上海滞在生活の日々を綴るコラム連載「ニイハオ、ザイチェン」。東コレデザイナー、海外での企画生産を経てアパレルメーカーのアジア展開を担当する佐藤秀昭氏の視点から中国でいま起こっていることをお届けする。第11回は休日も麺屋を訪れるなど「1日1麺」活動に勤しんだ同氏が選ぶ、現地でぜひ行っておきたいイチオシの上海麺店を紹介。
(文・佐藤秀昭)
窓の外の上海を見ると、桜の季節は過ぎ、ハナミズキの香る季節がやってきていた。当初、上海市から発表された隔離解除時期からはすでに1ヶ月が過ぎたが、まだ部屋の外にも出られない。これが中国のゼロコロナ政策なのだ。隔離が明けたら何をしたいだろう、と考える。まずは出勤し島耕作のように好きな仕事で犬のように働く。そして書を捨てて街に出て友人に会う。最後に「1日1麺」の復活だ。
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上海に来てからというもの、会社の近くにたくさんのローカルの麺屋があり、ランチはいつも麺を食べていた。「早い」「安い」「美味い」と三拍子揃っており、休日も麺を求める旅に出た。気がつけば、食べた麺の数が上海の滞在日数を越えていた。その軌跡を「1日1麺」と名付けている。
なお上海には、「一風堂」「大勝軒」「博多一幸舎」など日本でも人気の名店も多く上陸しており、ロックダウン前にはミシュランガイドの星を取ったことでも有名な「金色不如帰」も進出し、行列ができるほどの人気を博していた。上海に進出した日系ラーメン店は日本の味を忠実に再現しており、僕も何度か訪れその麺にポンポンと舌鼓を打った。ローカルのレストランと比べると上海では少し高級店の部類に入ると思う。
今回は、現地メンバーや友人からの口コミ、中国最大の評価サイトである大衆点評(ダージョンディエンピン)の評価をもとに、僕が訪れた上海の名店をいくつか紹介したいと思う。
「馬子緑」馬子緑牛肉面
100年の歴史があり、中国全土で5万軒以上を展開している「蘭州ラーメン」の雄「馬子緑(マーズールー)」。
髪の毛のような細麺から、我がふるさと群馬名物「おっきりこみ」のような幅広麺まで6種類の太さの麺を選ぶことができる。牛骨をベースにした薬膳風味のスープには香ばしいラー油が浮かぶ。食べ進むにつれ、ラー油の赤がスープに溶け出し、味の変化が楽しめる。風味の強いパクチーとにんにくの葉のトッピングも、イスラム風のエスニックなオリジナリティをふんだんに味わうことができる。シルクロードを渡ってきただけのことはある。そしてさすが有名店、サービスは行き届いており、店内も清潔。価格は少し高めとなるが、上海麺生活では外せない店の一つだ。
料理・味 ★★★★☆
サービス ★★★★★
コスパ ★★★☆☆
量 ★★★☆☆
独創性 ★★★★★
「沪西老弄堂面館」辣肉拌麺
上海麺といえば「沪西老弄堂面館」を挙げる上海人も多い。3階建ての店内は常に満員で活気に溢れている。周りを見渡せば観光客も多いようだ。最もシンプルな葱油拌麺は9元(180円)と破格だ。この料金体系に加えて、アルデンテの麺は普通盛りでも充分な量で大満足。どのメニューも絶品だが、特に2種類の肉と麺のぷちぷちとした歯ごたえが楽しめる辣肉拌麺は並んでも何度でも食べたくなる。最後は限りなく透明に近いスープを投入し、ラーメンスタイルとして2度楽しむことも出来る。昼食時には1時間以上並ぶこともあるが、麺を湯切るマエストロと多くのオーケストラメンバーがおり、建物自体が揺れているようなそのシンフォニーは圧巻だ。上海一の名店という評判にもうなずける。
料理・味 ★★★★★
サービス ★★★★☆
コスパ ★★★★★
量 ★★★★★
独創性 ★★★★☆
「君東記」清炒鱔絲麺
日本ではあまり馴染みがないが、上海名物である「鱔(タウナギ)※」を麺料理で味わうなら「君東記」に限る。細打ちで素麺に近い麺はそこまでコシはなく、単体では柔らかいと感じる人も多いかもしれないが、その分、プリプリと弾力がある食感のタウナギとのマリアージュが活きる。スープはかなり濃く、さながらつけ麺のつゆのよう。更にそこに胡椒がガツンと効いたタウナギのタレを投入すると、もはやおかずのような味の深みを生み出す。そして麺の替え玉は永遠に無料。なんというホスピタリティ。店内は家族連れが多く、その喧騒も含めて楽しめる上海らしい一軒だ。
ただ、来店した日の夜は、砂漠に遭難しオアシスを探し求める夢を見た。適度な水分補給が必要となるので要注意だ。
料理・味 ★★★★☆
サービス ★★★☆☆
コスパ ★★★☆☆
量 ★★★★★
独創性 ★★★★★
※鱔(タウナギ):タウナギ目タウナギ科タウナギ属に分類され、ウナギ目に分類されるニホンウナギとは大きく離れた種類の魚。見た目はうなぎに似ているが、縁もゆかりもない。
◇ ◇ ◇
この隔離生活中、買い物に出ることは当然許されておらず、配達員が限られている問題もあり当初は食材の手配にも苦労をした。その代わりに数度上海市からの配給があり、その中には必ずインスタントラーメンが入っていた。しかし不思議なもので呼吸をするように吸い込んでいた麺にどうも食指が動かない。
そうだ。わかった。僕は麺そのものが好きだっただけではなく、お店の喧騒を肌で感じ、そこにいる人たちの佇まいに触れその人たちと交流するのが好きだったのだ。
そんな「1日1麺」生活を偲び、家にある食材で上海名物である「紅肉牛肉麺」を作ってみた。1日も早く「日常」がもどってくることを祈りながら、ゆで卵と青梗菜を添え、細打ちの博多ラーメンをすすり、牛すじをフォン・ド・ヴォーにしじっくりと煮込んだスープをすくう。
そして、この日も砂漠で遭難する夢を見た。
矢野顕子×上原ひろみ 「ラーメンたべたい」
次回は5月16日(月)公開予定です。
■コラム連載「ニイハオ、ザイチェン」バックナンバー
・vol.10:上海のペットブームの光と影
・vol.9:上海隔離生活の中の彩り
・vol.8:上海で珈琲いかがでしょう
・vol.7:上海で出会った日本の漫画とアニメ
・vol.6:上海の日常 ときどき アート
・vol.5:上海に吹くサステナブルの優しい風
・vol.4:スメルズ・ライク・ティーン・スピリットな上海Z世代とスワロウテイル
・vol.3:隔離のグルメと上海蟹
・vol.2:書を捨てよ 上海の町へ出よう
・vol.1:上海と原宿をめぐるアイデンティティ
・プロローグ:琥珀色の街より、你好
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