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トレンドの最前線を行く者、映画の最新作も気になるはず──。今月公開が予定されている最新映画の中から、FASHIONSNAPが独自の視点でピックアップする映画連載企画「Fスナ映画部屋」。ジャンルを問わず、気になる2タイトルを紹介します。
今回は、フランス映画特集!前評判では映画「君の名前で僕を呼んで」や「永遠に僕のもの」との類似性が指摘されている、フランス映画界の大御所 フランソワ・オゾン監督最新作「Summer of 85」と、「シャネル(CHANEL)」のミューズも務める弱冠20歳の監督スザンヌ・ランドン(Suzanne Lindon)初の長編映画「スザンヌ、16歳」をセレクト。編集部員によるゆる〜い座談会付きで、今月絶対に見てほしい注目の映画を紹介します。
目次
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構想36年!鬼才オゾン監督が描く少年たちの愛「Summer of 85」
構想36年。フランス映画界の鬼才フランソワ・オゾン監督(世界三大映画祭の常連!)最新作「Summer of 85」は、当時17歳の監督に衝撃を与え「いつか長編映画を監督する日がきたら、その第一作目はこの小説だ」と決意させたエイダン・チェンバーズ著「おれの墓で踊れ(Dance on my Grave)」が原作。「良いキャストがいなければ映画化をやめよう」という強い気持ちと、全編16mmフィルムで撮影された本作は、端々からフランソワ・オゾン監督の本気度が伝わってくるはず。「Summer of 85」というタイトルの通り、80年代のファッションや、バンド「ザ・キュアー(The Cure)」の挿入歌など、当時のカルチャーを代表する音楽や雰囲気を感じることができるのも楽しいところ。その演出は、映画というよりかはPVに近いかも。
2018年にヒットした映画「君の名前で僕を呼んで」との類似性も度々指摘されている本作ですが、その中身は「恋愛映画」という名前を借りた「友情映画」?
気になるあらすじは?
1985年夏。フランスのノルマンディーの海で海難事故寸前のところを助けられた16歳の青年アレクシ(アレックス)と、彼を助けた18歳の見知らぬ青年ダヴィド。運命的な出会いから恋愛感情で結ばれ、ダヴィドが交通事故で命を落とすまでの6週間を、アレックスの綴る「ひと夏の物語」として語られる。
一足先に「Summer of 85」を観た、同い年編集部員2人による ゆる〜い座談会
1995年、神奈川県生まれ。普段はアートやカルチャー関連のほか、東京のデザイナーズブランドなどを担当。雑誌Oliveや渋谷系文化にハマり「自分が生まれてきた時代がもう少しだけ早ければ……」とインターネットを見ながら指をくわえる高校生活を送る。大学生になると渋谷系の影響&背伸びがしたくて、フランス映画を”頑張って”見ていたちょっと恥ずかしい思い出あり。
普段はビューティやコスメ関連の記事を担当。高校時代にU2を入り口に洋楽にハマる。ピクシーズやポリス、ザ・スミス、メタリカ、マイブラetc……夏の夜と言えばニュー・オーダーの「Blue Monday」(早く自由にフェスが開催されますように!)。ミュージカル映画「ロシュフォールの恋人たち」の色彩に痺れてフランス映画の扉を開いた。メイクのインスピレーションになる映画最高!
フルカティ:この映画は「恋愛映画」ではなく「親友映画」だと私は思う。
マサミーヌ:前評判では、題材が似ていることもあって「君の名前で僕を呼んで」と比較されているようだね。
フルカティ:まさに、映画「君の名前で僕を呼んで」を彷彿とさせるタイトルフォント、フランスの夏を描いたおしゃれっぽいポスターヴィジュアル、コピーライトの『6週間の初恋物語』という言葉をみて、「趣味じゃ無いな」とか「また男の子同士の淡い青春恋愛映画か〜」とか思われてしまわないかだけが勝手に心配。
マサミーヌ:なんで、フルカティはこれが「恋愛映画ではなく親友映画だ」と思ったの?
フルカティ:本作は、主人公であるアレックスが綴っている供述書(!)を元に物語が進んでいくわけだけど。あるシーンでアレックスは、ダヴィドのことを「理想の親友 ダヴィド」と形容する。恋仲であろうが、なかろうが「親友であった」というのは確かなことだと思うし、それが全てだよねー、と。
マサミーヌ:もう1人の登場人物であるケイトが、よくある「友情を壊す嫌な女」として描かれないところがこの映画の素敵なところだな、って思った。
フルカティ:そうなんだよね。親友のおかげで新しい親友ができることって往々にしてあるし。ここでの「親友」とは、例えば、「この人が勧めている映画なら、まず間違いなく面白いだろうし、気に入るだろうな」と思って観ちゃうとか、自分が好きだと思える人から「この人はいい奴なんだよ」と誰かを紹介されたら「多分本当にいい奴なんだろうな」と思って興味を持っちゃうとか。そういう意味での親友。
マサミーヌ:性別を超えた友情や、愛というのをすごく丁寧に伝えてくれたよね。「恋愛」という言葉を借りて物語自体は進んでいくんだけど、「恋愛ではなくても愛はあるし、それはそれで成り立つ」という考えにじんわりと辿り着かせてくれたことが嬉しかったな。
フルカティ:だからこそ「『理想』の親友」なんだよね。「理想」という言葉の中には、恋愛感情とか、愛情とか恋心とかいろいろ含まれているんだけど、全部まとめて「理想」という言葉に辿り着く。
マサミーヌ:ダヴィドが死んだ後にケイトがアレックスに言ったセリフ覚えている?
あなたが愛していたのは彼じゃない。
自分が創り出した幻想よ。
顔と体を好きになって、心も理想通りだと期待した。
マサミーヌ:ケイトが説いたこの話はすごく普遍的な話だなって思えたんだよね。「この人のこういうところが好き」という気持ちを自分自身で勝手に誇張することってある。相手が理想とかけ離れた言動を見せた時に、勝手に落胆して、怒りとも言えないような気持ちになって喧嘩になる(笑)。
フルカティ:勝手な期待で幻滅してしまうことって、何も恋仲だけじゃないよね。友達や仕事仲間でもよく起こる現象だと思う。この映画が「親友映画」だということを突き詰めていくと、「君の名前で僕を呼んで」よりも、「グッバイ、サマー」と近しいものがあるなと個人的には思ったかな。(ミシェル・ゴンドリー大好き!)
マサミーヌ:同作品の監督はフランソワ・オゾン。私の中でオゾン監督作品(「17歳」とか、「2重螺旋の恋人」とか!)は、もっとセンセーショナルなイメージがあったんだけど、今回は「想像よりもすごい爽やかだった」という意味で新鮮だったな。
フルカティ:元々、フランソワ・オゾンが17歳の夏(1985年!)に読んだエイダン・チェンバーズ著「おれの墓で踊れ(Dance on my Grave)」が原作みたい。
マサミーヌ:構想36年!キャスティングも、適役が見つからなかったら映画化自体を取りやめようとしていたほどらしいよ。
フルカティ:「フランソワ・オゾン監督らしからぬ爽やかさ」というのは結構言い得て妙で。「惹かれ合う少年たちの恋愛模様をストレートに描き、原作を読んだ10代当時の感情を表現することを重視した」とオゾン監督もコメントしている。
この小説をどう映像で語るか、私にはじっくり熟成させる時間が必要だった。そのおかげで、原作の本質から逸脱しないで済んだよ。
ー映画監督 フランソワ・オゾン
マサミーヌ:確かに、監督自身の「大事に作りたい」という気持ちはとても感じたなぁ。85年の夏に出会ったダヴィドへの言葉には出来ない気持ちを「物語」として書くアレックスは、17歳の時に原作を読んだ気持ちを、映画という物語にして昇華させたフランソワ・オゾン監督にも重なる。「物語」にすることで、大事にしていたものを形にするという方法はあるし。
フルカティ:衣装厨としてはどうだった?
マサミーヌ:衣装デザインは映画「17歳」も手掛けているパスカリーヌ・シャヴァンヌ。ポルカドットとかボーダーとか、いわゆる「フレンチ」と言われているものがたくさん出てくるからずっと楽しい気持ちだった!
フルカティ:ちょうどいま流行っている「レトロ可愛い」みたいなムードにぴったりと合っている衣装の数々だったよね。
マサミーヌ:トレンドは巡るね(笑)。「この色合いは真似できそうだなー」とか「赤とデニムの組み合わせはやっぱりいいよね〜」とか服装真似っこしたい映画のひとつかも。
フルカティ:個人的にはアレックスが着ていたワンピースの色合いが、フランソワ・オゾン監督作品「サマードレス」の主人公と同じ色合いで「憎いね〜!」と思った。狙ってやっているのかは謎だけど。
マサミーヌ:2人が最初に出会う船の名前が「カリプソ」。ギリシャ神話の海の女神カリュプソーに由来していると思うんだけど、カリュプソーにまつわる逸話を知っていると、違う視点が生まれて面白いかもしれないね。
■叙事詩「オデュッセイア」 海の女神カリュプソーの物語
トロイア戦争終結後、妻子が待つ故郷へ帰ろうとしている人間 オデュッセウスに恋をした女神カリュプソー。彼女は愛する気持ちが故に、帰郷しようとするオデュッセウスをあの手この手で引き留める(その年月は10年とも2年とも言われている)。最終的にはオデュッセウスを哀れんだ、主神ゼウスが彼を解放した。
■Summer of 85
公開日:2021年8月20日(金)
新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、グランドシネマサンシャイン池袋ほかで全国順次公開。
上映時間:100分 ※PG12
監督・脚本:フランソワ・オゾン
出演:フェリックス・ルフェーヴル、バンジャマン・ヴォワザン、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、メルヴィル・プポー
公式サイト
まだまだ劇場公開中!?
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スザンヌ、16歳
モデルに、監督に、女優に。新世代ミューズが描くのは「自分の居場所を探す自立した女の子」(文責:フルカティ)
タイトルの通り、本作の主人公は16歳のスザンヌ。気になる物語のあらすじは、簡単に言ってしまうと「大人と子どもの間でなんとなく生きづらさを感じている少女が、大人の男性に恋するひと夏の物語」。この主題だけ聞くと、正直、時代錯誤も甚だしいし「また、おじさんの考えた最強の(カワイイ)女の子映画か〜」と思ったりもします。さて、本作の監督と脚本を手掛けたスザンヌ・ランドンは2000年生まれ。当時15歳で脚本を書き上げ、19歳で本作を制作したそう。主人公スザンヌ役もスザンヌ・ランドン自身が演じています。少なくとも、"おじさん"の考えた最強のカワイイ女の子像にはならなさそうですよね。
少し唐突に感じるかも知れませんが、筆者が一番印象に残ったセリフを先に少しだけ引用させてください。
スザンヌ「新しいホクロがある」
ラファエル「あげるよ」
新しいホクロに気づけてしまうような関係性だけど、ホクロは当然、相手にあげることはできません。同作は基本的に会話劇で物語が進みます。しかし心理学的なアプローチはなく、沈黙や省略、身体表現、仕草などを用いてストーリーが語られ、何よりも作中に時代を感じさせるアイテムが一切出てきません(当然スマホも出てこない)。これらの演出は、全ての人が共有する普遍的な感覚に語りかけてくるはず。例えば「誰よりも先に"それ"に気がついたとしても、たとえ相手に"それ"をあげたい気持ちがあっても、与えられないモノや受け取れない気持ちはある。ホクロのように」ということとか……。見る人それぞれの価値観を通して、自分もその感覚を経験したような気持ちになってしまうのが本作の魅力。
この恋によって、スザンヌは前を向き、現実に直面しても退屈しないことを私たちに示してくれます。年上の男性(それも大好きな)の前で、強くて自信に満ちた女の子でいてくれるスザンヌの姿は、とても心強く思うはず。これは自分の居場所を探している若い女の子の物語。
「パパは女の子のスカート姿と、パンツ姿、どちらが好き?」と少しおかしな質問され、「あの子、ちょっと変じゃないか」と心配するキュートな父親と「どうやら好きな人ができたらしい」と察しはするもの、深く聞くことをしない魅力的は母親も、この映画を安心してみることができる要素の一つ。ちなみに、父親役を演じたフレデリック・ピエロは、先に紹介したフランソワ・オゾン監督作品「17歳」で頼りない義父を演じた名俳優!
若い女の子と年上の男性の関係を、今の時代に起こりがちな関係とは真逆のものとして見せたかった。私は『女性の選択』を真っ先に支持します。そしてすぐに性行為に至るような男女の関係ではなく、敬意があり、健全で、愛情深く、互いの同意がある関係、謙虚で、礼儀正しい関係を描きたかったのです。
ー「スザンヌ、16歳」 監督 スザンヌ・ランドン
もう少しスザンヌ・ランドン自身の話をしておくと、「セリーヌ(CELINE)」のエディ・スリマンによるPORTRAITプロジェクトにモデルとして参加し、シャネルのヴィルジニー・ヴィアール本人から新ミューズとして抜擢されるなど、今大注目の新世代。実の母はサンドリーヌ・キベルラン、父はヴァンサン・ランドン。2人ともフランスを代表する映画俳優です。
ずっと映画に出演したいと思っていたというスザンヌ・ランドン。両親が業界の有名人であるため「いい演技をするためには、きちんとした理由があって自分がその役に選ばれたと感じる必要がある。映画に出演し、それが正当なことだと感じるためには自分で脚本を書かなければいけないと思ったんです」と語るスザンヌの堅実さと、賢さは映画の端々で見ることができるはず。
■スザンヌ、16歳
公開日:2021年8月21日(土)
上映時間:77分
監督:スザンヌ・ランドン
出演:スザンヌ・ランドン、アルノー・ヴァロワ、フレデリック・ピエロ、フロランス・ヴィアラ、レベッカ・マルデール
公式サイト
【微ネタバレ注意!】
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