ファッションの言葉を一新したい、イタリアが期待する才能「マリアーノ」が起こす市民革命

FASHION 注目コレクション

マリアーノ 2024年秋冬コレクション

Image by: Giovanni Giannoni /Immagine Uomo/Pitti Uomo

　イタリア語で地方都市という意味を持つ「プロヴィンチア」をブランドの核とする、ルカ・マリアーノ（Luca Magliano）が手掛けるイタリア発のブランド「マリアーノ（MAGLIANO）」。LVMHプライズでカール・ラガーフェルドプライズを受賞するなど、イタリアから久しぶりに出てきた注目株は、イタリア国内からの期待も大きい。第105回ピッティ・イマージネ・ウオモ（Pitti Imagine Uomo）期間中の1月10日に屋内スポーツアリーナであるネルソン・マンデラ・フォーラムで開催され、拍手喝采で幕を閉じた2024年秋冬コレクションショーで彼は、「ファッションの言葉を一新したい」と、セクシャリティやエレガンスといった既存の概念価値を揺るがす。

　1987年生まれのルカ・マリアーノはイタリアの自由主義運動と階級闘争の象徴でもあるボローニャで育ち、ジャーナリストで建築家のバルバラ・ネロッツィ（Barbara Nerozzi）に師事、という特異な経歴を持つ。その後20歳で自身のレーベルをスタートし、2016年にマリアーノを立ち上げた。2018年にブランド初となるショーをピッティで開催。今回、5年ぶりにピッティにカムバックし、満を持しての登場となった。

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ルカ・マリアーノ Video by FASHIONSNAP

　取材に対し、ルカ・マリアーノは「ボディエクスチェンジ」というキーワードを挙げ、クラシックという概念を独自の方法で探求したという2024年秋冬コレクションは、コンテンポラリーな身体とクラシックな服のユニゾンを目指した。世界最高峰のスーツブランド「キートン（Kiton）」とコラボレーション製作したスーツを、おじさん風の野暮ったさを残したパンツに象徴されるマリアーノの得意の解釈で編集し、着崩すことで「ださい」と「イケてる」を紙一重で綱渡りする。「相反する概念の一体化」という彼の言葉は、男性と女性、クラシックとモダン、ラグジュアリーとヴァルガ（下品）といった対象にまで及び、レズビアン詩人のパトリツィア・カヴァッリ（Patrizia Cavalli）が着用していたセーターから着想を得たり、ビニール袋と色褪せたブルゾンの組み合わせた浮浪者のようなスタイル、体のラインを美しくみせるようウエストを絞ったジャケットと裾がたっぷりと余ったスラックスなど、対の概念の中間をとるわけでもないスタイリングの妙によりテイストをジャン＝ジャック・ルソーの「一般意志」のような上位概念として昇華させている。言葉の一新には、名前のないこのテイストも含まれるのだろう。

Image by: Giovanni Giannoni /Immagine Uomo/Pitti Uomo

　メンズブランドとしての見え方が強かったマリアーノだが、「女性にテーラーを着て欲しい」という同氏の言葉にあるように提案するのはユニセックスで、さらに今回はフェミニン要素の拡張に挑んだという。コンテンポラリーな身体という言葉は一見難解だが、恐らくは男らしさや女らしさという押し付けがましい固定観念の彼岸にある、二元論に収斂させないフラットなアイデンティティのこと。アンドレイ・タルコフスキー監督作品「ノスタルジア」からインスピレーションを得て、最も多様な個性を持つ人々が出会うことのできる、苦悩に満ちた雰囲気を創り出すために、モデルはゆっくりと歩き、階段を降りるという演出を取り入れたのにも、そうした背景があったからだろう。実際アイテムには、「ノスタルジア」の物語の鍵となる蝋燭のモチーフも採用された。