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ファッションとビジネス
前述したインタビューで私が最も強く認識したのはRKのビジネス・パーソンとしての在り方である。ゼロから会社を興し、いかなる大手資本の力も借りず'服をつくり売ること'だけで成長し生き残り続けている、それがCDGだ。それは戦後の資本主義消費社会の中で稀有な例と断言できる。彼女は'新しいから売れる。見たことも無い≪もの≫だから買って下さる'と明言していたが、それがRKのビジネス・ポリシーであり、結局、ファッションというフィールドで創造行為によってマネーメイキングし続ける為の最強にして唯一のストラテジーかも知れない。
'見たことの無いもの'を具現化し続けて'非・服'に至った。だが、それも'服'であり'商品'である。

直近のCDGのコレクションには'量産しないショーピース'が登場するようにもなった。それは'着なければ服では無い'と言い続けてきたRKを考えると'変節'なのか?というツッコミも可能だ。だが'複数の人は着ないかも知れないがたとえ一人でも着る人はいる'のであればそれは彼女の中で未だ'服'だろう。展示会で卸売りはしないが着たいと望む誰かにとって発注可能である、という設え。それは'従来のCDG=プレタポルテ'に対する'オートクチュール'の様な位置付けとも解釈できる。実際、昨秋CDG青山本店では8体の過去の作品を展示し受注発注が可能であるという試み「Re-Collection」がなされ数体が実際に発注された。具体的には2004年から2013年のコレクションの中からRKが選んだモデルを展示し期間中に発注すると白か黒のシーチング生地で制作され販売されるというもの。価格は約30万円から約60万円のレンジであった。あくまで私の推測だがMETの展覧会との有機的連動も射程に入れた試みであったか、とも思えた。いずれにせよこの数年はコレクション=メッセージ、展示会=ビジネス、と役割を分けており、そのことはRKにとって戦略の明確化や創作/制作時の精神的負担の軽減にも繋がったと語っていた。
ファッションと美術館
つまりRKの創造する'もの'とは、やはりアート(を目指すもの)では無いということなのだ。CDGの服を見たり着たりして心が高揚することや、芸術に触れる様に深い感動を得ることがあって当然だろうし、それは作り手にとっても着る側にとっても幸福な瞬間だ。だが'今やCDGはアートだ'或いは'川久保玲は芸術家だ'とカテゴライズすることは、実は服の真の価値や彼女達の努力に対する正しい評価ではないばかりか、そもそも'アート'を'ファッション'よりも上位概念に置いたヒエラルキー発想から出ていないとは言えないか...。前述したアンドリュー・ボルトンのキュレーションに'こじつけ'を感じてしまうのは私だけだろうか?更に意地悪な言い方をすれば、彼がアメリカという国を代表する美術館でファッションのキュレーターという職を得、今後も継続していくにあたって'ファッションは芸術である'ことを強めに主張し刷り込む意図(無意識かも知れないが)は無かっただろうか...。

極論すればCDGとは従来的な'ファッション'で無いばかりか'アート'でさえ無いという真にオリジナルな位置を確立したのだろう。'コム デ ギャルソンという独自の立ち位置'それは究極のブランディングだ。
ファッションとカルチャー
近年、世界各地の美術館で'ファッション'がテーマとされている。そもそも美術館のテーマは展示物と等しく重要であるし興味深いものだが、ファッション全体がある種閉塞状況にある現在'何故このタイミング''何故このテーマ/デザイナー'なのかを考えることはキュレーターの時代感覚や館自体のディレクションを把握するだけでなく'世界を捉える'きっかけともなる。
Teaser - Margiela, the Hermès years from MoMu Fashion Museum Antwerp on Vimeo.
私はアントワープやパリやフィレンツェでそれらを積極的に観て来た。Margiela the Hermès Years展はアントワープのモード美術館(以下MOMU)で観たが、キュレーター/館長のカート・デボ本人に案内し解説して貰うという幸運に恵まれ色々と裏話も聞けた。この展示はマルタン・マルジェラ(以下マルジェラ)がアーティスティック・ディレクターを担った1997年から2003年のエルメスとマルジェラ本人のコレクションからピースを選び共通点を抽出し、意味を解説したもの。世界的に知られる最高級革製品及び衣服の老舗ブランドであるエルメスと常に前衛的であったマルジェラのコレクション...一見'水と油'的に感じられても不思議は無いが、実は女性への尊敬や本質的ものづくり意識といった根源の部分で両者は大いに通ずるものがある。展示物の物量こそ多くは無いがエルメスとマルジェラへの深い洞察、何よりもファッションへの愛と理解が本展覧会の質や濃度を高めていた。
次のページは「なぜ今、アート×ファッションの展覧会が必要とされているのか?」
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