人気美容師の過去と今をひも解く連載の第16回。今回は、代官山に佇む一軒家のヘアサロン・Dayt.の朝菜さんにフォーカス。ヘアデザインの第一線で活躍し続ける一方で、2児の母としての顔も持つ朝菜さん。自由に撮影いただいたインスタントカメラの写真から伺える、彼女のライフスタイルとは?
#16 朝菜 あさな
インスタグラム
10月8日生まれ。埼玉県出身。国際文化理容美容専門学校国分寺校卒業後、都内1店舗を経て2018年から夫の悠馬がオーナーのDayt.に参加。現在Dayt.ディレクター。その人のファッションにフィットさせるヘアデザインに定評があり、ショートやボブなど短めのスタイルを得意とする。「やってみたい」の気持ちを後押しする提案力と確かな技術力で、幅広い世代の支持を集めている。
【店舗プロフィール】
Dayt. デイト
東京・代官山にある一軒家のヘアサロン。手厚いホスピタリティと高い技術力から、全国各地から顧客が通い詰める。一人ひとりのファッションや個性に似合わせる質の高いカットが評判で、”半歩先行くヘアデザイン”は唯一無二のもの。子ども同伴OKでパパやママ層からの信頼も厚い。
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ーDayt.は今年5周年を迎えられましたね。おめでとうございます!
ありがとうございます。先日浅草の花やしきを貸し切って5周年パーティをしたところです。160人もの方々に来ていただき、フードやドリンクを提供しつつ、いつもお世話になっている皆さんに直接お礼を伝えることができました。
花やしき貸し切りパーティの様子。アトラクションも5つほどまわしたそう
メリーゴーランド前の朝菜さん。「160人もいると会えない人が出てくるかなと思いきや、アトラクション越しに「おーい!」と手を振り合ったりして(笑)楽しい時間でした」(朝菜)
ー朝菜さんはオープンした年に第1子を出産されたそうですね。
夫の悠馬が2018年の4月にオープンさせたDayt.で立ち上げから携わり、その年の8月から産休を取り8月15日に第1子を出産したんです。産後4ヶ月で職場には復帰しました。
ー産後4ヶ月で復帰とは、かなり早いかと思います。
もちろん1年休むのもいいと思うし、保育園を利用せずにみっちり子育てと向き合うことも素敵だと思います。でも私は自分と向き合う仕事の時間が欲しかった。子育てだけではなく、外で誰かに必要とされたりお客さまとおしゃべりしたり...。リフレッシュもしたかったんです。当時はスタイリストデビューしたてというのもあり、お客さまが逃げてしまうんじゃないかという不安もありました。
保育園に通い出すまでの4ヶ月間はお店にベビーベッドを置いて毎日一緒に出勤していました。スタッフが抱っこしながらカラーをしてくれたり、1階にあるお茶専門店「ティーバックス(TEA BUCKS)」の友人が遊んでくれたり、なかには「ミルクあげたい!」と言ってくれるお客さまもいて…。本当にたくさんの人に助けられました。
ー産後、仕事モードに切り替えられたきっかけはあったのでしょうか?
第1子を産んで4ヶ月の時に、ママ美容師の座談会に参加したんです。いろんな女性美容師がそこにいて、皆が抱える悩みや不安を聞いたんです。仕事と子育ての両立に悩んでいる人、キャリアが途絶えるのが怖くて1歩が踏み出せない人、産休・育休の取り方をオーナーになかなか伝えられない人…。前職の時は、子育てしながら美容師をやっている人をあまり見たことがなかったので、皆さんが悩んでいるリアルな声がすごく新鮮でした。
座談会でいろんな経験談を聞くうちに、店がサポートしたいと思う自分でいないといけないし、「ママだから許されるでしょ」みたいなスタンスも違うなと思ったりして。リアルな声を聞いたことで、ある意味覚悟が決まり仕事モードに切り替わった記憶があります。
ー同じ悩みを持つ女性美容師の話を聞く貴重な機会だったのですね。
いろんな正解のかたちがあると思います。でも試行錯誤しながら全部何とかするしかないし、実際なんとかなる(笑)。座談会で「迷っているなら次のステップに行ってみたら?」という背中を押してもらえる言葉を聞いて、子どもがいてもいなくてもトライ&エラーの連続だなと思いました。
ー現在は2人のお子さんを育てられている朝菜さん。仕事と子育てとの両立のコツはありますか?
よく聞かれるのですが、私もあんまりよく分かっていなくて(笑)。本当にただ頑張っているという感じです。でも、両方やることが私にとっての相乗効果になっています。子どものために仕事を頑張ろうと思えるし、仕事を頑張ったから子どもがよりかわいいと感じるんです。
アウトドア派で、毎週どこかへでかけているという朝菜さん一家。「夏は毎週川に行ったりバーベキューをしたり。子どもだけではなく、大人も楽しい場所によく行きます」(朝菜)
結婚記念日の家族旅行のときの1枚。鬼怒川の星野リゾートにて
ー朝菜さんがDayt.に参加したきっかけは?
新卒で入社し9年勤めた前職のヘアサロンを辞める少し前のことです。世界旅行をしていた夫の悠馬が帰国して、Dayt.の前身となる美容室でフリーランスとして働き始めていて。最初は手伝うという形で私もそこに入りました。独立を視野に入れていた悠馬が独立するタイミングで、その店のオーナーが店自体を畳むという話が出ました。良い物件だったのでそのまま権利を譲渡してもらい、名前を変えて新しくスタートしたのがDayt.です。
私はデビュー目前で前職を辞めたので、悠馬に1からカットを見てもらい、Dayt.でスタイリストデビューを果たしました。
ー9年勤めた前職を辞めた理由を教えてください。
社員旅行でスペインを訪れた時に「それぞれの自分軸で生きる海外の方々」を見たことが1つのきっかけでした。「日本で生まれて東京で当たり前のように生活しているけれど、本当はどこだって自由に生きられる。何が正しいとか誰がどう思うとかじゃなく、大事にしたいものと自分自身を信じて1つ1つちゃんと選択していく人生って1番幸せだな」とふと思ったんです。そこから人生について深く考え直し、お店を辞めることをスパッと決断しました。本気でやっていたので未練もなく、清々しかった記憶があります(笑)。
ー1社目での9年間はどんな時間でしたか?
とにかくがむしゃらで勉強になった9年間でした。「やること全部に意味がある」「何でも本気で楽しむ」という信念を持った熱い人達が集まっている場所で。ここで過ごした時間が今の自分の芯を作ってくれたと感謝しています。
私は昔から負けん気が強く生意気だったと思います。レッスンも同期に負けたくないし、先輩も抜かしたいって思っていたほど。なるべく物事を合理的に進めたいタイプだったので、練習もモデルハントもいかに効率良く結果を出すかをよく考えていました。
ー夫の悠馬さんはどんな存在ですか?
たぶん私が1番影響を受けている人だと思います。すごくストイックで妥協がない人。前職からの先輩なのですが、本当に私にないものばかりを持っていて、人としても美容師としてもとても尊敬しています。
ーDayt.がある東京・代官山はどんな街でしょうか?
元々は原宿の美容室にいたので、全然違う街という印象です。自分が年齢を重ねて親になったというのもあると思うのですが、代官山はすごく落ち着いていて、子どもも連れて来やすい。人々のリラックスしたいという気持ちが強いような街だと感じています。
ー白い一軒家のDayt.。外装も内装も素敵です。
実は5階建てになっているんです。1階は、シャンプー台と壁で区切られてティーバックスという日本茶専門店が入っています。2、3階がメインのサロンワークスペースで、4階にはフリーランスのアイリストが来たり、イベントスペースとして活用したりしいます。5階はスタッフルーム。待ち時間のあるお客さまはティーバックスのメニューもオーダーしていただけます。
白い大きな一軒家のDayt.の入り口は2階から。写真左に見えるのが1階にある
モロッカンタイルの床に、ブルックリン調のライトがあったり、インテリアひとつひとつにこだわりが見える店内
ー1階は日本茶専門店さんなのですね。
ちょうどDayt.が始まるタイミングで一緒にオープンしたティーバックスは、悠馬が世界旅行中にペルーで会ったお友達が勤めているんです。私はオーナーの大場さんからもかなり刺激をもらっています。アグレッシブに人脈を広げたり、お茶の概念を壊すようなさまざまなカルチャーを生み出したり...。挑戦し続けるハングリー精神がすごい。この前も「ロエベ(LOEWE)」とコラボされていて。今後もどんどん大きなことをやられると思います。
ティーバックスで淹れている日本茶は一流のものばかりなのですが、それをハードルが高いものとはせずカジュアルに価値のあるものとして落とし込んでいる。そういう点ではDayt.のヘアデザインとも共通点があると思っています。
TEA BUCKSの店内の写真。上質な日本茶を飲むことができる。TEA BUCKS:東京都渋谷区恵比寿西2丁目12−14 https://teabucks.jp/
先日の5周年パーティでの一枚。写真右側がTEA BUCKSの大場さん。「タトゥーだらけで一見怖い印象かもしれないのですが、仕事のスタンスはものすごく真面目。Dayt.でもそういうスタンスや生き方が大切だと思っています」(朝菜)
ーDayt.がサロンワークで重要視していることは?
遠い方だと北海道、南は沖縄まで、以前は南米チリからきてくださっているお客さまもいました。日本各地からわざわざ代官山のDayt.に来てくださる意味をよく考えます。
半歩先行くデザインを提供する。接客で楽しい時間を過ごしていただく。わざわざ遠くから足を運んでくださるお客さまに応えられるような技術力と接客力はいつも準備していますし、これからも精進していきたい思いです。
でもそれだけだと堅苦しくなってしまうから、カジュアルに感じてもらえる空間や接客、距離感はいつも心がけていることかもしれません。Dayt.ならではの細やかなホスピタリティはすごくこだわっている部分なので、ぜひ体感していただきたいです。
ー今回ヘアデザインを2つ作っていただきました。ファッショナブルなお写真ですが、ヘアスタイルを考えるとき、ファッションとの相互性は考えられますか?
絶対一緒に考えますね。アシスタント時代、撮影のリース係という衣装を考える役割を担当していて、その経験からファッションとのバランスを考えることが多かったんです。自然とお客さまの髪を作るときも撮影をするときもファッションから入るようになりましたね。
プレーンなボブスタイル。ファッションに合わせてマルチに質感を変えられるようにあえてニュートラルでベーシックなスタイルを提案。骨格に合わせてカットし、魅力を引き立てる。(hair design & photo:朝菜)
ー朝菜さんの作る、得意なヘアスタイルやこだわりについて教えてください。
短いスタイルが得意ですが、特に顔周りはこだわって切っています。毎日過ごしてる中で1番、目に入る部分ですよね。そこにこだわるとヘアスタイルの質も満足度も格段に上がると思っています。スタイリングの仕方なども丁寧に伝え、お客さま自身がファッションやシーンに合わせて2wayや3wayで自由に楽しめるような提案をします。たくさんコミニュケーションを取って「この髪型に挑戦してみたい」と、お客さまが安心して任せられるような、そっと背中を押してあげられるような関係性を心がけています。
1社目のときからの長い付き合いのお客さま。Dover Street Market Ginzaで働く彼女のファッション性に合わせてカラーにもひと癖入れている。最近は黄色がお気に入りだそう。(hair design & photo:朝菜)
ー最後に、今後の目標を教えてください。
今年Dayt.は5周年を迎えましたが、まだまだ5年目。今はまだ土台作りをしている段階だと思っているので、今後は人を育てることを頑張りたいです。多店舗展開などは考えていないので、面白い人を集めてDayt.の密度をグッと濃くしたいんです。
(写真:朝菜、企画・編集:福崎明子、山本真由香)
編集者、ライター
出版社2社を経て独立。書籍の企画・編集、ブックライティング、記事等のインタビューなど活動中。ペンギンが好き。「now&then」の聞き手、文を担当する。
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