上海滞在生活の日々を綴るコラム連載「ニイハオ、ザイチェン」。東コレデザイナー、海外での企画生産を経てアパレルメーカーのアジア展開を担当する佐藤秀昭氏の視点から中国でいま起こっていることをお届けする。第4回は、現地で出会った“スメルズ・ライク・ティーン・スピリット”な友達からの金言をもとに、いま話題のブランドやイベントをレポート。Z世代から発信される上海のファッションシーンから感じたのは、「スワロウテイル」に描かれた、円が世界で一番強かった時代の円都(イェン・タウン)を彷彿とさせる混沌と混乱、そして狂熱だった。
(文・佐藤秀昭)
この街では僕はエイリアンだ。
ADVERTISING
基本的には言葉が通じない。道の名前も分からない。
一日が終わり、人々が家路へと急ぐ頃に客が結構来る、できるもんならなんでも作ってくれる食堂も知らない。
妻や愛猫、友人も、向かいのホーム、路地裏の窓、こんなとこにいるはずもない。
さらに、いつの間にか若いつもりが歳を取ったオッサンなのだ。上海のキラキラしたZ世代のことも分かるはずもない。
だからこそ、この街で“スメルズ・ライク・ティーン・スピリット”を持つお友達作りに勤しむのだ。
Nirvana「Smells like Teen Sprit」
◇ ◇ ◇
上海で出会った僕のお友達を紹介したいと思う。
福岡を拠点にしたインダストリアルスタイルカフェ「NO COFFEE」上海店のバリスタで、気は優しくて力持ち、明るい笑顔のロン君。
ロン君(左)と。
リノベーションされた4階建ての老房子(ラオファンズ)で、いい匂いがするヴィンテージ古着を取り扱う「ザ・ストーリーズストア(THE STORIESTORE)」のとびっきりイカしたスタッフ、シズカさん。
※ 老房子:フランス租界時代に建てられた上海の古い住宅。中国と西洋のテイストがミックスされたデザインが特徴。
シズカさん
彼らは一人っ子政策下に生まれ、中国の高度経済成長期に育ち、旧態依然な価値観なんてネバーマインドなデジタルネイティブ世代だ。
そして、そんな上海のZ世代がファッションアイコンとして崇める60歳のインフルエンサー、マージェ(马姐)さん。
マージェさんのTikTokより
僕の青春映画の金字塔である岩井俊二監督作「スワロウテイル」にも出演されており、中国版TikTokのフォロワー数は30万人。モデルとして数々の広告で活躍し、唯一無二の存在感と圧倒感で上海のストリートにファッションの可能性と自由度を描く。
◇ ◇ ◇
彼らからこぼれ落ちる金言をもとに、今の上海で話題のブランドやイベントを巡る。
チュー(chuu)
まずは韓国からの使者、日本でも人気がありゾゾタウンにも店を構える「チュー(chuu)」。中国版Instagram「レッドブック(小紅本)」で認知度を上げ、レッドブックアカウント内にも店舗を出店。現在はラグジュアリーブランドが軒を連ねるモールや話題の新しい商業施設にも次々と実店舗を展開している。
そんな同ブランドのイチ押しのアイテムは、“5kg痩せて見える”という「マイナス5KG JEANS」(349元、日本円で6400円)。「ダイエットは明日から」を座右の銘とする僕も是非ご相伴に預かりたい。
ブランディ・メルビル(Brandy Melville)
続いて、1993年設立のイタリア発ファッションブランドで、2022年日本上陸の噂もある「ブランディ・メルビル(Brandy Melville)」、略して「BM」。
タイトなジーンズにボディをねじ込む、サイズが小さめのカジュアルなスタイリングが中心だ。価格帯はジーユーに近く、店員さんは風に吹かれた僕の冷たい頬がぽっと赤く染まるほどのハンサムばかり。店舗は中国では上海と北京のみとなり、EC展開をしていないことで店内は常に若い女性でごった返す。
勢いのある中国発の国潮ブランドもいくつかある。
※ 国潮(グオチャオ):中国のドメスティックブランドを着用、または着こなしに中国のエッセンスを取り入れた、中国Z世代を中心にしたトレンド。
ボーシー(Bosie)
まずは上海の中心街である淮海中路(ファイハイジョンルー)に宇宙船をイメージした大型の店舗を構える、2018年創設の「ボーシー(Bosie)」。
性別や年齢をカテゴライズしない「NO GENDER.NO BORDER.」をコンセプトに掲げ、中国の動画サイト最大手「ビリビリ動画」も投資する注目のユニセックスブランドだ。Z世代にとっても比較的手を伸ばしやすい価格帯で、「ドラえもん」とのコラボも展開。1階にはカフェを併設しており、SNS映えする店舗には写真を撮る若者がたくさん訪れている。
ランダムイベント(Randomevent)
オンライン発のDtoCストリートブランド「ランダムイベント(Randomevent)」は、ユースカルチャーとストリートスタイルの融合をコンセプトに、ヴィンテージやロック、ヒップホップ、グラフィティアートなど、1990年代の裏原宿も感じさせる様々なエッセンスをミックスしている。プーマやアディダス、ニューバランスなどともコラボレーションした経歴を持つ。
上海では、お洒落なカフェが立ち並び、東京で例えると中目黒のような街、愚园路(ユーユエンルー)に店舗を構える。
ナイスライス(nice rice)
他ブランドとは異彩を放ち、ミニマルでクリーンなイメージを打ち出す、2018年創業の「ナイスライス(nice rice)」。
侘び寂びを感じる心地よい店内は、白や黒、グレー、ベージュを基調にした落ち着いたカラーパレットの高品質な洋服で埋まり、グラフィックやロゴを着るのは少し気恥ずかしくなってしまう大人たちでも心惹かれるものがあるのではないだろうか。このブランドもDtoCブランドとしてECからスタートしたが、現在では新天地などの一等地にも店舗を開いている。
※新天地:上海特有の長屋風の石造りの集合住宅が2000年にリノベーション開発された上海の観光名所エリア。レストランやショッピングセンター、カフェ、バーが立ち並ぶ。
オクシーステュディオ(OXY STUDIO)
オンラインで展開しているブランド「オクシーステュディオ(OXY STUDIO)」も紹介したい。ブランドコンセプトは「TOO YOUNG TO DIE, TOO FAST TO LIVE」。2014年にデビューし、ポップでキッチュな商品を提案している。コカ・コーラやエビアンをモチーフにしたパロディ風のロゴTシャツは1000円台で販売されており、妻へのお土産として購入した。
が、結局僕が気に入ったので先に着てみた。妻よ、いつもうまく言えないけれど、素直にアイムソーリー。
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【ニイハオ、ザイチェン】の過去記事
RELATED ARTICLE
関連記事
RANKING TOP 10
アクセスランキング
銀行やメディアとのもたれ合いが元凶? 鹿児島「山形屋」再生計画が苦境