コロナウィルスによってデジタル化したコレクションはファッション業界にどんな影響を与えたのか。有力セレクトショップのビームス、バーニーズ、エストネーションのディレクターやバイヤーに、デジタルコレクションを観た感想、課題とこれからについて聞いた。(記事:encoremode)
ゲストスピーカー
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■インターナショナルギャラリービームス メンズディレクター 服部 隆
1971年生まれ。大学時代からアルバイトとしてビームス銀座店に勤務し、卒業後入社。インターナショナルギャラリービームスで2006年からメンズ部門のバイヤーを担当し、2014年から現職。インターナショナルギャラリービームスのメンズディレクションを手掛けている。
■バーニーズ ニューヨーク MD部アシスタントディレクター兼メンズチームマネージャー 中箸充男
2001年入社、新宿店スーツフロア・ファニシングフロア・デザイナーズフロアの販売スタッフとして勤務後、MD部アシスタントバイヤーを経て08年よりバイヤー就任。国内をはじめ米国、ヨーロッパの買付を主に担当。2017年MD部ファッションディレクターに就任。2020年3月よりMD部アシスタントディレクターに就任。現在はメンズマネージャーを兼務し、MD業務全般の管理と運用、方針の遂行業務に従事。
■エストネーション メンズディレクター 鷲頭直樹
1973年生まれ。2018年、約20年間勤務した株式会社ユナイテッドアローズを退社。2019年よりエストネーションに勤務。役職はメンズディレクター兼バイヤー。
課題抱えるデジタルコレクション
――今回のデジタルコレクション、良かった点と課題を感じた点を教えてください。
服部「良かった点は、業界に限らず一般の人も同時に情報共有できるようになったこと。ショーはこれまでもすぐサイトにアップされていたけど、その場を取り巻く情報はどうしても後付けになってしまうので、情報を取り込むスピード感はすごく早まったと思います。とはいえ、デジタルだとその場のムードをリアルに感じとることができない。オーディエンスの傾向なども含めて、空気感がわからないとそれが新しい流れなのかを取り込み辛い。デジタルは、その次の傾向を感じ取れないのは一番大きなデメリットです」
中箸「そうですね、今まではインビテーションやファッションショーの非日常的な空間、会場のまわりのエリアなども含めて空気を感じて、どういうところが良いのかが一つの視点になっていた。今回はそれがなくて、日常の業務をやりながら、時差で夜になってからコレクションが始まって、それを朝まで見て翌日また別の仕事に従事する…自分で観て感じて消化することができない状態は一番難しかったところです」
服部「他にも、ロンドン、ミラノ、パリとコンテンツに差があるのと、情報が多過ぎて取捨選択がしにくい状態です」
鷲頭「良かった点は、経費がかからなかったことですね。それぐらいです。やっぱり物に触れられない、着られないのは一番ネックでした。デジタルでは結局、勘だったり画像の雰囲気だったりでしかオーダーできない。買い付けだけではなく、行った時の空気感や傾向なども会社にフィードバックしていたので、画像しかないと伝えられる部分が少なかったです。あと、コレクション期間は国内のバイヤーが集中するので情報交換できるけど、この状況だとコミュニケーションも気軽に取れないですよね」
――リアルなものの大切さは露骨に出ますね。そんな中でも注目したコレクションはありますか?
鷲頭「今回の買い付けはやっぱり少しルーチンっぽくなってしまったので、特別このコレクションが良かったという見方ができなかったです。初めての経験だったので、これが続く不安と、慣れなきゃいけないのかなという将来に対しての不安の方が大きかったかもしれない」
中箸「今回ロンドンコレクションから見ていて、表現として抽象的なものとユーチューブ化されているものが多くて、洋服にフォーカスしているものは少なかったです。だから日本のブランドでパリに出るクリエイティビティーの高い人たちはどういう風になるかなと注目していたら、いかに洋服をよく見せようかと洋服にフォーカスしていた。真っ当で良かったです」
服部「日本のブランドは映像を撮ることに関して非常に工夫を凝らしている印象を受けました。『カラー(kolor)』は映像の手法が面白くて、他の人がやらないことをやろうという戦略だったのかなと思いました。ヨーロッバだと、『プラダ(PRADA)』は同じコレクションを複数のクリエイターで分けて表現していて、すごく先鋭的でした。大体コレクションってショーをやっても最初から最後までイメージを統一させて見せるところが多いけれど、同じブランドなのに違うブランドのように見せる手法は流石だなと思いました」
中箸「『ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)』はショーの表現として、もうひと盛り上がりあるかと思って見ていたら、そこで終わってしまったので今ひとつだと思っちゃったんですけど、バイヤーによるとデジタルショールームが良かったそうです。表現したいものがしっかりあったのと、ベルギーのショールームとズームでミーティングできたし、事前に資料も送ってもらって生地スワッチも現地で確認できたと聞いたので、きちんと対応してもらったのはすごく良かったです」
デジタルで対応できるか、実物の重要性を探る
――来春夏の仕入れという点で、感じた困難さ、逆に進んだ面はありましたか?
服部「デジタルオーダーって、本当にリアリティーがないんですよ。実際に行って服を見て、こういうお客さんが買ってくれるだろう、こういう店内表現ができるだろうっていう視点で買ったりするじゃないですか。結局表面だけを見てクリックして数を入れてってなると、リアルなバイイング行為とはまったく別物なんですよね。シルエットがわからない、重さがわからない、素材感がわからない、ムードもわからない、着てみることも当然できない…そうなるとちょっといいなと思っても、入ってきたら全然違う物だったらどうしようとか、いろんな懸念が経験や感覚よりも優ってしまって、どうしても引いてしまう」
中箸「インポートでサンプルを用意していたのは『メゾン マルジェラ(Maison Margiela)』くらいじゃないですかね。実際に触れられれば構成できる。重衣料の買い付けをする際にはやっぱり重さがわからないと危険じゃないですか。羽織らないとサイズ感もわからないですし、そこで高額品を買うリスクは避けたいなと思ってしまいます。バイイングの場合、フロアやラックの構成もあるので、どういう見え方をするのかも考えながら構成していく、一点だけの個人オーダーとはまた違った考え方がある。そこに関してできないもどかしさがあります」
服部「新規ブランドを探すのも難しいでしょうね」
――新規ブランドを仕入れるモチベーションはあるんですか。
服部「ブランドのバックグラウンドが見えて、構成がきちんとしていて、デリバリーが安定しているなど、オーダーの環境が整っていることが前提ですけど、新しいブランドを入れていかないと売り場を構成した時に鮮度が無くなってしまうし、時代感は変わっていくものなので、提案ベースでやっていかなければいけない。でもヨーロッパはコミュニティーが強くて、結局フィジカルな部分がベースにあるので、オンラインだけでの情報収集には限界があると感じます」
中箸「うちのバイイングポリシーとしても、新規ブランドを獲得することはやっていかないといけない。例えばあまりリスクの無いカットソー中心の鮮度が高いブランドなら取っていくことはあるかもしれないです。コレクション主体の、全体がトータルで見られるようなブランドは控えるかもしれないですね。確認できない情報はリスクとして外しておくと」
鷲頭「反動が結構大きい人も多いんじゃないかなと思っていて、特にバイイングする人たちで海外に行ってた人は、デジタルの便利さもあるんですけど、逆に出掛けていくという大事なことが再認識されてくるのではと思うんですよ」
服部「今後は買いたいと思ったブランドがどれだけ協力的かが重要になりますよね。インポートのブランドでも予めスワッチやルック、ムードボート、コンセプトや動画などを送ってくれて、ズームで実際着てもらうとか、そういうことが整っているブランドであれば可能性はすごく出てくると思います。どういう姿勢で向き合ってくれるかで変わってくる」
――何セットもサンプルが作れる大手はいいですけど、サンプルが送れないブランドはとにかく事前に手厚く準備することが大事ということですね。
コロナ後、消費者はどう変化したか
――デジタルでオーダーしにくいだけではなく、コロナの状況で仕入れに影響はありますか。 予算は減らさざるを得ない?
服部「これまでのセオリーは通用せず、構成が難しくなっています。今までだったらファッションに特化したものの比率が高くてそれをメインにしてきたけど、現状は分けていかなければいけないのかなと思っています。ひとつはECの需要。オンラインの売り上げが伸びてきたので、そこでの比率の高いものを揃えること。もうひとつは在宅ワークの需要。リモートで画面に映るシャツや軽いジャケット、自宅での仕事で着やすいものは需要が出てくるので無視できない。逆にドレスパンツ、ドレスシューズなどは需要が少なくなってくる。最後に、こういう状況下でも、人とのコミュニケーションを大切にするような仕事だったりすると、お互いの自己表現を強めていくような環境になる。そうなるとよりファッションに特化したもの、ブランドの特性がよく表れているものを品揃えしてなければいけない。それぞれの環境に特化した洋服のセレクションをきちんと棲み分けて構成しなければいけないとは思います」
鷲頭「立ち上がりで少しずつ商品が入ってきていて見ていると、コレクションを楽しみにしている方は意外と多いと感じます。ただ全体でみるとやっぱり次のSSについてはよりシビアで厳しいのかなと予測しています。うちはもともとスポーツミックスみたいなビジネスが強いので、インポートのスーツなどは今の需要に合わせて減らさざるを得ない。ドレスダウンといった中間的なところを強化していきたい」
中箸「ドレスのカジュアル化は進んでいるけれども、バーニーズの強みであるドレスの買い上げはメインターゲットには落ちていないんです。その商品群を手厚く用意することと、スーツに関しては一般のお客様に買って頂く機会が減っているので、もう一度カジュアルも含めて何ができるのかを考えなければいけないと思っています。あとは、店舗の人たちが非常に頑張ってくれていますね。やっぱりコミュニケーションの厚さがうちの強みだと思うので、フィジカルなお店はそこをしっかり磨いていって、ECはECの比率を上げられるように適した商品群を開拓していかないと難しいと思います」
セレクトショップのこれから
――コレクション以外も含め、仕入れに関して変化はありますか。
中箸「お客様の関心度が今までの重衣料よりも中軽衣料に変わってきているので、そこの商品群をいかに買ってもらえるような環境を作っていくか、店舗も含めてしっかり構成していければ、充分可能性秘めているんじゃないかなと思っています」
鷲頭「今回のことでわかったのは結局物が多かったこと。作り過ぎない、買い過ぎないということは気を付けていかなければいけないし、オリジナルもただ作っても響かない。どういう工夫を取り入れていくか、今までに無い視点で考えていかなければいけないし、より難しくなっていく。中途半端ではダメなんだなと感じています」
服部「マクロの視点で見た時に、インバウンド需要の比率が減っていくのかなと。これまで以上に伸ばしていくのはタイミング的に難しいと思うし、商品の構成も考え方を変えなければいけない。もう一つは実店舗をどうやって集客させていくか、それと同時にオンラインをどう連動させていくか、いわゆる会社単位のインフラ整備がキーポイントになってくると思います。実店舗とオンラインをどう共存させていくか、どうやって繋げていくかを商品構成やいろんなコンテンツで見せていく必要があると思います」
――皆さんありがとうございました。
モデレーター
■久保雅裕(くぼ まさひろ)
ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。
取材・文:久保雅裕(encoremodeコントリビューティングエディター)
写真/遠藤純
■USENのオウンドメディア「encore(アンコール)」:公式サイト
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