FASHIONSNAPの恒例企画、経営展望を聞く「トップに聞く 2024」。第13回は、ポーラ・オルビスホールディングス社長 横手喜一氏。社長就任から1年が過ぎ、国内事業は回復基調にあり、長期経営計画「VISION 2029」に向けた新領域への種まきも進んでいる。増収増益で着地した2023年から、新中期経営計画が2024年からスタート。社員に「『が』仕事」を期待するという、横手社長にインタビュー。
◾️横手喜一(よこて・よしかず)
1967年9月10日生まれ、 東京都出身、一橋大学卒業。1990年4月ポーラ化粧品本舗(現ポーラ)入社。2006年8月フューチャーラボ 代表取締役社長、2011年7月宝麗(中国)美容有限公司(ポーラ瀋陽) 董事長兼総経理、2015年1月ポーラ 執行役員 商品企画部長、2016年1月同社代表取締役社長、2016年3月ポーラ・オルビスホールディングス取締役、2020年1月同 取締役 海外事業管理室長、2021年1月、POLA ORBIS Travel Retail Limited Director and CEO。2023年1月から現職。
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ー社長就任1年目、2023年はどのような年でしたか?
出来たこと、出来なかったこと、また挑戦して発見できたことと、“気付き”の1年でした。グループ全体を見ても、何をどこまでどう成果に出せたかという濃淡がありましたね。
ポーラ・オルビスHD 2023年12月期連結決算
売上高:1733億400万円(前期比4.2%増)
営業利益:160億8000万円(同27.8%増)
経常利益:184億6900万円(同23.7%増)
親会社株主に帰属する当期純利益:96億6500万円(同15.6%減)
ビューティケア事業
売上高(合計):1684億円(同4.2%増)
ポーラ:984億円(同2.2%増)
オルビス:428億円(同11.6%増)
ジュリーク:90億円(同7.7%増)
育成ブランド:173億円(同2.8%増)
営業利益(合計):163億円(同18.6%増)
ポーラ:115億円(同7.5%減)
オルビス:63億円(同30.7%増)
ジュリーク:13億円の赤字(前期は12億円の赤字)
育成ブランド:2億円の赤字(前期は21億円の赤字)
ポーラ・オルビスHD 2024年12月期連結決算予想
売上高:1790億円(同3.3%増)
営業利益:179億円(同11.3%増)
経常利益:179億円(同3.1%減)
親会社株主に帰属する当期純利益:116億円(同20.0%増)
ー基幹ブランドの「ポーラ(POLA)」を振り返って。
リアルの接点を重視するポーラ(POLA)は、コロナ禍で活動がままならなかった中で売上高が減少傾向にありましたが、コロナが明け始めた2023年は上昇に転じさせるという大きなテーマを持って新規顧客獲得を中心とした顧客獲得投資を実施しました。国内はOMO(Online Merges with Offline)の推進で、各チャネルの特性や強みを生かした高LTV(顧客生涯価値)事業の実現に取り組み、また2023年4月に始動した新メンバーシッププログラム「ポーラ プレミアム パス」で、全ての販売チャネルの顧客IDを統合し共通のサービスを提供するなど奏功し増収転換しました。海外は、中国及び一部のアジア地域における景気減速等の影響があったものの、ポーラブランドの海外事業全体では前年を上回る実績でした。ただもっとプラスを作る段階までが狙いではあったので、今後の課題も見えてきたのではないでしょうか。
一OMOや、ポーラ プレミアム パスによる顧客IDの一元化の進捗は?
OMO、ポーラ プレミアム パスを通じて、多くのお客さまが「もっと自分の肌を知りたい」「ECで買った商品をより効果的に使いたい」といった、美への興味関心を持っていることも分かりました。そのためデジタルで出会ったお客さまをショップにご来店いただくきっかけを作り、きちんとしたサービスやカウンセリング、エステを提供することがプラスになっていると再確認できたことは、将来につながる結果でもあります。方向性とOMOの仕組みは間違っていません。ただし受け皿であるショップ側により差が出てしまうことも否めません。もちろんショップの立地や設計等にもよるとは思いますが、同時にデジタル上でうまく情報発信でき、いかにお客さまに安心感を与えて足を運んでもらえるかも大切。オンラインとショップの動線作りは2023年で見えた新たな課題認識です。
ーこれまで地域密着型のイベントやマルシェを実施していますが、昨年も行ったのでしょうか?
ポーラは全国に約2700店あり、毎月ほぼ全ての店舗がイベントを行っています。そのため、大小さまざまな形ではありますが毎月5000回は地域が少しでも活性することにつながる活動を実施しているのではないでしょうか。マルシェも月100回ほど行っており、地域の人たちと一緒に盛り上がる取り組みは根付いてきています。例えば、過疎化が深刻な地域のひとつである飛騨市では、3年前から地元にある仕事を理解してもらうため、小学生向けに「仕事発見体験」を実施していて、参加者も年々増加傾向にあり「地元にも仕事の選択肢がある」という認識に変化しつつあります。
一もうひとつの基幹ブランド「オルビス(ORBIS)」は2桁の増収増益と順調です。
高収益事業へと再成長を遂げるため、ブランド差別性の創出によるプレゼンスおよび、顧客ロイヤリティの向上を推進しました。より高品質な商品への刷新によるリブランディングを実施したことで、商品価値を理解してくださるお客さまが増え、納得して購入してくださる人が増えたように思います。投資効率も高くなっているため、収益改善の方向性も見えて、手応えを感じています。
ーオルビスの価格帯は競合も多いイメージです。その中でオルビスが好調な要因は?
リニューアルした「オルビスユー ドット(ORBIS U dot)」は、高い価格帯でも高品質、高機能であることから評価され伸長していますし、そのほかUVのスペシャルケア商品やロングセラーのヘアケア商品などがベストコスメを多数受賞するなど人気を集める商品があること。またCRM(Customer Relationship Management)がパーソナライズにできるブランドとして、アプリを通してお客さまと密なコミュニケーションができていることも大きいのではないでしょうか。ただ商品を買うだけではない、お客さまの気持ちや価値観の変化に合わせたコンテンツやサービスをタイムリーに提供できている点もオルビスの強みとなっています。
ーお客さまイベントも活発だとお聞きしました。
オルビスではオンライン・オフライン共にお客さまへのイベントを積極的に行ったことで、お客さまと密な関係性が築けています。例えば年末に感謝イベントをオンラインで実施したのですが、お客さまがオンライン上のチャット欄でオルビスの社長の名前をニックネームで呼んでいたり、エッセンスインヘアミルクが「@cosmeベストコスメアワード2023」で総合大賞を受賞したことを一緒に喜んでくれたり。CRMがうまく機能しているからこそ、お客さまとブランドが直接つながり、お互いを理解し合う関係性が構築できています。情緒的なつながりが、オルビスにとっては良い材料として活きていますね。既存のお客さまがきちんと積み上がり、そこに新規のお客さまが入ってくる。結果として数字がきちんと伸びていると思います。
ー育成ブランドである、グループ会社のアクロ(ACRO)が展開する「アンプリチュード(Amplitude)」と「イトリン(ITRIM)」の終了を発表しました。アクロは「スリー(THREE)」と「ファイブイズム バイ スリー(FIVEISM × THREE)」となりました。
アンプリチュードとイトリンの両ブランドともに投資を続け育成していたのですが、厳しい状況が何年か継続していたためビジネスとして継続するのは困難と判断しました。スリーもコロナ禍などで顧客が減少しておりましたが、2023年から再生フェーズに入り少しずつ良い方向に向かっています。リブランディングでは、良質な植物原料から抽出する精油をベースにした商材を中心にホリスティックな観点でのライフスタイルを提案しています。その中で、昨年発売したブランド初のフレグランスで精油100%のオードトワレ「エッセンシャルセンツ」が大変好評を得ており、フレグランスをきっかけにお客さまとの接点が生まれ、そこから精油を使用した他のアイテムにも購買が広がる流れも生まれていますね。2022年9月には「ホリスティックリサーチセンター」を発足し、精油の研究を独自で行っているので、このセンターの役割も今後大きくなると思います。
ー新規事業としては、2023年10月にポーラメディカルを設立し、美容医療関連事業をスタートしました。新領域の狙いや今後の展開について教えてください。
長期経営計画VISION 2029の基本戦略のひとつに「新価値を創出し、事業の領域を拡張する」を掲げています。人生100年時代になると言われていますが同時に、温暖化など気候変動により環境も変化しています。そんな過酷な環境の中で健康的で豊かな生活をしていくためには、当社として何が提供できるのか。そう考えた時に、社会課題やウェルビーイングを提案し、解決しなければいけないと考えました。いくらビューティに気持ちを前向きにする力があったとしても、化粧品を作るだけで世の中がウェルビーイングになるとはいえません。より健康的で豊かに生きるサポートとして化粧品以外の領域にも目を向けています。そのひとつとして、美容医療領域に参入しました。
そのほか、新しい展開として子育て中の女性社員が立ち上げた産後ケアプロジェクトから、産後ケアアプリ「ママニエール(mamaniere)」をスタートさせました。これはポーラ化成工業研究所独自の顔分析技術を活用し、顔写真から今の心身の状況を分析し、産後の生活をより豊かにする情報を提案するというもので、この取り組みも、豊かに生きるサポートにつながると思います。
ースタートした2024年12月期の戦略について教えてください。
4つの事業成長戦略
・国内事業の顧客基盤強化、持続的成長と収益性改善
・海外事業の更なる成長と新市場での基盤確立
・育成ブランドの成長を伴う黒字化による持続的収益貢献
・ブランドポートフォリオ拡充と事業領域拡張
これらを支える持続的な経営基盤の強化として「新価値創出に向けた研究開発力強化」「社会課題対応と独自性を兼ね備えたサステナビリティ強化」を掲げ、事業成長を加速させる。
今期は、2026年12月期までの中期経営計画のスタートの年で、さまざまな取り組みを始動します。そのひとつとして、研究・生産施設のテクニカルディベロップメントセンター(TDC)が稼働しました。同センター施設内には高度な生産機能を有する工場を設置し、研究から生産まで一気通貫した高度なモノづくりを行います。
ー新規事業も進んでいます。
先ほど、健康的で豊かに生きるサポートとして化粧品以外の領域にも目を向けると言いましたが、その一環として2024年中には、熱中症リスク判定AIカメラ事業をスタートさせます。カメラに顔をかざすと熱中症のリスクを判定できるシステムを開発しました。当社がこれまで肌や顔の研究を積み重ねてきた強みを社会問題の解決に活かそうという試みです。ニーズの高い工事現場などへの導入を検討しています。
ー海外事業も強化されますか?
海外戦略は非常に重要な位置付けですが、現在の海外売り上げ比率は10%ほど。改めてグローバル展開を加速する起点として、中国市場における地域統括を目的に、2024年1月に新たに地域統括会社を設立しました。これまでは各ブランドの子会社が存在していましたが、効果的なリソースの配分ができていなかった。そこで、現地主導でブランドを横断した戦略策定や地域マーケティングの充実を図ると同時に、既存の中国現地法人における共通業務については、業務の高度化と効率化を目的に集約します。グループとして中国、そしてASEANをどう戦略的に強化するべきかを視野を広くして考え、現地に権限を与えることでスピーディーな事業展開、拡大を目指します。
ー社長就任から1年、未来のポーラ・オルビスグループを見据え、社員への発信、交流で伝えたことを教えてください。
過去数年で、グループ内で同じ役割を担う部門についてはホールディングスに集約し効率性やシナジー向上を図ってきましたが、コロナ禍で顔を合わせる機会が少なかったこともあり、各々の役割について理解できていないところもありました。それもあり、自己紹介をする場面を設けたり、少数グループで集まる機会を作ったりして、互いに交流を深めてきました。また社員と経営陣との距離をもっと近づけた方が良いのではという課題感もあり、2023年10月から各部署へ出向き、私から直接対話をする場面を設けました。単に会社の将来像を語るだけでなく、それを目指す私自身が、ポーラの社員になって約30年、何をして、また何を大切にしてきたのか。自分自身を理解してもらうことから始めたのです。現在までに30回ほど行ってきましたが、まだ終わっておらず今後も続けていきます。
今起きている変化が何を目指したものなのか、小さな一歩が将来にどのような意味があるのかなど、将来のポーラ・オルビスグループの姿やイメージを社員にしっかり伝えていけるかが私の役割だと思っています。私は、「これでいいですか」という仕事は「『で』仕事」と呼び、「これがやりたいです」という仕事は「『が』仕事」と呼んでいます。社員には「これが必要」だと考えた「『が』仕事」を期待しています。1人ひとりの主体性やモチベーションにつながるため、ビジネスの変革時に組織のカルチャーをみんなで応援することが当たり前になる姿を作り出すことも新中期計画初年度のひとつのテーマです。
(文:中出若菜、聞き手:福崎明子、藤原野乃華)
◾️ポーラ・オルビスホールディングス:公式サイト
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