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歴史的背景を持つ、ヴィンテージ古着。人気が高く希少なアイテムの価値は高まり続け、一着に数千万円なんて価格が付くこともしばしば。「こうなってしまってはもう、ヴィンテージは一部のマニアやお金持ちしか楽しめないのか・・・」と諦める声も聞こえてきそうです。
でも、そんなことはありません。実は、現時点で価格が高騰しきっておらず、ヴィンテージとしての楽しみも味わえる隠れた名品もまだまだ存在します。この企画では、そんなアイテムを十倍直昭自身が「令和のマストバイヴィンテージ」として毎週金曜日に連載形式で紹介。第42回はアメリカ軍ヘリンボーンツイルジャケット編。
2008年よりヴィンテージショップを運営。その後2021年には、ヴィンテージ総合プラットフォーム VCM(@vcm_vintagecollectionmall)を立ち上げ、来場者を1万人以上を動員する、日本最大級のヴィンテージの祭典「VCM VINTAGE MARKET」を主催している。
また渋谷パルコにて、マーケット型ショップの「VCM MARKET BOOTH」、エルメスジュエリーを専門に取り扱う予約制ショップ「VCM COLLECTION STORE」、イベントスペース「VCM GALLERY」を運営。
2023年10月には初の書籍「Vintage Collectables by VCM」を刊行するなど、ヴィンテージを軸とした様々な分野で活動し、全国のヴィンテージショップとファンを繋げる場の提供や情報発信を行っている。
ヘリンボーンツイルがヴィンテージファンに愛される理由
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ヴィンテージにハマる理由は人によって様々ですが、「経年変化」の魅力に惹かれたから、というケースは少なくないと思います。経年変化する素材の代表と言えば、やはりインディゴデニムでしょう。着用する人や環境によって表情が大きく変わっていくので、まさに育てる楽しみがあるヴィンテージの王道ですが、インディゴデニム以外にも経年変化が楽しめるヴィンテージアイテムは数多く存在しており、今回紹介するヘリンボーンツイルジャケットもそのひとつです。

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ヘリンボーンツイルとは、斜めに入るツイル(綾織)の方向を一定間隔で反転させることで、ヘリンボーン(Herringbone=ニシンの骨)のような模様を作り出す織り方です。ヘリンボーンツイルはその丈夫さからミリタリーウェアやワークウェアによく用いられていますが、その独特の立体感がある生地は、着れば着るほど綺麗に褪色しますし、摩擦や洗濯を繰り返すことでヘリンボーン特有の畝の表面が毛羽立ちさらに立体感が増すなど、味わい深い表情が生まれることが多いので、ヴィンテージ愛好家から強く支持されています。

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今回ピックアップしたのは、全て1940年代のアメリカ軍のミリタリーウェア。最初に紹介するのは、アメリカ陸軍で使用されていたM-41です。「41」は1941年に制式採用されたことを表しており、M-41と次に紹介するM-43には、アメリカ合衆国創設当時の13の植民地(州)を星として表した「13スターボタン」と呼ばれるボタンが用いられています。アメリカの歴史的・愛国的なシンボルとして19世紀頃から政府支給品に採用されており、官給品と民間品を区別するための識別要素としても機能しました。M-41は、袖が剣ボロ仕様で裾にはフィット感を調節するアジャスターが配されており、元々はアウターとして開発されたモデルです。ですが、シャツのように裾をタックインして着る人が多かったらしく、後継モデルのM-43ではアジャスターは廃止されています。











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両胸にあしらった大きなポケットが目を引くM-43。前立の裏側には、ガスフラップと呼ばれる持ち出しが設けられています。第二次世界大戦期には化学兵器の使用が懸念されていたため、ガスの侵入を最小限に抑える目的で一部のミリタリーウェアにガスフラップが取り付けられていたんです。フラップを閉じることでボタンや合わせ目から毒ガスが入りにくくなり、兵士を保護する意図がありました。とはいえ、第二次世界大戦の実際の戦闘で化学兵器が使われたことがほぼなかったうえに、着るときに邪魔だったようで、当時の着用者がこの部分を切り取ってしまっている個体も少なくありません。








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最後はUSMC(United States Marine Corps=アメリカ海兵隊)のステンシルが胸ポケットに施されたP-44です。M-43同様、ガスフラップが備えられています。P-44には、「U.S. MARINE CORPS」と刻印されたボタンが用いられていることが多いのですが、この個体のボタンはドーナツボタンと呼ばれるフラットなデザインのもの。ミリタリーウェアはこういった細かな仕様の違いが、マニア心をくすぐりますね。ボックスシルエットなので、今のカジュアルファッションに落とし込みやすいのもポイントです。











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ヘリンボーンツイルのミリタリージャケット、相場は?
今回紹介したミリタリーウェアは、サイズにもよりますが、それぞれ5〜15万円くらいが相場です。もちろん未使用品や、ミントコンディションの個体の価値は非常に高くなります。ユーズドの個体は作業用として着られていたケースが多いので、油染みなどの汚れや、破れた箇所のリペア跡がよく見られますが、僕個人としては汚れやダメージがあるものには特有の雰囲気が感じられるので、ある意味個性だとも言えます。また、汚れやダメージがあるとその分価格は安くなるので、お手頃価格で手に入れられるチャンスですし、ユーズドのデニムジーンズのように最初からアジのあるヘリンボーンツイルの生地感が味わえるというメリットもあります。是非、自分にマッチした一着を見つけてください。
編集:山田耕史 語り:十倍直昭

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