オーガニックコスメのパイオニア「メルヴィータ」が新たなステージへ 創業から40年で訪れた4つのターニングポイント

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オーガニックコスメのパイオニア「メルヴィータ」が新たなステージへ 創業から40年で訪れた4つのターニングポイント

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 オーガニックという言葉さえもほとんどの人が知らなかった1983年、フランス南東部のローヌ・アルプ地方に創業した「メルヴィータ(Melvita)」。生物学者で養蜂家だったベルナー・シュビリアが、環境や生態系に配慮した製品を開発し、フランスで最初にオーガニックコスメ認証を受けたブランドの1つです。オーガニックコスメのパイオニアとして40年間、羅針盤として歩み続けたメルヴィータが2024年、ブランドコンセプト「BIO-REGENERATIVE BEAUTY/自然の再生力で、美しさが目覚める。」を掲げて大型リニューアルを行いました。オーガニックでありながら、モダンで洗練されたイメージを打ち出した製品で、若年層、ジェンダーレスとより幅広い層へのリーチを目指し、ロゴやパッケージ、コミュニケーションまでを一新。40年のうち4回目のターニングポイントを迎えたというメルヴィータが、今なぜジェンダーを超えたブランドへと進化しようとしているのでしょうか。

 新たなステージに立ったメルヴィータの、グローバルジェネラルマネージャー ナタエル・ダヴスト氏と、グローバルブランド アドボケート ディディエ・テヴェナン氏に、これまで3回のターニングポイントを巡りながら、4回目のターニングポイントをひも解く。

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◾️ディディエ・テヴェナン(左):グローバルブランド アドボケート 。1963年生まれ。18歳まで南米、アフリカ、アジア、ヨーロッパなど海外で過ごす。元インテリアデザイナーのPRエグゼクティブで、1998年にロクシタン(L'OCCITANE)グループのヨーロッパ担当トレーニングディレクターとして入社。2009年にロクシタン・グループがメルヴィータを買収した後、メルヴィータへの入社を志願トレーニング部門を立ち上げ、新市場の開拓をサポートした後、PR(フランスおよび海外)の責任者となる。

◾️ナタエル・ダヴスト(右):グローバル・ジェネラル・マネージャー。クリスチャン・ディオールでキャリアをスタート。ピエール・ファーブルUSAで商業・マーケティング戦略を立案し、売上とブランドのポジショニングに大きな影響を与えた。2007年にロクシタングループに入社し、リテール・ストアやコマーシャル・レップとして働いた後、いくつかのマーケティング職に就く。その後、ニューヨークのロクシタンUSAのオペレーション・ディレクター、ロクシタン・ジャパンのシニア・デジタル・プロジェクト・マネージャー、マーケティング&デジタル・シニア・ディレクター、2019年に香港・マカオのゼネラルマネージャーに就任。2021年から現職。

ターニングポイント1:メルヴィータの誕生

⎯⎯オーガニックコスメをけん引してきた40年を振り返り、ターニングポイントになった時期を教えてください。

ナタエル・ダヴスト(以下、ナタエル):まず最初にお伝えしたいのが、われわれメルヴィータというブランドが誕生したこと、そのものがターニングポイントではないでしょうか。まだオーガニックという言葉が一般的ではない1983年のローンチ時から、消費者にコミットした存在であり、フランスで初めてオーガニック認証を受けたブランドでの1つでもあります。これは、化粧品業界にとっても大きなターニングポイントだったと思います。

⎯⎯当時はオーガニックといえば、食が注目を集めていたころだと思います。そういった中で、メルヴィータから見たオーガニックコスメとは、どういうものだったのでしょうか?

ディディエ・テヴェナン(以下、ディディエ):当時はオーガニックで展開するコスメが少なかったこともあり、どういうものがオーガニックコスメであるかが認知されていない状況でした。さらにオーガニックコスメの認証制度もなく、ブランドがどれだけ環境に優しく効果の高い製品を開発しても、口頭で説明するのみでは、消費者がそれを信じてくれることに委ねるしかなったのです。

メルヴィータのアーカイブより

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⎯⎯オーガニックコスメについて知ってもらうことからのスタートだったということですね。

ディディエ:そうですね。なので最初は食へのこだわりがある人、もしくは田舎暮らしを好んでいる人などオーガニックのコスメをスムーズに受け入れられる“土壌”のある限られた層をブランドターゲットに発信していました。2009年に私がメルヴィータを担当することになったのですが、時代としてもオーガニックコスメが注目を集め出したこともあり、より幅広い層にブランドを理解してもらうことが大きなミッションでした。

⎯⎯そのミッションをどう遂行したのでしょうか?

ディディエ:実は社内改革からスタートすることになったのが実情です。これまでオーガニックコスメに興味があるであろう層へのアプローチで、スタッフは皆、誇りを持って納得したやり方でお客さまに提案していました。ですがそのやり方とは違う角度から提案することが重要だと伝えなければなりませんでした。つまり、オーガニックコスメ市場が広がりつつある時代背景もありオーガニックコスメという名前は聞いたことはあるが、まだ“自分ごと”ではない人たちまでを取り込むために、「変わるしかない」という気づきを与えることでしたでした。

⎯⎯信念を持つスタッフを変えていくのは、ハードルが高かったのではないでしょうか。

ディディエ:確かに、根気のいることではあったのですが、意外にもカギとなったのは、「肩の力を抜くこと」でした。オーガニックコスメといえば、「これを使うべき、使うことで人にも、環境にも、良い影響を及ぼします」という、“こうあるべき”的な考え方が中心でした。しかしどんなに魅力的な製品を使ってスキンケア体験を楽しんだとしても、これで世界中のすべての問題が解決するわけではありません。だからモノごとをシビアに考えすぎず、もっと力を抜いて違う提案を進めていこうよ、と伝え続けました。

 商品においても同様で、「こう使うべき」と細かく説明すると、相手は子ども扱いされているようにも感じますよね。「こうするとこういうメリットが得られますよ」と説明一つひとつまでも変更しました。そうすることで、「オーガニック製品は、環境に対して真剣に考えている人のみが対象」というイメージが薄まっていったと思います。

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メルヴィータが考える、真のオーガニックブランドとは

⎯⎯今や、多くのオーガニックコスメブランドが発売されています。真の意味でのオーガニックブランドとは?

ナタエル:自然であるとか健康であると主張するのは簡単ですが、近年は多くの消費者が自分自身で、良いもの・悪いものを判断するための情報を集めることに長けています。ただ「本物」のオーガニックと、「見せかけ」のオーガニックをしっかり区別できる“目”を持たないといけません。そのための手段として認証があるのではないでしょうか。

 メルヴィータは、エコサートとコスモスの認証を受けていますが、本物のオーガニック・ブランドだけが公的機関から認定を受けたラベルを貼ることができます。これは、健康への危険性が疑われたり証明されたりした成分を含む商品ではないことを、消費者に保証するものでもあります。消費者は、グリーンウォッシングや人を欺くような主張を避け、より良い選択をすることができるのです。

<参照>主なオーガニック認証
エコサート:1991年設立された、農学者の団体による国際有機認定機関。ヨーロッパを中心に世界50ヶ国以上の国で認証を行う。国際有機認定機関としては、世界最大規模。
BDIH:2000年に誕生したナチュラルコスメのガイドライン。BDIHとは「ドイツ化粧品医薬品商工連盟」の略。
コスメビオ:2002年設立。フランスのエコロジカル・オーガニック化粧品の協会で、原料サプライヤー、製造業者、化粧品研究所、流通業者など500社以上の企業で構成されている。基準はメーカーであれば、製品としてオーガニック認証を取得していなければ入会できない。
NaTrure:2007年設立、2008年にガイドライン制定。BDIH基準では対応できなかったオーガニック基準を可惜に補って作られたガイドライン。プリマヴェラを中心にハウシュカ、ラベーラ、ヴェレダなど主要6メーカーによりオーガニックナチュラルコスメを推進し、オーガニックの原料を多く含む製品を区別できるようになっている。
コスモスオーガニック:ベルギーのブリュッセルを拠点とする国際非営利組織「COSMOS Standard AISBL」が運営。もともとヨーロッパ各国にあった5つの団体(BDIH、コスメビオ、エコサート、ICEA、ソイル・アソシエーション)が、国際的なオーガニックコスメの認証を制定するために、COSMOS Standard AISBLを立ち上げた。

ターニングポイント2:ロクシタングループ傘下に

⎯⎯2008年にロクシタングループに加入します。それによりできるようになったこと、できなくなったことはありますか?

ナタエル:ロクシタングループ傘下になったことが、第2のターニングポイントですね。それまでメルヴィータはオーガニック専門店や薬局での販売でしたが、卸事業に着手しました。これができるようになったことでしょうか。より多くの人にリーチできるようになりました。一方でガラリとプロセスが一変し、ロクシタンのフォーマットに沿ってツールも変える必要がありました。この変更は、ブランド規模が小さいメルヴィータにとって、大きな規模のロクシタンに合わせることは苦労を意味しました。

ディディエ:また、メルヴィータはフランス南部のアルデーシュという地域で誕生しファクトリーもありますが、この土地の人たちは地元を愛し自由を大切にする人たちです。大手企業の傘下になったことで、従業員の自由度が減るのではないかという不安が募りました。「従業員が愛する製品はこれまで通り作り続ける」と納得させることも大変でしたね。

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ターニングポイント3:ヒット製品「アルガンオイル」の誕生

⎯⎯製品ではどうでしょうか?ターニングポイントと言える製品はありますか?

ディディエ:1991年に誕生した「アルガンオイル」ではないでしょうか。ベストセラーであることはもちろん、一般的にアルガンオイルの効果が広く知られる前の1991年から作り続けていることもブランドとして大切なポイントです。化粧水の前に使用することで保水力に富んだアルガンオイル(アルガニアスピノサ核油<保湿成分>)が化粧水・クリームのうるおいをギュッと抱え込むブースターの役割をして、モチモチの美肌へ導いてくれるオイルです。この製品がベストセラーでロングセラーとなったことで、メルヴィータというブランドの認知が広がりました。

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メルヴィータ「アルガンオイル」(50mL 5610円)

100%自然由来の認証オーガニック。数年間、雨が降らなくても枯れないと言われるモロッコの木「アルガン」から採れた実から低温圧搾で抽出。熱に弱い美容成分も守られた、一番搾りのオイルを使用しています。アルガンオイルに含まれるオレイン酸、リノール酸やステロールなどの美肌成分が、 キメの整ったふっくらとしたハリ肌へと導き、エイジングケア(年齢に応じた手入れのこと)にもアプローチする。フェイスケア、ボディケア、ハンドケア、マッサージ、ヘアケアなど、ざまざまな用途で活用できるマルチオイル。

 その他には、導入美容液の「ネクターデルミエール アクティベーターオイルウォーター」(50mL 5390円、100mL 9900円)や化粧水「ソルスデローズ エッセンスローション」(150mL 5280円)も人気が高く、長く愛される製品です。

ターニングポイント4:そして2024年、ジェンダーの枠を超える大型リニューアル

⎯⎯そして2024年、ブランドリニューアルを敢行しました。これまで顧客のほぼ大半を占めていた女性だけでなく、男性もターゲットにしたシェアコスメも、テーマの1つになっていますね。なぜ、このタイミングでのリニューアルでしょうか?

ナタエル:このリニューアルはブランドの大きな分岐点です。すでに展開しているマーケットでのプレゼンスを高めることはもちろん、新たなマーケットの獲得を目指しています。メルヴィータは40年間走り続けてきましたが、トップを保ち続けるのは非常に難しいと言えます。さらに40年で大きく社会、そして世界は変わりました。自然災害やコロナウィルスのような感染症などは、われわれの意識も変化せざるを得なかった。

 そういった背景から消費者はより安心・安全を求め、結果オーガニックコスメにも大きな関心を持つようになった。ブランドも多数立ち上がり、一方でデジタルの拡大は消費者の製品選びの幅を広げました。競合が増え、消費者が気軽にオーガニックコスメを選ぶことが増えたことで、メルヴィータの販売数や影響力も右肩下がりに。そういった状況で製品の陳列棚を見ても、モダンさやエッジさが欠けていると感じるようになったのです。そこで特にコミュニケーション面をリニューアルする必要があると考えました。

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⎯⎯そのコミュニケーションの1つが男性へのアプローチですね。

ディディエ:これまでのメルヴィータは女性らしさのある可愛いイメージが強かったのではないでしょうか。もちろん女性から支持を集めることは嬉しいことですが、実は製品の“中身”は男性にも気に入ってもらえる高いものです。ただ見た目の可愛らしさからこれまで男性ニーズは僅かにとどまっていました。

 今回のリニューアルではスキンケアシリーズ「ソルスデローズ」でパッケージを刷新、またアルデーシュの大自然と日本の「森林浴」に着想を得て、「自然との関係を取り戻す」をテーマに開発した新たなボディケアシリーズ「ロルベジタル」を発売します。ロゴや製品ボトルを洗練されたデザインに進化させ、店頭VMDもかなりソリッドでシャープなものに変更していきます。余計なポップなどは外して製品がより目立つように印象を変化させます。

新しいパッケージで登場するソルスデローズやロルベジタルなど

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ソルスデローズ エッセンスローション(150mL 5280円)

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 今後はコミュニケーション施策として、男性KOLやインフルエンサー起用や、美容感度が高いゲイコミュニティにアプローチするなど、リアル、デジタルともに盛り上げていく予定です。

⎯⎯認知拡大のためには、多くの人の目に触れる必要があります。そう言った意味で、リアル店舗戦略はどう考えていますか?

ディディエ:プレミアムブランドとして次のステージに行くために、テーマにあったロケーションの出店に変えていく必要があります。現在は商業施設をメイン販路としていますが、百貨店への出店を増やすことも検討し、一方で若年層が集まるエリアでポップアップを開くなど、若い人、また男性にもリーチしながら幅広い層を獲得できるよう、実績を重ねていきたいですね。

⎯⎯40年前、ヨーロッパよりもさらにオーガニックコスメが浸透していなかった日本のオーガニック市場。今、どうみていますか?

ナタエル:日本は環境にやさしいだけでなく四季のリズムに合わせて生活する文化があり、持続可能で、倫理的で、責任ある化粧品に移行する必要性を誰よりも理解していると感じます。若年層は責任あるブランドを求める一方、誰もが健康的に歳を重ねたいとも考えています。日本人は四季のリズムや自然の力が、私たちの心身にもたらす幸福を理解していると確信しています。先程新製品として紹介したロルベジタルは、森林浴からインスピレーションを得たもの。私たちの最新のイノベーションの1つであり、きっと共感してくれるでしょう。

⎯⎯最後に目標値について教えてください。

ディディエ:現在グローバルの売上高を今後数年間で倍増させることを目指しています。また、日本のマーケットシェアは全体の25%を占めており、日本もグローバル基準と同じ売上高2倍を目指します。40年前とは比較にならないほど、オーガニックコスメ市場は拡大し、われわれはパイオニアとしてしっかりと根を張り、そして新たな売り上げを作る土台はできているので、よりジェンダーレスを意識した幅広い層にアピールしブランドのプレゼンスを高めていきたいと思います。

text: Wakana Nakade | photography: Hikaru Nagumo, edit: Akiko Fukuzaki, project management: Miki Takahashi (FASHIONSNAP)

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