クリエイティビティを育むオフィスへと刷新
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ー昨年は新宿の本社オフィスを改装しました。2006年の本社移転後初の大規模なリニューアルをこのタイミングで行ったのはなぜでしょうか?
在宅勤務でも十分に生産性高く働くことができますし、通勤時間の短縮にもつながります。ただやはりオフィスに戻って、働いてもらいたいという思いがあります。そのため徹底的に「なぜオフィスに戻るべきなのか?」を考えました。
出社することの利点は、社員同士が顔を合わせて偶発的に会話をすることができますし、対面でのやり取りによってスクリーン越しには生まれ得ないアイディアが生まれることがあります。この一つひとつが影響して、最終的にビジネスにつながるアイディアやクリエイティビティにつながるのです。ビューティ業界というのは、美しいブランド、美しい製品、そして美しいお客さまの全てが備わって成り立っています。われわれはテック企業でも、サービス企業でもありません。ビューティ業界に身を置くのであれば、新しいアイディアやクリエイティビティをトップレベルで育む必要があります。そのためのリニューアルです。
ー具体的には?
フロアの40%を一人ひとりが集中して働けるワークステーションに、60%を「協働」をテーマにディスカッションが可能で、アイディアが生まれるようなコラボレーション空間に仕上げました。内装にはサステナビリティも意識しました。アイシャドウやファンデーション、リップなど約60種類・約4400個の廃棄前の自社製品をアップサイクルして、塗料や照明のシェード、タイルなどに活用しています。働きやすく、さまざまな人を温かく迎え入れる空間であり、われわれのミッションでもある地球を守る環境活動への想いものせたオフィスに生まれ変わりました。
共有スペースにはカフェも併設。あらゆるところに環境に配慮した素材を採用する
ーサステナブル活動で、さらに取り組みたいことは?
昨年は日本国内の主要な事業拠点において、カーボンニュートラルを達成することができました。またテラサイクル社との化粧品空き容器を回収およびリサイクルも進めています。今後ですが、廃棄ゼロに近づける施策に力を入れていきたいと考えています。全てのプロジェクトで地球への負荷を減らすことをポリシーにしています。
イノベーションハブとしての日本市場
ーそのほか、どのようなイノベーションを行ったのでしょうか?
やはり研究のイノベーションだと思います。世界最高峰レベルの研究開発施設であるリサーチ&イノベーションセンターは、フランス、アメリカ、中国、インド、日本の5ヶ国にしかありませんが、中でも日本のイノベーションレベルの高さ、深度、進化は目覚ましく、ロレアルにとって日本は非常に重要なイノベーションハブです。日本で大成功を納めている製品イノベーションは世界に展開する際の大成功にもなり得るので、全てのブランドで日本発のイノベーションを目指しています。
ー異業種とのイノベーションも進んでいますね。
より基礎的なイノベーションとして、日本のエコシステムに合うものの発掘にも力を注いでいます。例えば医薬品製造企業である森下仁丹との共同研究により、植物から得た化粧品の有用成分を用いた「アクティブデリバリーカプセル」の開発に成功しました。日本の他業種の企業とのコラボレーションによって、グリーンサイエンスを発展させているところです。
また日本の自動車業界は、美しく鮮やかでユニークな自動車の塗装に長けています。私は週末の青山通りで鮮やかなカラーの自動車がたくさん停まっているのを見て、この色をメイクに活かせたらどんなに楽しいだろうかと考えました。そこで、日本の自動車メーカーと3Dペインティングの開発を進めています。
日本で開発、世界で発売する製品も
ー自動車の色から、メイクの色に発想を転換するのはとても面白いですね。その発想はどこから生まれるのでしょうか?
常に興味、好奇心をもって、オープンに考えることから始まります。日本に対する敬意を忘れないことも大切です。日本発のイノベーションの中には、国内での展開はありませんが、中国で成功を遂げている「ロレアル パリ」のスキンケアがあります。日本のリサーチ&イノベーションセンターは、日本だけでなくアジアを中心とした世界の消費者に向けて開発しています。グループとしても謙虚に、各国や各地域の事例から丁寧に学び取り、展開していくという姿勢を大事にしています。
これまで述べたように、われわれのイノベーションには3つの方向性があり、1つは日本で成功している製品を世界に広めていくことです。もう1つは、すでに日本の産業エコシステムに連なる企業や技術とコラボレーションすることで新たなイノベーションへとつなげること。もう1つは、R&Iを活用して独自のイノベーションを生み出すことです。
日本ロレアルのビューティテックイノベーション
・主要ブランドでバーチャルメイク機能「ヴァーチャルトライオン」を導入。店舗やオンラインで展開する。
・イヴ・サンローラン・ボーテからスマホ連動の口紅が登場。AIが最適な化粧品を提案するテクノロジー「Perso」を導入。
・ランコム、キールズで肌測定器「スキンスクリーン」導入。3つのライトと高精細カメラで顔を撮影、独自のAIアルゴリズムで肌を分析。2023年を目処にヘレナ ルビンスタインでも導入予定。
・ランコムでペン型肌測定器「ユースファインダー」導入。
グローバルで発表されたビューティテックイノベーション
・世界初コンピューター制御のメイクアップアプリケーターなど新テクノロジーを発表
ーコロナ禍でも、化粧品を楽しみたいという消費者の気持ちは変わりません。2023年の化粧品市場をどう見ているでしょうか?
マスカラやアイシャドウ、アイブロウといったアイメイクは引き続き伸びていくでしょう。一方でファンデーションを含めたメイクアップでは、マスクに移らないものなど技術的な進化を追求していきます。化粧品の衣服などへの付着を防ぐ、PGPという素材を用いた技術の開発に成功しており、24年の製品化に向けて進めています。メイクカテゴリーは2019年のコロナ禍以前と全く同じように戻っているとは言い難い状況ですが、総じて伸長していくと見込んでいます。スキンケアについては、日本のスキンケアはアジアでも世界でも高い評価を受けています。日本発の製品の世界展開をさらに推進していければと考えています。
日本ロレアルとしては、国内に本社機能、研究開発所、工場、倉庫といった主要拠点すべてを持つという強みを生かし、日本発のブランドの国際化、そして海外発のイノベーションの日本での展開、両面から積極的にアプローチし、市場シェアをさらに伸長していきます。
ー最後に今年のイノベーションの課題と今後の戦略を教えてください。
サステナビリティや、女性活躍推進、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を含む非財務的な業績も重要だと考えています。女性の活躍・エンパワーメントに関しては、まずシングルマザーの経済的安定とキャリアアップの支援を目的とした独自プログラム「未来への扉」を継続していきます。また社内では役職者の半数以上が、役員では約40%が女性ということもあり、さらなる女性の活躍を推進していきたいと考えています。DE&I(Diversity, Equity & Inclusion)においては、LGBTQIA+当事者の社員も働きやすい環境作りを目指しています。2010年に設立した障がいのある人々に雇用の機会を創出する「さいわいファクトリー」では、化粧品のラベルや印刷業務などの業務を行っています。この取り組みは日本で始まったものですが、今まさにアジアのほかの地域にも拡大していこうと検討しているところです。こういった非財務的な課題を重視して取り組んでいきます。
(文:米山奈津美、聞き手:福崎明子、平原麻菜実)
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