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フルカティ:ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は大好きな監督の1人なんだよね。(「メッセージ」はベストムービーの1本!)
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マサミーヌ:どういうところが好きなの?
フルカティ:大作でありながら、インディペンデント映画精神を感じるところかな。難解で哲学的なエンディングが多くて個人的には好み。エンディングの余韻が強い映画は納得できなかったり、物語そのものが崩壊したりすることもあると思うんだけど、ドゥニ監督作品は物語が崩壊しないプロットや脚本、ディレクション力が光るな、と。
マサミーヌ:本作も、ドゥニ監督らしい「余韻」は存分に堪能できるよね。
フルカティ:ドゥ二監督は科学の勉強を長年していて、将来は映画監督か生物学者になるかで迷っていたんだって。
マサミーヌ:理系出身というのはなんだか納得する。
フルカティ:どういうところに「理系出身監督」を感じた?
マサミーヌ:所謂サイエンスフィクション系の映画は、観客に「意味不明」「理解不能」と思われないためにするに理屈や理論が重要なのかな、と思っていて。例えば本作に出てくる飛行船「オーニソプター」は、現実世界ではなかなか見かけない昆虫のような見た目をしているけど「空を飛ぶための理論を突き詰めて進化したのがトンボなどの昆虫だから まあ飛行船の形が虫のようになることはあるか」と思えるんだよね。
マサミーヌ:物語の設定としても「10191年」という数千後の未来の話をしているのに、衣装からそこはかとなく漂うアナログ感というか。使われている素材とかが妙に古めかしいんだよね。
フルカティ:10191年だったらもっとかっこいい素材や新しいデザインがあるだろう、と。
マサミーヌ:そうそう。素材の古めかしさと機能性が一見すごくミスマッチなんだけど、「この世界で生きるために必要な機能なんだ」という時代設定の説得力が物語の世界観に影響しているのが興味深かった。
フルカティ:「機能がフォルムを決めている」というのはデザインの真理だね〜!衣装を担当したジャクリーン・ウエストがまさにマサミーヌが指摘するようなことを言っていたよ。
私たちが未来と聞いて思い描くものより未発達の技術水準の世界に見合う説得力のある衣装でなければならなかった
ー衣装デザイン ジャクリーン・ウエスト
フルカティ:本作に登場する衣装は未来的な服を表現するために「見た目」ではなく、「機能」を突き詰めた、というのがマサミーヌの考察。
マサミーヌ:スター・ウォーズシリーズの衣装は、やっぱり少しコスチュームっぽい。
フルカティ:スター・ウォーズシリーズは、衣装をファンタジーとして使っているよね。ストームトルーパーのバケツ型ヘルメットや純白のアーマーは、所謂「未来」と聞いて想像するフォルムのようにも感じる。「DUNE/デューン 砂の惑星」の場合は見た目ではなく、機能説明で「未来感」を担保している。
マサミーヌ:まさにストームトルーパーの衣装デザインと、本作に出てくる砂漠での極限状態を生き抜くために存在する「保水スーツ(スティルスーツ)」を比較するのは面白いかもね。保水スーツは「生き延びるために必要なデザイン」という、確かな機能性の上に成り立つ服だから。見た目はアナログだけど未来的なんだよね。
フルカティ:ボディスーツって、滑稽に見えがちなアイテムだと思わない?たしかに保水スーツは、機能的だから「この場所ではこういうデザインのものを着るしかないのね」という納得感がある。
マサミーヌ:ここからは私の想像なんだけど。管のようなものが全身に配された保水スーツのデザインは、砂漠をスムーズに移動するために進化してきたであろうサンドワームの形状から発想したんじゃないかな。管が並んでいるのが昆虫の腹の構造に見えない?さっきも言ったけど「動物や虫は、環境に適応するために進化して来た生き物」だから。
フルカティ:なるほど。砂漠で生きるために必要な保水スーツが、砂地で生き抜くために進化したサンドワームから着想を得ているかも、というのは面白い考察。
フルカティ:この映画が素敵なのは、台詞で説明がされない部分を機能的な未来の服や、飛行船など、衣装や美術を通して観客に説明してくれるところだよね。例えば、アトレイデス家とハルコンネン家の道徳的価値観の違いは、画面に映る5秒だけ見れば理解できるようになっている。善悪がわかりやすくて、ハリウッドの超大作のあり方を思い出させてくれる(笑)。
フルカティ:未来のことを描いているSF作品なんだけど、「2021年の世界で暮らす私たちの数千年後は、本当にこういう世界になっているかもしれない」と、思わせる不思議な映画だった。その理由は、機能性や理屈に裏付けされた衣装もそうだけど、宇宙人も宇宙船も登場しないSF映画だからなのかな、って。
マサミーヌ:すごく自分の生活と地続きな気がするよね。「今の生活が続いていたらこの未来はあり得るな」という説得感が映画全体の世界観を担保している。
マサミーヌ:私、本作を観終わったあとに初めてデヴィッド・リンチ版の「砂の惑星」を観たの。
フルカティ:おお!1984年に公開された所謂「旧作」。リンチの長編3作品目にして初のSF作品だったけど、制作費が回収できなかった&評価も芳しくなく……。リンチ本人も認めるほど「失敗作」と言われているけど、どうだった?
マサミーヌ:「新作を見る前に旧作を観ようかな」と考えている人には「ぜひ、新作を見てから旧作を見て!」とお勧めしたい。というのも、旧作の方は物語を見進める上で重要となってくる複雑な設定がすごく理解し辛いんだよね。私は新作を観た後だったから、その辺の設定がすんなりと理解できて。「これはこれで面白いな」という見方ができたよ(笑)。
フルカティ:当時、リンチはジョージ・ルーカスから「スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還」の監督オファーを受けていたけど断ったのは有名な話。
デヴィッド・リンチ監督作品「DUNE/デューン 砂の惑星」 (字幕版)
フルカティ:映画ファンの間ではカルト作として崇拝されている作品、一見の価値はあると思う。
フルカティ:私は本作を観終わった後に「ホドロフスキーのDUNE」を観たよ。
マサミーヌ:映画化に至らず頓挫したんだっけ?
フルカティ:「上映時間は10時間を超える」というホドロフスキーの発言が当時は受け入れられなかったことと、予算が不足してしまったのがプロジェクト頓挫の大きな理由。その壮大な構想をホドロフスキー本人が語っているのが「ホドロフスキーのDUNE」。
マサミーヌ:今なら「10時間超えの作品になる!」と言われても動画配信サービスでドラマ化というかたちで制作できそうだけどね。
フルカティ:ホドロフスキーのDUNEでは、画家のサルバトール・ダリ、バンド「ザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)」のフロントマン ミック・ジャガーらの出演が決まっていたらしく……。
マサミーヌ:どんな作品になっていたのかすごい気になるメンバーだね(笑)。
フルカティ:元「ホドロフスキーのDUNE」のプロジェクトメンバーが中心となって制作されたのが映画「エイリアン」なんだけど、これはまた別の話……。
リドリー・スコット監督作品「エイリアン」ディレクターズ・カット (字幕版)
フルカティ:エイリアンの造形を作り出した、H・Rギーガーも「ホドロフスキーDUNE」で美術を担当する予定だった。
今までの#Fスナ映画部屋
6月公開の絶対に見て欲しい気になる映画:「グリード」
7月公開の絶対に見て欲しい気になる映画:「ライトハウス」
8月公開の絶対に見て欲しい気になる映画:「Summer of 85」
【ここから微ネタバレ注意!】「DUNE/デューン 砂の惑星」のこぼれ話
フルカティ:オープニングタイトルコールで「PART1」って出た時、「まじか〜!」って叫びそうだったよ(笑)。
マサミーヌ:まだ続編の制作は決まってないらしいよ。
フルカティ:2時間半の本作は物語の続きがあることを暗示する一方で、本格的な叙事詩を体験させてくれるから、たとえ続編が作られなかったとしても納得がいくような終わり方にはしているな、とは思ったけど。
マサミーヌ:でもこれでPART2が制作されなかったら私は暴動を起こすよ(笑)!
フルカティ:それもそうだね(笑)。「スター・ウォーズ」も「ハリー・ポッター」も「パイレーツ・オブ・カリビアン」も「ロード・オブ・ザ・リング」も終わったこの世界で、「SF超大作の記念すべき1作目を私は今見ている!」という気持ちになれたのは本当に嬉しかったなあ。
マサミーヌ:ここから何作品続くかわからないけど、我々は間違いなくポール・アトレイデスと歳を取ることになるからね。映画を通して、自分と登場人物の成長を客観的に見守ることができるのは嬉しい。
フルカティ:末長く愛される作品になればいいなあ。
マサミーヌ:最後のシーン、砂の惑星で暮らす先住民族「フレメン」が、サンドワームを乗りこなしていたのもアツかったね!
フルカティ:スパイスが採取できる惑星で圧倒的な力を持つサンドワームは、人智を超えている生物だと思っていたのにね。フレメンはサンドワームを制御できる唯一の存在。「だからフレメンは、アトレイデス家とハルコネン家のスパイスをめぐる戦いにおいて重要な民族だったのか!」と台詞が無くても一発で理解できるほどかっこいいシーンだったね。
マサミーヌ:やっぱり続編が見たい(笑)!
その他の今月の気になる映画
ビルド・ア・ガール
Image by: © Monumental Pictures, Tango Productions, LLC, Channel Four Television Corporation, 2019
ブリジット・ジョーンズの日記製作陣が再集結!大人になった今だからこそみたい一本(文責:フルカティ)
自分自身を作っている途中で、間違ったもので自分を作っていたことに気が付いたら、あなたならどうする?
What do you do when you build yourself, only to realise that you built yourself with the wrong things?
ージョアンナ
この問いは、映画「ビルド・ア・ガール」の核心に迫るような質問。主人公ジョアンナは、2時間の物語を通してこの質問に対してどのような結論を出すのでしょうか。そしてあなたはこの問いにどう答えますか?
今作は実話に「ほぼ」基づく物語。主人公ジョアンナのモデルは、イギリスの人気コラムニストで、影響力のあるフェミニストの1人キャトリン・モラン(Caitlin Mora)。モランが2014年に発表した半自伝的小説「女になる方法(How to Build a Girl)」が原作で、モランが16歳の時「メロディ・メイカー」誌でジャーナリストとしてキャリアを始めた際の実話がベースとなっています。
主人公ジョアンナは、イギリス郊外に家族7人で暮らす冴えない高校生。「わかってる。定番のヒロインと私は全然違うよね」と卑下しながらも、自らの才能に対して根拠のない自信を抱き、いつかは「何者か」になって成功したいと夢見て、大手音楽情報誌「D&ME」のライターに応募します(このあらすじを聞くだけでも、誰にでもある若さゆえの痛い経験や、何かを遠慮なく好きになっている様子を嘲笑されたことを思い出して胸がギュッとするかも)。誰しもが覚えのある「自らの中二病時代」を思い出させるジョアンナは、わがままで、自信過剰で、正直少しだけ鬱陶しい印象を受ける。しかし、だんだんと一生懸命生きている彼女が愛おしくなってくる。本作が「よくある話」や「オタク気質な女の子を描く青春映画」で終わらなかったのは、映画「ブリジット・ジョーンズの日記」シリーズのプロデューサーを務めたデブラ・ヘイワードらが再集結(ただひたすらにはちゃめちゃで、何よりも感傷に浸らせることなく元気づけてくれる数少ない映画)したことと、主人公ジョアンナを、ビーニー・フェルドスタインが個性豊かに演じたことが大きな要因のように感じます。
本作の魅力は「失敗も自分を作る重要な過程で、それに気づけるかどうかが重要だ」ときっぱりと言い切ってくれるところ。清々しい青春映画と思いつつも、大人になってから淀みなく「失敗も経験だ」と言ってもらえる機会もなかなかないので、なんだか心に響いて「明日も頑張ろう」と思えたのでした。
■ビルド・ア・ガール
公開日:2021年10月22日(金)
上映時間:105分
監督:ビーニー・フェルドスタイン、パディ・コンシダイン、サラ・ソルマーニ、アルフィー・アレン、フランク・ディレイン、クリス・オダウド、エマ・トンプソンなど
公式サイト
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