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【微ネタバレ注意!】もっと、「Summer of 85」の話
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ここからは、同い年編集部員である「フルカティ」と「マサミーヌ」による、ネタバレありきのゆるい座談会をお届け。「Summer of 85」観劇後の余韻に浸りながらゆる〜くどうぞ。(本当にゆるいです!)
1995年、神奈川県生まれ。普段はアートやカルチャー関連のほか、東京のデザイナーズブランドなどを担当。雑誌Oliveや渋谷系文化にハマり「自分が生まれてきた時代がもう少しだけ早ければ……」とインターネットを見ながら指をくわえる高校生活を送る。大学生になると渋谷系の影響&背伸びがしたくて、フランス映画を”頑張って”見ていたちょっと恥ずかしい思い出あり。
普段はビューティやコスメ関連の記事を担当。高校時代にU2を入り口に洋楽にハマる。ピクシーズやポリス、ザ・スミス、メタリカ、マイブラetc……夏の夜と言えばニュー・オーダーの「Blue Monday」(早く自由にフェスが開催されますように!)。ミュージカル映画「ロシュフォールの恋人たち」の色彩に痺れてフランス映画の扉を開いた。メイクのインスピレーションになる映画最高!
フルカティ:ダヴィドは、シルバーの折り畳みコームを持ち歩きいつも身なりを整えているけど、私にはシルバーのコームがずっとサバイバルナイフのように見えていて。
マサミーヌ:確かに「シュピッ」っていう、クシにそぐわないような効果音が入っていた気がするね。
フルカティ:こじつけっぽいかもしれないけど、美しすぎて結果的に人を傷つけるダヴィドは、鋭利なサバイバルナイフのような人だよな、と。アレックスにとってダヴィドは、初めての恋で初めての相手だったのに、ダヴィドはあっさり女の子であるケイトと浮気をする。アレックスにとっては結構しんどい話だったと思う。
マサミーヌ:結果的に、ケイトもアレックスもダヴィドの美しさに魅了された人たちだもんね。その上、ダヴィドは誰のものにもならずに死んでしまう。
フルカティ:ダヴィドはアレックスと出会う前にも、女の子との経験はあったのかな、ケイトが初めてだったのかな。
マサミーヌ:ケイトが魅力的な女性であることをアレックスも知っているしね〜。
フルカティ:アレックスは、ケイトとキスをしたからダヴィドの墓で踊ることができたんだな〜、と。動機は「自分だって女の子とキスをしてしまったから」かもしれないし「ダヴィドと関係のあったケイトとキスをすることで、いなくなってしまったタヴィドを思い出したから」かもしれない。
マサミーヌ:どうして墓で踊るのに至ったのか、は観客の解釈に委ねられている感じはした。
フルカティ:アレックスが心情を吐露するシーンが少ないこともあるんだけど、言葉ではなく行動で登場人物の心情が描かれるのはとてもフランス映画っぽいな〜と思いながら見ていたかな。私がフランス映画の好きなところは、文脈を汲み取って慈しむ文化で、人の細部を一瞬で描いてくれるところ。
マサミーヌ:この映画はアレックス目線で描かれているから、ケイトやダヴィドの心情も汲み取りにくいよね。
フルカティ:ダヴィドがどうして事故を起こしてしまったのか、ダヴィドはケイトを愛していたのか、本当にアレックスを愛していたのか、ケイトはダヴィドとどうして仲良くなったのか、ということすら曖昧。
マサミーヌ:物語はアレックスの書いた小説をベースに進んでいくわけだけど、モノを綴るというのはどれだけ「ノンフィクション」を謳っていたとしても、大なり小なり書き手の「創作」が入ると思うんだよね。ただ一つちゃんと言えることは、ダヴィドとの出会いと別れが、アレックスの人生観や抱いていた死生観に、大きな影響をもたらしたということだけ。
フルカティ:死生観はこの映画の大きなテーマだよね!アレックスが「死そのものに僕は惹かれている」と断言しているし。アレックスの部屋の壁には、古代ピラミッドの切り抜きや、映画「ブレードランナー」に登場するレプリカント ロイ(レプリカントは寿命が決まっている)のポスターが貼ってあったりもする。
マサミーヌ:アレックスが「物語はまだ終わらない。僕も結末を知らない。始まったばかりかも。」と小説を締めくくることができたのは、最後のシーンで出会う新しい男の子ともきっと「親友」になれると確信したからなんだろうね。それは、85年の夏を経験したからこそ、と思うとグッとくる。……こう考えると親友と恋愛の差なんてほぼないね、だからこそ難しいんだろうけど(笑)。
マサミーヌ:ダヴィドの死体を一目見ようと向かった遺体安置所で暴れてしまったのも、墓を掘り起こそうとしたことも、そして墓の上で踊ったことも、アレックスが冒頭に自認しているような「変人的な死への興味」ではなく、「死とどう向き合うのか」という自問自答が故なんだろうね。
フルカティ:ダヴィドはいつも死の話ばかりをしているアレックス(口癖は「死ぬほど◯◯!」)に「君は死の観念に惹かれているだけ」と言うけど、本当にその通りで。ダヴィドが死んだことで、自らの命を自分で終わらせようと色々画策するアレックスも、次第に物語を書くことでダヴィドの死に向き合おうとするし、死との闘い方のひとつとして立てた誓い「どちらかが先に死んだら残された方はその墓の上で踊る」の約束を全うする。
向き合うしかない
ダヴィドに唯一会える方法は、物語を書くこと
ーアレックス
フルカティ:ダヴィドが乗っていた船は「カリプソ」という名前だったけど、カリュプソーってギリシャ神話に出てくる海の女神だよね?
マサミーヌ:叙事詩「オデュッセイア」の物語が一番有名かな。トロイア戦争終結後、妻子が待つ故郷へ帰ろうとしている人間 オデュッセウスに恋をした女神カリュプソーは、帰郷しようとしているオデュッセウスをあの手この手で引き留める。最終的にはオデュッセウスを哀れんだ、主神ゼウスが彼を解放してあげる、という話。
フルカティ:なるほど。「君の望みは僕を独占すること」とダヴィドに言われてしまったアレックスは、愛するが故に帰郷を困難にさせたカリュプソーのようにも思えるし、2人の関係性を結果的に解消させたケイトは、カリュプソーから脱出させてあげたゼウスのようだね。
フルカティ:さっきの「美しさ」の話で思い出したんだけど。あんな美少年が上裸になっていたら、どんな男の子でも「あっ、どうしよう。どこみていいかわかんない」ってなるでしょ!って思った(笑)。これは「君の名前で僕を呼んで」を観た時も思ったことなんだけどね。アレックスは、「ダヴィドが美しい」ということをきっかけに惹かれたのかな。
マサミーヌ:当事者の人たちから話をちゃんと聞いたことがないから適当なことは言えないんだけど、少なくとも性別や恋愛感情とか関係なく人を好きになる気持ちって「かわいいから」「かっこいいから」「綺麗だから」という気持ち以外にも多分ある。美しさは「美しさ」であっていいんだよね。
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