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仕事はメジャーでも趣味はマイナーでありたい——四半世紀にわたって描き続ける永井博の「懐かしさ」の哲学

ー永井さんの作品は実家や生まれ故郷にプールがあるわけでも、椰子の木が植えてあるわけでもないのに、私自身なぜか「懐かしさ」を覚えます。

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 僕の絵を見て「懐かしい」と思うのは、日本人だけではなく海外の人も思うみたい。僕からしてみたら「懐かしいけど俺は20代から70代までの現在進行形でずっとやってるよ!」と言う感じだけど(笑)。ずっと肝に銘じているのは「"懐かしい"は良いけど、"古い"のはダメ」と言うこと。「古い」って言われたら終わりだなってずっと思っています。「懐かしい」というのは人間の情に訴えかける部分で、みんなが求めているもの。でも、「古い」というのは拒否されてるじゃないですか。

ー「懐かしさ」と「古さ」は紙一重な気がします。

 そうですね。やっぱり「ちょっとダサい」と古くなるのかな。でも、「ダサい」と「イケてる」というのも紙一重だよね。例えば細いズボンが流行って、その時に太いパンツを履いてるとダサくなっちゃう。でも、なんとなく時間が経つと太いズボンが流行って、細いパンツがダサくなるみたいな。

ー永井さんの作品から「古さ」は感じません。老若男女問わず長い間支持を集めている理由はなんだと思いますか?

 古くならずに済んだのは音楽と繋がっていたからだと思います。音楽は世相を表すものだから、それとずっと関われているというのは古くなりづらい理由かもしれないですね。展示作品の様に「出して終わり」ではなく、ジャケットとして時代を超えて一定の量、人の目に触れ続けるわけで。そういう意味でも"ロンバケ"は偉大。やっぱり音楽の力はすごいよね。

ー約半世紀に渡って、様々なアーティストのジャケット制作に携わっています。

 安いギャラでね(笑)。最初は安いギャラでお願いされて「嫌だな」と思うんだけど、バンドが送ってきたテープを聴いて「この音楽は俺の絵に合うな」と思って引き受けるとか、一度断ったアーティストが、僕がインスタグラムでフィード投稿する度に「いいね」を押してくれるから引き受けるとか(笑)。大体いつも観念して「その金額では、流石に描き下ろしはできないけど、昔描いた有り物貸してあげるよ」と言うんです。それでも協力したくなるのは「音楽が好きだから」なんだと思う。僕は音楽も好きだけど、レコードも好き。LPレコードで大きいジャケットに描くのが楽しいんです。今はCDが主流の時代だけど、世の中が「懐かしさ」を求めているせいか時代が巡って、今は割とすぐにCDもLP化してくれるから嬉しいよね。

ー72歳の永井さんから「いいね」と言う言葉が聞けるとは思いませんでした。インスタグラムを使いこなしていますよね。

 答えは全てネットの中にあるじゃないですか(笑)。最近でも、バスから降りたら足元がふらついてしまって、すぐググったら「パーキンソン病」って出てきて戦々恐々としました(笑)。

ーフィード投稿のコメント欄には海外からのコメントも多いですよね?

 多いですね。僕の息子が「FMCD Gallery Studio」というプライベートギャラリーを運営してくれているんですが、そこにも外国人観光客の方がよく来てくれているみたいで。訪れた人に「何が良いんだ?」と聞くと、「風景はアメリカだけど色が東洋的だ」と。自分では全く意識してない部分ではあったけど、今は淡い色とか線画が主流の中で「今風の色使いではないな」という気づきもありました。時々僕も淡い色で描いてみるんだけど、反響が良いのはいつも描いてるパキッとしている作品。淡い色の作品をインスタに上げるとわかりやすく「いいね」が少なくなるんです(笑)。

ー同じ作品を描き続けることにストレスを感じることはないですか?

 「同じ絵を描いてもいいんだ!」と思えているからストレスはないです。それは、音楽を聴いていくうちに「リミックス」とか「リエディット」と言う言葉を知れたからなんですよね。絵をリミックスして昔の作品に椰子の木を1本生やすだけでそれは立派な作品だし、作品の一部を切り取ることも"制作"なんですよ。

ーCDジャケットだけではなく、グラフペーパーなどのファッションブランドをはじめニコアンドや「デルフォニックス(DELFONICS)」など、永井さんの作品を用いた文房具雑貨も発売されています。アーティストの中にはコラボに慎重な方もいますが、永井さんはいかがですか?

 僕は好きですよ。自分の作品の価値が落ちるとも、見え方が変わってしまうとも思っていないです。服や音楽にまつわる物など、自分が好きなものに施されることにあまり抵抗がない。だから、今度発売されるレコードプレイヤーなんて最高に嬉しかったですよ。

 雑貨類に関しては、本当は不本意だったんだけど、作った後に若い子に喜ばれたのが嬉しくて。やって良かったと思いました。デルフォニックスのノートがボロボロになるまで使ってくれているのをみるのはやっぱり嬉しいじゃないですか。僕は多分、若者が好きなんですよ。

ー「若者が好き」と言うのは具体的には?

 別に自分が若くあろうとしているつもりもないし、自分に呪いをかけるつもりもないですが、やっぱり年寄りは「古い」。僕はやっぱり「流行りもん」が好きなんです。もっと言えば「流行っているもの」ではなく「流行りそうなもの」が好き。例えば、安いレコードを何十枚も買い込んでから1枚ずつ聴いて「まだ誰も知らない最高の1枚」を見つける"ディスカバリー"が大好き。服でいえば、「シュプリーム(Supreme)」が流行りかけていた数年前に、友人にもらってTシャツを着ていたんですけど、様々な意味で若者ではない人たちに「何それ」と言われるんです。若者だと話が早いというか通じやすいんだよね。

ー「若者」と「流行りそうなものが好き」。永井さんの作品が「古いもの」ではなく「懐かしさ」を覚える理由に繋がっている気がしました。

 「仕事はメジャーでも趣味はマイナー」っていうのが僕の信条。マイナーなものに目を向けてないと絶対にリスペクトされないと思うから。

(聞き手:古堅明日香)

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