KENZOのフィナーレで客席のファレル・ウィリアムスと握手を交わしたNIGO
Image by: KENZO
パリ・ファッションウィークの公式スケジュールで2つのブランドを手掛け、2本のショーのフィナーレに登場したデザイナーは他にいないだろう。NIGOは今シーズン、アーティスティックディレクターを務めている「ケンゾー(KENZO)」だけではなく、ファレル・ウィリアムスとタッグを組んだ「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」でもメンズコレクションに携わるという、稀有な役目を成し遂げた。ケンゾーのクリエイションの背景や、ルイ・ヴィトンとの両立など、NIGOの多岐にわたる仕事について、ケンゾーのショー前日のスタジオで取材した。
デザインディレクターが加入し新体制に
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ルイ・ヴィトンのショーが開催された2日後、ヴィヴィエンヌ通り18番地に位置するケンゾーのパリ本社を訪ねると、NIGOは最終のフィッティング作業を黙々と進めていた。ショーの前日といえど、混乱するほどの慌ただしさはない。モデルに持たせるバッグを指示し、フィッティングを確認したNIGOは、一息つくようにスタジオの一角に腰をかけ、「何でも聞いてください」と取材に応じた。
まず尋ねたのは、ケンゾーの新体制について。新たにデザインディレクターに就任したJoshua A. Bullenは、2011年から2021年まで「ストーンアイランド(Stone Island)」のヘッドデザイナー、そして2021年から2024まで「ジバンシィ(GIVENCHY)」メンズウェアのデザインディレクターを務めた人物。「もう10年以上も前からの友達なんです。僕がケンゾーに入った頃から声を掛けていて、ジバンシィを離れたタイミングでスタジオのマネージャーとして来てくれました」。日本を活動の拠点としているNIGOにとって、スタジオを任せられるパートナーは不可欠な存在だ。「ノリがわかるというか、理解し合える仲間が増えたことで、より充実していくと思います」。
しかし、新体制となってからまだ2ヶ月あまり。メンズ・ウィメンズのフルコレクションを作るには十分な時間ではないことから、今シーズンに限りメンズは1月、ウィメンズは3月と、コレクションを分けて発表することになった。
"NIGOのケンゾー"のスタイルが出来上がってきた
NIGOがアーティスティックディレクターに就任してから3年を経たタイミングで、得意分野でもあるメンズに改めてフォーカスしたことは、ブランドにとって良い変化をもたらしたのではないだろうか。そう印象付けたのが、ショーの序盤を飾ったテーラードルックだ。
NIGOが所有する膨大な服飾アーカイヴから、自身も愛用している英国のテーラリングを参照。ソフトな仕立てとボックスシルエット、そして鮮やかなカラーとモヘア素材が、軽快でフレッシュなバランスを生んだ。アーカイヴから引用したペイズリーやストライプ、そして毎シーズン取り入れている着物風のディテールも、粋な装いのエッセンスとなっている。
「"NIGOのケンゾー"のスタイルが出来上がってきたというか。例えばデニムひとつとっても、最初の頃は思い通りにいかなかったのですが、チームや工場とも理解し合えるようになってからは、もの作りが面白くなってきた。同時に顧客も、3年で定着してくれています」。
フューチュラとの友情とニューヨーク
今回のメンズコレクションでひとつの柱となったのは、米グラフィティアーティストのフューチュラ(Futura)を迎えたコラボレーションだ。NIGOが最初にフューチュラの作品と触れたのは、1989年にさかのぼる。初めて訪れたロサンゼルスで「アニエスベー(agnès b.)」の店舗に立ち寄った時に、「FRAGILE」のタグがプリントされた斬新なデザインのTシャツに惹かれて購入。それがフューチュラが手掛けたものだということを後で知り、その後1994年に東京で初めて本人と出会ってから友情が育まれたという。
「僕の中では、当時の活動名の『Futura 2000』への思いが強くあります。それに今年は2025年で"25=NIGO"なので、"Futura 2000 & 25"としてやれたらいいなと」。出会いから30年、メモリアルな取り組みとなった。
Futura 2000の代表作品のひとつである「アトム」を、ケンゾーを象徴するボケの花のモチーフと組み合わせたほか、手書きのロゴもデザイン。またフューチュラが拠点とするニューヨークのカルチャーから派生して、紙袋に酒瓶やパンなどを入れて持ち歩くというストリートのスタイルを取り入れるなど、NIGOならではのユニークな感性がアクサリーに反映された。
しかし「ニューヨーク=グラフィティ=ヒップホップ、という一辺倒にはしたくない。たくさん良いものがあるから」という考えのもと、音楽がショー演出の重要な役割を果たした。ニューヨークを拠点とするチェリスト兼作曲家のエリック・フリードランダー(Erik Friedlander)に、生演奏をオファー。背景となったのは、2014年公開の映画「A FILM ABOUT COFFEE」に登場する、東京・青山の喫茶店「大坊珈琲店」(2013年に閉店)のオーナー大坊勝次のシーンだ。「大坊さんがコーヒーを淹れるシーンで流れていたのがエリックの曲。それ以来、彼の音楽を聴きながら毎朝コーヒーを淹れているんです」。
ショーのタイトルは「リサイタル」。エッフェル塔を臨むシャイヨー宮を会場に、チェロ1本で多彩な音色を響かせた。
ケンゾーとルイ・ヴィトン、2つのチーム
ケンゾーとの契約を更新したというNIGOに、今の立ち位置から思うことを聞いた。「最初の3年は、やはり畑を耕して、種をまいて。でもその間に同じグループにファレルが加わったりと、想像しなかった流れが出てきました。面白いな、と思っているところです」。
そのファレルが手掛けるルイ・ヴィトンの2025年秋冬メンズコレクションでコラボレーションを果たした今シーズン、実際にケンゾーとルイ・ヴィトンでのクリエイションの両立は大変だったというが、「すごくいい感じでした」と振り返った。「火と水というか、違ったものになるとは思っていました。どちらもそれぞれ優秀なチームですが、雰囲気が違う。やはりファレルはスターでエンターテイナーだから、現場を盛り上げてくれるんです。その点ケンゾーの方は、職人気質というか」。実際にNIGOは口数が少ないタイプだが、日本のお菓子をチームにふるまうなど、気配りを欠かさないと聞く。
最後に「2025年、"NIGOイヤー"のこれからは?」と水を向けると、「色々とやろうとは思っていますよ」と匂わせ、穏やかな表情を浮かべた。まいた種が芽吹き、どんな花を咲かせるのか。新たな体制となったケンゾーとNIGOのこれからにも注目したい。
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