上海滞在生活の日々を綴るコラム連載「ニイハオ、ザイチェン」。東コレデザイナー、海外での企画生産を経てアパレルメーカーのアジア展開を担当する佐藤秀昭氏の視点から中国でいま起こっていることをお届けする。第2回は、「書を捨てよ、町へ出よう」という言葉に背中を押されるように町に繰り出し、そして出合った建築スポットをフィーチャー。独創性に溢れるリノベーション建築は必見だ。
(文・佐藤秀昭)
本を読み漁っていた大学時代をふと思い出し、夜更けに寺山修司の「書を捨てよ、町へ出よう」を読み耽る。
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“ヒマラヤほどの消しゴムひとつ 楽しいことをたくさんしたい
ミサイルほどのペンを片手に 面白いことをたくさんしたい“
一人の休日がやってきた。夢から覚めたら、自分への“処方箋”としての爆音のザ・ブルーハーツ。寝返りの反動で、フルスイングで体を起こす。
ザ・ブルーハーツ「1000のバイオリン」
◇ ◇ ◇
寺山に倣って町へ出る。
上海の地では今、雨後のタケノコのように巨大商業施設が立ち続けている。
安藤忠雄氏や丹下健三氏、隈研吾氏、ザハ・ハディッド氏など、世界的な建築家が手掛けた圧倒的な建築も見応えがある。
教科書にも載るような歴史的建造物、アヘン戦争後の上海租界時代、東洋のパリと呼ばれた1920年代の洋風建築、生活に根付いた生きるエネルギーに溢れた雑踏。そして、心を揺さぶられるような独創的なリノベーションも多く見られ、そういったカオスの町並みに触れられることも、上海の一つの楽しみだと思う。
※上海租界:1842年の南京条約により開港した上海に設定された外国人居留地。
例えば、2020年末に開業した「蔦屋書店」。
1924年、ダンスやテニス、ゴルフ、乗馬なども出来る、駐在アメリカ人向けの娯楽施設としてアメリカ人建築家のエリオット・ハザード氏によって建てられた「上生新所(コロンビアサークル)」の中にある古い洋館「コロンビアカントリークラブ」をリノベーションした建物であり、休日は入店のために整理券が必要なほど、現地で人気だ。
敷地内では、竣工当時のままのタイルに囲まれたプールに水が張られ、フォトジェニックな空間に。そのプールサイドには、オープンテラスのカフェやバー、ギャラリーやレストランが並んでいることもあり、写真を撮るインフルエンサーや観光客が多く見られる。
1862年にイギリスの造船会社が建てた造船所を、隈研吾氏が劇場も併設される複合的なアートセンターとして2018年に生まれ変わらせた、黄浦江沿いの「船厰1862(MIFA1862)」。色とりどりの煉瓦が空中に浮かぶファサードが特徴的だ。
ありのままのアスファルトやコンクリート、むき出しの赤く錆びた鉄骨、外に大きくせり出した煙突。館内には、和洋中の高級レストランに加えて、バブアーや桃太郎ジーンズを取り扱う無骨なメンズのセレクトショップも展開している。
そして、上海のリノベーションの代名詞。1933年にイギリス人建築家バルフォア氏によって建てられた石造りの屠殺場は、2007年に「19参III老場坊」へと”変身”を遂げた。
目の前に広がる幾何学模様のファザードの圧倒感。何万匹もの牛が歩んだであろう、エッシャーのだまし絵のように入り組んだ通路と、縦横に走る空中回廊。
迷路のような館内には、スターバックス、オフィス、ギャラリー、ミュージックホール。ベン・E・キングのスタンドバイミーがかかるアメカジの古着屋や、ヴィヴィアン・ウエストウッドを扱うショップもあり、写真を撮る恋人たちが多く見られた。
今しか見ることができないものや、楽しいことを、 面白いことを探しに。
書を捨てて、今日も町へ出よう。
■コラム連載「ニイハオ、ザイチェン」バックナンバー
・vol.1:上海と原宿をめぐるアイデンティティ
・プロローグ:琥珀色の街より、你好。
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