左から、メゾンコーセー銀座店長の深澤亮氏、メゾンコーセー表参道店長の竹村裕貴氏
コーセー「Maison KOSÉ(メゾン コーセー)」は、2019年12月にコンセプトストア銀座店、2020年12月にフラグシップストア表参道店をオープンし、同社が展開するブランドを横断で取り扱う直営店として人気を集めている。その2店舗の店長は、ともに異業種からの転職組。店長候補としての募集に名乗りを挙げ、これまでと全く違うビューティ業界で楽しくも孤軍奮闘する。ワイン輸入販売会社から転職した銀座店長の深澤亮さんと、下着メーカーから転職した表参道店長の竹村裕貴さんにフォーカス。転職した経緯から、店長としての役割、そして思い描くビジョンまで聞いた。
■深澤 亮(ふかざわ りょう)
大学卒業後、2008年にヴィノスやまざき入社。2010年から関西エリアへの出店 店長 エリアマネージャー、2014年から店舗管理・マーケティング企画 エリアマネージャーを担当。2021年コーセー入社。メゾンコーセー銀座の店長および、通販、オンラインショップ事業のマネージャーを担当する。
■竹村 裕貴(たけむら ひろき)
大学卒業後、2007年ワコール入社。国内大手量販店等の営業を経て、海外プロジェクトを担当。ミャンマーやインドの会社設立及び直営店事業の立ち上げを経験し、フィリピンへ出向。直営店の新規出店及び運営管理を経験。2021年コーセー入社。現在は、メゾンコーセー表参道の店長及び、ブランドECマネージャーを担当する。
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ーお2人はともに、店長採用でメゾンコーセー銀座、メゾンコーセー表参道の店長に着任されたんですよね。深澤さんの会社はワイン輸入販売会社、竹村さんは大手下着メーカーのワコールですね。深澤さんはワインが好きだった?
深澤:はい、お酒全般好きでした。学生時代、「お酒ってかっこいいな」と漠然と思っていて、バーテンダーとか小さいスナックとか、ずっとお酒に関わるアルバイトをしていたんです。大学は理系だったので研究職に就くという選択肢もありました。お酒って不思議な力があって、お酒があると場が和んだり新しい人とのつながりが出来たりしますよね。そういうお酒の楽しさ、素晴らしさを伝えるような仕事の方に興味が湧いて、ワインの輸入販売会社に就職しました。
ー竹村さんは大学卒業して新卒でワコールに勤めて、今回初の転職だったんですよね?
竹村:はい。大学卒業後の2007年に入社してから13年間ずっとワコールでした。入社して7年半は国内の営業を担当していました。最初のうちは量販店の店舗を回り、5年目あたりで大手流通会社の本部担当になり、本部で決まった施策などを、各店に落とし込んでいくというのが主な仕事でした。その後の5年半は、ミャンマーやインドのプロジェクト、フィリピン直営店の運営管理などを担当しました。
ー13年は長いですね。いろんな経験も積めてやりがいもあったのでは?
竹村:そうですね。ずっと国内でルート営業をしていたのですが、海外でのプロジェクトに参加することになったときは、同じ会社でも転職したような感覚でした。一からスタートするようなフレッシュな気持ちでいろんなことにチャレンジできたので、長く勤めることができたのかなと思います。
ー深澤さんは具体的にどんなことをされていたのですか?
深澤:2007年に入社してから2021年に退社するまで、1つの会社の中でいろんな部署を担当しました。若くても意欲のある人にはどんどん責任あるポジションを任せていくというスタンスだったので、積極的にいろんなポジションをとりにいき、いろんな経験をさせていただきました。店舗運営から始まって、入社して3年目には店長、翌年からもう1店舗任せていただけるようになり、店舗の統括、エリアマネージャー、販促企画、プロモーション、オンラインショップの運営なども行っていました。
ー常に上を目指せて経験もどんどん詰める、良い職場環境だったのですね。だからこそ、ご苦労も多かったのでは?
深澤:そうなんです。色々な業務を任され、さまざまな経験はできるけれど、その分責任も重くのしかかってくる。自分で手を挙げておきながらも相当なプレッシャーを感じていたことは否めません(笑)。
ー竹村さんがワコール時代に、いちばん苦労した出来事は?
竹村:海外担当の5年半は、本当に大変でしたね。やはり国が違えば仕事のスタンスや価値観も違うので、納期を守らない、約束の時間に来ない、昨日まで連絡とっていた人が退職してたとか、日本だったら考えられないことが当たり前のように起こるので、それを受け入れながら任務を遂行するのはとてつもなく大変で、苦難の連続でした。
ーどの国がいちばん大変でしたか?
竹村:インドですね。地図片手にショッピングモールを回って、「ここいいな」と思った施設にアポとって商談して…という地道な飛び込み営業も大変でしたし、基本的に計画通りに事が運ばないので、出店が決まった直営店のオープン日に準備が間に合わず、上司から「店がオープンするまで帰ってくるな」と命じられ、インドで年越ししなければならなくなった時もかなり精神的に追い込まれて辛かったです。「誰も僕をわかってくれない」って(笑)。でも、成果を満足に出せていなかったのでもう少し続けたかったのですが、当時はまだ英語力が足りなかったこともありプロジェクトから途中で外されてしまって…。そこで少し挫折を味わったこともまた、ほろ苦い思い出として心に残っています。
それでもインドの直営店の立ち上げは苦労が大きかった分、自分を大きく成長させてくれたとも思っています。カルチャーが違う中でも現地の方々に寄り添いながらビジネスゴールを達成するための仕事の仕方というのを日々試行錯誤してやってきたので、かなりタフに柔軟に仕事をこなせるようになったとは思います。
ー会社全体からみても重要なポジションを任されていたように思いますが、なぜコーセーに転職しようと思ったのでしょうか?
竹村:ワコールでやりたいことはやり尽くした、というのが当時ありました。経験を生かして成果を出せる仕事を探していたのですが、ちょうどいいタイミングでメゾンコーセーの店長採用の求人があることを知って、ここでなら経験を活かして貢献できそうだとイメージできたので、思い切って決断しました。
ー深澤さんはどうですか?お酒が大好きでやりたいこともできた環境にあって、なぜ突然異業種のコーセーに転職されたのですか?
深澤:ワインの輸入販売の仕事もやりがいを感じていましたが、14年の間に培ってきたさまざまな経験をもっと別の分野で活かせないかとずっと考えていたんです。経験を活かせて自分がもっと伸びていけるならどんな業界でも挑戦してみたいと思っていました。たまたまメゾンコーセー銀座か表参道の店長採用の求人が出ているのを知って、トライしてみようと。
ー店長経験があるとは言え、お酒と化粧品とでは扱うものがまったく違いますよね。不安はありませんでしたか?
深澤:確かに、美容と言っても私自身は化粧水をつけるぐらいで、化粧品や美容にまつわる知識はほとんどなく「できるかな?」という不安はありました。でも、これまで自分がやってきたことを改めて考えてみた時に、ただ単にワインを物として売るのではなく、「ワインのある生活やワインを通じて得られる心の豊かさ」を大切にしていたなと気づいたんです。化粧品も、物を売って終わりじゃない。「使うことで生まれる喜びや楽しさ、新しい自分と出会える機会を生むもの」という意味では、ワインも化粧品も同じだなと。
メゾンコーセー銀座
ーなるほど。確かにそうですね。
深澤:それと、メゾンコーセー銀座は商品の陳列の仕方がワインのお店と似ていたんです。メゾンコーセー銀座では、いろんなブランドごとに商品がカテゴリー分けされているのですが、ワインのお店でも、生産国やぶどうの品種、生産者別に棚が分けられていて、その中からその方の希望に合う1本をご提案するというスタイル。扱う商材が違うだけでやっていることは同じだと思ったら、お客さまに合った化粧品を提案するという自分をイメージできました。
それから、メゾンコーセー銀座は体験型のアトラクションが多いのですが、前職でもお客さまに楽しんでもらいながらワインを試飲していただくような施策をいろいろ行なっていたので、ここでならもっといろんなことができそうだと、むしろ期待感の方が大きかったかもしれません。
ー竹村さん、メゾンコーセー表参道の店長とは、具体的にどんなことをされるのですか?
竹村:「Find Your Own Beauty」というコンセプトの元、お客さまが「私らしい美の発見」ができるようお手伝いをしています。その中で、デジタルによる非接触型のショッピング体験や実験的なサービス、コンテンツを展開しています。表参道はZ世代のお客さまが多いので、この世代にコーセーをもっと知ってもらい、手に取っていただける機会を増やすための、独自の施策も積極的に打ち出しています。
メゾンコーセー表参道
ー深澤さんは、メゾンコーセー銀座の店長として何をしているのでしょうか?
深澤:表参道の店長の竹村も同様ですが、販売と店舗の運営管理だけでなく、会社全体の取り組みとしてのミッションが常にあり、社内のさまざまな部署と一緒にプロジェクトを遂行していくというのが、メゾンコーセー銀座ならではかもしれません。
その例として「カラー マシーン」というサービスを昨年8月から展開しています。これは3D高速追従プロジェクションマッピング技術を使ったメイクシミュレーターで、非接触でメイクパーツ形状や濃淡、色の組み合わせで最大204万通り以上のメイクを体験できるというもの。お客さま自身の顔に立体的に追従して色が投影されるため、まるで鏡を見ながらメイクチェンジをしたようなリアルなカラーメイク体験が可能になります。こうしたプロジェクトのキーとなる部分を担っていくというのは、やはりやりがいもありますし面白いですよね。
ー竹村さん、異業種からの転職は大変ではありませんでしたか?
竹村:前職での海外担当だったころに環境変化に合わせる経験を積んでいたので、新しい環境に早めになじむことができました。ワコールもコーセーも、直接お客さまと触れ合いながら課題を拾って改善していくという環境は同じだったのでイメージしやすかったですし、そこに強みを活かせているのではと思っています。
ーでは、前職とのギャップを感じることはありますか?
竹村:化粧品はプロモーションや広告宣伝にかなり注力することを知って驚きました。また、直営店の店長として、店でさまざまなプロモーションが実施できるので、やれることの幅が広がったというのは前職との大きな違いかなと思います。
ー深澤さんはいかがですか?前職とのギャップを感じた?
深澤:配属されてすぐのころに、「雪肌精(SEKKISEI)」のミューズである羽生結弦選手の衣装が店頭に展示されていたのですが、衣装展示を楽しみに遠方からお越しになる方がたくさんいらして、とてもびっくりしたのを覚えています。そのほかにも、さまざまな取り組みにチャレンジしていて驚きました。先ほどお話しした3D高速追従プロジェクションマッピング技術を使った「カラー マシーン」もその一例ですが、ほかにもまだ市場には出ていない新しい取り組みのPoCを実施するなど最先端の技術を活用した新しい挑戦に携わることができています。
ーそれは確かに、前職では経験できなそうです(笑)。
深澤:前職でも常にチャレンジはしていましたが、化粧品会社ならではの新しい取り組みに面白さを感じています。それから、「ビューティコンサルタントと一緒に働くことが多い」というのも違いのひとつ。前職ではそういった職種がなかったため知識がなく、最初は戸惑いました。例えば、ビューティコンサルタントは立ち仕事が多く体力を使うので、シフトの組み方は配慮した方がいい、とか。そういうギャップはたくさんありますね。
ーやりがいや嬉しかった出来事は?
竹村:入社して2年目に成果を出せたこと。売り上げ計画を達成したことで、ブランドECの運営管理まで担当させていただけるようになりました。成果が認められて責任範ちゅうが増えるというのは、やはりやりがいを感じますし嬉しいですね。
ー今後のビジョンは?
深澤:「店長」と言っても店舗管理だけでなく、いろんな部署と関わっていろんな施策を行なっているので、今後も新しいサービスや取り組みをもっと積極的に行なっていきたいですね。新しい取り組みをする際に “一緒に作っていく”というのも、自分の中ではこだわっていきたい部分で、みんなが活躍できる場、いろんな働き方を示していけたらいいなと思っています。
それから、転職するときに決めていたことのひとつに、目の前のお客さまから「いい商品をありがとう」と言っていただけるように頑張る、というのがあったのですが、その目標が最近変わりました。今は、一緒に働いている仲間たちから「この人と一緒に働けてよかったな」と思ってもらえる仕事、関係を築くこと。理想の店長像を目指して精進します!
ー竹村さんの今後の展望は?
竹村:メゾンコーセーに世界中の人が来店され、メゾンコーセーを海外へ広げていくことですね。
ー最後に、深澤さんが考えるワインと化粧品の共通点は?
人を幸せにするもの、ですね。
ー竹村さんにも最後にお聞きします。下着と化粧品の共通点は?
竹村:人を美しくするもの。どちらも肌に触れるものであり、まとうことで外見はもちろん内面まで美しく輝かせてくれるものだと思うので。
(文 ライターSAKAI NAOMI、聞き手 福崎明子)
美容ライター
美容室勤務、美容ジャーナリスト齋藤薫氏のアシスタントを経て、美容ライターとして独立。25ansなどファッション誌のビューティ記事のライティングのほか、ヘルスケア関連の書籍や化粧品ブランドの広告コピーなども手掛ける。インスタグラムにて、毎日ひとつずつ推しコスメを紹介する「#一日一コスメ」を発信中。
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