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パリの人気スポット。切符に願い事を書き置いていったら願いが叶うと言われている。
Image by: 杉田美侑
日本最古のファッションサークル・早稲田大学繊維研究会で副代表を務める早稲田大学文学部仏語仏文学専攻の杉田美侑によるパリ留学記。
フランス語習得という名目で、パリコレ見たさに留学を強行した筆者だが、初めてのパリは分からないことだらけ。言語の壁にぶつかりながらも、ファッションウィークを間近に控えたパリで、食に文化にショッピング…活気づくパリを遊覧する。
3日目 親友との再会
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Image by: 杉田美侑
今朝は昨日に引き続き5時30分起床。夜早く寝ると、朝早く起きるのがつらくない。
朝ごはんに、マーマレードジャムをぬったトーストを食べた。スーパーに売っているごく普通のトーストなのだが、これが思いのほかおいしく、朝から小さな幸せを感じた。7時30分に家を出発するも、ロックがかかった出口に悪戦苦闘し、結局マンションの敷地から出るのに10分もかかった。ちなみに正しい出方は今もわからず、毎日家を出るのに10分近くかけている。
今朝のRERは満員だった。すし詰め状態の車内に体をねじ込むさまは山手線さながら。日本と言えば満員電車のイメージを広く持たれていると思うが、フランスも大差ないことに驚いた。
今朝も乗り換えが嫌で、シャトレから学校まで15分ほど歩くことにした。大きなターミナルは迷宮で、出口に行きつくまでに同じ道を行ったり来たりした。ターミナル駅の複雑さは万国共通らしい。
8時30分、授業が始まった。驚くべきことに、昨日よりずっとフランス語を聞き取れるようになっていた。
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Image by: 杉田美侑
学校が終わってからは、待ちに待った友人とのランチ。彼女は大学で最も親しくしている友人の一人で、昨年の9月からパリに留学している。私の留学が決まった時から、必ず会おうと約束していて、ついにその日がやって来た。パリ市立劇場で落ち合うことになり、学校から15分ほど歩いた。荘厳な建築物には目もくれず、劇場へ急いだ。毎晩10時まで、時には12時まで学校やファーストフード店に残り、ともに課題に頭を悩ませていたことを回想する。今は彼女に会いたいという気持ちが何にも勝った。劇場前で待つ彼女を見つけると、駆け寄ってお互いに抱きしめあった。久しぶりに会えたこと、パリで会う夢が実現した歓びで思わず目頭が熱くなった。
Bouillon Julienでランチを取ることにした私たちは、裁判所やサント・シャペルが立ち並ぶ通りを進んだ。レーモン・クノーの小説「地下鉄のザジ」に登場するサント・シャペルの周囲をこうして歩くと、まるで自分がザジになったようで心の中で飛び跳ねた。
しつこいようだが、パリの街並みは本当に美しい。扉に掘られた模様、窓枠の装飾、バルコニーの手すり、長い時を経て変色した壁の色さえ、魅力的に感じた。開けた視界も街並みの美しさを際立たせるのに一役買っている。のびのびと広がる大きな道、雄大なセーヌ川。川をまたぐオーシャンジュ橋に沿うように、建物がずっと向こうまで並んでいる。渋谷スカイから東京の夜景を見たときの感動にも似たものがあった。開けた空間に広がる光景は永遠に続くかのように思われ、それらが一挙に私の二つしかない目に流れ込んでくるのだから、感動しないわけがない。
Bouillon Julienはそんな景色に溶け込むように佇んでいた。店の外観はウッド調で、大きなガラス窓が解放感を感じさせる。BOUILLON CAMILLE CHARTIERの文字や扉の周囲に施された飾り彫りがアール・ヌーヴォーを彷彿とさせる。控えめな色味の外観と打って変わって、内装はとても華やかだ。スプラウト色の壁には大きな鏡が埋め込まれ、中央にはミュシャの作品が飾られている。鏡の両脇ではアヤメやヒマワリの絵が天井に向かって伸びている。アールヌーヴォー様式の華やかな内装が観光客に人気で、ランチの時間ではないが店内は賑わっていた。19ユーロのメインとデザートをいただけるランチセットを注文。メインはキヌアと何か(忘れた)のタジンを、デザートは林檎とクランブルを注文した。他にチキンとブフ・ブルギニョンを選べたが、好奇心でタジンを注文したことを後悔する。美味しいのだが、フレンチレストランでは肉料理を食べるべきだった。デザートは、林檎・シナモン・クランブルと私の好きが詰まった一皿で、友人の言葉を借りるならば「どこかに飛んで行ってしまいそう」なくらい美味しかった。
親友と美味しい料理を、美しい空間で食べる。これほど幸せなことが他にあるだろうか。生きていて幸せだと心から思った。
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Image by: 杉田美侑
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Image by: 杉田美侑
帰りがけに古本屋と古着屋に立ち寄った。古本がぎっしり詰まった路上のカートに通行人が足を止め、熱心に本を物色している。私も記念に一冊買おうかと覗いてみたが、バルザックくらいしかわかるものがなかった。古着屋ではファーのコートに目を引かれた。パリの寒さに備え、ダウンを持ってきたのだが、3日目にしてダウンを着るのが嫌になっていた。状態もそこまで悪くないため、それなりに値が張るだろう。今週末、フランスに暮らす繊維研究会の友人が古着屋を案内してくれるそうなので、今回はお預けにした。
一日の締めは久しぶりのビールだった。ホストファミリーが家族からプレゼントされたベルギービールを分けてくれた。ワインのような甘みと酸味あり、非常に飲みやすかった。
食後は例のごとく、強烈な眠気に太刀打ちできず、早々と眠りについた。
4日目 サンジェルマン・デ・プレにて
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Image by: 杉田美侑
今朝は4時30分に起きて、昨日睡魔に負けて書けなかった原稿を書いた。フランスに来てからというもの、空腹を感じることがなく、今朝も例外ではない。トーストはやめて、通学路でスーパーに立ち寄りプロテインバーを買った。学校についてからも、授業が始まるまで、プロテインバーを片手にパソコンを打っている。こうしていると、エナジードリンクを片手に一日中作業していた、昨年のファッションショー前が思い出される。服造と呼ばれるルック制作者の苦労を見聞きし、彼らに私が準備し得る最良の発表の場を設けたいと必死になっていたことが懐かしい。終わってしまえば本当に一瞬の出来事だった。パリで受けた刺激を、2025年度の活動に活かせたら本望だ。
8時30分になると続々と生徒がやってくる。クラスメイトとの距離が徐々に縮まっているのを感じる。ある生徒が食べている不思議なお菓子が気になり、何を食べているのか質問してみた。せんべいにチョコレートとココナッツがまぶしてあるものらしい。少し分けてもらったが、説明通りの味で、せんべいから甘い味がするのが新鮮だった。お礼に無印良品の桜味のバームクーヘンをあげた。こんなこともあろうかとバッグに潜ませておいたのだ。
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Image by: 杉田美侑
今日の放課後は語学学校の友人とカフェに行く約束をしていた。今日訪れたCafé de Floreはシュルレアリスムと深い関わりのあるアポリネールが出資していた老舗だ。この店を訪れた著名人は数知れず、アルベール・カミュ、ジョルジュ・バタイユ、ピカソ、レーモン・クノー、シモーヌ・ド・ボーヴォワール、ジャン=ポール・サルトル…など枚挙にいとまがない。憧れの知識人たちが過ごした空間にいるなんて、ロマンチックで胸が躍る。サンジェルマン・デ・プレの近辺のカフェは、近くに大学が多いこと、そしてお金がない芸術家らがカフェを仕事場として使用していた歴史から、知識人の集う場所になっているとホストファミリーが教えてくれた。
歴史ある店内をきょろきょろと見渡している間に、注文したホットミルクとオムレツが運ばれてきた。ホットミルクは暖かくて一番安いものにしようと選んだものだったが、これが驚くほど美味しかった。芳醇な乳製品の味わいが口いっぱいに広がり、ただひたすら美味しいと感じた。普段飲んでいる牛乳とこれほど差が出るものかと感嘆した。オムレツはナイフを入れると、中からハムとチーズがあふれ出てきた。ハムの量が少々多すぎるように感じ苦笑したが、フランスの気前の良い盛りは清々しくて好感を覚える。
フランスに留学している友人曰く、フランスの学生は非常にレベルが高いそうだ。文学・美術等の教養から現代の政治まで、豊かな知識と自分なりの見解を持っているらしい。歴史上の知識人たちがカフェで育んだエスプリは現代の学生にも脈々と受け継がれている。オムレツの最後の一切れを口に運びながら、彼らに一歩でも近づけるように大学での学びに真摯に向き合おうと臍を固めるのだった。
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Image by: 杉田美侑
カフェのすぐ近くに「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」のショップがあったため、足を延ばすことにした。ウィメンズ、メンズ、化粧品やバッグなどの小物を置いている三店舗が横並びになっている。どの店舗も魅力的な店構えであったが、特にウィメンズを取り扱う店舗はラグジュアリーブランドとは思えない、どことなくアットホームな内装で温かみを感じた。どの店舗も店員さんがフレンドリーで感動した。気取らないけれども洗練された空間と接客は、まさにラグジュアリーそのもの。心を鷲掴みにされ、つい73ユーロのリップを買ってしまった。うっとりするほど素敵なお洋服たちを連れて帰りたいところではあるが、これが学生の限界である。クレジットカードの引き落としのタイミングで日本円が高くなっていることを願うばかりだ。
自分へのご褒美だと思って、明日の授業も頑張ろうと軽い足取りで帰路に就いた。
早稲田大学繊維研究会部員が巡るパリ留学記
①ハプニングに言語の壁、前途多難なパリ留学の幕開け
②「地下鉄のザジ」に憧れて
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