洗えるレザートート、ドローン専用バッグ、ダイソンのコードレスクリーナーのアタッチメント収納ケースなど、これまでにない斬新な製品づくりに挑むD2Cレザーブランド「オブジェクツアイオー(objcts.io)」。手掛けるのは土屋鞄製造所出身の沼田雄二朗と角森智至だ。今年9月にはそごう・西武初OMOストア「チューズベース シブヤ」内にブース出店するなど、百貨店からも注目を集めている。独立から現在までの軌跡を、インタビューから紐解く。
■沼田雄二朗(Zokei代表)
大手ベンチャーキャピタルを経て、土屋鞄製造所に入社。土屋鞄製造所ではブランドマーケティングやSNSの立ち上げ、ECサイトの開発を担当したほか、2013年からはD2Cスタートアップのリサーチのため1年間渡米した。2015年に角森智至とともにZokei(ゾウケイ)を設立し、代表に就任。2018年から「オブジェクツアイオー」を運営している。
■角森智至(製品開発責任者)
文化服装学院バッグデザイン科を卒業後、土屋鞄製造所に入社し、製品開発や生産に関する業務を幅広く経験。現在はobjcts.ioの製品開発責任者兼デザイナーとして、「現代を生きる人々にとって不要な制限を取り払い、個々人の生活に自由や豊かさをもたらす美しいバッグ」を作り出している。
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土屋鞄とは今も“師弟関係”
―お2人とも土屋鞄製造所(以下、土屋鞄)出身ですが、レザーブランドを新たに立ち上げた理由を教えてください。
沼田雄二朗(以下、沼田):我々が考える商品は、現代のライフスタイルに合わせてデバイスフレンドリーであることを重視しています。例えばですけど、iPhoneは毎年のように新商品が出てくるじゃないですか。そういう意味でのスピード感を考えた時に、独立した方が尖ったものが作れるのではないかと考えました。
―独立する時に土屋鞄と揉めたりということはなかったのでしょうか?
沼田:友人からも「大丈夫なの?」と結構言われました(笑)。私も反応が心配でしたが、(土屋鞄製造所代表の)土屋さん(成範氏)に最初に相談して、背中を押してもらいました。土屋さん自身、「カバンのブランドなんていくらでもあるから」と競合はあまり意識していないようで、独立後もアドバイスをいただいたり、生産で協力いただいたりとサポートを受けています。師弟みたいな関係ですね。革製品という点でかぶってしまうところもありますが、土屋鞄はどちらかというと革のエイジングを楽しまれるお客様が多く、一方で我々のお客様は機能性を重視する20〜30代の方がメインなので、客層を見るとすみ分けられてると考えています。
―関係が良好で安心しました(笑)。オブジェクツアイオーの立ち上げはいつ頃から構想していたのでしょうか?
沼田:2013〜14年頃ですね。角森(智至)とのプロジェクトを通じて、iPadのケースなど自分たちの欲しい物を作っていたのがきっかけです。基本的にプロトタイプとして開発したものが多く、一部ノベルティ化したものはありますが実売はしていませんでした。その代わりにマーケティングの一環でフェイスブックにアイデアをシェアしていて、ある投稿は3万いいねが付いたりと結構反響が大きかったんです。周りからの評判も良く、実際にプロダクトとして売っていきたいと考えた時に、土屋鞄の既存顧客層とはターゲット層が異なるので切り出した方が良いと判断しました。
角森智至(以下、角森):相当昔の話なので、いま久しぶりに思い出しました(笑)。私が土屋鞄にいたときは製造チームの鞄職人としての仕事をメインにやっていて、お客様に接する機会もなかったので、フェイスブックの投稿を通じてコメントがダイレクトに届いたのはすごく新鮮な体験でしたね。
―沼田さんはベンチャーキャピタルから土屋鞄に移られていますね。
沼田:ベンチャー企業にいたのは少しの期間ですけどね。土屋鞄に投資したくて通っていたら、いつの間にか土屋鞄で働いていました(笑)。
―土屋鞄在籍時に渡米されていますが、これはブランド立ち上げ準備のためですか?
沼田:いえ、土屋鞄ではEコマースの仕事を中心にやっていたので、情報収集のために最初は出張ベースで行っていました。当時D2Cブランドが特にニューヨークでたくさん立ち上がり始めた頃で、ブランドに連絡すると会ってくれる経営者が多く、そこで聞いた話は結構参考になる事が多かったです。それこそマットレスメーカーの「キャスパー(Casper)」のオーナーはちょうど創業時で接客もしてくれました。そういうことを繰り返しているうちに住んでしまった方が良いんじゃないかと思って、1年間滞在しました。
―土屋鞄は歴史がある企業ですが、そういった提案に対してはフレキシブルなんですね。
沼田:オーナー企業ということもあって、かなり寛容でしたね。
―アメリカでの経験もオブジェクツアイオーの立ち上げにつながった?
沼田:つながっているかと言われるとゼロではないですけど、「自分たちなりのプロダクトを作りたい」という思いの方が大きいですね。D2Cブランドを見てきたからというのは正直あまり関係ないかもしれないです。
ニッチすぎる製品を開発する理由
―オブジェクツアイオーでは角森さんが製品開発をメインで担当されています。
角森:沼田からも製品のフィードバックをもらっていますが、製品開発は私が主導しています。機能性を強みとして打ち出しているので、どう担保できるかという部分はよく話し合うようにしています。
沼田:喧嘩もちょっとしますけど(笑)。「物を作って売る」というのはやってみないとわからないところがあるので、製品開発しながらコンセプトを固めて、友人限定のテスト販売みたいなものをやりながら修正をかけたりしています。
―生産拠点は?
角森:基本的に国内です。私が土屋鞄に入る前は文化服装学院でバッグを勉強していて、その時のつながりや、土屋鞄から独立して職人になった先輩に協力してもらっています。なのでほとんどの製品は東京で作っていて、一部は海外に委託しています。海外の工場にしかない機械もあるので。
―一番の売れ筋商品を教えてください。
角森:もともとの代表的な商品はバックパックなど普段使いできるようなバッグが主力だったんですけど、新型コロナウイルス感染症が流行してからは事情が変わってしまいました。試行錯誤していた中で生まれたのがデスク周りのアイテムや、スマートフォンポーチと財布が合体したウォレットバッグで、今はそれらが求められていると感じています。
「ショルダーストラップ付MagSafe対応iPhoneケース」ではiPhone自体にマグネットが内蔵されている作りを生かして、iPhoneケースやウォレットにマグネットを入れることで、iPhoneにくっつけてショルダーバッグのように持ち歩けるようにしたという。 *販売商品にはiPhone本体ケースにカラビナが付属
―ドローン専用バッグなど、ユニークな商品も多いですよね。
沼田:市川渚さんとドローンのバッグを作ったときはびっくりしましたよ、私も。
角森:私自身もこれが受け入れられるのか不安でした(笑)。
―(笑)。どの程度需要があったのか、正直気になりました。
角森:他のメーカーからもドローン専用のバッグは発売されていますが、やはり機能性に特化しているんですよね。それはそれでもちろん需要があるのですが、利用シーンによっては自分のスタイルとあまり合わなかったり、スペックが大仰ということもあると市川さんから意見をいただいたので、バランスを取った製品として開発しました。これを出したときは「面白いねこれ」と興味を持ってもらえたので手応えはありましたね。結果的にドローンバッグとしての販売は終わりましたが、その後カメラバッグに昇華してより多くの方に届けられたので、取り組みとしてすごく良かったと思います。
市川渚をコラボレーターに迎えた「Mavic Air Bag」(現在は販売終了) 写真右:Photo by Nagisa Ichikawa
―まさに「機能」と「デザイン」の両立がブランドの強みですね。
角森:我々のブランドは「Macはカッコいいけど、パソコンを入れるバッグでカッコいいデザインがない」というところから始まっています。ナイロンを否定するつもりはまったくありませんが、機能性と上質さの両方を兼ね備えた製品は意外となく、レザーでそこを体現することを心がけています。
―全ての製品に本革を使っていますよね。レザーはどこから調達されているんですか?
角森:国内のものと海外のものを併用しています。
―製品開発で土屋さんからはこれまでどのようなアドバイスがあったのでしょうか?
沼田:最初はもう少し低価格帯で作っていて、生地も相応のものを使っていたんですが、かなり厳しい言葉をもらいましたね。「ものとして全然ダメだ。上質さを謳うんだったらもっとやり切った方がいい」と。フルレザーにした経緯も土屋さんの言葉が影響しています。
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