
Image by: PRADA
「プラダ(PRADA)」2025年秋冬ウィメンズコレクションは、「女性らしさ」の概念を再考する試みだった。共同クリエイティブ・ディレクターのミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)とラフ・シモンズ(Raf Simons)は、典型的な"リトルブラックドレス"の解体、クラシックなプロポーションの歪曲、意外性のある素材使いによって、伝統的な「女性の美」の再文脈化を試みた。
フェミニニティとは何か?解体と再構築
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プラダはこれまでも、従来の美の概念に風穴を開けるデザインを生み出してきた。今シーズンも、「女性らしさ」の定義を再考するというテーマのもと、クラシックな要素を解体し、新たな視点を提示している。冒頭に登場した4体のリトルブラックドレス(LBD)は、単なる"女性を魅力的に見せる服"の象徴ではなく、LBDのステレオタイプから離れ、解放的な服へと変貌。ウエストが絞られた体に沿うラインではなくゆったりとしたシルエットに、切りっぱなしの裾、未完成のような縫い目の露出、首元の襟は浮いていたり、シワをあえて刻んだ生地は、近代ファッション史におけるLBDが社会的に果たしてきた"完璧さ"や"洗練さ"とは異なる方向性を打ち出している。




さらに、バストやウエストを強調しないフラットでレトロな花柄のドレス、ウエストの余った生地をつまんでギャザーを寄せたボトムスのデザイン女性の身体に"フィットしない"シルエットとして提案。ニットドレスも同様に、本来、体にフィットするはずのニットが、あえて硬質に仕立てられ、身体から浮くような構造に。これにより、動くたびに弾むような立体感が生まれ、衣服の形状そのものに新たな解釈を与えていた。




ルックの多くはしなやかさとは対極の厚手の素材を使うことで、従来の「女性らしいシルエット」そのものに疑問を投げかけている。これらの要素は、フェミニニティが固定された概念ではなく、時代により流動的であることを示唆している。

新しいフェミニニティの形
「女性らしさ(フェミニニティ)とは何か?」という問いかけ。従来のフェミニンな装いが「女性らしさ」を象徴する一方で、その多くは男性の視線を意識したものであった。例えば、歴史的に見ても、ドレスは女性を「美しく見せる」ためのものであり、実用性を犠牲にしてきた。ポケットのないドレスが未だに多いのも、「フォルムを崩さないため」という理由からだ。しかし、今回のプラダのコレクションは、こうした伝統的な考え方を覆すことを試みているようにも思える。まるで服の機能性を高めることが、フェミニニティの新たなプロポーションを生み出すことにつながることを具現化しているかのようだ。


政治とファッションの交差
奇しくも、今年1月にドナルド・トランプ米大統領が就任演説で「性別は男性と女性の2つのみであること」を宣言し、米国では出生時の性別をパスポートの性別として固定する法律が成立した今、性別やジェンダーに関する議論は世界中で緊迫感を増している。「女性らしさとは?」という今回のコレクションテーマに対し、クリエイティブ・ディレクターの2人は、単に実験的なデザインを並べ視覚的に訴えただけでなく、より広範な社会的テーマともリンクさせ、見るものに概念を問いかけているようにも受け取れた。現代社会では、ファッションが持つ政治性を回避する動きも見られるが、ミウッチャ・プラダとラフ・シモンズはあえて向き合い、議論の余地を残すデザインを提示した。彼らが示したのは、「女性らしさ」とは生まれ持ったものではなく、自らの意思で選び取るものであるという新たな視点だった。

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