宮沢賢治の作品のような“リアリティの中にある創造性”を表現した、村上亮太氏が手掛ける「ピリングス(pillings)」の2024AWコレクション。今回、その創造性をメイクアップでサポートした「M·A·C(メイクアップ アート コスメティックス)」にフォーカスし、シニアアーティストの池田ハリス留美子氏とM·A·C クリエイターチームが作り出す、コレクションメイクアップの魅力に迫った。
リアリティの中にある創造性
ピリングスのショーが開催されたのは、100年前に建設された「自由学園 明日館」。今流行りの全てがデジタル化されたものとは一線を画す、木製の窓枠や桟を幾何学的に配したユニークながらも歴史を脈々と刻んてきた建物は、村上氏がこれまで一貫して服作りで表現してきた、“ままならなさ”や“不恰好さ”に通じるものがあった。
2024AWのコレクションは、そんな村上氏が貫いてきた想いが、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」に投影された。便利で効率も良くなった今、何か大切なものを失いつつあると感じた時に、昔何度も乗ったという夜行バスの座席の柄が銀河鉄道の夜につながり、そしてコレクションへと落とし込まれた。鮮やかな青にカラフルな柄が印象的なセーターで始まったショーは、歪な形のジャケットやウェスト部分に布が重なったパンツ、繊細な繭を連想させるドレスなど、いわゆる“一般的”ではないアイテムの数々が登場した。ただそれは「テーマパークや遊園地のような夢の世界ではなく、“リアリティの中にある創造性”」であり、決して“着られない”洋服ではない。
“心”を映し出すメイクアップ
ピリングス 村上氏の想いが、メイクアップに落とし込まれる。繊細・感情・神秘性をキーワードに、「『現実』と『ファンタジー』の間にいるような人物像をメイクアップで表した」と池田氏。肌の質感の対比やグラデーションリップで儚さのある神秘的な表情を、カバーしすぎないシースルーな肌でリアリティを演出。剥き出しにした感情ではなく、希望や心の闇さえも含めた内面の繊細さを表現したという。
キーは質感を対比させる「肌作り」
キーとなったのは、神秘さを秘めた肌。ファンデーション「スタジオ フィックス フルイッド SPF 25」を使用し、「なめらかに整え、さらっと軽い感触で、ふんわりソフトマットな肌に仕上げた」。その上で、コンシーラーを肌の透け感を残す程度に使用し、部分的にフェイスパウダー「スタジオ フィックス プロ セット ブラー ルース パウダー」(全5色、各税込5390円)のラベンダーでテカリを抑えて透明感を引き出した。最後はCゾーンに透明なフェイスグロスをのせ、マットとツヤの質感を対比させながら「前に突き進んでいくためのポジティブさ」も醸し出し、内面を映し出すような肌が完成した。
完成した肌に神秘的で儚い美しさを宿したのが、グラデーションで魅せたリップメイク。「使用したリップスティックの『キープ ドリーミング』という色名とリンクさせ、淡いローズカラーのリップに夢を見続けることの美しさを込めた」という池田氏。メリハリを出すために内側にのみ下地「プレップ プライム リップ」(同3850円)を塗布し、リップスティック「マキシマル シルキー マット リップスティック」の「667 キープ ドリーミング」を“トントン”と唇の中央にカジュアルに乗せ、境目をぼかして繊細な質感を作った。
そして、今回の内面の美しさでカギとなったのが、チーク。弾力感のあるクリームタイプの「グロー プレイ ブラッシュ」の「トータリー シンクト」を目の下のクマにかかるあたりの“三角ゾーン”に乗せ、「境目はぼかしてふんわり立体感があるように仕上げた。目の下の雰囲気を生かして、透明感のあるカラーでアップグレードして内面の繊細さやピュアさを表現した」。さらにモデル自身の骨格を生かし、「意志の強さ」を演出。「コントゥアで見せる強さではなく、自身が本来持つパーツに柔らかな質感を足すことで、ファンタジーの世界観を感じさせるルックを描き出した」と語り、メイクアップが完成した。
透明感や質感で印象をアップデートするキーアイテム
今回使用したファンデーション「スタジオ フィックス フルイッド SPF 25」は、バックステージや撮影で求められるパーフェクトスキンを追求した、人気ファンデーション「スタジオ フィックス フルイッド」を進化させ4月5日に発売するもの。アジア人の肌のために開発した「スキンバランシングコンプレックス」*を採用し、カバー力と崩れにくさはそのままに、薄膜テクスチャーで肌悩みをぼかす仕様にアップグレード。マットながら薄膜テクスチャーが表情の動きに合わせて密着し、シワなどに入りづらく、柔らかな質感が演出できるファンデーションだ。
*主な配合成分:カラフトコンブエキス(整肌成分)、アルゲエキス(保湿成分)、ヒアルロン酸Na(保湿成分)
リップスティック「マキシマル シルキー マット リップスティック」は、1984年のM·A·C創業当初から展開するアイコンリップ「リップスティック」の初リニューアル商品。発売当時からミュージックシーンやファッションシーンなどのクリエイションを支えてきた、メイクアップアーティストたちのマストハブアイテム。進化したリップは自然由来のオーガニックのシアバターやココアバター、ココナツオイル**を配合。シルキーマットな「オイル in マット フォーミュラ」で濃密なうるおいを叶え、独自のテクノロジー「リッチピグメントフォーミュラ」により鮮やかな発色と濃密なうるおい、なめらかな付け心地とフィット感が長時間持続する。
**シアバター:シア脂(保湿成分)、ココアバター:カカオ脂(保湿成分)、ココナツオイル:ヤシ油(保湿成分)
「グロー プレイ ブラッシュ」は、ほどよいツヤ感を与えるチーク。クッションのように弾むユニークなテクスチャーは肌になじみやすく、自由自在な仕上がりにコントロールできる。みずみずしく透明感のある血色を与えるとともに、乾燥しづらいフォーミュラが長時間ツヤ肌をキープする。
顔のパーツは自身が持つ“アクセサリー”
「心の表情をメイクアップで演出するという部分で、カバーしすぎないことが大事だと思いました。透け感のある肌や目の影をポイントにして、その人自身を表現するためにカラーや質感にこだわりました。今回、アイシャドウは使っていません。その代わりに目頭は『スタジオ クロマグラフィック ペンシル NC15/NW20』で明るくし、目尻を中心にマスカラを塗りました。アイブロウは力強い印象を出さず、自まゆを引き立てつつ意志を感じられるよう柔らかく仕上げています。肌だけでなく、唇や目は本人が持つ『アクセサリー』です。それらを引き立てられるようにメイクアップしました」(池田氏)
バックステージをサポートするM·A·Cクリエイターチーム
バックステージで活躍するM·A·Cクリエイター チーム
ファッションウィークのバックステージをサポートするのは、全国のM·A·Cアーティストから選抜されたM·A·C クリエイターチーム。「M·A·Cクリエイターは普段、リアルウェイ(店頭)でもランウェイ(バックステージ)でも活躍する二刀流ですね。私もすごく勉強になります」と池田氏。高度なメイクアップのスキルを擁するクリエイターたちは、さまざまなシーンのバックステージでタッグを組んで活躍している。池田氏もM·A·Cのフロアからメイクアップアーティストへのキャリアを駆け上ったひとり。「私ひとりではこの素晴らしい作品は絶対にできません。チームワークがあるから学ぶこともたくさんありますし、みんなで持ち寄ったそれぞれの考え方を取り入れることで、ファッションのコレクションを最高の形でサポートする作品がいくつも生まれます」とチームワークの魅力を語った。
ヘアを担当したのはM·A·Cとタッグを組むことが多い「トニーアンドガイ(TONI&GUY)」。「ピリングスはニットがメインのブランドなので、ヘアも質感を重視して作っています。今回はクリーンな感じを見せつつ、『絶望の先には希望があるよ』というメッセージを出したかった」(代表 雑賀英敏氏)
■池田ハリス留美子
1998年キャリアスタート。化粧品メーカーでの経験を経て、2002年M·A·C入社。M·A·C表参道ヒルズ店で店長を務めた後に07年渡米、メイクアップアーティストKABUKIに従事。09年からはNYのM·A·C PRO SHOW ROOMにて活動。グローバルな経験と豊かな感性でメイク業界をリードし、14年に日本のM·A·Cシニアアーティストに就任。ファッション誌をはじめ、東京コレクションはもちろん数々のファッションショーやバックステージをマルチにこなしながら日本のM·A·Cチームを束ねる。NYから日本に拠点を移した今もなお、“NY・パリ・ミラノ“といった世界のファッションシーンで活躍している。骨格を見極めることで個々の魅力を最大限に引き出すテクニックを得意とし、“リアリティーがそこにあるのか?“を常に追求しながら、エフォートレスかつパーソナライズなメイクをクリエイトする。
Photo:Koji Hirano(FASHIONSNAP)
Edit & Text:Nonoka Fujiwara (FASHIONSNAP)
Movie: Keiichi Iwasawa (FASHIONSNAP)
Direction:Akiko Fukuzaki (FASHIONSNAP)
Realization: Miki Takahashi (FASHIONSNAP)
■M·A·C:公式オンラインショップ
問い合わせ先:0570-003-770
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