降から変わり始めました。
F:2019年春夏シーズンは何か変わったきっかけがあったのですか?
大月:意識的にプロモーションしたというのもありますし、そのシーズンから写真家の山谷佑介さんにルック撮影をお願いしはじめ、パッケージも変わりリアクションも良くなりました。
F:麥田さんは連載「モードノオト」で、"一皮剥けた前回(2019-20年秋冬シーズン)が面白かった"と書いていましたね。
麥田:そうだったかな(笑)。ただ実際、面白くない時もありましたよ。私としては、彼が軍服にシフトしていた時、思い入れをもって作っている服にも関わらず、ボタン一つの質感や匂いが、全体の世界観にそぐわないというか、ちょっと安っぽいんじゃないかなと思ったりね。
大月:2018-19秋冬ですね。














麥田:そう、それはそれでブランドとしての体力とか、お金のかけ方のさじ加減もあるとは思うんだけど。ただここ数シーズンで、彼の中の熱いものが服の出来や匂いに追いついてきたという気がしてならない。服を売ってくれるお店やスタッフの方って、そういう成長を敏感に肌で感じるものだと思います。それがお客さんに伝わって、結果的に売上に繋がったのかなと。
F:今シーズンは多くのセレクトショップでフルコレクションの取り扱いがスタートしたそうですね。
大月:取り扱いがあるお店にはなるべく一度はご挨拶へ伺えるようにしているんですが、商品の納品書に手書きの説明書のようなものを同封して、お店の人に共有するようにしていますね。あとショップの方と話していて興味深かったのは、「この人から買いたい」というお客さんの声があるということで。ネットで便利に何でも買える時代だからこそ、どこで、誰から買うかが重要みたいです。あるお店では、発送の梱包の際に香りをつけたり、手紙を入れたりしているそうで。そういう時代に、僕の服は一着一着のストーリーも説明しやすいというのもあって、相性は良いのかなと思っています。
F:麥田さんはセレクトショップの在り方について思うことはありますか?
麥田:そもそも私は最近あまり服を買っていないんです。だからだいぶ前の話になりますが、90年代のセレクトショップは一番尖った服を売っていた。当時はお店の販売員がファッションの現場の花形で、みんなの憧れでした。お客さんがお店に入りづらい雰囲気をわざと作るブランドもあって、私もヨウジヤマモトのお店(80年代)に初めて入る時はすごく緊張したのを覚えています。普通の意見になりますが、今はお店側も儲けないといけないし、そのためにはお店の色に合った売れる服を揃えなければと、私なんかが言う以上に考えを持っていると思う。その中で、「ソウシオオツキ」を取り扱うお店が増えたということは、興味深いですね。
大月:僕はここ半年、麥田さんとは逆ですごく買い物をするようになりましたよ。
麥田:言葉が少なかったけど、私は"服"は買わないだけで、"衣料品"は買いますよ。今日着ているフリースも、ユニクロで最近買ったものです。
大月:服と衣料品の違いって何ですか?
麥田:それは一番大切なことで、簡単に言うと作っている人の顔が見えるか見えないか。癖や匂いが強いほど服になるし、薄まれば衣料品になる。
F:麥田さんの取材の対象は"服"ですよね?
麥田:そうですね。極端な話、「リトゥンアフターワーズ(writtenafterwards)」と「無印良品」だったら、どっちが服か衣料品か、誰が見ても分かるでしょう?
大月:リトゥンは、服かどうかも分からないときがありましたからね(笑)。
writtenafterwards 2009-10秋冬コレクション


麥田:だって、以前は紙だったから。紙だから悪いんじゃなくて、紙だから良かったんだけど。ただやはり「ぼくは0点」が衣料品ではない最たる例ではないかと。かなり偏ってるかもしれませんが、私はこういう見方で良いのではないかと、確信に近いものが出来上がったのはリトゥンのあのショーを見てからです。そういう気持ちが強くなっていくと、私が見る必要がないものを簡単に捨てられるようになりました。どうしてこの服が売れるのかとかビジネス的なことは、私は取材しなくて良いんじゃないかと。全てを引き受けるみたいなことは、私にはできないから。
「もっと自分の中のエゴを煮詰めて」
麥田:そもそも「男らしさ」とか「モードな服を作りたい」と言っているけれど、"モード"って何なの?私はあんまり"モード"という言葉を使わないから。
大月:僕にとってのモードは、コミュニティな気がしています。これといった正解があるわけじゃないですが、極論「ドーバー ストリート マーケット(DOVER STREET MARKET)」に入っていたらモードじゃないですか?僕がモードと言っているのは、ブランディングを考える上で、モードなものとモードじゃないものの線引きをして、僕がモードだと感じるものと付き合っていきたいということです。
麥田:モードという言葉じゃなくても良いんじゃない?モードと言うと、イメージが上滑りしてしまう。
大月:僕にとってはモードは核みたいなイメージで。
麥田:うーん。コアの一つ"だった"ものかな。いまはもう...。ファッションはイメージの世界だからこそ難しく、いまここにいる皆が同じファッションとモードを共有しているわけじゃない。そういう曖昧模糊としたものですよ。でも「モードな服を作りたいんです」と言われてしまうと、「もっと自分の中のエゴを煮詰めて」としか私は言えなくなる。
大月:難しいですよね。その人のエゴがマーケットに合っていればいいですけど。
麥田:言い訳をつけると、エゴと言っても端から見たらそんなにとんでもないエゴじゃない。50年に1人の大天才もいるけど、そのレベルって早々出てこないから。だから、それくらいエゴは出さないと、らしさが見えてこないと思う。

F:5年後、10年後のブランドの理想像は?
大月:5年とは言わず、2年後にはセールスで海外に出たいです。10年後には、海外でショーをやっていたいですね。
麥田:海外でファッションショーをやると、自分の良いところと足りないところが良くわかると思う。続けるためにはお金が必要で、ビジネスとも向き合わなければいけなくなるわけで。
F:そのために今やっていることは?
大月:今は資金を貯めているところです。なので大きな販路拡大をする気はないです。ちょっと現実的な話すぎて申し訳ないですが(笑)。
F:「Tokyo新人デザイナーファッション大賞」のサポートを受けたことでブランドの成長に繋がった?
大月:面談用の資料作りで、現状把握や目標などがとてもクリアになりました。それと、僕は一人でブランドをやっているので、相談相手が増えたのは良かったし、気持ち的にも安心感があります。
F:麥田さんから何かアドバイスありますか?
麥田:ないですね(笑)。私はモードじゃないところでやってほしい、それだけなんだよなぁ。
大月:僕の言うモードと麥田さんの言うモードは違いますから(笑)。ユニクロのフリース(衣料品)を着ている麥田さんもモードだと思います。でも、排他的であることはモードの条件の一つですよね。
麥田:そうだね。排他性やヒエラルキーはファッションにおいてすごく大切なところだと思う。今世の中がフラットになっているという意見が散見されますが、デザイナー自身のモチベーションもフラットになったり、みんなお金持ちになっちゃうとつまらない。貧乏なデザイナーがいるから、ファッションって面白くなると思っています。差別されたり、嫌がられたり、怒られたり、人並みなことができない人たちだからこそ、お金持ちとか一般の人たちに負けたくないって気持ちが生まれるわけで。
大月:そうですね。基本的にコンプレックスからファッションは生まれると僕も思っています。
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