英国老舗のハンドメイドブラシメーカー「メイソンピアソン(MASON PEARSON)」。創業から150年経った今も伝統的な手法を用い、すべて職人の手作業によって生み出されているブラシは “ヘアブラシ界のロールスロイス” と評され、他の追随を許さない地位を確立している。近年、ヘア市場では最新テクノロジーを応用したツールや美容機器が次々に登場しており、ヘアブラシ要らずの時短ケアやスタイリングがいつの間にかルーティン化しているという人も少なくないだろう。しかし、ヘアのプロフェッショナルの現場においては、メイソンピアソンといえば、今も昔も一貫して何ものにも代えがたい絶対的な存在だ。メイソンピアソンの何がそんなに彼らを惹きつけてやまないのか。英国でメイソンピアソンのブラシに出合い、以来20年手放したことがないというヘアスタイリストのKENICHI氏に話を聞いた。
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■KENICHI:SENSE OF HUMOUR ファウンダー/CEO、ヘアスタイリスト
2005年に渡英し、ロンドンでヘアスタイリストとしての活動を開始。VOGUE、i-D、Harper’s BAZAAR、ELLEなど世界の一流雑誌のヘアを担当する傍ら、数々のミュージシャン・セレブリティのヘアも担当。2013年帰国後、ヘアスタイリストとして活動しながら自身のブランド「SENSE OF HUMOUR(センスオブヒューモア)」の代表としてヘアプロダクツの企画・開発・販売を行う。2016年ヘアメイクアーティストのマネージメントを行うSENSE OF HUMOURMANAGEMENT事業を始める。2020年4月表参道にSENSE OF HUMOURの旗艦店をオープン。
目次
ヘアスタイリストの間ではメイソンピアソンが100%の支持率
―ショーのバックステージに入るたび、多くのヘアスタイリストがメイソンピアソンのブラシを使っているのを見かけます。
逆にメイソンピアソンを使っていない人はいないと思います。少なくとも僕は、メイソンピアソン以外のブラシを使っているヘアアーティストというのは、一度も見たことがありません。イギリスには他にも信頼のおけるブランドがあって、バーバーやサロン界隈では使われているかもしれませんが、撮影やショーの現場になると本当にメイソンピアソンしか見かけない。
―KENICHIさんもメイソンピアソン一筋ですか?
ですね。ロンドン時代の師匠がメイソンピアソンを使っていたので、僕も当たり前のように使い始めました。メイソンピアソンのブラシって高いんですよ、他に良いと言われているブランドと比べてもメイソンピアソンは倍近くの値段です。なんでこんなにするんだろうと思って、若い頃に他のブラシを試したこともあるんですけど、実際に使ってみて確信できました。やっぱりメイソンピアソンがいい。
アイコニックなオレンジ色のクッションパッド
―具体的にどんなところが優れているのでしょうか?
まず、クッション性。僕らの習性みたいなもので、新しいブラシを手にする機会があると最初にそのクッションを押してみるんですけど、柔らかすぎるのはダメ、固いのは問題外。その点、メイソンピアソンのクッションは本当に絶妙で、使い勝手がとても良いです。もつれやクセなどの引っ掛かりがある髪でも、クッションがかばってくれるので、負担をかけずに梳かすことができます。開発当時は特許も取得していたようです。
もうひとつ、メイソンピアソンのブラシですごいのは、毛の植え方ですね。1本ずつL字に曲げて、長さと角度を変えながら、職人が手植えしているそうです。ブラシの長い毛が頭皮に当たって、短い方の毛は髪を通ります。つまり頭皮ですくった自分の油が、ブラシの毛を介して髪になじんでいく。梳かせば梳かすほどなじみが良くなり、髪がきれいになるというのは、そういうトリックのようです。
頭皮の油分が猪毛になじみ、自分だけの1本に育っていく
―ブラッシングのしすぎで、逆に髪が傷むことはないのでしょうか?
全くないです。髪が濡れている状態での摩擦はもちろん良くないですが、乾いている時はむしろやったほうが絶対に良い。昔、ロンドンのPOP Magazineで撮影した時、カメラマンに「100回以上ブラッシングしといて」とリクエストされたことがありました。モデルの自前ヘアの感じがすごく良かったから、巻きもブローもなしで、ブラッシングだけ。ひたすら地毛にハイメンテナンスをかけるということです。
―ツールの進化に伴って、ここ十数年はブラシをスキップする人が多くなったようです。
髪のコンディションを問わず、即ベストに持っていくことができるというような点では、最新技術や開発から生まれた製品は優れていると思います。ただ、その日が良ければいいや、みたいな流れになってしまっているような気もしていて。僕らはもっと根本的なところの提案がしたい。そこでいうと、メイソンピアソンのブラシは大人の世界観で、根本からしっかりケアしようという姿勢が昔から一貫して変わらない。北インド産の希少な猪毛を使っているのですが、猪毛にもキューティクルがあって、そこに自分の油が入っていくからよりうるおうんです。ブラシも、自分の髪も、一緒に育っていく感じです。昔のお婆さんって、白髪でもうるおっている印象がありませんか? ブラッシングで適度に油がまわっていて、面が整っているからだと思います。イギリスでは昔から一家に1本あって、一生モノとして受け継がれていくような存在です。
今、本当にラグジュアリーなヘアケアとは?
今の時代で考えると、丁寧なブラッシングというのは、一周回ってぜいたくなケアかもしれません。お金ではなく時間をかけることのほうがエレガントであるという風に、ヘアに限らずいろんなことが見直されてきている気がします。
―KENICHIさんはどのブラシをよく使っていますか?
愛用しているのはこのあたりです。特に小回りのきく「ポケットミックス」はこれまでに10本以上、もはや何代目かわからないくらい使い続けています。
―「ミックス」とは、猪毛とナイロンのミックスですよね。猪毛100%に比べてどこが良いのですか?
最もオールマイティです。頭皮に当たる毛がナイロンになっていて、猪毛100%よりもさらに高く飛び出ていることから、絡まりやすい髪質やパーマヘアにも使いやすい。日本人のほとんどの髪にはミックスが最適だと思います。
ストレートの人なら標準猪毛100%も合いますし、少なくて柔らかい髪向けの「センシティブ」という軟質猪毛100%のブラシもあります。一方で、ブラシが地肌に届かないくらいゴワゴワのボリューミーな髪には、硬質猪毛100%という選択肢もあります。
頭皮ケアもカバーする「ミリタリー」が今、男女問わず人気
―店頭で人気のタイプは?
今、よく売れているのは「ミリタリー」のブラシ。その名の通り、元々は軍人のためのブラシで、お風呂に入れない環境下でもメンテナンスしやすいように作られたというストーリーがあります。頭皮ケアに近い考え方で、最近は女性にも人気です。
―コームも隠れた人気アイテムとか?
1枚の板から削り出されていて、やはりこちらも職人の手仕上げです。僕は「レイクコーム」が本当に気に入っていて、スタイリング剤をつけてからフォルムを作る時なんかにすごく良い。あと、感心したのは、「デタングリング コーム」につけられているカーブ。頭の丸みに沿うようになっているんです。ブラッシング前の土台を整えるのにも使いやすいと思います。酢酸セルロースという植物性の原材料を昔から使っていて、当たり前のようにサステナブルを実践しているところがメイソンピアソンらしくて良いですね。
英国流のクラシックは、すなわちサステナブルである
―全ラインナップは、ブラシ13種とコーム5種だけ。
英国ならではのクラシックな考え方なのだと思います。例えば靴を選ぶ時も、イギリスの人はぴったりが良いという価値観です。とにかくピタピタの靴を買って、履くことで革をのばして自分のものにしていくという考え方。メイソンピアソンのブラシとの付き合い方も、それに近いものがある気がします。使うほど、自分になじんでいきます。
―メイソンピアソンが世界でトップを走り続けている理由はなんだと思いますか?
ブラシの形を作ること自体はできるかもしれませんが、メイソンピアソンを超える機能性を生み出すのは、相当難しいと思います。もし自分がやるとしたら、一生かかりそうです。
―SENSE OF HUMOUR ではメイソンピアソンを含め、ヘア、メイク、ファッション周りの他社商材も取り扱っています。どんな基準でセレクトしていますか?
流行りではなく、明確なヴィジョンがあってブランディングがしっかりしているブランド。ひとつ言えるのは、中長期的に考えた時、例えば5年後でも我々は絶対作らないだろうなと思うもの。メイソンピアソンがまさにそうですし、他社のドライヤーも取り扱っていますが、いずれもヘアにまつわるものですよね。ならば積極的に取り入れて一緒にやっていきたいという考えです。
―メイソンピアソンがオンラインでも購入できる、国内で唯一のヘアサロンですね。
今年9~10月に開催したポップアップがとても好評で、ウェブショップでも取り扱わせていただくことになりました。SENSE OF HUMOUR は1階がギャラリー兼ショップになっていて、随時いろんなポップアップやエキシビションを開催しています。例えば2~3ヶ月に1回のペースでサロン通いしてくださる方なら、来店いただくたびに新しい発見をしてもらえるはずです。ショップのみの利用も可能なので、メイソンピアソンのブラシを試しがてら、ぜひ足を運んでみてください。
(文:編集ライター 合六美和)
■メイソンピアソン商品ページ:SENSE OF HUMOUR
Miwa Goroku
コレクション取材記者を経て、フリーランスのエディター&ライターに。雑誌や広告、ウェブメディアなどさまざまな媒体で、執筆やディレクション、コーディネーションを手がける。ファッション、ビューティーを軸に、クリエイティブに関わる人やカルチャーをフォロー。
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