【ネタバレ注意!】もっと、「アンテベラム」の話
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ここからは、同い年編集部員である「フルカティ」と「マサミーヌ」による、ネタバレありきのゆるい座談会をお届け。「アンテベラム」観劇後の余韻に浸りながらゆる〜くどうぞ。(本当にゆるいです!)
普段はアートやカルチャー関連のほか、東京のデザイナーズブランドなどを担当。
【ネタバラシ注意】
プランテーションで黒人奴隷として生きるエデンの正体は、現代で活動家としていたヴェロニカと同一人物。ヴェロニカが生きる「現代」で白人至上主義の上院議員が黒人を拉致し、インターネットも電話もつながらない大規模プランテーションに監禁していたのであった!
マサミーヌ:本作は黒人奴隷時代にプランテーションで働く主人公エデンにフォーカスを当てたシーンと、現代で黒人の自由を訴える活動家 ヴェロニカの日々を描くシーンが交互に描かれている。見ている最中は「ヴェロニカの前世がエデンだったのかな?」と思っていたんだよね。
フルカティ:過去(前世)であるはずのプランテーションで、現代にしかないはずの携帯電話の音が鳴り響き「やられた!!!」と私も思った(笑)。
マサミーヌ:前世どころか、エデンとヴェロニカは同一人物だったね〜。
フルカティ:「ヴェロニカとエデンが同一人物」という予想は当たっていたけど、「ヴェロニカとエデンが生きている時代は同じ現代だった」というのはすっかり騙されたよ。
マサミーヌ:冒頭から秀逸だよね。携帯電話はもちろん、テレビも服装も話し方も「現代」を思わせるものが一つも映りこまないから、プランテーションが描かれている時代は「過去の話」と勘違いしてしまう。
マサミーヌ:本作のあらすじをネタバレ”あり"で話すなら「ヴェロニカが誘拐され、脱出するまでの話」。繰り広げられているのは現代の誘拐監禁事件なんだけど、観客は「プランテーションは過去」というミスリードをし続けているから、エデンの日々がヴェロニカの悪夢だと錯覚する。
フルカティ:思い返すと、現代のシーンと過去のシーンそれぞれに伏線がいくつも張られているし、観客に「プランテーションは過去」と刷り込ませることに余念がない(笑)。
マサミーヌ:例えば最初の30分は今思い返すと「拉致誘拐された直後のヴェロニカ」の話。ヴェロニカはなんとかプランテーションから逃走して、家族の待つ家に帰ろうとしていた。
フルカティ:そうなんだよね。さっき「映画的な構成がとても素晴らしい」と言ったのはまさにその部分。本作の流れを時系列で話すと、ヴェロニカ地方公演会へ行く→友人であるドーンとサラと食事→ヴェロニカ拉致される→プランテーションで奴隷になる→1度目の逃走を図って失敗する→ジュリアに会う→再び逃走を図る。
マサミーヌ:たしかに言われてみれば、本作の冒頭は「1度目の逃走を図って失敗する」から始まるね。
フルカティ:逃走を図った罰として拷問を受けながら、マザーズ上院議員にしつこく「お前の名前はなんだ」と問われていたけど、あの時本当は「私の名前はエデン」ではなく「私の名前はヴェロニカ」と言いたかったはずなんだよね。
マサミーヌ:だからなかなか「私の名前はエデン」と言わなかったのか!
フルカティ:自分の本当の名前を奪われることは、戦意喪失にも繋がるだろうしそこから6ヶ月以上、再び逃走を図らなかったことにも納得がいく。
マサミーヌ:ちなみに、ヴェロニカが拷問の最中に腰に入れられた烙印「BD」は、劇中後半の現代シーンでもチラッと出てきたの気がついた?
フルカティ:気がつかなかった!
マサミーヌ:ヴェロニカが拉致される直前、ヴェロニカの友人であるドーンとサラとの食事が終わりタクシーに乗り込んだ後、車窓から「ブレイク・デントン(BD)の再戦を!」の看板が見えるワンカットがあったの。おそらくプランテーションの世界で一番偉かったマザーズ上院議員は、ブレイク・デントンの部下で、いわゆる政治工作の一環だったのかもしれないね。
フルカティ:それだと最後の上院議員の捨て台詞「これで終わりではない。目には見えないが我々は無数にいる」も納得がいくね(差別主義者はたくさんいると言う解釈もできる)。政党や派閥は複数人で構成されているはずだし。
フルカティ:冷静になって考えてみると、マザーズ上院議員たちがやっていたのは「南北戦争時代"ごっこ"」。服装はもちろん、喋り方も当時を踏襲しているのが2回目を見ると馬鹿馬鹿しくも感じる(笑)。
マサミーヌ:「南北戦争に必ず勝利するぞ!」という趣旨の決起会も開いていたしね。彼らはそれを本気でやっているのが何よりも怖い……。
マサミーヌ:ヴェロニカの逃走失敗から6ヶ月後。妊婦のジュリアが南北時代を模したプランテーションに拉致される。(冷静になって考えてみると、ヴェロニカは少なくとも半年間誘拐監禁されていたことに!)
フルカティ:ジュリアが動揺していた理由は「自分が奴隷売買されたこと」かと思っていたけど、今になって考えてみると「現代であるはずなのに、なぜ黒人奴隷がまかり通っていた"南北戦争ごっこ"が行われているの!?」なんだよね。
マサミーヌ:ジュリアがヴェロニカに「あなたを知っている、あなただけがここを抜け出す唯一の希望なの」と言った理由も、現代で活動家として人気を博していたヴェロニカを知っていたからなんだろうね。
フルカティ:ジュリアからしてみたら「失踪したと聞いていた、活動家のあなたがなんでこんなところにいるの?」だよね。
マサミーヌ:本作には、ヴァロニカが拉致されてきた直後のシーンが描かれていないけど、ジュリアの動揺を通して「ヴェロニカがエデンになるまでの動揺や不安」が描かれていたんだと思う。
フルカティ:現代のシーンでヴェロニカが娘であるケネディに「空を見上げて大きな飛行機が見えたら飛んで帰ってくるママよ」と言って家を出るわけだけど、ヴェロニカはプランテーションの上空で飛行機を見つけて、「今日逃走を決行する」と決めるのもなかなか秀逸だった。
マサミーヌ:物語のオチを知らない状態で、ヴェロニカが飛行機を見つけるシーンを観劇していると「エデン、ついに幻覚見るようになっちゃった……」とか思ってたよ(笑)。
フルカティ:プランテーションで奴隷として生活しているヴェロニカが生きている時代も現代だから、本当に飛行機が上空を飛んでいたんだよね(笑)。
マサミーヌ:そういう「現代と過去の境界線を曖昧にする」描写は本当にあっぱれだった。
フルカティ:全てのネタばらしがされた後のラストシーンで、馬に跨って逃走するヴェロニカは軍服も相まってジャンヌ・ダルク見えなかった?「過去の出来事だと思って見ていたプランテーションも現代の話だったし、エデンはヴェロニカ」と分かった上でもジャンヌ・ダルクのようなヴェロニカを見て「あれ、やっぱり過去の話だった?」と一瞬錯覚したもん(笑)。
マサミーヌ:これは拡大解釈もしれないんだけど、ラストシーンについて話したくて。父のマザーズ上院議員を殺された娘エリザベスがヴェロニカを追いかけるじゃん。
フルカティ:怖かったねえ(笑)。
マサミーヌ:その時に、エリザベスは「そしていつものように女が男の尻ぬぐいを」と言いながら追いかけるの。普通の映画だったら「よくも父を殺したわね」で良い気がして。
フルカティ:なるほど。親子の話ではなく、より抽象度の高い男女の話にしているね。
マサミーヌ:そこに今作のヒエラルキーの複雑さというか「差別は色々なところにある」というメッセージを感じたんだよね。
フルカティ:どういうこと?
マサミーヌ:マザーズ上院議員やエリザベスの考える "世の中のヒエラルキー"は、白人男性→白人女性→黒人男性→黒人女性の順だと思うんだけど。「女が男の尻ぬぐい」というセリフはエリザベスの「女は男よりも下層である」という意識の現れのようなセリフな気がしたんだよね。
フルカティ:たしかに。拡大解釈かもしれないけど、同じ「女性」という枠組みでは手を取り合えそうなのに、エリザベスは「自分よりも下がいることに安心している」という心理描写だったのかもしれないね。
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