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ついに「LVMHプライズ2024」ファイナリスト8人が発表された。今、世界で最も注目されているファッションコンペの2024年は、過去最多となる応募数を記録し、2月に発表されたセミファイナリスト20組はメキシコ、モルドバ、トーゴといった18ヶ国から選出され、今回の多様な選出を見ると、世界中から新しい才能を発掘しようとするLVMHプライズの意志が、これまで以上に強く現れたように思える。
いったい、誰が頂点に輝くのだろうか。それは確かに気になることだが、LVMHプライズが発掘したデザイナーはたとえ受賞しなくても、その後飛躍するケースが多い。才能を見抜く審美眼では、現状世界No.1のLVMHプライズが選出した8人とは、どのようなデザイナーなのか。今回はファイナリスト8人を、それぞれのキャリアを踏まえながら、一人ひとりデザインの特徴について明らかにしていきたい。(文:AFFECTUS)
目次
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オーベロ(AUBERO)
アメリカ出身のジュリアン・ルイ(Julian Louie)は、建築・芸術・工学の分野でアメリカ最高峰の大学クーパー・ユニオンで建築を学び、「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」や「アミリ(AMIRI)」などでウィメンズウェアの経験を積み、2022年にメンズブランド「オーベロ(AUBERO)」を設立する。
ブランド名の由来は、ウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare)の「真夏の夜の夢」に登場する、妖精の王オベロン(Oberon)から着想を得て考案された。実は、ルイは2009年に自身の名前を冠したブランドを一度立ち上げている。当時はウィメンズウェアを発表していたが、現在の「オーベロ」に通じるデザイン性が垣間見える。
ルイのメンズウェアは逞しく力強いシルエットを、グラフィカルに素材を組み合わせて作り上げていく。ブランドの特徴である素材の組み合わせ方は、細かく裁断された大量の生地の残布を1枚の生地にするなど、クラフトワークが強い。太番手のステッチを配列したテキスタイルは、刺し子が施された古い布地と同じ伝統の匂いを発し、大樹の根が張る様子を想像させる落ち着いたグレートーンの柄は、オリエンタルなムードも漂い、「オーベロ」は洗練やクールといった価値とは違うファッションの美を、メンズウェアのベーシックにのせて伝える。
素材のミックス感覚は、2009年に一度立ち上げたシグネチャーブランドでも見られるが、当時はウィメンズウェアを製作していたからか、フェミニンな印象だ。現在の「オーベロ」の素材はもっと泥臭く土着的で、雄々しい空気感を逞しいシルエットが強調している。
クラフトなアメリカブランドと言うと「ボーディ(BODE)」を浮かべるが、「ボーディ」がノスタルジックであるのに対し、「オーベロ」は野生味がある現代の男性といった趣で、クラフト的アメリカブランドという文脈上で別の価値を示す。
「オーベロ」のInstagramに投稿された写真を改めて見ると、ウィメンズウェアを発表していた当時に感じられたクリーンさが、今も漂っていることに気づく。洗練の度合いを以前よりも抑えて、その代わり工芸的テクニックを駆使して、メンズウェア伝統のエレガンスである強さを押し出す。そのようなアプローチで作られているブランドが、「オーベロ」と言えるだろう。
デュラン・ランティンク(DURAN LANTINK)
デザイナーのデュラン・ランティンク(DURAN LANTINK)は、アムステルダムとパリを拠点に活動し、廃棄された衣服やデッドストック生地を用いたサスティナブルな姿勢で、コレクションを製作する。2023年には「2023年春夏秋冬(ssaw2023)」と称されたコレクションで、パリ・ファッション・ウィークにデビューした。
また2023年は、フランス国立モード芸術開発協会が主催する「アンダム ファッション アワード(ANDAM Fashion Award)」で特別賞を受賞するなど、以前からランティンクの才能は注目されていた。実はランティンクにとって、LVMHプライズは2度目の選出となり、2019年の挑戦ではセミファイナリストに選ばれている。彼は「ヴィクター&ロルフ(VIKTOR&ROLF)」を輩出したオランダが送り出す、期待のモダンデザイナーと言えよう。
先述したように、ランティンクの特徴の一つはサステナビリティを重視した素材使いにある。しかし、素材以上に注目すべき特徴は独特な造形感覚だ。2024年春夏コレクションは、ランティンクの才能が一目で感じられるデザインで、特筆すべきはボトム。スカートにカテゴライズすべきなのか判断に迷うフォルムをデザインし、デニム生地や無地のネイビー生地をドーナツフォルムと呼びたくなる円形の形で作り上げている。
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ランティンクはアップサイクルウェアだが、発表されたルックを見ていると、デッドストック生地を使っているムードを感じさせないクリーンな仕上がりだ。しかし、人間の体を球体的に捉える造形感覚によって、テーラードジャケットやライトブルーのシャツといったお馴染みのベーシックウェアが、綺麗でありながら奇妙という絶妙に不思議な服として完成している。2024年秋冬コレクションも、ファッション普遍の素材とアイテムを異形なボリュームとカッティングで仕上げ、これぞ「デュラン ランティンク」というルックを披露した。
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ウェブサイトのデザインも個性的だが、それは奇抜という意味ではない。インターネット黎明期といったら古すぎるが、ブランドやコレクションに関するキャプションを掲載し、ルック写真を規則正しく整列させた簡素なウェブデザインは、華やかなヴィジュアルで魅せる要素は微塵もなく、ファッションブランドのサイトというよりも何かの記録保管庫のようだ。独特の造形センスが、今後どのように発展していくのか注目のデザイナーである。
ホダコヴァ(HODAKOVA)
スウェーデン出身のエレン・ホダコヴァ・ラーソン(Ellen Hodakova Larsson)は、母国の名門校スウェーデン・スクール・オブ・テキスタイル(Swedish School of Textiles)でファッションとテキスタイルを学び、2019年に卒業。その後、ラーソンは2021年にストックホルムで、自身の名前を冠したウィメンズブランド「ホダコヴァ(HODAKOVA)」を設立する。ラーソンのデザインは、廃棄された衣服やデッドストック素材を用いたアップサイクルウェアに特徴がある。
「ホダコヴァ」は先ほど言及したブランド「デュラン ランティンク」と同様にサステナブルな手法で、コレクションを製作しているわけだが、ドーナツフォルムのスカートがそうであるように「デュラン ランティンク」の服は抽象性の強い形が登場するのに対し、「ホダコヴァ」の服はリアリティをベースに、バランスを崩していく。
たとえば「ホダコヴァ」が初期に発表した2022年春夏コレクションは、色はブラックを主役にデッドストックと既存の服を使い、切りっ放しの生地をスレンダーシルエットで縫い合わせていた。それらの服は、1990年代のマルタン・マルジェラ(Martin Margiela)を彷彿させる、退廃的な美を宿ったデザインである。ショーのラストを飾ったルックは、数十本の黒いベルトをロングドレスに仕上げた逸品で、同じモチーフを連続する手法はまさにマルジェラ的だ。
もちろん、「ホダコヴァ」とマルジェラは異なる。「ホダコヴァ」はドレス要素と工芸要素がマルジェラより強い。2024年春夏コレクションでは、白いブラを何十枚も繋ぎ合わせたロングドレスとトップスを発表する。また、スカートなのかパンツなのか判別がつかない、未知のフォルムを作り出しているボトムは、ブラウン・ブラック・グレーのシックなメンズライクなパンツを何本も連続して繋ぎ合わせていた。
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2024年秋冬コレクションで登場したファーストルックは、トラッド&工芸の融合スタイルだ。トップスはライトブルーのボタンダウンシャツにネクタイを締めて、トラッドの象徴を披露。一方ボトムは、茶色のレザーを直線の帯状に裁断し、織物の経糸と緯糸のように交差させたクラフト感満載の膝丈ストレートスカートを発表した。このコレクションは、アーガイル柄ニットやトレンチコートも登場し、過去のコレクションよりもトラッド色が強い。無論、それらの素材とアイテムも特異な形状に作られていた。
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クラシックやトラッドのリアルスタイルを基盤にし、けれどスタンダードから外れた形とディテールで、バランスを壊す。異端のサステナブル&クリーンウェアが「ホダコヴァ」である。
マリー アダム-リーナエルト(MARIE ADAM-LEENAERDT)
ベルギーの名門校といえば、アントワープ王立芸術アカデミー(Royal Academy of Fine Arts Antwerp)だが、ブリュッセルにもう一つの名門校がある。それが、「サンローラン(SAINT LAURENT)」のクリエイティブ・ディレクターを務めるアンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)や、LVMHプライズ2024のファイナリストに選出されたマリー・アダム=リーナールト(Marie Adam-Leenaerdt)の出身校であるラ・カンブル(La Cambre)だ。
ラ・カンブルを卒業したアダム=リーナールトは、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」と「ジバンシィ(GIVENCHY)」で経験を積んだのち、2023年に自身の名前を冠したシグネチャーブランドを設立し、2023年2月、パリでデビューコレクションをショー形式で発表する。
アダム=リーナールトのスタイルは、古きよきモードウェアの美しさが滲む。ホワイト・グレー・ブラックといった無彩色を中心に、カッティングとボリュームでシャープに魅せるジャケットや長袖トップスは、「アントワープ シックス(Antwerp Six)」や、その後に続くアントワープ派デザイナーたちのコレクションを思い出させる。クワイエット・ラグジュアリーが支持を集める今、誤解を恐れず言えば、昔懐かしいシックで挑戦的なモードウェアを作るアダム=リーナールトは逆に新鮮だ。
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2024年春夏コレクションは、ダークトーンの特異な作風に爽やかな色味を添えた。ピンク・ブルー・ベージュが、流麗なシルエットのロングドレスに乗って軽快かつ優雅。3月に発表された最新2024年秋冬コレクションでは、千鳥格子・チェック柄といったトラディショナル素材をアクセントに挟み、黒を中心にした無地のテキスタイルをマスキュリンなシルエットに作り上げていく。
アダム=リーナールトのアイテムを一つ挙げるとするなら、テーラードジャケットだろう。ファッション伝統のアイテムは、肩幅が広いドロップショルダー、もしくは弓形に沿うコンケーブドショルダーで作られ、メンズライクで力強い。その形を、メンズウェア王道のシックな素材と色を使うのだから、さらにマスキュリン濃度が高まるというものだ。ベルギーもう一つの名門が生んだ若き才能は、新鮮なダークトーンウェアを我々に届ける。
ニッコロ パスカレッティ(NICCOLÒ PASQUALETTI)
イタリア・トスカーナ出身のニッコロ・パスカレッティ(Niccolò Pasqualetti)は、セントラル・セント・マーチンズ(Central Saint Martins)でウィメンズウェアの修士(MA)を取得し、「ザ・ロウ(THE ROW)」「ロエベ(LOEWE)」で経験を積む。
パスカレッティはデュラン・ランティンクと同様に、以前にもLVMHプライズに挑戦しており、2022年にはセミファイナリストに選出されていた。今回、再チャレンジによって見事ファイナリストの8人に選ばれた。2021年に自身の名を冠したブランドを立ち上げ、現在はパリと生まれ故郷のトスカーナを拠点に活動している。
今回のファイナリストの中で、いやセミファイナリストも含め、パスカレッティのデザインは少々特殊だ。今年のLVMHプライズに選出されたデザイナーたちのコレクションを見ると、クラフトワークの要素が強いデザインが多い。
クラフトワークの要素が強いファイナリストと言えば、「オーベロ」のジュリアン・ルイ、「ホダコヴァ」のエレン・ホダコヴァ・ラーソンであり、惜しくもファイナリストには選出されなかったが、太陽の光を使った染色が特徴のジヨン・キム、(Jiyong Kim)、アジアの伝統技術と素材を用いるチア・ホン・スー(Chia Hung Su)、ノスタルジックな思い出が蘇る「コッキ(KHOKI)」が該当する。
そのようにクラフトを駆使したデザインのインパクトが強いため、クラシックな服を基盤にしたパスカレッティは存在感が良くも悪くも浮かび上がる。ただし、彼はイタリア王道のサルトリアというわけではない。たとえるなら、パスカレッティが経験を積んだ二つのブランドの特徴が混ざり合ったデザインだ。「ザ ロウ」が誇るシンプルなエレガンスと、「ロエベ」を指揮するジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が持つ奇妙な美意識のミックスである。
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2023年秋冬コレクションは、ファーストルックでカントリーテイストを感じたかと思えば、懐かしいあたたかさを維持したまま、セカンドルックでは歪に膨らむ刺々しい造形が登場し、現実と非現実が混じり合う。そういったストレンジな服が、ライトグレーやキャメルなどのシックな色の素材で作られるのだから、混乱が生じてしまう。
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2024年秋冬コレクションも、キャメルやグレーに染まった上質感ある素材を多用していた。だが、クラシカルな生地で仕立てられた服は、やはり奇妙なバランスの造形だ。パスカレッティはクラシックの文脈上で、アヴァンギャルドをささやくように表現する稀有なデザイナーである。
パオロ カルザナ(PAOLO CARZANA)
ウェールズ出身でロンドンを拠点に活動するパオロ・カルザナ(Paolo Carzana)は、イギリスの名門校でファッションデザインを学んだ。「ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)」「バーバリー(BURBERRY)」のCEOも務めたデザイナー、クリストファー・ベイリー(Christopher Bailey)を輩出したウエストミンスター大学でファッションデザインの学士(BA)を取得したのち、セントラル・セント・マーチンズでMA(修士)を取得。そして、2023年春夏コレクション“Imagine We Could Be the Ones to Change It All”で、ロンドン・ファッション・ウィークにデビューする。
カルザナのデザインは、野菜・花・スパイスの天然染料を使用し、リサイクル素材やオーガニック素材も用いて、サステナビリティに焦点を当てたアプローチに特徴がある。先述の2023年春夏コレクションにも、彼の特徴的な素材使いが現れていた。
コレクションに登場する色のエクリュは、ティーバッグとオレンジのスパイスで染められ、深く濃いグレーの染料にはドングリやログウッドが用いられていた。ただし、色そのものはホワイト・グレー・ブラックなどクールなカラーが主役で、無地の生地を多数使っているため、ほのかにミニマルな匂いが漂う。
天然染料で染めた素材が、シャツやコートとして縫われるわけだが、それらの服はいわゆるベーシックの範疇を超えたものだ。シワが寄ったり、素材感が朽ちているようであったり、大きな葉を思わせる大胆で抽象的なフォルムが出現し、植物の生命を服に宿らせるように、カルザナは現代衣服を創造する。そして、今年3月発表の最新コレクションでは、素材でも造形でも植物性を高めていく。
“Melanchronic Mountain”と称された2024年秋冬コレクションは、カルザナの有機的フォルムがパワーアップしていた。シワが寄った薄手の生地は、スレンダーなシルエットでモデルの体を優しく覆う一方で、植物染料で染めた素材が大樹の根が体に絡みつくようにダイナミックなフォルムを作り出す。
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ジョン・ガリアーノ(John Galliano)、クレイグ・グリーン(Craig Green)、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)と、ロンドンは歴史的に異端な造形を得意とするデザイナーを輩出してきた。その系譜に連なるカルザナだが、素材へのアプローチはサステナビリティで、現代の価値観を反映している。サステナブルでアヴァンギャルド、その色と形は儚げで有機的。それが、パオロ・カルザナというデザイナーだと言えよう。
ポーリーヌ デュジャンクール(PAULINE DUJANCOURT)
ポーリーヌ・デュジャンクール(Pauline Dujancourt)は、ロンドンを拠点にするフランス人デザイナーであり、ヨーロッパと南米の女性職人たちがハンドメイドで仕上げているニットがコレクションの主役だ。2022年、セントラル・セント・マーチンズの修士(MA)卒業コレクションで発表した"Dysfunctional Beauty "は、デュジャンクールの原点であり個性である。
ケーブル編み、かぎ針編み、スモックチュール、ハンドメイドのニットウェアはいずれも流動的なフォルムで、「クルーネックニット」といった具合にアイテムの定義づけが難しく、「トップス」や「スカート」などとおおまかな分類しかできない。だが、存在が定まらないがゆえ、どのアイテムも儚げで、モヘアの素材感が繊細さに拍車をかける。色使いも深みのあるグリーン、紫味がかったグレー、ブラックと主張が抑えられ、曖昧な色のトーンが美しい。
2024年春夏コレクション"Petit Oisillon"は、細いストラップを使用したニットドレスとトップスが発表され、それらの服を着たモデルたちの姿はいずれも幻想的だ。かぎ針編みに約30時間、手縫いの縫製に約20時間要したパンツは、オートクチュールを彷彿させる緻密さと上品さで、現代人に必須のボトムを極上にエレガントな領域へと高めていた。
甘美なニットウェアの数々は、同じくロンドンを拠点にするシモーン・ロシャ(Simone Rocha)の系譜に連なる。ロシャの服を着用した姿は、少女的ムードが立ち込めるのだが、誘惑的なムードも混在し、「悪魔な妖精」と称したくなる。デュジャンクールは、レースやモヘアといったフェアリーな雰囲気の素材を多用し、シルエットをガーリーな形にするため、ロシャよりも甘さと優しさが先行し、ロシャと同じ文脈に乗りつつも別軸のデザインと言える魅力がある。
ジェンダーレスの概念が浸透し、「女性らしさ」「男性らしさ」という言葉はもはや死語かもしれない。だが、女性職人たちの技術を尊重し、ハンドメイドによって作り出すデュジャンクールのニットウェアには、ファッションの歴史を彩ってきた女性の優美なエレガンスが漂う。
デュジャンクールの服は外観が優しく甘く、強烈なイメージを抱くことはない。だが、ニットウェアに特化して女性美を讃えるコレクションは、今回のファイナリストの中でも異質な存在感を放つ。
スタンディング・グランド(Standing Ground)
先ほど、ポーリーヌ・デュジャンクールを「異質な存在感を放つ」と述べたが、マイケル・スチュワート(Michael Stewart)も、今年のLVMHプライズではデュジャンクールに負けず劣らずの異質さだ。その理由は、王道のドレスエレガンスを探求しているからである。
アイルランド生まれのスチュワートは、2017年にロイヤル・カレッジ・オブ・アート(Royal College of Art)を卒業すると、2022年にイブニングドレスに特化した「スタンディング・グランド(Standing Ground)」設立した。カジュアル全盛のファッション界で、ドレスを全面に打ち出す若手ブランドは希少な存在だ。LVMHプライズで選ばれたドレスブランドというと、2020年ファイナリストの小泉智貴による「トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)」が記憶に新しい。
カラフルでダイナミックなフリル造形が特徴の「トモ コイズミ」に対し、「スタンディング・グランド」は艶やかにボディラインを表現するロングドレスが特徴で、対極のドレスデザインと言えよう。
ブルーやレッドなどを単色で使う色使い、床に到達するロング丈、シェイプの効いたスレンダーシルエットのドレスを見ていると、真っ先に浮かび上がるのはレッドカーペットを歩く姿だ。「スタンディング・グランド」には複雑なディテール、特殊な素材加工や大胆な柄のプリント生地は見られない。チューブ状の形を使用したウェストデザインが散見されるが、それもアヴァンギャルドというほどではなく、優雅なシンプリシティを強調するためのアクセントだ。
「スタンディング・グランド」はあくまで王道で本流を突き進む。ファッションは、常に新しさを探求する。だが、スチュワートが提案するドレスは、新しさではなく美しさを探求する。斬新なバランスのプロポーションを作ることが目標ではない。今まで美しいとされてきたプロポーションをさらに美しくする。そのために必要な技術と素材は何か。そんな職人気質が、優雅なロングドレスの背後に感じられてくる。
スチュワートの「スタンディング・グランド」は、外観がトラディショナルでも、精神は非常に挑戦的なブランドだ。
以上が、LVMHプライズ2024で選出されたファイナリスト8人である。冒頭で述べた通り、誰がグランプリに輝くのかは気になるところだ。しかし、世界最高のファッションコンペでは、受賞しないデザイナーの中にも未来のスターが潜む。2018年ファイナリストの「ボッター(BOTTER)」、2019年ファイナリストの「ボーディ」は、グランプリはおろか、その他の特別賞も受賞していない。2023年ファイナリストの「アーロン エッシュ(AARON ESH)」もロンドンの若手スターとして、注目度を高めている。
新しいデザイナーを見つける体験は、最高の刺激に満ちている。今年のLVMHプライズ ファイナリスト8人の中に、未来のあなたを熱くさせるデザイナーがいるかもしれない。新しいお気に入りブランドを見つけるために、本稿を役立ていただけたら本望である。ファッションをさらに楽しくするのが、才能の発見だ。
2016年より新井茂晃が「ファッションを読む」をコンセプトにスタート。ウェブサイト「アフェクトゥス(AFFECTUS)」を中心に、モードファッションをテーマにした文章を発表する。複数のメディアでデザイナーへのインタビューや記事を執筆し、ファッションブランドのコンテンツ、カナダ・モントリオールのオンラインセレクトストア「エッセンス(SSENSE)」の日本語コンテンツなど、様々なコピーライティングも行う。“affectus”とはラテン語で「感情」を意味する。
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